サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

23 / 54
23

山盛りのランチをいつもより少しだけ多く食べ、残りはゴイルのお腹に収まった(たまたま向かいで食後の糖蜜パイのホールを食べ終えたところだった)ところで、大広間を後にした。

 

 

「さて、今日はもう寮で大人しくしててよね」

 

「探検は明日のサルースの体調次第ってところかしら」

 

「……………えぇ…わかりました、逃げませんから、二人共二の腕を掴むのはやめてくださいな」

 

 

 

私の身長が、少 し だ け 足りないせいで何か悪いことをした者が連行されているかのような有り様になってしまう。

 

 

スリザリン寮への道を3人連れたち歩きながら午後の予定を考える。

 

 

 

少し遅めのランチになってしまったとはいえ、貴重な休日の午後である。

何もしないなんて選択肢はない。

 

 

 

 

「…あの、二人とも?図書館へ行きませんか?寮に戻っても退屈ではない?」

 

「ダメ!!安静にしてないと!」

 

「私達にこんなに心配かけさせておいてちっとも反省してないわね?」

 

 

 

それを言われると困る。

友人が突然倒れたらどんな気持ちになるのか想像がつく程度には私もこの二週間で人付き合いを学んできた。

 

 

「う"……はい。では何をしましょうか」

 

「座って暖炉の前で出来ることで、勉強以外がいいわね!」

 

「パンジーの課題ってのもありだけど……こないだ届いた雑誌にタロットがついてたから占いなんてどう?」

 

「いいわね!!!それにしましょ!!!」

 

 

 

 

タロット占い、か。

それぞれのカードの絵柄の意味くらいは知っているけれど、並び方や向きによって意味が変わるのだったか……よく覚えていない。

 

それよりも、占いといえばそれを行うのが魔法族に限らないと言うところが面白い。

ケンタウルスなんかは星読みで有名だが、人語を解する……いや、種族間の言語がある生物にはだいたい占いという文化がある事を知る魔法族は少ない。

 

なにより、マグルにだって占い師という職業が成り立っているのだから本当に面白いものだ(その多くは魔法族同様ペテンまがいだがたまに本当に運命を見通す者もいるらしい)。

 

 

とはいえ、占いを私が信じるかはまた別の問題なのだが。

 

 

 

******

 

 

 

「さすがに休日の昼から寮にこもってる人は少ないわね」

 

「えぇ、今日はいい天気だもの」

 

 

 

スリザリン寮に戻り、今はダフネが寝室へタロットを取りに向かったのを暖炉の前でパンジーと待っているところだ。

 

 

 

パンジーとダフネに諸々を任せつつ、手持ち無沙汰に身に付けている魔法具のメンテナンスを行う。

 

ローブの下というより、内側には収納スペースがこれでもかとつけてあり例のごとく父様による魔法がかけられている(とはいえ、ポーチやトランクに比べて素材の耐久性に劣る事からそこまでの重量は入らないしサイズも限られる)。

 

 

日々しっかりとメンテナンスを行うこと。

 

これは魔法具に限らず必要なことだ。

杖しかり私達生き物にしても。

 

 

 

「サルースは何か忙しそうだからパンジーの後ね?さ、ここからカードを選んでいって……」

 

 

寝室から戻ってきたダフネが私とパンジーの向かいに座りカードを混ぜ、切る。

 

手際よく切られていくカードの裏面には天体の絵柄が描かれており、太陽を中心にくるくると絵の中の星々が廻っている。(なお太陽の真ん中には黄金に輝く杯とそれに巻き付く蛇の刻印があるわけだがあえてそれについては触れない事にする。)

 

 

 

ぺらりと軽い音を立てながら捲られていくカードの絵柄は魔法生物であったり魔法使いであったりと様々だ。

 

マグルのタロットとは多少絵柄は変わるがおおよその意味や種類は変わらない。

 

 

 

今年の恋愛について占いを行っているらしい2人を眺めていると、"年頃の女の子"の思考を学んでいるような気持ちになる。

 

 

 

 

なにせ自分には恋愛というイベントに対する実感がない。

せいぜい『恋に効く』『想いを成就させる』という謳い文句が圧倒的に女性のお客様に好かれるという一般向け魔法具販売の理由付けに使える、というスパイス程度の認識だ。

 

興味がないわけではないのだ。

魔法具における呪い、金運上昇、恋愛成就という三大巨頭の一角を担っているのだから。

 

 

 

まぁ……シンプルに結果に喜んだり凹んだりと忙しいパンジーを眺めているのは面白いというのもあるけど。

 

 

 

 

「パンジーには好きな人がいるの?」

 

 

 

「ん?!?な!!!違うわよ!!!!!素敵な人が現れないかなってそういう!そういうことよ?!???」

 

「……パンジーうるさい。サルースが怯えてるでしょ」

 

 

 

 

ふと、こぼれた私の問いかけに盛大に動揺を見せたパンジーの大声にびっくりしてしまい、跳ねた体の硬直をそのままにパンジーとダフネを交互に見比べてしまった。

 

けして、怯えた訳じゃなく、びっくりしただけだ。

 

 

 

「ん"ん……ゴメンねサルース、でもほんとに違うからね???」

 

「え、えぇ。大丈夫、ちょっとびっくりしただけよ」

 

「……まさかサルースから恋バナを振られるなんてね。意外だったわ」

 

 

 

 

 

恋バナ……確かに夜寝る前の少しの時間、それぞれが寝るまで交わされるどこの寮の何て先輩がイケメンだとか誰と誰が付き合っているだとか、そんな話題に私は相槌を返すくらいの反応しかしていない自覚はある。

 

 

 

「サルースも恋愛占いする?」

 

「ん……そうですね、せっかくですからお願いしますわ」

 

 

 

ダフネが先程と同じ手順でカードの山を作り、直感のままにその中から選ぶ。

 

雑誌の付録として占術というより簡易的な魔法具の側面が強いこのカードは占い手(今回はダフネ)が杖先をカードの表面に当てるとその意味をカードの絵柄自らが説明してくれる仕様になっている。

 

 

カードの中の住人が語ることで難解な各種カードの意味を覚えなくとも占いができるようになっているのだ。

 

 

所詮はままごと、とはいえ大人向けのそれは高名なタロット占い師監修のもと作ったのだから場合によっては……本当の占いをしてくれるのかもしれない。

 

 

 

さて、私の占い結果はというとだ。

待ち人来ず、時期尚早、されど己を磨き鍛練を怠るな。

と、なんだか良くわからないけれど私にはまだ恋愛は早いとそう言うことのようだ。

 

「まぁ、サルースだしねぇ」

 

「えぇ。サルースだものねぇ」

 

 

二人揃って深く頷かないでほしい。

 

 

 

 

 

 

さて、その後しばらくスリザリン女子の間で談話室の過ごし方にタロットが流行るのはご愛敬というやつだろう。

 

皆様お買い上げありがとうございました。

 

 

 

 

 




言わずもがな、サルース自作のタロットカードでした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。