時が流れるのは早いもので、気づけば九月が終わり、十月も最終日。
今日はハロウィーンこと、収穫祭だ。
秋が終わり、冬が始まる日。
古代ケルトが起源とされるこの行事。
今ではお菓子を食べ仮装をする日として親しまれているが、魔法的呪いを行うに適した星廻りであるという事はこちらの界隈では常識だ。
だからこそ、当時のマグルはこぞって魔除けをこの日に行った。
私たちの世界にとっても、この日は特別な意味を持つようになったのはつい10年程前の事。
ハロウィーンの夜『例のあの人』がハリー・ポッターに敗北した。
闇からイギリス魔法界が解放された記念日でもあるのだ。
……と、朝目が覚めた瞬間から漂う甘いカボチャの香りに酔いながら、鈍い頭を働かせる。
「パンジー……ダフネ…おはようございます。私……今日は朝食いりませんのでどうぞ置いていって……」
「おはよー。うわ顔色すんごく悪いわね」
「おはよう、気持ちは分かるわ……私も酔いそう」
身支度を整えて部屋から出れば、私の他にも数人顔色が真っ青で一様にぐったりとした朝食を抜く人達が談話室にいるようだった。
「おはようございます、ドラコも?」
「おはよう、サルースは見るからにだな」
クラッブとゴイルは大広間に行っているのか一人で過ごしているドラコを見つけた。
どうやらドラコもこちら側らしく、いつもに増して白い顔をしている。
「今日は1日中こうなのでしょうか…」
「朝からこれだからな……諦めたほうがいいんじゃないか」
二人がけのソファをドラコに詰めてもらい、隣に座る。
私が小さいこともあり、二人で沈み混んでいてもまだまだ広いスペースで揃って項垂れる。
「とてもお菓子をねだる気にはなれないわね……」
「そうだな、でも常備はしておく」
「あら、残念です。せっかくイタズラできるチャンスでしたのに」
袖口から蛍光ピンクのペンを覗かせてみせれば、興味を持ってくれたのか、ドラコの頬に血の気が少し戻った。
「それ、なんだい?」
「イタズラグッズですね。これで描いたものはピカピカ光ってとても強烈に主張してくるようになるという」
「いくらで譲ってくれる?」
タダでよこせと言わないところが、ドラコの育ちの良さが出ている。
さて、通常7シックルのこの製品。
「未使用品、お友達割の初回特別価格で……3シックルでいかが?」
「買おう」
毎度ありがとう御座いますと、ペンを差し出しつつついでに小さなミントカラーの飴も差し出す。
「こっちは?」
「気分が優れないときに舐めれば頭と胸をすっきりさせてくれるミント味のただの飴ですね、ハッカ入りです」
「そうか、ありがとう」
3シックルと一緒にお返しのチョコレートをもらった。
******
ドラコにイタズラグッズを売り渡したところで、お菓子と一緒に小さめのゾンコの在庫品を持ち歩くことを決め、一度部屋へ戻り懐を満たす。
談話室で、先程のやり取りを見ていた上級生から自分にも何か売ってくれと囲まれたのでしっかり儲けさせてもらった。
そんなことをしている間に甘ったるい匂いにも慣れ、胸焼け程度に酔いは治まった。
……朝食から戻ってきた人達がさっそく犠牲になったのは私の商品PRにとても役立ったとだけ。
スリザリン寮だけでもだいぶ売れたが、せっかくなのでもう少しリーズナブルな品を他寮の友人にも売ってこようかと、早めに寮を出ることにした。
「ロン!おはようございます」
「お、おはよ。サルース……なに?」
にっこり笑顔で話しかければ、何故か一歩引かれる。
「トリック・オア・トリック、イタズラされてくださいませんか?」
「うえ、フレッド達みたいなこと言うなよ!」
早速タイミングが良いのか悪いのか、大広間からの廊下を1人で歩くロンに出会えた。
「あー……あの二人と一緒にされるのはちょっと………きゃあ!」
「「連れないこと言うなよ」」
突然背後から両肩に重さが加わり口から悲鳴がもれた。
ついでに重さに耐えられず、よろめいたのをロンに差し出していた腕を掴まれたことで転ばずにすんだのでロンには優しいイタズラにすることが決定した。
双子に関しては、しっかりコースだ。
「フレッド!ジョージ!サルースが転ぶだろ!」
「ロン、ありがとうございます。お二人ともおはようございます、トリック・オア・トリートいかがなさいますか?」
「失敬、サルースがか弱いことを失念していた!」
「そして我らが愚弟がグリフィンドールらしい騎士道精神をお持ちだったことも失念していた!!」
「おい!」
ニヤニヤと、同じ顔から向けられる視線が私とロンの間を往き来するのをみつつ、問いかけの答えを待つ。
「「もちろんトリックで!!!!」」
「ふふっ……期待通りですわ。お二人ともこちらの袋をどうぞ!あ、ロンはこれを」
「え"、ボクはいいんだけど」
渡された袋に喜ぶ双子はとりあえず置いておき、ロンには袋を押し付ける。
パチリとウインクをしつつ開けてみろと手で示せば、恐る恐る従ってくれるらしい。
巾着状の袋を開けると、ポフンと軽い音を立てて一瞬煙が上がりロンの顔が煙で見えなくなる。
「うわ!……ん?何か変わったかな?」
「わぁお。ロンの髪が真っ黒だ!」
「それにイカしたイヤリングだ!」
自分達の袋を開ける前にロンの様子を見ていた双子には変化がわかったらしい。
と、いっても見るからに変わっているので気付かないのは本人だけだが。
「はい、鏡ですわ」
「ありがと、うーわ!赤毛じゃなくなってる!!!それにこれ…ドラゴンに赤い石!これルビー?」
「ガーネットですね、調合の残りで余ってたので作りましたわ。ドラゴンのモチーフは着ける度にポーズが変わるのよ?」
「鏡ありがと……これもらっていいの?」
「えぇ、もちろん!午前中は髪色も戻らないと思うので先生方に怒られたらすみません」
「そんなの何て事ないよ!サルースありがと!!あ、これお返し。貰い物なんだけど…すっぱいペロペロ酸飴」
「ありがとうございます、ハニーデュークスのお菓子ですわね!呪文学のときに食べようかしら」
さて、これは当たりのイタズラ。
女性陣用にここ最近作り貯めていたシリーズだ。
……もちろん(今は)非売品のため(今はまだ)持ち込み禁止グッズにはのっていない。
「「次は俺たちの番だな!!!」」
芝居がかった仕草で袋を掲げ持つ二人から、そっと距離を取る。
もちろん、傍らのロンの腕を引くのも忘れない。
ロンと同じように巾着状の袋を一息に開く。
バンッ!!!と、大きな音が二回、三回、四回。
先程と同じく二人の姿は一瞬で煙に包まれ、全身見えなくなる。
音と一緒に煙幕の中に閃光が走るため、とにかく派手だ。
さて、そろそろ終わる頃かしら。
煙が晴れると同時に周囲から笑い声が沸いた。
ひと昔前のフランス貴族のような立派な巻き髪(女性用夜会巻き)に、ピエロのようなメリハリのある厚化粧(白塗りに真っ赤な丸い頬に麿眉)、そして素敵なベビードール(女物)。
を、纏った双子が現れたからだ。
お互いを指差しあい腹を抱えて笑っている双子を眺めつつ、こちらの仕掛けもうまくいったことに安心する。
さすがにコレは自分では試していなかったのだ。
いつの間にか出来ていた生徒の輪のなかで、拍手喝采笑いにあふれた空間に満足しつつ、そろそろ騒ぎを収めに先生方が来る頃だろうと、視線を巡らせれば、ご機嫌が優れない様子のマクゴナガル教授が大広間から出てくるのが見えた。
「ではロン、そろそろ私は行きますわね!ご機嫌よう!!」
「ん?うん!またね!」
小さい体格を活かして、輪の外へ抜け出しそそくさと闇の魔術に対する防衛術の教室への移動を開始する。
「ウィーズリー!!!!そこで何をしているのですか!!!!!」
「「ご機嫌ようマクゴナガル女史」」
「フレッドリアンヌと」
「ジョージフィーヌですわん」
「お二人とも昼食後は私の部屋に来るように!!!他の皆さんも授業へ遅れますよ!移動なさい!」
やれやれ、危機一髪だった。
ちなみにあの化粧とカツラも昼頃まで取れないので悪しからず、だ。
服は脱げば戻るので二人が着替えることは可能だ。
……あのまま授業はさすがにちょっと周囲が不憫すぎる。
フレッジョが出てくると1話あたりの文字数が増えてしまう……