サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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ウィーズリーズの来訪で賑やかになった空気も一転落ち着きを取り戻した。

 

自己紹介も終えてしまっているから特に私から話題もない。

膝の上の本に意識を戻してもいいだろうか。

 

 

向かいに座る二人はそれぞれ窓の外やシャツの袖口を気にしては話し出すタイミングをはかっているようだ。

 

私としてはロンの顔を見たときから気になっている事がある。

タイミングを気にする二人には悪いが、指摘させてもらおう。

 

 

 

「ロン、優しいお兄様達ね羨ましいわ。…あと鼻の頭にすすが付いているから鏡をどうぞ」

 

「あれのどこが優しいんだよ、ありがと」

 

「僕も、兄弟がいないから羨ましいよ」

 

 

煤、か。

この汽車、動力源は石炭なのだろうか。

煤が舞うということはそのはずだが、それならば箒のように呪文がかけられて走っているわけではないということだ。

 

いつの時代からこの汽車が運用されているのか、とにかくマグルの発展と共に魔法学校も歩んでいるらしい。

 

 

 

「な、なんだよ。笑いたければ笑えよ」

 

「サルース?」

 

などと考えていたものだから、ロンの顔を凝視してしまっていたようだ。

 

「……ごめんなさい、この汽車がどの様に動いているのか考えていたの」

 

 

「ホグワーツ特急のこと?そりゃキミ魔法だろ?」

 

しかめられた顔から一転、ハリーと揃ってきょとんとこちらを見返したロンが何事もないように答えた。

 

これは多くの魔法族に当てはまることだが、彼らは自分が知らないこと、わからないことを全て魔法がどうにかしている。と安直に考えている。

 

そのくせマグルの発明品や生活に文化があることを猿知恵とでもいうかのように見下しているのだ。

 

このホグワーツ特急ですら、マグルの汽車という乗り物が運用されているという事すら知らず、これは、ホグワーツ特急である。という事のみで認識しているから理解ができない。

 

 

なんて口に出したら余計な火種を生むのは人との関わりが少ない私でも理解している。

 

「ハリーはマグルの世界で育ったから知っているかもしれないのだけれど、この汽車っていう乗り物はマグルの1世代前の乗り物なのよ。いまは電車が一般的で煤の舞う汽車はあまり一般的でないのよ」

 

「うーーん?」

 

「確かに、そう思うと不思議だよね。僕もはじめは箒とか絨毯で行くものだと思ってたよ」

 

 

ロンはピンと来ていないか。

 

 

 

「それこそ、箒や絨毯で学校に行くなんて大昔の話だよ!二人とも何の話をしてるんだ?」

 

 

「昔はそうだったんだ!へぇー」

 

 

 

確かに。

マグル側も魔法使いのイメージは一世紀以上前のまま、か。

秘匿されているからこちらは仕方ないが。

 

 

「とにかく、そんなことを考えていただけよ。電車だったらロンも煤がついたりしなかったのにって」

 

「それはもういいよ。サルースってさうちのパパと一緒でマグルオタクなのかい?」

 

「オタクってロン…確かに詳しいけどさ」

 

 

 

ウィーズリー家のご当主って言うと、アーサー・ウィーズリー氏かしら。

マグル製品不正使用取締局の。

こちらもドラコのお父上とは別の意味でよくお世話になっている。

 

 

「ロンのお父様って魔法省のマグル製品を規制されてるアーサー氏で間違いないかしら?」

 

「そうだけど…パパと知り合いなの?」

 

「えぇ、私の仕事上アーサー氏に許可を届けでたりしなくてはいけなくてよくお手紙のやり取りをさせていただいてるわ」

 

 

マグル製品を魔法族仕様に変えて発明したりする以上、ゾンコのお店に卸すには不正な品でないことを届けでないと問題になる。

 

……ミニチュアお人形のお家セットや電話型録音機など一見マグルの製品に魔法をかけたものに見えるものもあるからだ。

 

 

 

「へー知らなかった!」

 

「サルースって仕事してるの?」

 

 

 

そうか。

ドラコがゾンコの悪戯専門店の技術者であることを知っていたからこの辺りの魔法族は知っているものなのかと思って話していたけれど、どうやらそうでもないらしい。

 

同世代の知識について、ドラコを基準にするのはやめよう。

 

1ヶ月の手紙のやり取りで、世間知らずな私のために知っておくべきいろいろな話を聞かせてくれたけど、それもどこまでが一般常識の範疇なのか怪しくなってきたがどうすべきか。

 

……貴族の端くれたるバーク家の娘が知らないと困ることを中心に教えてくれていたと思ったが。

 

 

 

「えぇ、ホグワーツの近くのホグズミード村というところにゾンコの悪戯専門店という道具やさんがあるの。そこへ開発した品物を卸しているのよ」

 

「サルースってお嬢様だと思ってたけど、なんだか印象が変わったよ」

 

「おっどろき!ゾンコってビル達から聞いたことあるぜ!イカした悪戯魔法具の専門店だって!」

 

 

田舎の小さな村とはいえ、ロンはお兄さん達から聞いていたらしい。

 

「サルースのが僕よりすごいんじゃないかな?僕なんて魔法のことをついこの間まで知らなかった普通のマグルと変わらないし」

 

「そんなことないわ。魔法界においてハリー・ポッターの名前はとても特別な意味を持つもの」

 

「そうさ!君は有名だ!……あーその、『名前をいってはいけないあの人』を倒した英雄だからね」

 

 

と、言われても本人はわかっていないようだが。

 

ちらりと、ロンの視線がハリーの額へ移る。

ずっと気になって仕方がなかったのに、今まで見ないようにしていた、という事がまるわかりな様子だ。

 

「『例のあの人』ってやつだけど、僕何も覚えてないんだよね」

 

「全くなんにも?」

 

「緑色の光がいっぱいの夢をたまに見るくらい」

 

「へーー……すごい」

 

 

 

赤ん坊の頃の出来事だ。

覚えてなくて当然だろうが……緑色の光か、死の呪文で発せられる魔法光と一致する。

 

ハリーの額の傷は大方、呪文を返した際に残った痣、もしくは呪いの欠片のようなものか。

 

少し気になってきた。

 

 

 

 

「ねえ、ハリー?少し血を分けてもらえないかしら?」

 

「え?!」

 

「サルース!キミ流石にそれはファンでもダメだと思うぜ?」

 

「そうよね、ごめんなさい。少し研究したいと思ってしまって…またの機会にするわ」

 

「「またなんて、ないよ!」」

 

 

 

彼に関する論文はこの11年の間たくさん発表されている。

中には古い守りの呪術に触れた記述が多く見られた。

古い呪文には血や髪の毛など身体の一部を媒体として発動させるものが多いから、研究のしがいがあると思ったのに残念だ。

 

次は上手くやろう。

 

 

 

 




原作沿いではありますが、順番の入れ替えや展開上発生しない会話、出来事が今後増えていくかと思います。
どうぞお付き合いください。

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