さて、医務室を出た私について来たミセスノリスと大広間へ向かう途中。
すれ違う生徒のほとんどが私達を見て遠ざかったり迂回したりとしている様子に気付いた。
このまま大広間へ行くのはやめておいた方が良さそうだ。
「変ね……ミセスノリス?貴女はどうしてかわかる?」
「にゃ」
どうやら彼女にはわかっているようだ。
さっきまでよりご機嫌が悪いらしい。
とはいえ猫語はわからない。
理由は自分で考えるしかないらしい。
眠っていたせいで色々乱れているのかと、途中の女子トイレで身嗜みを確認したけれどそんな様子はない。
避けられるのなら、と人気のない廊下へと進んでいたらいつの間にか地下にきていた。
寮へとつづく道のりとは別のルートで入ってきたため、いつもと景色が少しだけ違う。
「ミセスノリス!!!!」
「にゃ!!」
後ろから呼び掛けられた声に振り替えれば、少し離れたところにアーガス・フィルチさんがランタン片手に立っていた。
ミセスノリスが呼び声に応えて彼の方へ走り寄っている。
なるほど、フィルチさんのペットだったのね。
……フィルチさんって入学式の時にダンブルドア校長がおっしゃってた持ち込み禁止のリストを発行されている方ではなかったかしら。
「探したぞ、ミセスノリス!!どこへ行っていたんだい?またクソガキ共に虐められはしなかったかい??ん?」
「にゃー」
「そうかい、それなら安心だ。ところでアイツは?校則違反者か?それとも何か悪巧みをしていたのか?」
とっても仲良しな様子で話していたミセスノリスがフィルチさんの腕の中からピョンと身軽に飛び降りると私のもとへ戻ってきて足に頭を擦り付けてきた。
「?撫でてほしいのかしら?」
「にゃー」
もふっとした頭や首の周りを撫でつつ首をかしげていると、片足を引き摺るように歩み寄ってきたフィルチさんが険しい顔で私を見ていることに気づく。
「ごきげんよう、フィルチさん。サルース・バークと申します。ミセスノリスの家族は貴方でしたのね」
「ふん……ミセスノリスと何があったか知らんが、まぁ今回は見逃してやろう。「にゃ!!」……なんだいミセスノリス?その魔女が友達だとでも「にゃー」…………ちィ、君がそういうなら仕方ない。……バーク、ついてくるといい」
ふむ???
なにやら二人の間で私にはわからないやり取りが行われ、私はミセスノリスのお友達としてフィルチさんのお部屋へ招かれる事になったらしい。
*********
案内されたフィルチさんのお部屋は、他の地下の部屋同様に石造りでひんやりとしており、窓の外は真っ暗な湖が見えていた。
大きく違うところは天井から鎖に吊られた手錠が垂れ下がり、石壁にも手錠足枷が設置され明らかに拷問用の小道具が置いてあるところだろうか。
「にゃー」
「ミセスノリス?……その棚は、魔法具の保管場所ですわね」
「……没収品だ。あとは生徒の手に触れるところに置いておけない品らしい。触るなよ」
ミセスノリスが私を案内したのは、部屋の中の数ある鍵つき扉のついた棚の内の1つ。
明らかに呪われた品々が置いてあるにも関わらず、なんの変哲もない棚。
このままでは、暴発しそうなのが何個かあるのだけど……
「あの、フィルチさん。こちらのアイテムのうちこのネックレス、そちらの時計、そちらの鏡にかけられた呪術が暴走しそうになっておりますわ……こちら我が家で引き取りましょうか?こういった品の修理も行っておりますの」
「にゃー」
「ミセスノリス!!君は本当に聡明で優しいレディだね……それを見越してこのガキ…バークを連れてきたのかい?…………とはいえ、生徒に渡すわけにはいかん。校長に申し出ておく」
「にゃ!」
「承知致しました」
どこか誇らしげな様子のミセスノリスはフィルチさんに抱き上げられ撫でられ、ご機嫌な様子だった。
*********
「「サルース!!」」
「ごきげんよう、二人とも。心配を……かけたみたいね、ごめんなさい」
フィルチさんのお部屋にある魔法具の中でも危険度の高い物から、選別と隣り合わせて置いてはいけない組み合わせなんかをお知らせしてから大広間へ向かうと、とても暗い顔をしたパンジーとダフネがいた。
「サルース!貴女……もう大丈夫なの?歩いたりして…というか医務室に行ったらいなかったのはどういう事?!どこに行ってたのよ!」
「パンジー落ち着いて、煩いわ。サルース座って。説明」
「う……ハイ、わかりましたわ」
パンジーとダフネがお怒りなので、お昼ご飯は少しお預けで医務室で目覚めてからのことを話すことになった。
かいつまんでミセスノリスとお友達になったことを話すと二人には何故か珍妙なものを見る目を向けられたのが印象的だった。
「まっっったく!!!!貴女って人はほんとにもう!!!おばか!おばかなのね????」
「パンジー……そんなに怒らないでくださいな……次からはちゃんと一緒に走れるように魔法具をつくっておきますわ」
「「そういうことじゃない」」
あら……二人の勢いが増したように見える。
それから、二人がかりで魔法具に頼らず体力をつけろと言い含められ、それからもっと普段から食事をしっかり摂れといつもより山盛りなランチをお皿に乗せられることとなったのだった。