サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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それから、お互いに教科書の中で気になったところや面白かったことを話しているうちに時間がたち窓の外の水平線が暗くなりだした。

 

「あら、そろそろもとの場所へ戻ろうかしら」

 

「送ろうか?」

 

「気持ちだけで嬉しいわ、ありがとう」

 

 

随分と話しすぎてしまったようではじめから制服に着替えていなければ少し慌てることになっていただろう。

 

また学校で、とドラコたちへ挨拶をしてからもと来た道を戻る。

 

随分と先頭へ来たしまっていたのか、いくつか車両を戻らないといけないみたいだ。

ハリー達のところへ着けるといいのだが……。

 

 

と、考え事をしていたからか注意が足りなかったらしい。

 

 

――ドン!

 

 

「……!」

 

「キャッ」

 

「うわぁ!」

 

 

車両を繋ぐドアを開けたところで向かいから歩いてくる女の子にぶつかった。

女の子の後ろにもう一人男の子がいたのか、奥からも声が聞こえてきた。

 

たたらを踏んで顔をあげれば、目尻を上げてこちらを見る女の子と目があった。

 

 

「貴女ねえ前をみていなかったの?気を付けて歩かないと危ないわよ!」

 

「ごめんなさい、お怪我はないかしら?」

 

 

こちら側の車両へ移ってきた二人へ問いかければ、強気な女の子とは反対に後ろの男の子からは弱々しい問題ないという言葉が返ってきた。

女の子は私から素直に謝罪の言葉がでたことに驚いたのか一瞬のためらいが見られた。

 

 

変わった組み合わせだ。

ドラコのように何処かの貴族とその従者か。

 

 

「私も怪我はないわ、それにこちらも……注意不足だったわ。…ごめんなさい。貴女も大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫。それでは、また学校で」

 

 

急いでいる人を引き留める必要はない。

道を譲るため、壁へ寄れば二人とも挨拶を返してから去っていった。

 

彼女たちも襟が無色だったということは新入生だろう。

ホグワーツ特急を探険していたのかもしれない。

 

 

 

 

それから特に事件もなく、ハリー達のコンパートメントへと帰りつくことができた。

おかえりなさいと、迎えてくれた二人に挨拶を返し、席につく。

私がいない間に向かい合って座る形になっていたらしく、とりあえずハリーの隣へ座った。

 

 

「友達には会えた?」

 

「えぇ、元気そうだったわ。教科書の話題で盛り上がってしまって…気づいたら外が暗くなって来ているんだもの」

 

「教科書のって……授業がはじまってもいないのにキミまで勉強してるのか?!」

 

 

ハリーの問いに答えた私へとロンがおかしなものを見る目を向けてくる。

やはり、クラッブ達と同様に教科書は開いていないらしい。

 

……私までってどういうことかしら。

 

 

「私の他にも?」

 

「さっき来た女の子が教科書は暗記したって言ってたんだ」

 

「ヤな感じだったな、サルースとは大違いさ!」

 

 

なるほど。

暗記したとはまた勉強熱心な方がいたものだ。

 

恐らく、ドラコも全て暗記まではいっていないはずだからよっぽど優秀なのだろう。

……私は暗記するまでもなく1年目の内容は頭に入っている知識の洗い直しだったりするが。

 

「ロン、よく知らない人の事を悪く言ってはいけないわ?暗記する必要はないと思うのだけど、それでも教科書を覚えるのは大切な事だもの」

 

「もしかしてサルースも暗記してる…?」

 

 

 

ハリーの不安そうな問いかけにロンも怒り顔から一転、不安を隠すのをやめたらしい。

答えを促すようにこちらを見てくる。

 

 

「えぇ、まぁ……でも全てというわけではないのよ?現代魔法史や星占いや魔法生物学は苦手なの」

 

「うへ、サルースもそっち側かーー」

 

「そっか、僕もちょっとは読んだけど…知らない言葉ばっかりだからな(……魔法生物学なんて教科書あったかな?)」

 

 

 

現代魔法史のような歴史を扱うものは薬草学や呪文学より勉強意欲が薄いし、魔法生物学や占い学のような理論よりもセンスが試される分野は手付かずなので嘘はついてない。

後者は今年度はまだ扱わないはずだが。

 

 

 

「私は勉強も本を読むのも好きよ?だって知らないと開発できないでしょう?」

 

「あー、僕がここに来たときもサルース本読んでたもんね」

 

「うえ、僕はあんまり。ママは僕の成績にはあまり期待してないみたいだし」

 

 

お手上げとばかりに両手をあげるロンに首をかしげる。

なぜお母様が関係してくるのか、よくわからない。

 

 

 

「それなら私のお母様もロンと一緒ね。両親は私の成績よりも自分の研究に興味津々だもの」

 

 

 

そもそも、自分の生活にすら興味がなく食事も睡眠も忘れてしまう。

放っておくと3日は部屋から出てこないし、本人たちはその自覚がないからまるで一晩眠って起きてきたかのように朝の挨拶をするのだ。

 

それが、割りとよくある事なのだから察してほしい。

 

プティがいなければ私は健康に(これは聖マンゴに通院してない状態で)ここにいなかっただろうとすら思う。

 

 

だがけして、両親が私を愛していないわけではない。

ただ本当に研究が二人にとっては息をすることよりも大切な習性なのだ。

 

 

「それなら僕も。おじさんたちは僕が何も学んでこなければいいとおもってるんじゃないかな」

 

 

ハリーの叔父様方はそれはそれで特殊だといえるが……大変ですね

 

 

 

「それなら僕たちだぁれも、勉強に期待されてないってわけだ!気楽な学校生活だな~」

 

「いや、ロン。そうじゃないと思うよ…?」

 

 

 

私もハリーに同意だ。

強制するものでもない、好きにしたらいいと思う。

 

 

それから、私がいない間に起こった(女の子と男の子が蛙を探しに来て、紆余曲折ハリーの眼鏡を直してくれたらしい)ことを聞いたあと、話題はどこの寮に行きたいかとなった。

 

 

「さっきも話してたんだけど、サルースは行きたい寮とかあるのかい?」

 

「私はそうね…家系的にはスリザリンなのだけど……レイヴンクローかしら」

 

「スリザリンなんてやめときなよ!レイヴンクローはまぁ、うん。サルースらしいけど、みんなでグリフィンドールに行けたらいいのにな」

 

 

 

 

ロンはやっぱりスリザリン嫌いか。

ハリーはまだそれぞれの寮について知らないようだ。

ロンの反応に首をかしげている。

 

 

「スリザリンは良くないのかい?」

 

「闇の魔法使いはみんなスリザリンだ。……『例のあの人』も」

 

「それに引き換えグリフィンドールは光の魔法使いが多いわね。ホグワーツ校長のダンブルドアもそう……でもロン、スリザリンだからといって皆が闇の魔法使いになるわけではないのよ?魔法省大臣も排出しているし私はスリザリンになっても悪の道に落ちたりしないもの!」

 

「ごめん、キミのご両親を悪く言うつもりじゃなかったんだ」

 

 

 

ばつが悪そうに私をみて謝るロンに首を横へ振って答える。

残念ながら私の家系は真っ黒だ。

……そんなことをわざわざ訂正はしないが。

 

 

ハリーが話題についてきていないようだから少し説明が必要か。

 

 

「勇敢なグリフィンドール、心優しいハッフルパフ、聡明なレイヴンクロー、そして目的を成す為には手段を選ばない邪悪なスリザリン……というのが世間のイメージなの」

 

 

「サルースのご両親はスリザリンなのかい?」

 

「えぇ、一族みんなね」

 

「……サルースを見てるとご両親がそんなに悪い人には思えないよ」

 

 

 

「…どうもありがとう」

 

 

 

 

うちの両親は人を呪う道具や、貶めるための道具を罪悪感なく作っています。……私も、ね。

 

私の言葉で思うところがあったのかロンもハリーも組分けについて考え込んでしまった。

 

と、そんな沈黙の落ちた車内に拡声魔法の声が響き、到着が近いこと、荷物はそのままで構わないことを告げた。

 

途端にコンパートメントの外のざわめきが大きくなる。

 

 

「さぁ、二人とも組分けについて考えたって仕方ないわ?自分の希望通りいくものでもないようだもの。それより降りる準備をしましょう?お菓子を片付けないといけないわ」

 

 

 

慌てて身の回りを片付けだした二人を手伝いつつ、暗くなった窓の外へ視線を向ける。

 

 

組分けについては、なるようになるだろう。

私は【これから】の事を知っている。

【ハリー・ポッター】と同学年に生まれてしまったのだ。

不安がないと言ったら嘘になる。

やりたいことを成す為に、最善を尽くす。

これは今までと変わらないのだから、私は私のために力をつけるだけ。

 

 

 

ホグワーツ特急はゆっくりと速度を落として、停車した。

 

 

 




おまたせいたしました。


原作との相違
・ドラコがハリー達のもとを訪れない
→サルースがドラコのもとを訪ねたため。

・また、原作よりもドラコのハリーへの執着 が薄い
→サルースという対等に語り合える父上にも実力を認められた友達が既にいるため。
ただし、生き残った男の子に対するミーハーな興味は健在。

・ハリー&ロンの各寮へのイメージ
→サルースのせい。本人が過ごしやすい環境を得るため帽子より先に刷り込み、刷り込み。

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