本日二話目です!
しばらくは恋愛要素がある話ばっかりです。
翌日は雪の日だった。
朝から肌寒い空気が肌を撫で、もうその時点で布団から出たくないなと思えてしまう。
そして残念なことに、大金持ちの僕にとって、それは十分に実現可能なことのである。
となると、だ。
わざわざ働かなくてもお金は有り余っており、さらに僕には優秀すぎる
閑話休題。
一度寝返りをうつと、なんと目の前にはゲームアプリと電子図書のたくさん入ったスマートフォンがあるではないですか。これ一つあれば十分に一日を過ごしていられる。
以上のことから、僕はある心理にたどり着けた。
───こっちの世界じゃ、朝に布団から出なくてもいいのではないだろうか? と。
ひゃっほうこれは実現するしかないぜ、ということで。
「さて、それじゃあ満を持して、ムフフなサイトでも......」
───と、次の瞬間、僕の部屋の扉が思いっきりこじ開けられた。
ビクッ、と反応して今までで最速とも思えるような速度でスマホの電源を切る僕。
ふぅ、誰かは知らんが危うく危ういサイトを見ている僕を目撃されてしまうところだった。危ない危ない。
僕はうつ伏せの体勢のまま扉の方へと首を動かして視線を向けると、なんとそこに立っていたのは恭香だった。
「ねぇギン。危ういサイトなんてどうでもいいし、布団から出ない生活を実現させるのも好きにすればいいと思うけど、その前にそろそろ私たちとの約束を実現してくれてもいいんじゃない?」
「約束......? っておいちょっと待て、なんだ危ういサイトって。証拠がどこにある」
「そのスマホの電源ボタン推したら証拠になるんじゃない?」
───くっ、万事休すかっ......。
そう思いはしたものの、恭香は「どうでもいい」と言ったのだ。それならば安心して話を逸らしても問題はなかろう。
僕は布団から這い出て冷たい空気に身を震わせると、ベットに腰掛けて恭香へと話を振ってみた。
「で? 僕ってお前らと約束なんてしたっけか?」
「はぁ......、やっぱり覚えてないんだね。なんで銀の頭ってそう都合よく出来てるの?」
「いや、真面目にわからないんだけど......」
───と、そこまで考えたところで、突如、結構昔に僕が言ったであろう台詞が頭の中に蘇ってきた。
『はぁ、流石に可哀想だからこの会議が終わったら三人とはデート、レオンには串焼き百本をプレゼントしようと思ってたんだがな...........、まともに会議にも参加出来ないようなや......』
───続いて一ヶ月前の浦町へ言った言葉。
『一日デートしてやる』
はっ、と目を見開き、思わず恭香の方へと視線を向けたが、彼女はとてもいい笑顔で「よくぞ思い出した」とでも言わんばかりにサムズアップしているばかり。
「はぁ.........、よりにもよってこの時期に、しかもこの天気でかよ......」
「言っとくけど約束を引き伸ばしたギンのせいだからね?」
「はいはい、わっかりましたー」
とまぁそんなこんなで、僕はこれから数日間。約束のデートをほぼ全員とするハメになってしまった。
───因みに、男子二人と伽月はもちろん、白夜、オリビア、アイギス、ネイル、藍月、エロースともデートはしない予定である。
☆☆☆
「......お前と約束したっけか?」
「ヒヒィィィィンッッ!!」
───なんと、初日からクライマックス。
まぁ、察してくれているとは思うが、初日は藍月とだった。約束した記憶はないが......まぁ、良しとしよう。
藍月と出会ってからというもの、なんだかんだで二ヶ月以上経っているのだが、藍月は影の薄さをエロース以上に極めているらしく、僕もついつい描写を全くしてこなかった。だって伽月と違ってなんにも特徴がないんだもの。強いて言うならオリビアがいつも乗馬してる事とか?
まぁ、そんな影の薄すぎる藍月ではあったが、なんだか最近、伽月と藍月も念話できそうな雰囲気になってきているのだ。特に伽月に関しては人化ももうすぐだろう───次章とか。
だがしかし、伽月はまだしも藍月に関しては影薄すぎて、いきなり念話し始めても「え、藍月って誰だっけ?」となってしまうおそれがある。
だからこそ世界の強制力様は「ねぇ、アイギスとネイルもちょくちょく小話挟んでるんだからさ、次は藍月いってもいいんじゃね?」とお思いになったのだろう。全く、だからといって言葉も通じない馬とデートさせる奴がどこにいるんだ。ほんっと馬鹿じゃねぇの?
───だがしかーし! 僕もただ世界の強制力に流されるだけの男ではない。もちろんこのデートを乗り切るための準備をしてきたのだっ!
僕はアイテムボックスから一つの指輪を取り出す。
これは今の今まで輝夜に貸し出していた、ありとあらゆるモノと会話が可能になると言われている"ソロモンの指輪"である───輝夜が冥府の門を使用して召喚した魔物達と何故意思疎通が出来ているのか疑問だったのだが、どうやらこの指輪のお陰らしい。
「そんじゃ、初会話といきますか」
僕は少し緊張を覚えながら、空間支配を使いながらその指輪を自らの指に嵌めてゆく。
ピタリと指の根元まで嵌めたところで、先程からずっとヒヒンヒンヒンブルルッ、と意味不明な言葉を発していた藍月のその声が、ピタリと止んだ。
果たして、その後に聞こえてきた藍月の声とは......、
『まったくなのだ。あるじと来たらあたしの言うことなんてなんっにも聞いちゃくれないのだ。なんだかんだで二ヶ月以上こうして話しかけているというのに.....。もうプンプンなのだっ』
───予想以上に可愛らしい、幼女のものだった。
☆☆☆
その後、藍月にはひとまず小さめのロバサイズに小さくなってもらい、僕は藍月に乗って街中を散歩していた。正確にはデートか。
周囲からは「あ、執行者だ」という視線と、微笑ましいものを見ているかのような、おばさん達からの暖かい視線が僕の体に突き刺さり、まだ僕の婚約騒ぎにはなっていないのだろうとひとまず安心できた。
『あるじあるじー! 最初はどこいくのだーっ?』
「あー......、どうするかな。藍月、お前はどこか行きたいところとかないのか?」
『あるじと一緒ならどこでもいいのだーっ』
......な、なんていい娘なんだい、藍月ちゃんは。
あれだな。僕のパーティにやっとまともな奴が入ってきた感じがするな。実際にはもっと前から居たのだが。
おませな幼女、ド変態ドM、中二病なOLさん、胃袋ブラックホール、幼児化高校生、ムッツリイケメン、過去を聞けない女騎士、露出狂を極めし者、超根暗ハーフエルフ、マッドサイエンティスト、ポンコツ女神......こう考えると最悪だな、僕のパーティ。伽月は知らんけど。
だがしかし、ここに一粒の『舌っ足らずの幼女(馬)』が乱入してきたのだ。これを革命と言わずになんというか。いや革命だろう。
そこまで考え至ったところで、僕は藍月の首を撫でながら、彼女に感謝を込めてこう言った。
「ここじゃあんまりのんびり出来ないだろうし、今日は街の外に行って遊んでくるか?」
『おおおっ、それいいのだ、あるじー! だいさんせーい!』
と言うわけで、僕のデート一日目は、藍月とのお散歩デートになった。
果たしてこの後どんな展開になるのかは全く予想出来やしないが、それでもきっと、マトモな藍月とならばさぞかし平和なデートになるのではないかと思う。
☆☆☆
平和だった───超平和だった。
この世界に来てから一番平和な日だったと言っても過言ではないほどに、平和だった。
藍月と僕は空を駆けて近場の草原に降り立った後、まずは降り積もった雪で寝っ転がって遊んだのだ。隣に寝っ転がっているのは馬だったが、気持ち的には可愛い幼女であった。
次に僕達はかけっこをした。流石はペガサスと言ったところか、ロキの靴を履いている僕でも彼女の急激な方向転換には付いていくのは難しく、結局は藍月の勝利ということになった。全力だして勝っても面白くないしね。
そうして僕らはお昼休憩を挟んだ後、色々と雑談なんかをしながらゆったりと、ゆっくりと、冷たくて気持ちのいい雪の絨毯の上、大きな大きな木の下で過ごしたのだった。
おしまい。
とまぁ、今の現状を言うならばそんな感じだ。
ちなみに今はその最後の、大きな木の下でゆったりしているところだ。平和すぎで本当に気持ちが清々しいよ。
僕は大きく姿を戻した藍月を枕代わりにして横になりながら、スマホで本を読んでいた。
そろそろ辺りも暗くなってきた頃だ。僕の体内時計も午後四時を示しており、気温も一段と低くなったようにも思える。
───そろそろ帰るべきかな......?
僕はそう考え、枕にしていた藍月から体を離そうとするが、馬は人の心理を敏感に察すると言われている。藍月も僕の心情を察したのか、立ち上がろうとしていた僕へとその白い体を寄せてくる───こんなに体は大きくとも、まだ藍月は一歳にも満たないのだ。初めて会話の出来た僕との楽しい時間を終わらせたくないというのも、ある意味当然なのだろう。
僕はぽんぽんと藍月の首を撫でて再び藍月の身体へと体重をかけると、彼女は嬉げに喉を鳴らした。
『ねぇ、あるじ?』
突然かけられたその言葉の裏に、隠しきれない真面目さを感じた僕は、少しだけ気持ちを切り替えて「なんだい」と返事をする。
そうして藍月から告げられたのは彼女の生まれについての事だった。
『あたし、実はお父さんとお母さんのこと、知らなくてね。気付いたら一人ぼっちだったのだ。そうして気付いたら伽月のお母さんに拾われて、あるじと出会ったのだ。.........あの時はあるじのこと攻撃してごめんなのだ......』
バハムートは他のペガサスから子供を奪ってくるような奴じゃないだろうし、僕もなんとなくそんな気はしてたが......、改めて藍月本人の口からそう告げられると、少し思うところがある───彼女の両親のこととか、一人ぼっちだった藍月の気持ちとか。
そのせいか、僕が彼女へと返す声は、いつもより幾分か明るかったような気がする。
「そんな昔のこと気にするなよ。そもそも僕は無傷でお前のこと倒したし。攻撃したこと謝りたいなら僕に一撃でも致命傷を与えられるくらい強くなってからにするんだな」
『むぅぅぅっ、あるじはいじわるなのだっ!』
「何を今更そんなこと言ってんだ。僕が優しかったことなんて一度でもあったか?」
『あるじはツンデレなのだ。ツンツンしてるけど結構こっちに気を使ってくれてるのだ』
───誰だよ藍月にまでツンデレを教えたやつ。今度こそ僕じゃないからな?
僕は「うっせ」と言って軽く藍月の胴体を叩くと、よっこらせっと立ち上がる。
今回は藍月も我が儘言うこと無く立ち上がり、僕を乗せるべくその場で待ってくれている。
僕は空中で二弾ジャンプをかまして素の大きさの藍月へと乗り移ると、ぽんと首筋を叩いて......、一応、今日のお礼を言っといた。
「まぁ......、今日は楽しかったぞ。僕も早くお前とお話ししたいから、なるだけ早めに念話を使えるだけの頭脳を手に入れてくれよ」
───流石に一回一回輝夜からこの指輪を借りるわけにもいかないからな。とそんな事を思いながらそういった僕ではあったが、
......残念ながら、帰ってきたのは僕のド肝を抜くような衝撃発言だった。
『ん? あたしは念話を使えるだけの頭脳はあるのだ。問題は念話のスキルが無いだけなのだ』
.........あれっ?
「おいちょっと待て藍月。お前、僕のスキル共有できるんだぞ? それで念話を共有すればもう使えるんじゃないか?」
『.........あっ、ほんとうなのだ! あるじあったまいーなのだっ!』
「.........」
僕は先程までのなんだかいい感じの雰囲気などもうすっかり霧散してしまった頭の中で、最初に思った『マトモな』という言葉を訂正せねばならなくなった。
「はぁ......、お前はこのパーティ内で一番のお馬鹿さんだよ」
───馬だけに。
もちろん最後に付け足したその言葉が、正しく藍月に伝わることは無く、結局はこの娘はお馬鹿さんなのだと再確認する結果に終わった。
藍月が念話使えるなら......、もしかして伽月も同じ勘違いしちゃってたりして。
そんな一抹の不安を覚えながら、僕は藍月を走らせて街へと帰るのだった。
初デートは藍月でした!
覚えてるでしょうか藍月、あのペガサスです、ビックリするほど影が薄いですが。
ちなみに、何故約束もしていないのに藍月がデートしてるのかと聞かれれば、まぁものすごく駄々こねたからです。
さて、次回は誰とのデートになるのでしょうか?
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