サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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どうして友達ができるの?、か。

 

 

薄々気づいてはいた。

 

図書館や大広間、授業の移動で見かける彼女はいつも一人だったから。

 

 

 

「そう、ね。まずひとつは運が良かったからかしら。スリザリンの私にとって『間違いなく純血であること』はとても大きな伝になるわ。友人であることにある種のブランドがあるから」

 

 

そうして話しかけてくださる方々はたくさんいた。

同輩に限らず、先輩方も。

 

とはいえ、スリザリンは寮生が家族のように縦にも横にも繋がっている。

それがなくともよっぽどの何かがない限り、何とかなったとも思う。

 

 

ただハリー達から聞くグリフィンドールではそうはいかないだろう。

 

 

 

「もうひとつは、私達スリザリンは仲間意識がとても強いの。だからたとえその生まれがマグルであろうと、群れから追い出したりしないこと。集団行動をしなくては怖い思いをすると、よく知っているのよ」

 

 

なにせ、私達の親世代はまさしく、グレーなのだ。

子供である私達にも報復という危険が常にある。

とくに、純血一族には根強くその意識がある。

 

 

「ひとつは……そうね言い方があっているか分からないけれど、私がとても世間知らずであったこと。髪の結びかたも知らない、1日に三食食事を取る事を億劫に思い、教室の移動で倒れるくらい体が軟弱で…そんな私の生活を友人達が支えてくれているわ」

 

 

朝から晩まで、お世話になりっぱなしなのだ。

 

 

 

 

「そして最後のひとつ。私は私の友人達を尊敬しているわ」

 

 

 

 

長い私の語りを黙って聞いていたグレンジャーさんの返事を待つために口を閉じる。

 

「……どうして自分より劣っている人達を尊敬できるの?」

 

 

 

「劣っているなんて思っていないからよ。私は箒に乗れないわ。私は早く走る事が出来ないし、たくさんご飯が食べられない。マグルの文化に疎いし、同年代の誰もが知っていることを知らないし、やったことない事がたくさんあるの」

 

 

 

「そんなの……誰にだってあるじゃない。私は勉強しかできないのに……!貴女に負けてもう何もないのよ…?」

 

 

「グレンジャーさんが負けている何て事はないわ。私は貴女を尊敬しているもの。たったの数ヶ月でここまでの技術と、知識。貴女には才能がある。きっと来年には追い抜かれてしまう。それに……グレンジャーさんは優しいわ」

 

 

 

 

私だったらあの態度のロンに、教えてあげるなんて絶対にしないもの。

 

 

 

 

「優しくなんて……いつも失敗するの。知ったかぶりっていわれるわ。石頭だとか人の気持ちが分からないとか、悪夢のようだって」

 

 

「そんなことを言う人にはこっそり呪いでもかけちゃえばいいと思うわ。私ならそうする」

 

 

 

私に言われる分には、周りに迷惑がかからないなら放っておくけれど。

 

グリフィンドールの上級生からそう言って絡まれたときは周りのスリザリン生がしばらくその人に毎日呪いの手紙とか小石を送り付ける嫌がらせをしていたので、私がやらずとも結果は変わらないし……。

 

 

 

「呪いって……そんなの校則に反してるわ!」

 

 

「正当防衛ですわ。それに、グレンジャーさんと私って良いお友達になれると思うの」

 

 

「…………」

 

 

 

校則違反は見つかるから、違反になるのであって、バレなければなんとでもなる。

ハリーのクィディッチ選手入りなんて、校則の方が書き変わる事になったし。

 

 

 

 

「グレンジャーさんのお勉強のお話だって私ならご一緒できますわ。それに、今まではすれ違ってしまっていたけれど……私達って少し似てると思わない?ニックネームだってお揃いだもの」

 

 

本が好き、学ぶことが好き。

コミュニケーションが少し苦手で、だけど人と関わり一緒にいたいと思っている。

獅子と蛇で真逆で、純血とマグルで。

 

 

 

「……貴女の方がずっと、優しいわよ。そう、ね。でも、私でいいの?」

 

「えぇ!お友達になりたいと思ったのはずっと前からなんですもの!宜しくお願いしますわ、グレンジャーさん!」

 

「ハーマイオニーよ。サルース、よろしくね」

 

 

 

 

カタリ、と鍵を開け扉から出てきてくれたハーマイオニーが赤くなった目元を微笑ませていた。

 

とても、可愛い笑顔だった。

 

 

 

 

「さ、大広間へ行きましょう?ハロウィーンパーティをやっているわ」

 

「そうね、お腹すいちゃった。……ありがと、サルース」

 

「お節介ですもの。お気になさらないで?」

 

 

 

ハーマイオニーと手を繋ぎトイレを出ようとしたところで、ローブの中の『隠れん防止器』が強く震えたことで異常に気付く。

 

通路に、ナニカがいる。

 

 

 

前に進もうとするハーマイオニーの手を引き、目と仕草で静かにするように伝えてゆっくりと後ろへ下がり、トイレの出口から離れた端へうつる。

 

 

 

「サルースどうしたの?この臭い……下水が壊れたのかしら?」

 

「ナニカ来るわ。たぶん、とても危険……っ!!!!トロール?!??」

 

「っ!!!キャァむぐ…………!!!!!」

 

 

危険の正体はトロールだった。

 

……禁じられた森から紛れ込んだ?

まさか、ホグワーツの警備はどうなっているのか。

 

咄嗟にハーマイオニーの口を押さえたものの、悲鳴に気づかれてしまったらしい。

トイレの前を通りすぎようとしていた『トロール』がこちらを向いた。

 

 

 

あれは雑食だ。

好んで人間を食らうわけではないが……食べないわけでもない。

それに皮膚は魔法が効きづらく弱点は低い知能か。

 

体長三メートル弱。

 

 

手にはこん棒。

 

 

 

 

 

弱いものをいたぶり遊ぶ習性あり。

 

 

 

 

「っ!!!伏せてください!!!!」

 

「っむぅううう…………!!!!」

 

 

 

ーーーガシャァアアアン!!!!!!!!

 

 

 

振り上げられたこん棒を近くの洗面台の下へ転がることでよける。

 

両手が塞がっているため咄嗟に杖が抜けなかったのが痛い。

 

 

 

 

 

こうなってしまってはもう悲鳴をおさえる意味もない。腰が抜けてしまったハーマイオニーを壊れたトイレの残骸の影へ押し込み素早く離れた位置へ。

 

トロールの目が私を追っているのを確認しながら、杖を構える。

 

 

「あなたの相手は私ですわ!!!!畜生には決闘の流儀など必要ないわね!『コンフリンゴ吹き飛べ』!!!!!」

 

 

「グウォ?!??」

 

 

 

 

 

狙いはトロールの振り上げたこん棒。

が、的が外れその後ろのトイレの明かりが吹き飛んだことで鋭いガラスがトロールに降り注ぐ。

 

人であれば、怪我もおっただろう。

 

トロールにとってはほんのかすり傷にもならない。

 

 

 

ただ、怒らせるには十分だったらしい。

 

 

 

「グゥゥウルゥオオオオオ!!!!!!」

 

 

 

大きな鳴き声ともうめき声ともとれる声のあと滅茶苦茶にこん棒を、振り回し始めた。

 

 

 

これでは、せっかく隠したハーマイオニーも危ない。

失敗した。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーを隠した辺りへ戻りつつ、盾の呪文を張りながら移動する。

飛んでくる石や木片、タイルであれば私の呪文で防ぐことができる。

 

ただ、あのこん棒が直接当たったら恐らくもたないだろう。

 

ハーマイオニーを後ろにかばい、頭を低く保つ。

 

 

 

これではじり貧だ。

 

……どうにかアレを殺さないと。

 

 

 

 




トロール:つよい。
     はらぺこ。いらいら。

     「うごくものがいる!つかまえなきゃ!」

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