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ムルムル戦決着!

いやはや、闘技場とかのくだりが長かった前の章と比べて随分あっさりでしたね。

第四章 王国編
第177話

真っ白な翼の生えた、巨大な黒騎士が僕へとその剣を振りかざしている。



僕はそこに来てやっと、先程の空間から戻ってきたのだと実感した。


僕の目に映るものは、まるでスローモーションにしているかの如くゆっくり動いていて、たまに僕が戦闘している最中に入るあの状況なのだと僕は気がついた。


ちらりと横へ視線を向ければ、ゆっくりになった世界の中で、それでも尚普通に動いているように感じるエロースとメフィスト、更にはとてもゆっくりだが、それでも僕の方をしっかりと見つめている恭香と───目が合った。



───はぁ、本当はこんな覚醒じみた、主人公みたいな事する予定はなかったんだけどな



僕は常闇を防御から外すと、残っている左の掌を上へと向ける。


流石にその行動には焦ったのか、メフィストもエロースも急いでこっちへ向かってくるが、僕は二人に対してニヤリと笑って、こう呟いた。




───今の僕に、お前らの助けは必要ないよ。





「さぁ、頼むぞ常闇」




思い出すは聖獣───玄武。


ありとあらゆる攻撃を防ぎ、弾く、最強の盾。


その盾は壊れることを知らず、敗れることも知らない。





「『無壊の盾(オーバーシェル)』」




瞬間、僕の掌から無数の黒色透明な六角形が出現し、ハニカム構造を展開。さらにその上から数枚の膜が張り、大きな球体から切り出したかのような、大きな円形の盾が完成する。



それとほぼ同時にその盾へと撃ち込まれたその剣は、しばしの均衡の後、バリィンッと弾かれ、黒騎士は初めてたたらを踏む。


こちら側からだと薄く黒く色づいた黒騎士が見えるが、その黒騎士のヘルムの向こう側に見えるその瞳は、まるで驚愕に見開かれているように思えた。




───けどな、まだ本番はこれからだ。




「さぁ行くぞ。......そうだな、お前の名は『クロエ』だ」



クロスファイアの『クロ』と、炎十字の頭文字である『エ』、それらを合わせて『クロエ』だ。安直だがなかなかいい名前だろう?


『ふん』と僕の体の内でそんな声が聞こえた気もするが、ただ、僕の左手の甲に縛られていた十字架と炎が、一本の鎖から解放されてゆくのが瞳に移った。




───のだが、





「うわぁ......、なんだよこの新能力。この一ヶ月間の努力が水の泡じゃねぇか」




それと同時に頭の中に流れてきたその新しい能力に対して、僕は思わずそんな感情を抱いてしまう。


確かに能力としては強力で、銀滅炎舞と位置変換を入手した当時と同じような感動はあるのだが、それでも色々と考えてしまうのだ。慣れてもいないのに戦闘中に使うなんて下手したら自爆行為なのではないか、と。


しかし、常闇と違って僕の中に居るだけはあって、炎十字の能力発動中は会話ができるらしいクロエは安心しろとばかりに鼻で笑った。......ほんとヤンキーみたいだな。死神ちゃんより言葉使い悪いとか、もうそれを女とは呼ばないと思う。



『それくれぇ考えて作ったから安心しろ。違和感が無いように質量は皆無に限りなく近いし、なによりも私達がついてんだ。それこそ安心するに足る理由だろ。あと私はきちんと女だ、一人称もちゃんと私だろうが』



いや......、一人称が私だからってそんなに意味は無いんじゃ......いや、待てよ? 確か死神ちゃんは『俺様』だったし、他にも女らしくない世界竜バハムートに関しては『我輩』だった。確かに一人称は大切ですね。


それと最後の件に関しては納得だ───なるほど、確かにそりゃ安心だよな。




「それじゃ改めて、行くぞクロエ」


『私を誰だと思ってんだ、お前こそ出遅れるなよ』




僕はそう言うと無壊の盾を解除し、悠々と歩き出した。




今現在、僕はクロエと常闇のサポートを受けているわけだが、残念ながらそれらで僕自身のステータスが上昇するわけじゃない。


さらに言えば、炎十字の新能力もステータス上昇には直接繋がらないし、もしも仕留められるとしても攻撃が当たらない可能性が高い。




「神王になっちゃうみたいで少し怖いんだけどな......」



───元々そんな考えがあって使ってこなかったのだが、神王の正体がわかってなお使いたくなくなったあの能力。



......流石に使わないと勝てっこないもんな。




そんなことを思いながら、僕はそれらの能力を解放する。





執行者モードとなって身長も髪の色も変化していた僕の身体が、変化前の元の姿へと退行し、足元から服がすべて作り替えられてゆく。


───まるで、身体の内から作り替えられてゆくような、そんな感覚に少し嫌な感じを覚えたが、強くなっているのには変わりはないだろう。




───そうして数秒後には、その変身は終了した。




ロキの靴と赤いマフラー、常闇のローブはそのまま、僕の服装は黒を基調とした民族衣装のようなものへと作り替えられてしまった。


胸や肩には銀色の刺繍が施されており、腰からふくらはぎの半ばまで剣道の袴のような作りになっている。



『神王化』



これは初めて使う能力ではあったが、なるほど確かに神化と比べれば更にその上を行っている感覚がある。




───けれど、まだこっちが残っている。





僕は左手の甲へと意識を集中させる。




いつだっかは忘れたが、僕はその神様の名前を調べたことがあったはずだ。


理由は確か、その神が持つソレ(・・)に自分の名前でもある『銀』という文字が含まれていたとかなんとか。


そんな程度の簡単な繋がりでその神様のことを知り、調べた記憶がある。


まぁ、その神様のことはよく知らなかった当時の僕ではあったが、調べていくうちにその神様がとんでもなく強いのだと知ることになる。




曰く、病を治す力を持つ。



曰く、水を司る神である。



曰く、戦いの神である。



曰く、その強大な力は───全能神にも届く。




───まぁ、調べてた頃はこうしてその神様の持つソレを使うことになるなんて思わなかったわけだが。





瞬間、僕の半ばで切り落とされた右腕が銀色に輝き始め、何も無い空間から銀色の物質が構成されてゆく。



やがて、その銀色は()の形を取り、僕の身体の有るべき場所に収まった。





───いつだったか。





僕が急激にパワーアップしたあの時と同じように、右手を握っては開き、また握る。




果たしてそこには違和感など挟む隙間は微塵も存在せず、少し嬉しくなって、復活した右腕を突き出した僕は、




───この銀色の神腕の名前を、ニヤリと笑って呟いた。









「『ヌァザの神腕(アーガトラム)』」と。





☆☆☆





『guu、guaaaaaaaaaaaaa!!!!』



僕の変化に一瞬硬直した黒騎士ではあったが、まだステータスでは向こうの方が格上。黒騎士は怯む様子もなく雄叫びをあげて切りかかってきた。



───が、今の僕を舐めてもらっては困るかな。



ギィンッ、と僕は妖魔眼を発動し罠を仕掛けた。



その後に銀滅炎舞の不知火型『灰塵滅却』によって相手の視界を完全に遮るほどの銀炎を放出、狙いがズレた瞬間を見計らって相手の腕を駆け上がる。


銀炎はもうほとんど煙幕の役目は果たしてはいないが、黒騎士は何故か焦ったような顔をして周囲を見渡している。



───勿論これは僕の妖魔眼のスキルによるもので、今現在において黒騎士は僕の姿が見えないと錯覚している(・・・・・・)のだ。



僕はその隙をついて肩まで到達すると、腰だめに神腕を構え、最近使えなくなっていた銀滅炎舞の本来の使い方を使用する。





「『正義の鉄槌(シルバーブロー)』」




そう呟くと同時に僕の神腕がさらなる輝きを放ち、圧縮に圧縮を重ね、膨大な熱量と化しているであろう銀炎を纏う。



流石にこの至近距離でこの熱量だと黒騎士も違和感に気づいたようだが───残念ながら手遅れだ。




「ハァァッッ!!!」




バハムート戦の時よりも格段に威力と熱量の上昇した拳を、そのヘルムのこめかみ辺りに思いっきり打ち込み、それと同時にドゴオォォォンッ! と殴っただけでは出ないような音が鳴り響く。



僕は鉄拳&身体中に燃え移った銀炎で絶叫し苦しんでいる黒騎士を傍目に、悠々と空を歩いてその場から立ち去る。



───が、僕もそうウカウカはしてられない。



このヌァザの神腕、この世界で使っているのにも関わらず、今なお精神がジリジリと削られて行っているのだ。これでも黒騎士へと対象を移そうとしているのだが......流石は神腕と言ったところだろう。本物ではないと思うけど。


そう思いながら僕が黒騎士の目の前に降り立つとほぼ同時に、クロエが僕へと話しかけてきた。



『あん? 別に偽物ってわけじゃねぇぞ?』



そのびっくりするほどヤンキーみたいな口調よりも、僕はクロエがそういった理由について聞きたかった───まぁ、まさか本当にヌァザの腕を頂戴してきたわけじゃあるまいし。


そうして僕の心を読んだクロエは僕の疑問に答えてくれたが、その解答は案外しっくりと来るものであった。



『そもそもそのヌァザって神は存在しない架空の神だ。だからこそその腕は偽物でもなければ本物でもねぇ。たしかに今のままじゃ性能的に偽物になるかもしれねぇが、お前自身が成長すれば本物以上にもなる。つまりはお前の考えているソレとは全くの別もんだと考えた方がいいな』



───実在しない神。


まぁ、歴史が続けば続くほどにそういう噂や神話も増え、次第に何が本物で何が偽物かも分からなくなってしまうものだ───きっとヌァザも同じようなものなのだろう。


僕はそれに対して「へぇ」と返そうと思ったが、






───残念ながらその前に黒騎士が復活した。




『guuuuuuuooooooaaaaaaaa!!!!』




僕はその炎の中から振るわれて来たその大剣を空中へと駆け上がって躱す。



ただでさえ世界竜バハムートにかすり傷───それこそ防具に使用できるだけの鱗をその身体からぶん取れるほどの威力の正義の鉄拳。



───それを更にステータスも上がって、右腕が神腕になった状態で使ったのだ。相手のダメージは火を見るより明らかであろう。



今なお銀炎にチリチリと焼かれている黒騎士を見ると、その白い翼は見事に焼け落ち、その鎧も所々が溶けていた。


直撃をくらった側頭部に関しては思いっきりヘルムが陥没し、首が明らかにおかしい方向へと曲がっている。常人なら即死だろう。



「けど、流石は狂暴者───この場合は狂騎士かな。理の外にいるだけあって生命力もその埒外、ってことか」



僕はその大剣を地面へと突き刺し、首をゴキゴキとやって元へ戻そうとしている黒騎士を傍目に、少し距離をとって地面へと降り立つ。


さらに見れば、どうやらその翼までもが回復しつつあるようだ───僕ほどじゃないが、その回復力が洒落にならなそうだな。



僕は再び炎十字へと意識を向ける。



───今の僕なら後もって数分、って所かな?



おおよその残りの神腕の召喚可能時間も測れたし、あの黒騎士の倒し方もなんとなく分かった。



下手な攻撃じゃ躱されるし、当たったとしても回復される。先程のような近距離からトンデモ威力の攻撃をクリーンヒットさせれば話は別だろうが、流石に二度目は通じなさそうだ。



.........なら、アレしかないよな?



僕はそこまで考えたところで、ちらりと三人の方へと目を向ける。



そこにはビックリしているメフィストとエロース、そして心配そうにしている恭香の姿があった。



───おい恭香、どうせ聞いてるんだろ? 今からこの世界まるまる飲み込む大技(・・)使うから、二人に守ってくれって頼んどけよ。



その言葉を聞いたのだろう。目に見えてビクッとする───メフィスト。あぁ、そういえばお前も心が読めたっけか。なら安心だな。


何やら視界の隅であたふたとしだした二人を見ながら、僕は再び黒騎士へと目線を戻して両手で合掌し、それぞれの掌同士を重ね合わせる。



「おいクロエ。今から僕の魔力の大半を使って大技放つから、ちゃんとそれに合わせて銀炎供給しろよ」


『言われなくとも雰囲気だけでなんとなく分かってんよ。ってか大技ってことは無差別か?』



僕はその言葉にコクリと頷いてやると、クロエも『おもしれぇ』だのなんの言って乗ってきた。



───この技は、味方には無害、って言う銀滅炎舞のメリットを完全に取り上げた上で、それに回されていたエネルギーを全てを攻撃へと回すのだ。一度だけ使った時は付近の山が吹き飛んだし、さらに言えば僕も死にかけた。


だからこそトラウマになっていてあまり使いたくはないのだが───今の僕には常闇が居る。少なくともあれの二の舞にはならないだろう。


問題はこの世界が無事か、ってことだが......、全ての破壊エネルギーを凝縮してぶつければ何とか外への被害は免れるだろう。



───それに、暴走(それ)をさせないための二人だろ?



果たしてそれに応じてくれたのかは分からないが、確かに僕は、神腕が少し輝いたのと、ローブが少し揺れたのを感じた。



まぁ、個人的にはこの神腕の他の能力や新しい能力を試したいところではあるが......、ここはまずは決着をつけてしまおう。試すのはこのくだらない戦いの幕を閉じてからでも遅くはない。





僕は両手へとさらに力を込め、一気に魔力を放出する。





「『火を灯せ』」




それはつい最近、どこかで口にしたような、その詠唱。






「『薪を焼べろ』」




この技は、僕がこの一ヶ月に新たな技を開発しようとして実験した際に生まれ落ちた、最悪の副産物。



仲間を守る、という僕のスタンスを根底から破壊するような、最凶で最強な必殺技。






「『全てを(こぼ)つ断罪の灼炎』」




それは、一度放てば僕が使用した魔力が消えるまでまで決して消えない───獄炎の炎。






「『罪咎有りて神すら滅ぼし、容赦無くして悪魔を滅する』」




さぁ、敵味方関係なく、目に付くもの全てを燃やし尽くせ。



今になって僕の身体から溢れ出る魔力量に気づいたのか、焦ってこちらへと掛けてくる黒騎士の姿が瞳に映った。






「『我、万物灰燼と帰す惨禍なり』」





僕の左眼が紫色の輝きを放ち、黒騎士の動きが完全に停止する。



───然して、僕の詠唱もそれと時を同じくして完成した。





「悪魔ムルムル。僕はお前を超えて先へ進むよ」




僕はそう言い捨ててから、悪夢に囚われているムルムルへと全てを燃やし尽くす獄炎を放った。








「『灼罪の燈(カタストロフィ)』」






───瞬間、圧倒的熱量が世界を包み、辺り一面に暴力的なまでの魔力が溢れた。



色々とギンの新能力や必殺技が明らかに!


ちなみに『灼罪の燈』は不死の吸血鬼すら一瞬で塵になるほどのトンデモ威力です。試した際に死ななかったのは、本当に運が良かったとしか言いようがありません。


というわけで一応ムルムル戦決着です。次話で色々と次章へと向けたあれこれがあった後、閑話を数話挟んで新章ですかね。たぶん。


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