曜日感覚が死んでいたので……
それから、庭には降りず城の回りを散歩しながらお互いの寮のようすやこの2日間の感想を言い合い過ごした。
グリフィンドール寮は棟の上にあるらしい。
私達は湖の下だと教えたら、窓の外の景色にとても興味を示していた。
話しているうちにロンの様子も汽車の中にいたときと変わらなくなった。
ハリーはどこへ行っても英雄だとか有名人だとかコソコソ言われ、じろじろ見られるのが億劫だと言っていた。
……スリザリンも同じようなもので、他寮から敵視される視線が怖いこと、先輩方がついて歩いてくださっているのは守るためではないかということを話すと、二人とも目を丸くしていた。
(「スリザリンだからって酷い!」とはロンの言葉だ。ハリーは苦笑しながら肩をすくめて見せた。)
ぐるりと、城を回る間にはクィディッチ競技場や、薬草園など色々なものを遠目に見ることが出来た。
見えたものについて話している間に随分と歩いていたようで、スタート地点へと戻っており、やはり城にも検知不可能拡大呪文がかかっているのではないかと思った。
それからすぐに日は落ちはじめ、冷えてくる前にと私は寮へと帰るべく解散するのであった。
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「サルースどこに行っていたのよ!遅かったじゃない!」
「心配で落ち着きがなかったものね、おかえりなさいサルース」
「パンジー、ダフネ、ただいま戻りましたわ。少しお城の回りを歩いていたの」
寮へと戻れば、二人に出迎えられた。
私の帰りを待っていてくれたらしい。
腹ペコだと訴えるパンジーに促されるまま、教科書を寝室へ戻した後は大広間へと向かった。
「明日からは先輩方は一緒じゃないのよね」
「そうね、迷っているのを見かけたら助けるとはおっしゃっていたけど」
今日のオムレツはトマトソースが中に入っていてとても美味しい……なんて考えながらオレンジジュースを啜っていたら、そんな会話が聞こえてきた。
「明日は図書館にいってみようかしら…」
まずはその規模を把握して、読破するのにかかる時間を考えてから学校探検ね。
「サルースは自由時間も勉強?」
「?いいえ、学校探検よ??」
「今朝からウズウズしてたものね」
「だって……彼方此方から魔法具や呪いの気配がするんだもの…気になって仕方ないわ」
「学校探検ねー、それなら私もいくわ!」
パンジーの声にダフネを見れば、頷いて返される。
どうやら二人とも着いてきてくれるらしい。
……禁じられた森へ近づくのはもう少しあとになりそうだ。
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翌日、土曜日である。
そんなわけで1日自由時間だ。
午前は図書館を探検し、昨日の目的通り本の種類や場所を把握した。
もちろんダフネとパンジーも一緒だ。
それから薬草学の温室や庭、湖の辺りを三人で歩き回った。
そして午後、私達は城内の探索をおこなっている。
「あっちの階段は何回かに1度底が消えるんだっけ?」
「確か……そんなような事を先輩方が言ってたわね。……そもそも階段の機嫌を損ねるって何なの???」
お城の中を上へ下へ。
くるくると動く階段に逆らわず、進んでいく。
ホグワーツには142もの階段があり、そのすべてが個性的なのだから素晴らしい建造物だと思う。
「東洋の妖精にね、『つくも神』っていう種がいるの。もともとは子供に言い聞かせるための寝物語的なもので、大切に長い時間使われた物には神が宿り命を持つ、という伝承だったのよ。長い間、マグルが浮遊呪文のかけられた物体を見間違えたと考えられていたのだけど、ここ最近新しい発見があってね、なかなか人前に姿を現さない妖精がやどっている事が判明したのよ!ホグワーツならとっても古くて、ずっと沢山の人に愛されてきたでしょう?だからここの階段が意思を持つならきっと妖精が宿っているんだと思うの!それって作り手にとってなんて幸せなことなのかしらって思うわ!」
私のあとを着いてくる形で進んでいた二人へ振り向き話せば、きょとんと二人揃って同じような顔でこちらを見ていた。
「あ……少し話しすぎてしまったかしら…」
「ううん!違うのサルースの笑顔がね、なんと言うか凄く可愛かったのよ」
「サルースってそんな風に笑うのね……ここに男共がいなくてよかったわ……見惚れちゃった」
普段から笑っているつもりだったけど、二人から見ると何かが違ったらしい。
「えっと……ありがとう?」
「「どういたしまして」」
それから、三人で顔を見合わせてクスクスと沸き上がる笑いが治まるまで階段たちは動き回るのを待ってくれているようだった。
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「あら?ここ……なんだか変だわ」
5階の廊下にある鏡。
何事もなく通りすぎようとしたその時。
ふと、土の臭いを感じた。
「サルース……さっきから急に止まらないでよ、毎回ぶつかりそうになるのよ!」
「パンジーももう少し隙間を開けて歩いたら?サルースが急に止まるのも、しゃがみこむのもどうしようもないわ」
土の臭いというには五階のここは森や庭から遠いし、クディッチの練習後の生徒が通ったにしては……
んー鏡が怪しい、けど魔法具の気配はない。
ローブから手袋を取り出して装着し(魔法的な干渉を防ぐ特別製品)、モノクル(拡大縮小機能に録画記録の機能もある)を取り出して鏡の縁の装飾を調べる。
と、片側の端の真ん中辺りに人が何度も触った跡があった。
鏡を見るそれも、廊下にある姿見よりも大きな鏡を見るときに縁に手なんてかけるかしら?
見つけた不思議に指を触れてみてやはり魔法具としての仕掛けがあるわけではないことがわかった。
んー……鏡の…裏?
と、縁を掴むように手をかけるとカチリと小さな音と共に鏡が手前に開いた。
奥には下へと続く階段があった。
「この鏡……扉になってるわ」
「全然聞いてない……って、え!扉???」
「な……サルースよく見つけたわね、っていうかなにコレ階段?」
そっとモノクルを目から外し、杖を壁際の蝋燭立てへ向けて火をつける。
一番手前の蝋燭へ火をつけただけで下まで一気に火が移っていった。
「土の臭いが強くなったってことは、これ外まで続いてると思うわ」
「そもそも土の臭いがしないんだけど」
「え゛、降りる気?」
ホコリが積もってるけど、歩けなくはなさそうだ。
「ルーモス、光よ」
足下を照らしながら降りればまだまだ先がながいらしい。
ふむ、こんな風に階段が延びていたら外からわかるはずだけど……そもそも壁の内側にそれほどのスペースはないし。
「サルース!待ってってば!!」
「そうよ!もう大広間へいかないと夜ご飯なくなるわよ?」
入り口を振り替えれば明るい廊下の光が二人のシルエットをうつしてこちらを覗き込んでいるのが見えた。
今日はここまで、か。
「はい、今日は諦めます」
少しだけ下った階段を上がり、廊下へ出る。
そっと鏡をもとに戻し、二人から手を引かれるまま気まぐれな階段を下りる。
「まったくサルースったら冒険に夢中になっちゃってお子様なんだから!」
「ほら、手が冷えてるわ。まったくあんな何があるかわからないしホコリだらけで真っ暗なところへ躊躇いなく入るなんて……」
確かに、二人の手がとても暖かいということが手袋ごしの手に伝わってきた。
一瞬二人の手を離して手袋をローブの内側へしまう。
それからもう一度二人の手を握ればちゃんと握り返してくれた。
感想、誤字報告、いつもありがとうございます。