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シリアス? そんなの知りませんとも。

第四章 王国編
第172話

「......酷いな、これは」



王城の中へと忍び込んだ僕が最初に抱いた感情はそれだった。


様々な所から煙が上がり、兵士達の亡骸は置き捨てられ、大量の血液が至るところに付着している。



───守れなかった......か。



僕は今に至るまで色々な命を救ってきた───少し前までは「僕が居なくとも」なんてひねくれては居たが、ここまで状況証拠が揃ってしまえば認めざるを得ないだろう。


パシリアでもビントスでも一切犠牲は出さなかったし、グランズ帝国でも犠牲は僕の右腕とステータスのみに抑えることが出来た。唯一ゼロの住んでいた集落は救えなかったが、それも僕の目の届く範囲の出来事ではなかった。


───けれど、今回は違う。


明らかに僕の目の届く範囲で、手の及ぶ範囲で、僕の選択一つで救えていたであろう命が、無残にも目の前で今尚散って行っている。



「クソッ......、ほんとに死にたくなる」



───けど、そんな後悔は全て終わってからだ。今後悔して懺悔して落ち込んでいても、人が死んだ結果は変わらないし、ましてやこの先救えるかもしれない命をむざむざ捨てるようなものだ。



「恭香、見落としあったらフォロー頼む」


『今回は頼ってるのかな、それとも押し付けてるのかな?』


「.........頼むぞ」



僕はそうとだけ恭香へと伝えると、本気で自身の気配を消し、迅速に城の内部へと侵入し始めた。




───流石に今回ばかりは、僕の意地なんて二の次だ。





☆☆☆





足音を完全に消し、まるで忍者の如く廊下を駆け抜ける。


どうやら城内は魔物達に占領されているらしく、未だ生き残りの姿は見えない。白夜たちが避難させておいてくれたのなら良いのだが、最悪のことを考える必要もあるだろう。


僕は上へ上へと場内を走り回りながら、一先ずは第一班と王族たちの発見を最優先にして空間把握を三キロまで広げた。

僕が今いるのは城の中腹、なればこそ半径三キロならば恐らくこの城の全体が把握できるだろう。


そうして広げてみると、果たして僕の予想通り王城内の全てを網羅することが出来た。



「なるほど......、魔物達は一階から攻め上がって行って、逆にムルムル本人は一番上の階から攻め入ったってわけか」



僕の空間把握には、頂上階の謁見の間に居座る数名のお供の悪魔と、グリフォンを連れた騎士風の悪魔。更には僕同様下の方から着々と這い上がってきている上位の魔物達の姿。


───そして、その中腹の食堂にて居を構えている、アイツらの姿があった。



「エルグリット達も......、うん、全員居るな。ほかの場所に隠れてる奴らは.........もう居なさそうだな」



一応危なさそうな奴のところには影分身を送って避難させてたため、残りの場所はそこただ一箇所のみのようだ。



『一番上の階を抑えられてたらもっと守りが頑丈になってただろうけど、そうなったら逃げ場がないもんね。中腹に居を構えるなら最悪下にも上にも逃げられるし、食堂は頑丈で食料も沢山ある。流石は神童が三人も居るだけあるね』



恭香も僕の空間把握の結果を思考から察したのか、一先ず安心だと息を吐いた。



「それじゃ、ひとまずそこに合流した後、影分身で守りを強化。後に本体である僕はボス戦突入、って感じかな」



僕はそう呟くと、まずはアイツらが居を構えている中腹の食堂へと向かうことにした。




───さて、いつまで油断していられるかな?




僕は最上階にて思いっきり寛いで油断している馬鹿悪魔に向かって、心の中でそう呟いた。




☆☆☆




着いた。


中腹の食堂らしき部屋に。


確かにこの部屋の扉はミスリル製でかなり厚く出来ているらしく、滅多なことでは破られはしないだろう。それこそSSSランクの魔物相手にも数分は持ちこたえられるのではないかという感じだ。


───が、お互いにお互いを確認する術がないのも事実。



僕はその部屋にたどり着いて、真っ先に白夜たちに念話を試みた。



(おーい、白夜、輝夜、オリビア、アイギス、浦町、僕が助けにやってきたぞー、扉開けてくれないか?)



別に位置交換でその中に入ってもよかったのだが、それだと向こうにある何かが代わりにこちらへと転移してしまう。恭香は今は本モードで僕の身体にくっついているため『装備』という扱いだが、それでもその交換するものが大切なものだったのらそれはそれで困る。そしてその間に魔物達がここに集まってしまっていれば尚困る。



そのための念話だったのだが......、



(主様じゃと!? 主様がこんな所におるわけがなかろう! きっとこの扉の向こうにいるのは偽物なのじゃっ!)


(ふっ、このような見え透いた戯言、他は騙せても主殿の忠実な下僕である我らに通じると思うな!)


(そうなのですっ! ギン様はもっとかっこいいのですっ!)


(ええっと......、私は本物なんじゃないかって......)


(騙されるなよアイギス、私は常に銀の脳波を拾っているが、今この場所において銀の脳波は私へと到達していない。それはつまり偽物だということだ)


(えええっ、そ、そうなんですか!? だったとしたらこの偽物のギンさんすごくクオリティ高くないですか!?)



───全く聞く耳を持たず、あのバカどもと来たら僕を偽物扱いだ。それと浦町、脳波が届かないのはこの分厚いミスリル製の壁のせいに決まってるだろうが。


苦労してここまで来たのに全く聞く耳を持たない奴らにイラッとした僕は、少し怒気を強めてもう一度念話をかけた。



(おいポンコツ共。お前らまさか僕のこと偽物だなんて思ってるわけじゃないよな? もしもそうだったとしたら絶交ものだぞ、僕らが共に過ごした時間は一体何だった...)


(うるさいのじゃ偽物めーっ! 主様の口調と声を真似るのは肉奴隷である妾が許さんのじゃっ!)


(((そうだそうだーっ!)))


(いや、やっぱりこのギンさん本物なんじゃないですか? 怒り方とか絶対本物ですって......。ぎ、ギンさん、私は信じてますからねーっ!)



なんということでしょう。僕が本物だと信じてくれているのはアイギスただ一人。なんと悲しく嬉しい事でしょう。いや、嬉しくはないな。逆に怒りしかないわ。


僕は今一度周囲を空間把握で確認し、魔物達も馬鹿悪魔も遠いことを確認した後に、ファイナルジャッチメントを奴らへと下した。



(アイギスはいい、だが他のヤツらへ最後の勧告だ。僕がブチ切れる前にこの扉を開けろ。さもなくばこの扉の向こうにいる全員にお前らの、ドン引きするほど気持ちの悪い、恥ずかしストーリーを暴露する)



その言葉に思わずうぐっと言葉に詰まる馬鹿ども。


───がしかし、時に数の暴力というのは正しさすらも捻じ曲げる。



(か、カカッ、主様本人でもないのにそんな事が分かるわけなかろう! 脅しの範疇にも入らんのじゃ!)


(そ、そうだったな! 確かに主殿本人でもない偽物にそんな事分かるはずもないな!)


(そ、そそ、そうなのですぅっ! 偽物のくせに一瞬ギン様なのかと思っちゃったのです!)


(ふ、ふんっ、も、もも、もしも君が本人だったとしても、わ、私にそんな恥ずかしいストーリーなどあるはずもない!)



───なーるほど、コイツらはファイナルジャッチメントをミスったというわけだ。それでこそ遠慮なく暴露できるというものだ。



(よし分かった。今よりお前達のドン引きエピソードを語り出す。心して聞くように)



僕はそこまで言ったところで向こうにいる全員───王族はもちろん騎士達や次女さんたち、貴族達にまで念話を繋げる。


そうして最初に語り出すのはもちろん白夜だ。



(とある日、僕がお風呂に入っていると、何やらガサガサと脱衣室の方で音がしました。「ん? レオンかマックスかな? まぁこの風呂大きいし全然余裕なんだけど」とそんなことを考えて僕は風呂に浸かっていたのですが、何故かその人物はなかなか入ってこようとしません。流石に疑問に思った僕は、一旦風呂から出て、そのまま脱衣室の方へと向かったのです)



そこまで語ったところで向こうからゴクリと息を呑む声がした。


───残念白夜、お前の社会的な死は確定してしまったようだな。




(そうしてそこで見たものとは、僕のトランクスを頭からかぶって「ぬほぉぉぉっっ!! こ、ここ、これはっ! これは興奮するのじゃぁぁぁっ!!」と悶えている一匹の変態でした。もちろん僕は、そのまま何も見なかったふりをしてお風呂へと戻っていきましたとさ。おしまい)




語り終わったところで、微妙な雰囲気が扉の向こうで流れているのを感じた僕は、ニヤリと笑って更なるエピソードを語り出した。もちろん誰のエピソードかは告げない。




(とある日、夜中にふと目が覚めた僕は「喉乾いたし、水でも飲みに行こうかな」と思い、のそのそと部屋を出て食堂へと向かった。すると珍しいこともあったもので、その食堂には夜中にも関わらず電気がついており、僕へと先客がいることを伝えてくれた───のだが)




さて、続いては輝夜だ。


───さぁ、お前も社会的に死んでしまえ。




(そこには「ぎ、ギンは......、こんな服、ど、どう思うかな? もしかして可愛いって......きゃーーーっ!」と、セーラー服を着た三十路前のパツキンがはしゃいでいる姿がありました。もちろん僕は、何も見なかったふりをして部屋へと引き返しましたとさ。おしまい)




再び微妙な空気が流れ、向こうからドンッと扉を叩く音が聞こえる。残念ながらここで何か発言してしまえばその事実を認めてしまうことになるからな。ざまぁみろ。


ということで僕は再び語り始めた。




(これは、最近婚約したばかりの王族に、いきなりソファーに押し倒され、半ば無理やりキスまでされたあの日の夜の事である)



ドゴォォォン!!


何やら扉の向こうから、まるでブラッドメタル製の手甲で扉を殴りつけたかのような衝撃音が聞こえてきた。ついでにエルグリットたち王族からの笑い声と驚愕の叫び声も。


───がしかし、まだまだ本題はこれからだ。


オリビアよ、婚約する前はまだしも、もう僕とお前は恋仲なのだ。僕が恋人相手に今まで通り優しくかっこよく接すると思うなよ?




(僕はついつい夜遅くまで居間での読書に熱中してしまい、ふと気づけば深夜の二時。これはそろそろ寝ないと不味いだろうということで、僕は自室へと向かったのだった。けれど、その道中にて、最近は滅多に使われていないその王族様の部屋から光が漏れていることに気がついたのだ。僕は「早く寝ろよ」とでも声をかけようと、ふとそのドアの隙間から中を除いたのだが......)




ドンドンドンドンッッ!! と非難の連打と、エルグリットたちの聞いていいものなのか聞いてはいけないものなのか、という困惑の雰囲気が漂い始めたところで、僕は思いっきり暴露した。


───さてオリビア、お前は親族の前で地獄を味わえ。





(そこに居たのは「あら、ギン様ったら、なかなかお茶目なことするのね? んもう、今夜だ・け・よ?」と僕の似顔絵が刺繍された人形に対して一人演技している王族様の姿でした。それが一体何だったのかは分かりかねたが、とりあえず僕は何も見なかったふりをしてその場を通り過ぎましたとさ。おしまい)





死んだな。王族が社会的に。


特にギルバート辺りに延々といじられるに決まってる。


そのオリビアと言えば顔を真っ赤に染めて蹲っちゃってる。それをエルグリット達が「お、オリビア......、まさかそういうのに憧れて」やら「お、おお、押し倒したって本当なの!?」やらと聞いている。これでオリビアも芸人(あいつら)の仲間入りを果たせたな。



───さて、次へ行こうか。



そんなことを思ったと同時にドンドンドンドンと向こうから扉を叩く音がしてきた。



「わ、分かった! 君は本物なのだろう!? 私は元からわかっていたぞ! うむ、本当にわかっていたとも、だ、だからそれ以上の横暴はやめるのだ! わ、私が社会的に死んでしまう!」



おーっと、今更になって味方面ですか?


───残念、お前らは今現在においては僕の敵だよ。




(これは僕がまだこちらの世界に来る前のこと。僕が一人暮らしをしているアパートの自室にいると、珍しく白衣を着ずに、女の子女の子している服装の彼女がやってきました。どうやら彼女は料理を作ってくれるとのことで、なにやら嫌な予感はしましたが、僕は仕方ないということで彼女を部屋に上げましたとさ。彼女が料理を作り始めて数分、僕は何故か腹痛を感じてトイレに駆け込みました。そして十数分の戦いの後、僕は期待を膨らませて部屋へと戻った───のでしたが)




再びドンドンドンドン、と扉を叩く悲痛な音が聞こえるが、残念ながら僕はそれをガン無視する。



───さぁ、お前はトラウマを思い出して精神的に死ね。




(脱ぎ捨てられた衣服と、何故か僕の布団で横になっている彼女。そして彼女は「こ、これで......、気持ちだけは、し、しし、新婚、さんだ.........な?」とニヤニヤとしながら寝返りをうって、それを泣きそうな目で見つめている僕と目が合ったのだそうだ。もちろん僕はそれを見なかったふりをして、大人しくトイレへと帰りましたとさ。おしまい)




───以上全四話。四人の嬉し恥ずかし、社会的にヤバいストーリーでした。


何やら向こうからすすり泣きが聞こえるが、残念だったな。僕は一度認めたやつには容赦はしないタイプでね。



『い、いや、流石にやり過ぎじゃない?』


「は? お前のもバラして......」


『なっ、なな、なんでもありませんっ!!』



僕は恭香の苦言を撲殺すると、扉の向こうへと向かってもう一度念話をかけた。



(まぁ今のは冗談じゃない冗談だとして、この扉の前に影分身を数体配置しておくよ。アイギス、その馬鹿四人と他のみんなをよろしく頼んだぞー)


(えええっ!? ぎ、ギンさんはどうするんですか!? 今この城ってほとんど占拠されてますよね!?)



そりゃもちろん、そうだろうな。



僕は背後を振り返る。


そこにはいつの間にかここまで到達していた魔物達の姿が。



AAランク、レッドオーク


Sランク、ナイトメア


Sランク、ミノタウロス


SSランク、ブラックオーガ


SSSランク、テンペストウルフ


SSSランク、デビルスライム


SSSランク、エキドナ


EXランク、ペガサス



下はAAランク、上はEXランクまで。

そんな魔物が少なくとも百は居るであろうこの群れ。


───しかもその全部が死霊系、つまりはゾンビと来た。普通なら卒倒ものだな、これって。



「それにしてもあの馬鹿悪魔、何かやらかすと思ったらここで僕をコイツらごと始末するつもりか」



僕は少し扉から離れると、食堂の扉へと銀炎を放つ。

───この炎は敵のみを滅する。つまりはこの扉をこじ開けようと思ったら必ずこの灼熱の炎の中に突っ込んでいかねばならないわけだ。逆に中にいる連中には熱も全く伝わらないし。



『それにしても悪魔ムルムルって、ほんとに頭だけはお花畑みたいだね』


「ほんと、その通り過ぎて笑えてくるな」




僕が先程倒した死霊人形とやらは、元が弱い貴族達を元に作られた生物のため、経験値は少なかったようだが......、





「ボス戦前に、攻略者に経験値を贈ってくれるボスとは......、これは余程倒されたいらしいな?」




僕はそうして影を纏う。



さて、ボス戦も控えている事だし、ここで下手に流血するのもよろしく無い。



───ならばどうするか、答えは簡単だろう。







「お前ら全員、無傷で暗殺してやるよ」







そうして僕の、経験値稼ぎが始まった。




目指せ! Lv.600......いや、650!!

少し生活感が欠如してたので、内数人の個人情報を暴露してみました。どうでしたでしょうか?

次回! 今度こそはシリアスを願ってます!

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