サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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ホグワーツから手紙の届いた翌日。

私とプティはボージンアンドバークスの二階にいる。

 

 

 

相変わらず埃っぽくて陰気な場所だ。

 

二階の品物は入れ替わりが滅多にないから仕方ないのかもしれない。

黄金の頭蓋骨のゴブレットなんていつからあるのか…少なくとも私がここに通いだしてからはいつも置いてある。

 

効果は、あのゴブレットで飲んだ者に目的達成のための少しの運を上げる代わりに達成の目前でその魔法力を糧に人体発火を引き起こす、という物だったはず。

 

誰が欲しがるのかさっぱりわからない。

 

 

とはいえ、ここにある多くのものは作った私達でさえ使いどころのわからない物も多くあるのだからなんとも言えないが。

 

 

 

「プティ、貴女のお陰でここに来る度埃まみれにならずに済んでるわ。ボージンおじ様は嫌がるけどこれからも適度なお掃除をよろしくね」

 

「はいサルースお嬢様、お嬢様のお召し物が汚れてしまうのはボージン様も望みませんのでこれからもプティにお任せくださいませ」

 

 

 

頭を下げるプティにここで待つように伝え、下へ降りる。

ここに来る者達は総じて屋敷しもべを生き物とは思っていない。

いつもの事ながら、そっと姿をくらますプティに安心した。

 

 

階段を降りると二階と同様、埃っぽくて陰気な、だけど私にとっては馴染んだ空気の中でボージンおじ様が迎えてくれた。

 

 

「おはようサルース。昨日の品も素晴らしい出来だったぞ」

 

「おはようございます、ボージンおじ様。動作に問題はありませんでした?」

 

 

カウンターの中にいるボージンおじ様に近寄れば、昨日の夜プティに届けてもらった商品一覧とそのお買い上げ人物のリストだった。

 

お得意様と、新規が一件ね。

 

 

「サルースの作るものは皆一級品だ。今日は表で買い物だったか?」

 

「えぇ、教科書とかは取り寄せたのだけど杖と制服はこちらじゃないと揃わないでしょう?」

 

 

書類が多いと思ったら、バーク家宛のオリジナルグッズの依頼書だった。

 

相手の心を覗ける眼鏡、対象に気付かれずに愛の妙薬を服用させるなにか、あとは真実薬、ポリジュース薬、愛の妙薬をいつもの本数と。

 

 

「仕立屋を、呼んでも出来たはずだが…杖はオリバンダーの所か」

 

「ふふっ、我が家に人は呼べないですものおじ様だって滅多にいらっしゃらないではありませんか?それではこの書類はいただいていきますね」

 

 

「あぁ。早めに頼む、特にお前の作る魔法薬は評判がいいからな。……遅くなったが、入学おめでとうサルース」

 

「ありがとうございます、では表に行って参ります」

 

「わかっているとは思うが、付けられるなよ?気を付けてな」

 

 

 

ボージンおじ様の声に礼で答え、鞄から日傘を出す。

室内で過ごしてばかりだから青いほどに真っ白な肌は陽射しに弱い。

傘を出した鞄には先程の書類が入っているから落とさないようにしないと。

 

母様からいただいたドラゴンの鱗を加工したハンドバッグは小振りなのにたくさんの物を入れられてとても便利だ。

 

盗難防止の魔法も父様がかけていたはず、この鞄を盗もうとしたら最後二度と何も手に出来ない身体になってしまうような魔法がかかっていそうだ。

 

 

 

今はまだ杖を使わない魔法薬や呪術的な呪いしかできないけれど、ホグワーツに行ったらこういった魔法も覚えたいところだ。

 

 

 

さて、ノクターン横丁から見て日の射す明るい方へ歩いていくとたどり着くのがダイアゴン横丁。

魔法使いのお買い物は大抵ここで全て揃う。

だからいつだって人が多くて賑やかだ。

 

とくに今日は私と同じくらいの年の子供とその親や兄弟が揃って歩いている様子をよく見る。

目的は私と同じか。

 

 

久々にこちらに来た。

明るくて人が多くて落ち着かない。

 

 

 

「オリバンダー杖店…ここね」

 

 

幸い、ここは人が溢れている何てことはなくドアベルの音で開かれた店の中にはオリバンダー氏と思われるご老人がいるだけだった。

 

 

「いらっしゃい、お嬢さん。貴女は魔法具の……?」

 

高く積み上がった杖の箱が天井を支えているみたいだ。

店の奥までずっとつづく箱の山が外から見た店の大きさよりもずっと小さくこの場所を見せている。

 

同じ埃っぽい空気でもここはとても暖かい雰囲気だ。

 

 

 

「サルース・バークと申します。貴方はオリバンダー氏ですね?」

 

「如何にも。私がオリバンダーだ、杖を探しに来たのだね?」

 

「はい、私と共にただ素敵な物を生むための杖を探しに来ました」

 

 

 

杖が使い手を選ぶ。

そんな説明をオリバンダー氏から受け、私の杖選びははじまった。

 

オリバンダー氏が差し出す杖を握っては離しを繰り返す。

 

本数を重ねるごとにオリバンダー氏が楽しそうに目を輝かせる。

 

 

「ふうむ。難しい、実に愉快。バークさん、貴女の一族はお祖父様の代から皆さんとても癖の強い杖を買っていかれる。貴女もその一人らしい」

 

 

この人も作り手だ。

癖が強くて売れないかもしれない商品でも作ってしまうのは、売り物にならなくても心を込めて作った物は自分にとってそれが大事な作品であることに変わりないからで、私達家族が創作欲の向くままに闇のものとして人を傷つけるとわかっていても作ってしまう事ときっと同じ感覚を持っているのだろう。

 

 

 

それから、オリバンダー氏が持ってくる杖が形や重さ、手触りや受ける抵抗その他様々な部分が少し変わった物ばかりになった。

 

 

 

そして、私の手に残った杖はクマシデの木に不死鳥の冠羽を芯にした杖だった。

螺旋の模様が入っていて一般的な杖より長く大きい、そしてとても硬い。

 

 

氏いわく、クマシデの杖は、一つのことに純粋な情熱を傾ける才能ある所有者を生涯のパートナーとして選ぶ。

 

持ち主の情熱を理解して、意思を察する小回りの利く繊細な杖になる。

 

また不死鳥の冠羽は中でも希少で、不死鳥自身の意思によってしか得られない。

 

よって杖となったそのあとも放つ魔法は杖の意思が大きく影響する。

相性の良い持ち主と出会えたなら生涯の友として添い遂げることになる。

 

 

 

と、そう語ってくれた。

他にも何本か私の意思を聞いてくれる杖はあったけれどオリバンダー氏の言う私にとっての唯一ではなかったらしい。

 

この杖は手にした途端、私以外の他の何者にも自身を触らせないとでも言うかのように盾の呪文を展開した。

 

それはもう、オリバンダー氏が何をやっても壊れず私の意思が固まるまで。

なんとも我が儘な杖だけど気に入った。

 

「バークさん癖の強い杖だが貴女にとっては手足のように思いのままとなることでしょう。大切にしてやってください」

 

 

「えぇ、こんなにも私を求めてくれる情熱的な子を蔑ろになんてできません。素晴らしい杖をありがとうございます」

 

 

 

良い杖に出逢えて良かった。

支払いは屋敷の方へ請求書を届けてくださるとのことで挨拶をして店をでた。

 

 

「夜の闇の中で育ったお嬢さんだが…どうやら稀有な感性の持ち主らしい。作り出すものは闇を産んでも作り手は無垢で真っ白な職人、か。これからが楽しみだ」

 

扉が閉まりドアベルの鳴り終えた店内に残るオリバンダー氏の声は店の静寂に消えた。

 

 

 

 

 


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