サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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ダイアゴン横丁に行った日からしばらくたち、ホグワーツへと旅立つ日が明日に迫った。

 

 

「サルースお嬢様、お加減はいかがですか?」

 

「プティ、もう随分前から大丈夫だと言っているでしょう?明日にはここを立つというのに皆心配しすぎだわ」

 

 

あの日、屋敷に戻ってから熱を出した事でプティは勿論父様や母様、ボージンおじ様も癒者を呼び、呪いを施しと大騒ぎになった。

 

ただの知恵熱だと言っても、暑かったから参っただけだと言っても聞く耳を持たれず…

 

 

それからベッドの上で過ごしている。

 

 

「プティはサルースお嬢様がそうやってホグワーツに行かれても無理をしないかとても心配です。本日もマルフォイ家のドラコ様からお手紙が届いておりました」

 

「私より皆の方が心配よ…。返事を書くからレターセットをここにくれる?」

 

「はい、サルースお嬢様。羽ペン、墨筆、ボールペン他お嬢様の筆記具はたくさんございますが……どちらになさいますか?」

 

 

プティの差し出したトレーの上には私の筆記具達。

魔法界でポピュラーなのは羽ペンだ。

マグルの世界で羽ペンが使われていたのは100年も前だというのに。

 

マグル式の筆記具として、ボールペン(ペン先が丸いから紙に穴が開かないから便利だ)、鉛筆という硬い炭と木の皮で出来たもの、色鉛筆やカラフルな水性ペン(マグルの筆記具の中でもこれは特に気に入っている)、墨筆(東の国で愛用されている呪術具)などなど。

 

 

インクを使うものに関しては父様が自動羽ペンと同じ魔法で変え芯はいらない仕様になっているから完全なマグルグッズというわけではないが。

 

これらは私が集め始めて父様に魔法をかけてもらってとしているうちに、いつの間にか母様もこのボールペンを使うようになり、父様も使うようになっていた。

 

勿論、手紙も羊皮紙ではなくマグルのレターセットを使っている。

 

 

…これに関しては単純にマグル製品のが美しい上に可愛いからだ。

 

 

ドラコの手紙には明日が待ち遠しい旨が記されていて、また手紙を包んだ封筒が美しいとドラコのお母上から気にされているということが書いてあった。

 

 

「今日は翡翠のインクを使うわ、ボールペンを。紙は若草色の蔓が縁取りしている…そうその紙ねそれを頂戴。それから…明日は駅までプティが連れていってくれるのかしら?」

 

「僭越ながら、私目がサルースお嬢様をお送りさせていただきます」

 

 

それなら安心だ。

父様や母様が一緒に来るなんてことはないとは思っていたが、もし来ることになったら大騒ぎだった。

両親はそう、とても出不精で社交性の欠片もない。

会話を成り立たせるのは慣れるまでは至難の技だし、何より壊滅的な方向音痴だ。

 

 

「そう、いつもありがとう。よろしく頼むわね?さ、これでドラコへの手紙も終わりよ、今日は明日の荷物を準備しないといけないのよ?これ以上休んでなんていられないわ」

 

「持ち物リストにございました品はトランクへ詰めてございます」

 

 

それはありがとう。

でもそうではないのだ。

 

 

 

「ありがとう。でも個人的な持ち物を揃えたいのよ、プティお願い」

 

「プティはサルースお嬢様のお願いには逆らえません…ですが少しでも無理をなされていると感じたらベッドへ戻っていただくようプティはお願い申し上げます」

 

 

「わかったわ、これをドラコの所へ送っておいて?私は地下へ向かうから父様がくださったトランクを持ってきてね」

 

ガウンからいつも通りの真っ黒なワンピースに着替え私の地下研究室へ移動する。

 

地下は年中均一の温度が保たれていて、夏のこの時期はとても過ごしやすい。

 

 

研究室は2部屋に仕切られていて、手前の部屋には魔法薬を作るための設備がある。

そして奥の部屋には魔法道具を開発するための設備が揃っている。

 

ベッドに軟禁された時から、魔法薬が途中やりかけのままになっていたり、材料が干からびていたりと酷い状態になっていた。

 

あとでプティに消し去ってもらわないといけない。

今はまだ杖の魔法が必要なとき、プティや父様、母様に頼まないといけなかった。

だけどそれも今日までだ。

 

 

明日からは杖を使える。

 

教科書に指定されていた初級の魔法学は全て既に知っている物だったから今年は基礎を固めながら独学で必要な知識を揃えていくことになりそうだ。

 

オリバンダー氏の元で私の杖と出会ってからは、杖をどんな時も肌身離さず持ち歩いている。

 

私自身、そうすることで頭が冴えるような感覚があるし、杖もまたそれを願っているように感じるからだ。

 

ただ、杖を身につける際のこと。

杖が大きすぎるのが難点だ。

私の身長の半分程もあるからポケットには入らないし、何をするにもぶつけてしまう事が続いた。

 

何故か重さを感じない点はやはり杖によって選ばれ出逢えたからか。

 

 

 

とはいえ、数日もたたないうちに、検知不可能拡大呪文のかかった杖用のホルスターを母様からいただいた事でそれも解決した。

 

母様からの入学祝いという事だったから、ありがたく使わせてもらっている。

 

そしてそれを知った父様が、入学祝いにと1つのトランクを特別仕様にしてくださったのがここに私がきた理由だった。

 

 

プティが持ってきてくれたトランクを片手に奥の部屋へ向かう。

その間プティには、鍋や使えなくなった材料達の処分を頼んだ(指を鳴らすだけで終わってしまうが)。

 

 

さて、私の作業スペースであるこの研究室。

ここでは主にゾンコの悪戯専門店に卸すような魔法具を作っている。

 

私ではボージンおじ様のお店におくような品物は少量しか作れないから専ら魔法具のメインはゾンコの悪戯専門店になったわけだ。

 

 

「検知不可能拡大呪文は母様の得意な呪文だと思っていたけど…やっぱり父様もすごいわ」

 

 

父様の得意分野たる魔道具の仕掛けがトランクのロック部分には施されていて、杖先でワードを打ち込むと言葉によって開かれる空間が変わるようになっている。

 

この小さな金具にどれだけの魔法を込めたのか。

 

 

開いたトランクの中はこちらも検知不可能拡大呪文で広げられ、トランクの底へ続く階段を降りると部屋として扱えるようになっている。

そして打ち込むワードによってその部屋は様子が様変わりするようになっていて、中でもやはりお気に入りはこの研究室をそのまま移動させたかのような石造りの2部屋だ。

 

 

今回はそのトランクの中の部屋に屋敷の研究室の器具を移動させていく。

 

本棚も机も椅子も備えついているから、その周辺へ本や羊皮紙を移動させていく。

双子の呪文を覚えたら、それぞれに置けるようになるからその時はまた荷物の整理をしよう。

 

 

 

「ねぇプティ?そっちの火打石と水瓶も貰える?あとは…そうね必要に応じて届けてもらいましょう。荷物検査に引っ掛かりそうなものは一通り入れたかしら」

 

「サルースお嬢様、水瓶は浄化の印が刻まれたものでよろしいでしょうか?そちらの棚にありますものもお詰めした方がよろしいかと思います。危険物として取り扱い規制がかかっています」

 

 

 

あら、この辺もだったかしら。

 

アクロマンチュラの毒なんて薬としても優秀なのに正しく使えない輩が多いからそういった面倒な手続きが必要になるのだ。

 

そもそも使えないのならどうして手にいれようとするのか。

 

高所恐怖症の人間が最新型の箒を買うようなものだ。

もしくは水中人に泡頭呪文とか。

 

 

「父様がホグワーツの森でアクロマンチュラに会ったことがあるって言ってらしたっけ。母様はユニコーンに会ったとか。魔法生物には今まで接したことがないからとても楽しみだわ」

 

「サルースお嬢様が楽しそうでプティは嬉しゅうございます!」

 

 

 

資材の管理は小まめにしていたが、改めて整理を行うといろいろ気づくこともある。

この素材とこの素材を組み合わせたらこんな効果が出るかもしれない、とか。

 

 

 

そうして、2部屋に道具を詰めて他のスペースにも物を移し入学前の1日を終えた。

 

 

 

 


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