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今回のデートは誰が相手なのでしょうか?

それにしてもお化けって怖いですね。

第四章 王国編
第169話

はたまた翌日、まだまだ連続出社(デート)の半ば。例えるならば一週間のうち水曜日の朝のようなものだ。


───まぁ、恭香、輝夜、暁穂、と三人とのデートが残っているのだからある意味それも間違ってはいないのだろうがな。まだオリビアにアイギス、ネイル、エロースとデートが無いだけでも良かったと思うしかないか。流石に「藍月とデートしたんだから私も」とか言われたら死にそうだ。



僕は昨日もまたかなり疲れてしまったため、居間のソファーにうつ伏せで沈み込みながらそんなことを考えていた。



───え? 結局浦町と夜まで一緒にいたのかって?



いやいや、彼女が本気でそんなことする勇気あるわけないだろう。それに、もしも僕らが夜中まで一緒にいたとしてもお互い手なんて出しませんよ。だって浦町って僕と同じくらいチキンだし。アイツ、あんな雰囲気醸し出してる癖にこのパーティで一番気弱で根暗でチキンで精神面的に幼...



「ぐふっ!?」


「な、なな、何をっ! な、何を言ってるんだ君はぁっ!?」



───ほ〜ら見たことか。図星をつかれるとすぐに焦って暴力的になる。精神的に幼い証拠だな。


僕は浦町のかかと落としをくらった背中をさすりながら、起き上がってソファーに腰かける。



「ま、お前はもう少し大人になれよ。僕よりチキンとかもうそれ病気だぞ? 僕が直々に医者として治療してやろうか?」


「くぅぅぅっ! き、君は医者だ医者だとは言うが医療免許も何も持ってはいないじゃないか! そ、そんなヤブ医者に治療して貰うほど私は...」


「あー、悪い悪い、そんな何してくるかわかったもんじゃないような恐ろしい僕とは一緒に居られないか。うーん、怖くて怖くてブルッちゃうのを見られたくなかったのかぁ。察して挙げられなくてごめんなぁ」


「よしわかった! 今日は君の部屋で一晩明かしてやろうじゃないかっ!」



ほら、やはり幼い。


この世界に来たばかりの僕と同じくらいには精神的に幼いのではないだろうか?

───あまり思い出したくはないが、あの頃の僕と来たら損得も何も考えずに国に喧嘩売ろうとしてたんだもんな。馬鹿にも程があるだろう。

今の僕なら国なんて滅ぼさずにその上層部の腐った連中だけを秘密裏に消し去ってそのまま放置するな。どうなるかは分からんが現状から変わることは出来るだろう。



「ま、僕が成長してるのかどうかは分からないけどな」



もしかしたら『ひねくれた』と言った方が正しいのかもしれないし。


そんなことを考えていると、件の残り三人が居間へと入ってきた。




───はてさて、今日のお相手はどちら様でしょうか?





☆☆☆




ガタンゴトン、と僕たちの乗る乗り物の下から僅かな振動が伝わってくる。


それはこれに乗っているのだから当たり前のことなのだが、それは確実に乗る者たちの寿命を縮めてゆく───気持ち的に。


ガタンガタン、と再び振動が伝わり、次の瞬間にはその乗り物は上方向へと傾き、地獄への片道切符を改札口へと無遠慮にも差し込んだ。



「ひぃっ!」



もちろんこれは隣の彼女が出した声ではなく、僕の歯の隙間から漏れ出た、恐怖に塗れた声である。



ふと左隣を見れば着実に離れてゆく地上───まるで人がゴミのようだ。


逆に右隣を見れば、滅茶苦茶笑顔の金髪蒼眼のOLさん。なんでお前そんなに楽しんでんだよ。脳が沸いてんじゃないのか?



カタリカタリとやがて振動が小さくなってゆき、やがて僕らは、天国に一番高い位置へと上り詰める。




───果たして僕がそこで考えたのは、一体どんなことだっただろうか?




もしも僕がそう聞かれたとすれば、きっと今と同じように即答するに違いない。







「なんで異世界に遊園地(・・・)作りやがった!? 僕の前に来てた異世界人た────ぁぁぁぁぁぁ!? やめてぇぇぇぇぇぇっっ!!」





僕らの叫び声が、明らかにジェットエンジンの付いているジェットコースターの先頭から、遊園地全体に響き渡った。




ここは、王都に存在する遊園地、王都テーマパーク。




───魔法技術盛りだくさんの、地獄の園である。





☆☆☆





「し、死ぬかと思ったァ......」



何なの、何なんですかあのジェットコースター。魔道エンジンは付いてるし途中でレールは消失するし、更に───何がどうなってるのかは分からかったけれど、途中で安全バーまで消え失せたのだ。正気の沙汰じゃねぇよ、ほんとに。


僕がそんなことを一人呟きながらベンチで死にかけていると、どこからか飲み物を買ってきた輝夜が帰ってきた。



「おいおい主殿、普通は立場が逆なのではないか?」


「ご最も。けど一周まわってなんとも思わねぇよ......」



ありがと、と言って輝夜から飲み物を受け取ると、喉のところまで出かかってるリヴァイアサンを鎮めるために、沈めるためにその飲み物で飲み下す。


その飲み物はとてもスッキリした味わいで......、少しシュワッとすることからも炭酸もどきが入っているのだろうが、さして気にもならない───やっぱり異世界の飲食料は不思議だな。



しばしの間、二人でベンチに腰かけながら座っていると、輝夜が突然ククッ、と笑い出した。


どうしたの、とうとう壊れた? と視線を送っていると、それに気がついた輝夜は、笑いすぎて出たのであろうその目尻の涙を拭ってこちらへと笑いかけた。



「うむ。我の出生はもう話したであろう? 里でハブられていた頃からエルメス王国の王都テーマパークに来るのが夢だったのでな。まさか叶わないと思っていた夢を主殿と二人で叶えられたのだ。......ククッ、これ程嬉しく、笑えることはないであろう?」



そう言って再び肩を震わせる輝夜。


僕は輝夜に何か声をかけようとしたが、「夢叶ってよかったな」くらいしか僕の頭では考え至らず、もう少しマトモな言葉がないものかと考えているうちにタイミングを逃してしまった。


僕は無言を誤魔化すためにストローでジュースを飲みながら、次はどんなアトラクションに挑戦しようか、なるべく普通のがいいな、とあたりを見渡し.......、




「あっ」




───見てしまった、見つけてしまった。





魔法技術を使ったアトラクション


僕の苦手なアレ


この世界で死体を放っておくとゾンビになる


スケルトンという魔物


そして、この遊園地は色々とサイコパスだということ




それらのピースと僕の視界に入った妙に大きな屋敷(・・・・・)




───まぁ、それらを含めれば嫌な予感どころか未来視が出来てしまうわけで、





僕は、ガッチガチに固まった首の関節を無理やり動かして、まるで錆びついたブリキ人形の如く左隣を振り向いた。




果たしてそこには、とても笑顔の輝夜様が居たわけで、




「ま、まさか......ねぇ?」


「残念ながら、そのまさかだ」




───僕のショック死が、ほぼ確定してしまった。





☆☆☆





そのお化け屋敷はほんっとに人気がないのだろう。果たして怖くなさすぎて人気がないのか......、その逆か。後者でないことを祈るが、とにかく全く人気がなかった。


そのせいで僕は輝夜を説得する時間すらなくスイスイとそのまま屋敷の入口までたどり着いてしまい、もうどうすることも出来なくなってしまった。



「な、なぁ、輝夜。お、お前、一応アンデットなんだから......、ももし万が一本物とか出てきたら、頼むぞ? 僕まじで、や、やば......うぅっ」



たしか昨日、僕は限界まで頼らないとかどうとか言ってた気もするが、残念ながらこれは入口の時点でもうダメだ。限界の限界だ。だってなんか不気味な魔力やら雰囲気やらが漂ってきてるんですもの。今目の前に混沌が現れてどっちに挑む? って聞かれたら即断するレベルだ。もちろん選ぶのは後者。


僕が輝夜にしがみついてガクブルと震えていると、なにやらこの状況で少し頬を染めた輝夜がなにやら呟き出した。



「クハハッ、主殿がここまで怖がって居るのは初めて見るな......。それに頼られるというもバジリスク戦以来......、なるほど主殿が我らを守ろうとする理由がわかった気がするぞ」



いやいや、僕がお前ら守ろうとしてるのは単純にかっこつけたいから......って今どうでもよくないですかそれ?


僕はイライラし始めた心を数度深呼吸して落ち着かせるが、やはり完全に元通りとはならないようだ。


───けどまぁ、さっきから比べると随分と落ち着けた気もするし、きっとこの調子なら何とかな......




『それでは地獄に、お二人様ご案な〜い!』




ガタンッ





僕がなにやら決意したと同時に、とてもわざとらしい、この場に似合わない声が聞こえ、




───床が消えた。





「入口ってそっちぃぃぃぃっ!?」




そうして僕は輝夜と一緒に、地獄へと続く闇へと飲まれていった。




───僕は結構真面目に、生き残れるかどうかが不安になりました。




☆☆☆




「ここは......」



我は主殿と落ちた先であたりを見渡すが、アンデットの我でも少し見え辛く感じるほどにそこは薄暗く、不気味な場所であった。


我の住んでいた里でもここまで酷くはなかったのだが......、とアンデットの里よりも酷いこのお化け屋敷にある意味ドン引きした。



───けれど、我が主様は夜を統べる吸血鬼。苦手苦手とは言ってはいたが流石に......




そんなことを思って隣を見ると、なんとその敬愛すべき主殿が───体育座りで震えていた。




「こ、こここ、こわ、こ、ここ、ここ、どこなの?」




───あ、これガチなやつだ。



思わず我は確信してしまった。間違いなくこれはガチなやつなのだと。



「あ、主殿......? 大丈夫......ではなさそうだな。とにかくアンデットの王たる我がついておるのだ。この屋敷の中に我より怖い者はいない。だから安心して行こうではないか」



我がそう、必死で励ましてみると、



「......ぐすっ、......ほ、ほんとに?」


「ぐはぁっ!?」



バキューン! 例えるならそんな感じだろうか。


───こ、これが俗に言うギャップ萌えという奴かっ!


いつもツンツンして心に仮面を被り、怖いのを必死に耐えている小心者の主殿が、今は何も隠さずそのままの自分で話しかけてくれているのだ、とそう考えるとこんな状況でも嬉しい気持ちが込み上げてくる。



我は思わず胸を抑えてたたらを踏んでしまったが、こんな機会は滅多にないのだから目一杯楽しもう、と割り切ると、なるべく主殿が不安にならないように優しく微笑んだ。




「あぁ、我が主殿と神様以外に負けたことがあるか? この場は任せて、主殿は我に抱きついていてくれれば良い!」



───つ、ついでに、少しくらいは我が儘叶えても......いい、よね?



そんな事を思った素の我であったが、主殿が勢いよく抱きついてきたためそんなことは頭から吹っ飛んだ。



───な、な、なな、なにこれっ!? いつも私から抱きついたりはしてるけど......。へ、へへっ、主殿から抱きつかれるというのはこれはこれでまた......、っといけない、完全に口調が素に戻ってしまっていたな。



私は......じゃなかった。我は何とか正気を取り戻すと、少しゆっくりめの速度で先へと歩き出した。



あわよくば、この瞬間が永遠に止まってくれますように、とそんなことを考えながら。





☆☆☆




この屋敷に入ってから数分は経ったであろうか?



壁から生首は生えてくるわ、天井から四肢損失したガチなゾンビは落ちてくるわ、そこらに倒れてる死体は必ず動き出すわ、まばたきをして瞼を開いたら先程までいなかった物がそこにはあるわ......、かなりこのお化け屋敷のクオリティは高かった。


その他にも先程から我でも少しビクッとするような仕掛けの連続で、主殿に至ってはプライドを捨てて我の胸に思いっきり顔を埋めて死んだフリをしている。......なんなのこの人、めっちゃ可愛いんですけど。



だが、流石に我も主殿をこのまま恐怖に浸からせておくわけにはいかないと思い始めた。って言うかもうかなり満足したし。



というわけでそろそろ本気でここからの脱出を試みようとしているのだが......、



「こ、ここ、この、お化け屋敷......、大きいと思ってたけど、中広すぎやしないか?」



震えた主殿の声に、コクリと頷く。


そう、このお化け屋敷はとてつもなく広大なのだ。先程から空間把握を使用して周囲を探索しながら進んではいるが、今の我でも空間把握の上限は三十メートル。主殿のように三十キロを網羅するようなことはまず出来ない。

だからこそなかなか出口を見つけられないし、先程から少し迷ってもいる。まぁ主殿が口出ししてこないことからも道が間違っているわけではないと思うのだが......、



と、そんなことを考えていると、どうやら出口らしきものが我の空間把握の圏内に入った。



「おお! 主殿よ、もうすぐ出口だぞ!」



我はそう呼びかけるが、主殿はもう既にその出口の場所は分かっていたのだろう。コクリと頷くだけで反応はない。



我は無性にいつもの主殿が見たくなり、少し足早にその出口へと歩を進めた。





だからこそ、主殿は出口が近いことにホッとして思わず空間把握を解き......、





───ふと見上げた、天井裏から覗くその化物と目が合ってしまったのだろう。





「ひ、ひぃぃぃっ!?」




そんな情けない声を出した主殿だったが、今回はその様子が明らかにおかしかった。



我の体から手を離した主殿はもちろんそのまま尻餅をついた────そこまでは普通だったのだ。




───が、主殿はふらふらと立ち上がり、「は、ははっ、あははっ」とその虚ろな目で壊れたビデオテープのような笑い方をすると......、





「『ひ、ひひ、火を、灯せ......、ま、薪をっ、く、焼べろ、す、全てを、毀つ断罪の......灼炎、ざ、罪咎、あ、有りて......神すら........』」




───ちょっと洒落にならなさそうな詠唱を開始した。




「ち、ちょっと待つのだ主殿!? 全てを毀つって、それ絶対やばい魔法の詠唱ではないのかッ!? 少なくとも我は知らんぞ!?」



正確には魔力の他にチリチリとした炎の熱も感じたことから、魔法ではなく神器『炎十字(クロスファイア)』の能力なのだろうが......、我に知らされていないという時点で間違いなく主殿がひた隠しにしてきている奥の手に違いあるまい。


我は焦ってそう言ったが、残念ながらその詠唱は止まることはなく、先ほどより尚一層その熱量が増加した。流石にこれ以上はまずいだろう......、まず間違いなくこの遊園地そのものが吹き飛ぶ。




「くっ......、す、済まない主殿っ!!」



我は正気を失い、ただ詠唱を読み上げるだけの木偶人形と化した主殿の首筋に手刀をうち下ろし、間一髪の所で主殿を気絶させる。


それと同時に馬鹿みたいに高まっていた主殿の中の魔力が霧散し、それと同時に熱量まで消えていった。




我は身体から力の抜けた主殿を咄嗟に支えると、ふぅと息を吐いて、我の中に存在する主殿の取扱説明書に、一項目だけ付け足した。






───お化け屋敷に連れてゆくべからず、と。






「けど、機会があれば、また二人で来たいな......」





私は最後にそう言って、愛する主殿を背中に背負って歩き出した。

久しぶりに輝夜視点を書いてみました。輝夜視点はナイトメア・ロードの閑話以来だと思いますが、なかなかどうして書いてても面白かったです。ついでにギンの怯えようも。


次回! 残るは恭香と暁穂、果たして次はどちらでしょうか......とおもいきや? 何やら事件の匂いがします!

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