サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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さて、私が招かれたこの『人形の家』は子供向きのため備えついているコンロやシャワー等から火や水が出ることはないが、なかに人がいる間は明かりだけはつけることができるようになっている。

 

 

そのため玄関ホールのシャンデリアは明るく、屋敷の中にあるランプの全てが明々と灯っている。

 

 

 

 

 

 

私を招いた二人は交互に部屋のなかを紹介しながら、玄関ホールから正面の階段をのぼり、右手へ折れて一番奥の部屋へと消えていった。

(内容はしっかり聞いていなかったので何を言っていたのかは不明だが終始楽しそうに話していた)

 

 

 

 

久々にこの家へ入ったけれど、慣れた場所(どの『人形の家』も同じ仕様だ)だから実家に帰ったような安心感がある。

 

 

 

 

ここでは、付属品以外の物は身に付けている、もしくは持ち込んだもののみ家の中へと縮小されていれることができる。(手に持てる物に限るということ)

 

 

 

だから、双子に招かれた研究室とも言える一室にある大量の鍋をはじめとした道具や材料なんかは二人が持ち込んだのだろう。

 

 

明らかに抱えてはいるには大きな作業台や水瓶があるが…………

 

 

 

……そもそも部屋の構造的にここはお母さんとお父さんの寝室、と割り振られていた部屋のはずであってまさか女児向けのごっこ遊びグッズに石畳石壁の牢獄にも見えるような簡素な部屋があるわけがない。

 

 

……壁紙を張り替える程度のリノベーションは効くようにしてあったけれど、ベッドを失くしたり鏡台やチェストを取り外したりは出来ないようにしてあったはずなのだけど…(下手に動くようになっていると子供だけで遊ぶには危険との配慮だった)。

 

 

 

 

「このお部屋は両親の寝室だったと思うのですけど、どうやって作り替えたのですか?」

 

 

 

「お、そこに最初に驚くのか」

 

「だが俺達としては嬉しい質問だな兄弟」

 

「涙ぐましい程の努力と天才的な工夫と苦労の結晶だからなぁ……」

 

 

 

そう言って二人でしんみりと頷きあう。

 

 

 

 

「この家には状態記憶と保護の呪文がかかっているもの……失礼ですがお父様の呪文がお二人に破れたとは思えないんですの」

 

 

 

 

破損部は修復され、散らかった部屋は一度全員が外へ出ればもとの状態に戻る。

……お片付けを学ばせたい親御さん方にはありがたくない機能かもしれないけど。

 

 

高価な玩具なのだ。

相応の機能はついている。

 

 

 

「「サルースのお父上に最大級の敬意を捧げるぜ!!!」」

 

 

 

「え、えぇ。ありがとうございます……?」

 

 

 

それから彼らが言うには、部屋にかけられ魔法がなくなったわけでも上書きされたわけでも錯乱させたわけでもないらしい。

 

彼等にそこまで高度な強い魔法はまだ扱えないとのことだった。

 

 

ではどうしたのか。

 

 

それは偶然の産物。

 

自分達に魔法を破る力がないのなら、別のものに頼ればいい。

ただし、親に相談しては反対された上に取り上げられてしまう。

だったら魔力を持つ、別のものを頼ればいい。

 

 

例えばそれは、貴重な植物、魔法生物の一部、魔力を帯びた鉱石、そんなもの達だ。

 

 

「でも……失礼ですがウィーズリー家にそんな資金がどこから…?」

 

 

この家は本当に高価な玩具なのだ。

マルフォイ家ならともかくとして子だくさんのウィーズリー家にはその予算はないと思うのだが。

 

 

 

「そこは俺たちのラッキーなところさ」

 

「俺たちの、というか親父のだけどな」

 

 

 

「いや、あれはお袋のラッキーだったのではないか?」

 

「確かに、葉書を書いたのは俺たちだけどその懸賞を見つけたのはお袋だったな」

 

 

 

「えぇっと……つまりどういう事かしら?」

 

 

 

このままいつまでも続きそうな二人の掛け合いに、区切りをつけさせてもらう。

 

時間は有限なのである。

私のルームメイトが心配する前に帰らなくてはいけないのだから。

 

 

「懸賞であたったのさ!」

 

「そ、お袋の読んでる雑誌にソレが載っててさ二人で応募したってわけ」

 

 

 

 

ふむ……となると『週刊魔女』か『マグルの愉快な錬金術』か『魔女のたしなみ』か…他にもあったかしら。

 

初期の頃から宣伝も含めて、お子様向け魔道具は女性向き雑誌に広告を載せてもらう代わりに、懸賞という形で応募はがきを送るとその商品が当たるという商法を行っている。

 

 

中々に高価な魔道具がタダで貰えるとあって、毎回何万通もの応募があると雑誌の編集室から歓喜のクレームが来る程には、宣伝の効果が得られている。

 

 

 

魔道具というと、やはり高価でとても特別な品というイメージが強く持たれていたし、ここ最近は闇の魔術と近しい物のように思われている風習があった。

 

 

一般家庭にお子様向けの商品として知ってもらうには、地道な意識改善……と言う名の、家庭の勘定奉行の懐柔が必要不可欠なのである。

 

 

 

 

 

「幸運を掴んだのですね」

 

「「そういうこと!」」

 

 

 

 

 

それから二人が話すには、女の子用のオモチャではあったけれど秘密基地とするにはもってこいで自分達双子が功労者(応募したという意味でだ)ということでその所有者となったということ。

 

 

それから、しばらくは秘密基地として使っていたがそのうち部屋の改造をしだしたのだという。

 

 

 

「状態記憶と保護の魔法が、呪文にしか反応しないって気づいてからは割りとすぐ何とかなったんだよな」

 

「親父のおかげで家にはマグルの道具がいっぱいあるからな。壁も床も張り替えはすぐできた」

 

 

 

 

それから、状態記憶……復元の呪文を破るために手を尽くしたらしい。

 

で、様々な魔法的効果を持つモノを持ち込んだある時突然魔法が破れたとのことだった。

 

 

 

彼らの過ごす実験室とも言えるこの部屋。

 

 

 

見回すに、効果のなかった魔力を持つ素材を部屋の四つ角にまとめて置いていった事が原因していそうだ。

 

おそらく、それらの何かがこの部屋に対して東洋で言う結界的な役目を果たしているのだろう。

 

 

 

「お二人とも本当に素晴らしい開発者になりそうですわね……就職の折りには我が家の工房をご検討下さいな」

 

 

 

「どうかな相棒、それもいいかもしれないな?」

 

「そうだな相棒、でもそんな先の話は置いておいて、だ!まずはサルースが俺達の工房に来ないか?」

 

「そうそう!それも今すぐに!だ」

 

 

 

 

なるほど、それでココへ連れてこられたわけか。

 

 

 

 

 

 


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