さて、魔法薬学の時間はまだはじまったばかりである。
初回は簡単な吹き出物を治す薬を作るという事で、私はスネイプ教授のお手伝いをすることになった。
調合方法についてスネイプ教授が説明するあいだ並べられた材料の状態やそれぞれの使用する調合器具が揃っているか確認する。
どれも長い間使い込まれているが、しっかりと磨き込まれている。
さすがは魔法薬のプロ、ここにサビや前の調合残りがあると、当然のことながら薬は完成しない。
さて、スネイプ教授は詩的な表現でお話されるため少々話が長いわけだが終わるのを待つあいだ、私がどうして裾の長い、胴回りに余裕のあるローブを望んだのかについて装備を整えつつ考えていく。
理由は単純に、魔法薬を調合するにあたって適した状態であるから、だ。
スネイプ教授のローブが踝まで覆う程長いのも同じ理由だと思う。
魔法薬は1つ工程を間違えると、大変な惨事となることが多々ある。
熱された液体が噴出したり爆発したり、鍋底を溶かして流れ出したりと、危険と隣り合わせなわけで……
そんなとき、素足や腕を露出しているとそれらを浴びることになりかねない。
だから、制服を作る際指先まで覆う袖と、踝まで覆う裾を所望したわけだ。
胴回りに余裕を持たせたのは、その内側に薬瓶(強力な酸性・毒性を持った液体にも耐える強化瓶)を仕込むためだ。
これは勿論、何時如何なる時も薬の原料を採集するためである(私の場合は魔法具を身に付けたりもしている)。
「……では各自、調合を開始するように」
おや、それでは材料の受け取りに来る皆様のお手伝いをするとしよう。
******
魔法薬の初心者……どころか、はじめて魔法薬を調合する子供達というのは恐ろしい生き物だった。
まず、数が読めない。
それから集中力もない。
最悪である。
これまでこの科目で死者が出ていないのは奇跡ではないだろうか??
「『消火せよ』ロングボトムさん、針ネズミの針は鍋を火から下ろしてからですわ」
「ひぇ?!ご、ごめんなさい……」
危うく鍋の中身が弾けるところだった。
「ハリー、そこはもう一度右回りに混ぜて……えぇ、その色が正しいわ」
魔法薬が土色では次の工程で気化してしまう。
スネイプ教授と二人で教室内を見て回るだけではとても追い付かない。
これをスネイプ教授は普段一人で行っていらっしゃるだなんて……本当に尊敬する。
スムーズに調合を終えたグループは、無事に薬を瓶詰めするところまで進みだした。
「サルース!見て?なかなかじゃない?」
「えぇ!パンジーとダフネの魔法薬は正しく仕上がっているわ。お疲れさま」
無事に、怪我人もなく終えられそうね。
「あぁ、作り終えた者は教壇へ提出したまえ。それが終われば退出するように」
教壇へ並べられていく魔法薬はそれぞれ、薬の色味に差があり(これによって効果の差がでる)それらを見ながら片付けを見守っていると、どこからか強く見られているような感覚を覚えた。
教室の中へ目を向け見渡すと、その相手がわかった。
ハーマイオニー・グレンジャー、彼女である。
薬の提出は早々に終えているが、片付けに時間がかかっている(フリだとわかる)。
「あの、グレンジャーさん……何か私にご用ですか?」
「…貴女とっても魔法薬学が得意なのね、何かやっていたの?」
近寄り話しかけると、尚更強い目で見られる。
「私はサルース・バーク、バーク家の家業は魔法具を作ることよ。そして私は魔法薬を売っているわ」
「それってズルだわ、出来て当たり前じゃない。それなのに点をもらえて調合を免除だなんて特別扱いは正統じゃないわ。それって贔屓よ!」
ふーむ。
そんなことを言われても困る。
それにこれ以上ここで騒ぐとせっかく稼いだ点がなくなりそうだ。
「そうね、そうかもしれないわご不快な思いをさせたのならごめんなさいね」
「な!待ちなさい!馬鹿にして……」
「サルース!僕達も提出終わったよ!待たせてごめんね!」
ミス・グレンジャーの声を遮るようにハリーに話しかけられた。
「ハリー、ロンも、お疲れさま。では1度出ましょうか」
これ幸いと、二人に頷いて見せればさっさと片付けを終えた二人から外へ出ようと促された。
グレンジャーさんには悪いけれど、この会話に付き合う義理もない。
咎められる前に退出してしまおう。
******
「ごめんね、大丈夫だった?」
「えぇ、勿論。二人とも疲れたでしょう?」
そそくさと教室から退室し、足早に移動する。
魔法薬学教室からスリザリン寮まではすぐのため本日最後の授業後は先輩方のお迎えはなしだったのが幸いした。
「それにしても、サルースってスネイプのお気に入りなわけ?」
「お気に入り……ビジネスライクって感じではないかしら、よっぽどハリーの方が気にされてなかった?」
「冗談じゃない!あんなの…まるで憎まれているみたいだ!!」
ロンの声に苦笑を返せば、ハリーからは苦情が返ってきた。
確かに『魔法界の英雄』としてハリーへと嫌味を重ねる姿はあまりにも、感情が籠りすぎているように感じた。
親の仇でも見るかのような表情で執拗に絡むのだから何がしたいのかわからない。
「確かに……マルフォイをべた褒めしてたしアイツはグリフィンドールが嫌いなのは有名だろ?ハリーに恨みがあるのも間違いじゃないかも」
「マルフォイ?……あー、あの人か」
おや、ハリーとドラコは面識があるんだっけ?
…………マダムのお店か。
「ドラコも身内からすると悪い子ではないのよ?ただ……ちょっとだけ選民思考というかお父様の教育の賜物というか…」
「でもパパはマルフォイ家は闇の陣営だったっていってたぜ」
ロンもグリフィンドールとしてしっかりとお父上の教育がなされているようで……これも選民思考の一種と言えるのかしら。
「アーサー氏とルシウスさんの不仲は二人を知ってる人なら有名だもの、それに『あの人』が滅んだ今は寄付とかに励まれていると聞くし改心したのではないかしら……」
なおも、言い募ろうと口を開きかけたロンに被せるようにハリーが口を開く。
「サルースの友達ならドラコ・マルフォイも完全に悪ではないのかもね。もうこの話はやめよう、ほら、ハグリッドの家が見えるよ」
何時の間にやら城の外へと向かっていたらしい。
開けた視界の先には、見晴らしのよい草原でその先には黒々とした森がある(あれが『禁じられた森』だろう)。
そしてその手前に石造りの小屋がたっており、その屋根から伸びる煙突は煙を吐き出していた。
ハグリッドさんは在宅らしい。
「ほら、あそこが『禁じられた森』よね!!」
「サルースあそこは危ないから近づいちゃダメなところだからね?」
「やめといた方が良いよ。チャーリーが昔、あそこで死にかけたって言ってたよ」
別に行きたいだなんて口に出していないのに、二人揃ってローブや肩を掴まなくても良いと思うの。
作者はハー子推しです(大事なことなので二回言いました)