盲目の少女 作:torinikuyakiyaki
今回もどうか暖かい目で見守っていただけると幸いです。
時が経つのは早いもので、10月も末になっていた。相変わらずのロックハートに、ロックハートを追いかけるハーマイオニー。仲が悪いスリザリンとグリフィンドールのいざこざ。
私の周りは比較的平穏だった。
だが、平穏の中の小さな変化というのはとても目につきやすいものだった。というのも、周りの女子達、特に他の寮の1年生が私の周りでうろうろするようになった。図書館で、私の周囲で勉強に熱心に取り組んだり、最近身につけた知識を私に聞こえるように披露したりするなどほほえましい様子ではあった。
そして、そんな一年生達のなかでも、直接私に話しかけてきたのはあのウィーズリーの妹のジニーだった。さすがはグリフィンドールといえる行動力と勇気だ。そして、これは私にとって好機だ。うまくいけば、彼女にまとわりつくあの不快な気配の正体がわかるかもしれない。
とは考えていたものの、実際にはそこまで聞ける雰囲気にはなれなかった。というのも、彼女が私の側に来るようになると、ウィーズリーの兄弟達が妨害するかのように彼女を連れていってしまうのだ。ロナルド・ウィーズリーは、
「ジニーはまだ幼いんだ!君が手を出していい存在じゃない!!」
と叫んで彼女を私から引き離した。どうやらウィーズリー兄弟達は、私がジニーを誘惑しているように見えているらしい。
ジニーを幼いと言うのもおかしな話で、私と彼女は歳が一つしか違わないのに。
そして、面倒なことに学校一のいたずら好きな双子にまで目をつけられ、さまざまないたずらを仕掛けられるようになってしまった。目が見えない私を落とし穴に落とそうとして、一生懸命学校を走り回って、私が通りそうな道の至るところに落とし穴を仕掛けたり、後ろから呪いを飛ばしてきたりとなかなかにレベルが低いいたずらが続いた。落とし穴は音の反響と魔法の痕跡でどこにあるのかわかるし、後ろからの呪いを飛ばしてくるのなんて跳ね返して術者に返すことくらい私には目をつぶっても出来る。彼らはなんとしてもいたずらを成功させようと、作戦会議を何度も開くことになる。
そして、ハロウィンの日。この日は去年と同じく学校中が甘い匂いに包まれた。夕食の席に着くと、いつもの三人が私の側に座った。
「ねぇ、デルフィーニ。あなた、変な噂流れているわよ。」
ミリセントがそう話を切り出した。
「変な噂って?」
「あなたが相当な女たらしで、色んな女をとっかえひっかえしているって。本当なの?」
「そんな事してないんだけど…どうしてそんな噂が…。」
私がそんなことをするわけがない。誰がそんな噂を流したのだろう。
「もしかして、ウィーズリー兄弟の誰かが流したんじゃない?」
ダフネがそう言った。彼女曰く、私がジニー・ウィーズリーと仲良くしているのが気にくわないからそんな噂を流しているのではと。そういう噂を流してでも、私が妹に近づくのを阻止したいのだろうが、実際はジニーが自ら私の側に来るのに。
「くだらない。ウィーズリーが流した噂ならそんなに大きくならないで終息するでしょ。」
私はそう言って話を変えた。
夕食が終わり、部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、人が集まって道が通れなくなっていた。私が前に行こうと人を掻き分けていると、前の方からドラコの、
「次はお前達だぞ!穢れた血め!」
という背筋が凍るような言葉が聞こえてきた。慌てて人垣の前に飛び出ると、ドラコが誰に向かってその言葉を吐いたのかわかってしまった。
「ドラコ。それは意味が分かって言っているの?」
声が震えるのを押し殺してそう訊ねた。
ドラコの答えが怖い。
一番恐れていたことが起きているのかも知れない。ドラコが、私が嫌いなルシウスさんと、知らない内に同じ人間になっていたのかもしれない。
ドラコが何かを言おうとしたとき、先ほどの騒ぎを聞いたフィルチが駆けつけ、大騒ぎになった。私はドラコの言葉に気を取られて、周りが何について騒いでいたのかに気がつかなかった。
フィルチの猫が石になった。そして、その第一発見者はポッター、ウィーズリー、そしてハーマイオニーだったのだ。
状況だけ見ればこの三人の内、誰かがもしくは三人とも犯人だ。ただ、壁に血文字で『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気を付けよ。』と書かれていたらしく、三人の犯行にしては大胆すぎる。結局3人は犯人ではないだろうということで解放されたらしい。
あの騒ぎの後、先生達によって強制的に寮に戻され、ドラコと話すことが出来なかった。だから寮の談話室に着いた瞬間、私はドラコを大声で呼び止めた。
「さっきの言葉はどういう意味だ!ドラコ・マルフォイ!!」
私の剣幕に、ドラコはたじろいだ。ただ、すぐに落ち着きを取り戻して、
「なんだ?血統がすべてだろ!?穢れた血どもはそれ相応にわきまえていればいいんだよ!」
まるで、ルシウスさんと話しているかのような感覚だ。そして、この言葉に腹が立つとともに、ドラコには関係のない私自身の怒りも込み上げてきた。
「穢れた血?血統がすべて?…じゃあ私は…私は…!!!!」
私は怒りに任せて杖を振ってしまった。幸いドラコに狙いを定めきれていなかったため、魔法は彼の後ろの壁に大きな爪痕を描くだけで済んだ。
怒りに飲まれていく。
彼の言葉はハーマイオニーだけではなく、私をも貫いていた。
パンジー達が慌てて私を止めて寝室に引きずって行ってくれたお陰で、私はドラコをバラバラにせずに済んだ。
この騒動で、私はまたスネイプ先生に呼び出されることになった。
「君は問題を起こすのが得意なようだねブラック。」
スネイプ自身もこんなに面倒な生徒が自分の寮から出るとは思わなかった。基本的に、呼び出されるスリザリン生は成績不振か進路指導くらいだ。なのに、1年生の時には傷害の容疑、2年生になったら傷害未遂と器物損壊で呼び出すことになるとは。
しかも、事前にドラコに聞き取りをしたが、まるでブラックを庇うかのように沈黙する場面が多かった。
「今回は、なんであのようなことをしたのかね?」
沈黙。ブラックも全く答える気がないようだ。成績優秀、ホグワーツ始まって以来の天才なのかもしれないが、彼女の性格はまだスネイプ自身も把握できていなかった。
「直前にドラコ・マルフォイと口論していたと聞いているが?」
ブラックは一瞬顔をしかめたが、答えることはなかった。スネイプはブラックに何らかの罰則を与えたかったが、今回は被害者は出なかった。それに重い罰則を課して、スリザリンを寮杯の競争から遅れさせたくもない。ならば、
「罰則は傷つけた壁の修復だ。分かったらさっさとやりたまえ。」
このくらいの罰則が妥当だろう。そう考えて、ブラックを私室から追い出そうとしたとき、扉を叩く音がした。扉の先にいたのはダンブルドア校長だった。校長は、
「ブラックと少し話がしたいんじゃが、いいかの?」
と聞いてきた。断る理由もない。スネイプはすぐに了承し、デルフィーニ・ブラックは校長とともにスネイプの部屋から出ていった。静かになった私室で、スネイプは大きなため息をついた。
スネイプ先生に呼び出されたのも面倒だったのに、校長先生にも捕まってしまうとは。
「なぜ君はMr.マルフォイを攻撃してしまったのかの?」
「単刀直入に聞くんですね。」
「君はまどろっこしいのが嫌いじゃろ?」
本当に嫌な爺だ。イライラしているときに、イライラしている理由を聞くとは。黙っていても、校長は、このまますんなりと寮には帰してくれないだろう。
「ドラコが、穢れた血と言ったから、自分の気持ちが抑えられなくなっただけです。」
「…それだけとは思えんがの。」
「それだけです。もう帰っていいですか?罰則で壁の修復をしないといけないので。」
私は校長と別れ、寮に向かった。
ダンブルドアは困惑していた。
秘密の部屋が開かれたと壁に血文字が書かれ、そして猫が石にされた。前に開かれた時、デルフィーニ・ブラックによく似た少年が容疑者を捕まえたことで事件は終息した。だが、ダンブルドア自身はその捕まえられた容疑者は犯人ではなく、捕まえた少年こそが犯人なのではないかと睨んでいた。だから、今回はその少年とそっくりな少女が秘密の部屋を開いたのではないかと思っていた。
だから、彼女が寮の中で起こした事件と、彼女に開心術を掛けて断片的に見ることができた情報に困惑していた。彼女は、『生まれ』や、『血筋』という言葉が心底嫌いで、ともすれば憎んでいる。あの少年とは違った。
だが、同時に彼女の中の憎しみや怒りといった負の感情は、あの少年のものより強く大きいものだった。
それはダンブルドアにあの予言の実現を恐れさせるのに十分だった。
『闇の帝王の血統が開眼するとき、魔法界のすべての人はその者の前にひれ伏す。』
彼女が自分の怒りや憎しみのままに、他者を従えることになれば、それは魔法界の全てを燃やし尽くすことになるのかもしれない。ダンブルドアはどう彼女を導くべきなのか悩む事になった。
それから数日は、ホグワーツには何ともいえない重い空気と、生徒の好奇心が充満していた。秘密の部屋について、ハーマイオニーはずっと調べていた。私も一緒に調べたけど、多くの生徒が同じ事を考えていたようでホグワーツの歴史に関する本を借りることは出来なかった。
そして、心配だったのはジニー・ウィーズリーだった。彼女は猫が好きだったらしく、フィルチの猫が石になった事件に心を痛めていた。私の側に来る回数も以前より多かったし、側に来てメソメソと泣いていたため、何度も慰めていた。そして、彼女にまとわりつく不快な気配は、以前より濃くなっている気がした。ホグワーツ特急で会った時には微かな気配だったのに。
ドラコとは…。あの事件以来話していない。
というより、寮にも居づらくなっていた。
スリザリンの寮は友人の三人も含めて、みんな多かれ少なかれ血統に対する優越感やマグル出身者に対する差別心をもっている。だからドラコに怒って杖を振ってしまった私はあの寮では異常者なのだ。
パンジー達とは普通に話すし、大切な友人だ。でも、彼女達もマグル出身者を庇うようなことは言わない。それに純血が一番だと彼女達も思っている。
だから、出来るだけ図書館などで勉強に打ち込むようになっていた。
そして、ある変身術の授業にて、痺れを切らしたハーマイオニーがマクゴナガル先生に直接秘密の部屋について質問した。彼女のこういうところは、勇敢でとても羨ましいと思う。マクゴナガル先生は、
「4人の創設者が最高の魔法学校を造ろうとしてホグワーツを創設しました。しかし、4人の内、1人だけ純血のみを入学させるべきだと考えたのです。その人物こそサラザール・スリザリンです。しかし、残りの3人が反対したため、彼は学校から去りました。伝説によれば、彼は学校のどこかに隠された部屋を造ったと言われています。それが秘密の部屋だといいます。」
スリザリン寮の創始者は、そんな人物だったのか。生徒に求める要素から何となく想像はついていたが。
「そして、彼の継承者のみが秘密の部屋を開き、その中にある恐怖を解き放ち、魔法を学ぶに相応しくない者を、スリザリンが認めない者を追放するといわれています。」
マグル出身者を、ということか。それが真実ならばハーマイオニーは真っ先に標的になるかもしれない。彼女の側にいるようにしないと。ロックハートのクソ野郎はこの際我慢すべきだろう。
マクゴナガル先生がいうには、学校は何度も調査をしたがそんな部屋など見つからなかった。伝説に過ぎないだろうという結論らしい。ただ、創始者が本気で隠そうとして造った部屋ならば、よほどの事がない限り見つけられないのではないだろうか。つまり、秘密の部屋は本当にあるのかもしれない。
授業が終わり、生徒達は皆自分の寮へと戻った。
グリフィンドールの寮では、ハリー・ポッター、ロナルド・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーの三人が秘密の部屋を開けた人物について、あれこれと予想していた。
ハリーは、自らと何についても反りが合わないドラコ・マルフォイが怪しいと睨んでいた。ドラコ・マルフォイは、秘密の部屋の血文字を見てすぐにあんな発言をしていた。それがとても怪しいと思っていた。
ロンは、最近ジニーと仲が良いデルフィーニ・ブラックが怪しいと思っていた。これについてはほぼ私怨でしかなく、憶測に憶測を重ねたものだった。その点をハリーとハーマイオニーに指摘され、ドラコ・マルフォイとデルフィーニ・ブラックの共謀説を唱えた。スリザリンの継承者はデルフィーニで、デルフィーニはドラコの言いなりで動いていると。
ハーマイオニーは、誰が怪しいのか見当もついていなかった。というのも、デルフィーニ経由で聞いたドラコ・マルフォイは、口では大きなことを言うが、実際に人を手に掛けるほどの勇気ともいえる要素が皆無なのだ。そして、デルフィーニは確かに精神的に不安定な所がある。最近だって、ドラコ・マルフォイの発言で怒ってしまい寮の壁に大きい傷をつけたという。ただ、純血とかマグル出身者とかそういうので差別する考えを彼女は憎んでいる。ということは、彼女が秘密の部屋を開けてマグル出身者を攻撃するわけがない。
そして、三人で話し合った結果、ポリジュース薬を使ってスリザリンの内部を探る事になった。