サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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人で溢れるクィディッチ競技場でスリザリンの応援席にパンジー達と並んで席を取る。

 

芝生のピッチを見下ろしているうちに両チームの選手達が入場してきた。

先輩方に囲まれるハリーは、一人だけ小さいこともあり上から見ていると、とても目立っている。

 

 

 

会場の熱気で寒さが和らいだ私と対照的に、ハリーは真っ青な顔をしている。

 

よっぽど緊張しているのか、今にも倒れるのではないかとハラハラする。

 

 

 

「……トロールよりマシでしょうに」

 

「ん?あぁポッターのこと?」

 

「あれはちょっと特殊じゃない?」

 

 

 

あの時はあんなにも勇敢に飛び込んできたというのに……緊張する余裕があるということかもしれない。

 

それこそ命がかかっているわけでもない。

……クィディッチ競技中の死亡事故は過去なかったわけではないけれど。

それも古い時代のプロの世界での話だ。

 

 

 

わぁわぁと、音が混ざって飽和する空間に多少の頭痛を感じて次回は耳栓を持ってくることを決めた。

 

ピッチの中心で握手を交わす両チームのキャプテンは遠くから見ても、必要以上に手のひらに力をかけている様子。

……これから戦うのだから闘志があるのはいいことだ。

 

 

 

「……サルースはグリフィンドールを応援しているの?」

 

「???何故グリフィンドールを応援しなくてはいけないのですか?」

 

 

マダムフーチの笛で一斉に飛び立った選手達を観客の歓声が後押しするなか、小さな声でダフネが囁いた言葉にきょとんと首をかしげる。

 

 

「あら、意外よ?ポッターがいるし貴女グリフィンドールの知り合いが多いじゃない」

 

「えぇ、確かにハリーはお友達だけれど、それとこれとは別だわ」

 

 

ここに来る途中で先輩から渡された緑色の小さな旗をおざなりに振りつつ(次回はもっと質のいいものを作って販売予定)、先ほどまでの緊張した様子とは一転、空の上で軽々と飛び回るハリーを見る。

 

空の上は自由だと言わんばかりに気持ち良さそうに飛んでいる姿は、見ているものに羨望を抱かせる程に見事だ。

 

 

 

「私はスリザリンよ?ハリーが活躍したら嬉しいけれどスリザリンには勝って欲しいわ。私がそう思ったってハリーも怒らないでしょ……拗ねそうだけど」

 

 

だって、お友達なんですもの。

それは対等な関係であるし、私にとってスリザリンは家で、寮生は家族だ。

 

 

キャプテンであるフリントさんを中心に彼らが練習に励んでいた事は、一緒に暮らしているのだからよく知っている。

 

噂で聞こえるラフプレーでの強引な勝利とやらも、実力があるからこその勝利だ。

そもそも反則じゃないならラフプレーとは呼ばないのだ。ちょっと乱暴なプレー……まぁ今見ている試合からは、いろいろ上手いとは思う。

 

兎に角、家族の応援をして何が悪いということだ。

 

 

「……サルースは時々とても頼もしいというか、独特よね。ま、それならいいわ」

 

「心配してくださってありがとう。私、ダフネのそういうとこ、大好きよ」

 

 

こんなに優しいこの人たちが私は好きなのだもの。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

さて、グリフィンドールの先取点からはじまった試合は両チームとも点を取り合う流れとなっている。

 

要するとスニッチを取ったチームが勝ちだ。

 

 

 

……ところでクィディッチのファウルとされるルールが何項目あるか知っているだろうか。

 

おおよそ700種類。

 

 

何故おおよそかというと、クィディッチ協会がその全てを公開していないからだ。

 

だがそのうちでも、誰もが知っているファウルはある。

 

 

例えば選手に杖を向けること。

箒に火をつけること。

斧をもって相手に襲いかかること。

キャプテンのタイムアウトの申請、もしくはスニッチをつかむ前に地に足をつけること。

 

それから……プレイ中に場外から選手及びボール、ゴールその他試合に関わるそれら全てに魔法をかけること。

 

 

 

 

最後のひとつに関しては、チームの指示があろうとなかろうと、魔法をかけられたチームの相手チームがペナルティを受け敗けとされる。

 

 

「……あれポッターの箒絶対へんだよね」

 

「試合中に壊れるとかあるものなの?」

 

 

パンジーとダフネの視線の先には、ハリーを振り落とそうとでもするかのように跳ね動き荒ぶる様子があった。

 

幸い?ゴールポストから離れた位置であるため、他の生徒や審判は気付いていないらしい。

……これはバレたら即刻スリザリンの敗けだ。

 

 

「ハリーが使っているのは『ニンバス2000』ですわ……壊れるなんてあり得ません。箒は魔法具の中でも専門的かつ繊細な部類ですが、安全上箒に対する呪いへの耐性はとても高いの。古いものなら呪い避けも弱っているかもしれませんが……最新の箒にそれはあり得ませんわ。ハリーのセンスは問題ない。であれば外部からの妨害……それはとても強力な呪いでなければ、あぁはならないはず」

 

 

モノクル(いつ何時面白いものと出会ってもいいようにいつも身に付けている)の望遠機能を使って客席を見渡す。

 

 

いた。

 

 

クィレル教授だ。

 

 

 

ピッチへ杖を向け一点を見つめながら口を動かしている。

 

無言呪文や視線を向けずに魔法を使うことも可能だが、その場合の威力は知れている。

今回のように、飛び回る選手たちのたった一人、それも暴れまわる箒に向けて呪いをかけるとなると、より強力に、正確に呪文を唱えなくてはならない。

 

 

……スネイプ教授も同様の様子だが、スリザリンを愛している彼が自ら不利益を被るようなことはしないだろう。

反対呪文を唱えているのだと思う。

……さすがにハリーのことが嫌いだからとその逆はないだろうたぶん。

 

 

「お二人とも、私少し席をはずしますわ」

 

「え!ちょっとサルース?!」

 

「はぁ……無茶しないでね」

 

 

 

ハリーが箒にしがみついていられるのもあと少しだろう。

 

間に合うかはわからないが……

 

 

ピッチを囲むように組み上げられている観客席の外側へ出る。

 

試合中ということもあり、周囲に人目はない。

 

 

 

懐から小さなフクロウの人形を取り出す。

 

杖をあて定められた回数とリズムで触れながら、パスワードを呟く。

 

問題なく変身術が作動したを確認して、空へと離す。

 

「クィレル教授のお顔にキスを。それからすぐに私の部屋へ戻っていなさい」

 

 

 

カチリと、一度だけ嘴を鳴らして飛び立ったフクロウを見送り観客席へ戻る。

起動中の見た目は普通のフクロウと変わらない。

 

……あれなら持ち主が私だと先生方にも気づかれないだろう。

フクロウ小屋に行ったってあの子はいないのだから。

 

 

 

 

 


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