午前の授業は順調にすすみ、お昼を友人達(たった1日で複数形で表現できるようになるとは…)と食べながらその会話を聞く。
朝食の時と同様、専ら話題を振られない限り、私は聞き手だ。
さて、ホグワーツではじめての午前の授業が終わった。
今日1日の授業は実践ではなく基礎を執り行うのか午前の間杖を振るような内容はなかった。
必然的に授業内容は基礎知識の確認(教科書を読む時間)となり、さっそく睡眠時間にあてている人もいた(ゴイル達がそう)。
そんな午前の授業に関して、少し不思議な事がある。
「それにしてもサルース、あなた賢いのね!可愛いけどすっとぼけた子なのかと思ってたわ」
「パンジー……もう少し言い方があるでしょう?」
「ダフネも否定しないなら一緒だと思うよ」
「ザビニだってそうじゃない」
これである。
何故か私は同輩達に勉学が苦手だと思われていた。
「えーっと……そうね、私お勉強は得意な方だと思うわ。ちょっとだけ得意科目に片寄りはあるのですけど」
私に苦笑をしながら首を振るのはドラコだけだ。
しょうがないだろうと言わんばかりの苦笑である。
授業中、教科書の端に先生方が口頭でしか言わない内容を書き留めながら、思い付いた魔法具を、べつのノート(これはマグル製)に書き留めていたら、ソレを覗き込んだパンジーが驚きの声をあげた。
当然、先生には目を付けられるわけで……
******
「──……ミスバーク!何か分からないところがおありでしたか?」
パンジーが声をあげたのにどうして私が当てられたのか、とはいえマクゴナガル教授の変身術は面白い。
授業の始めにネコの動物もどきとして、変身の様子を見せていただいた事も私の創作欲を高める原因になったのだろう。
「少し……授業の内容から離れてしまうのですがよろしいですか?」
「授業に関することであればある程度は許します。どうぞ」
規律を絵に描いたような風格を持つ眼差しが向けられている。
グリフィンドールの寮監であってもスリザリンに嫌悪の視線を向けることはないらしい。
「はい、ありがとうございます。変身術の基礎理論にある対象物とその結果の項にありました無から有を生み出すことは出来ない。また同様に無限に食料や生き物を生み出すことも出来ない。とありますが、それでは消失の呪文等の有を無にする時には理論とは逆説的にその存在は完全に消えたとは言えない。という事でしょうか?取り戻すことが実現しうると、考えられますか?」
食料を生み出したように見せかける事は出来てもソレを食べたところで栄養も満腹感も得られない。それは結局のところ何もないのと変わらないからだ。
とすれは、消してしまったものも消えたわけではない、と言うことになるのだろうか?
無から有をと、唱えるうえで『水よ』といった呪文は空気中の水分を集めているのか、それとも、そうある結果だけが起こっているのか。
とにかく変身術の仕組みは場合によって理論の適応が多様すぎる。
補充呪文で増やした酒に酔うのなんて本当に謎だ。
どうして、存在しないものに身体が反応するのか。
「ミスバーク、貴女の疑問は素晴らしい着眼点です。しかしそれらの疑問は研究者ではないその他の生徒達には眠りの呪文となってしまいますね…それについては授業後に議論致しましょう、興味がある皆さんも残って聞いていくと良いでしょう。貴女の学習意欲にスリザリンへ5点を与えましょう」
「あ、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
はじめてのスリザリン寮への貢献に微笑みを抑えられないでいると、マクゴナガル教授の促しで教室から拍手が沸く。
それから、拍手をしながらも口をあんぐり開けたパンジーやその他同輩達の視線に晒されている事に気付くのだった。
******
ちなみに授業後、マクゴナガル教授との議論にはドラコ(と、セットのクラッブとゴイル)と、ダフネ、パンジー、それから数名の生徒が残ることになった。
意外と人が残ったのか、マクゴナガル教授は驚いているようだった。
それからお昼の時間を圧迫しない程度に、私の疑問や他の人達も質問したことで充実した授業後の時間を過ごすことが出来た、と思う。
「バーク家の一人娘で開発も手掛けている以上、サルースは言動通りの箱入り娘ではないだろうさ。第一彼女は教科書の内容なんて優に常識として理解しているだろうし、そこらの上級生よりも遥かに優れていると思う」
ドラコのフォローに、また周囲の目が一瞬見開かれる。
「ドラコそれは過大評価よ……」
「魔法具作ってるやつがそこらの学生と同じレベルなわけないだろ」
「そこは……ほら、慣れもあるのよ?……そんなことより、この果物とっても甘くて美味しいの、食べてみて??」
はい、とドラコの方へ差し出せば食べてくれた。
「やっぱりとぼけてるのは間違ってないのよね」
「そうね……」
同室の二人が顔を見合わせて笑っていた。