飛行訓練。
殆どの生徒が心待ちにしていた授業が今日の午後から始まるという中、楽しみでそわそわしたり、緊張でぴりぴりしたりしている者とで入り乱れていた。
ハリーも楽しみにはして居たが、スリザリンとの合同授業という事で、純粋に喜べないもだもだとした気分を抱えていた。
今のところ、好感度がマイナス方向へダドリー以上に降り切れているマルフォイと飛行訓練を受けなればいけないという事と、同じマグルの学校に居た飛ぶことに関しては同じくらい初めてのアルフレッドも一緒という事で、どっち付かずに成っている。
そして件のアルフレッドは、飛行訓練開始のお知らせが張り出されてから、物凄く険しい顔をしている。
「高い所駄目だっけ?」
今にも倒れないか心配になるような顔色で、例の如く今朝はグリフィンドールの方でアリアナと並んでいる友人へ問いかける。
「転落する事に、いい思い出がないだけです……」
確かに落ちたら痛いだろうが、彼が大怪我をしたという記憶は無かった。転校してくる前に何かあったのだろうか?と考える。
学校で行われた大抵の運動をそつなくこなしている印象があるせいで、物凄く意外な気がする。
そして条件は同じな筈なのに、ちっとも不安そうではないアリアナに関して不思議に思わなかった。なんだか彼女は好奇心が全てを上回っている気がするのだ。摩訶不思議な言動に、実は元々飛べると聞いても驚かない自信がある。
「そもそも人間は飛ぶ様には出来ていないんです。鳥が骨を空洞化し胸筋を発達させ常時排泄してようやく飛んでいるのに、何故箒などという器物で浮遊するんですか……どういう事ですか……狩人は飛ぶようには出来ていないんですよ……」
朝食を前に、まるで呪詛のように魔法族の常識に疑問を唱えている。
書籍を読み漁り飛行のコツを喋りまくるハーマイオニーや、その言葉にかじりつく様に耳を傾けているネビルまで、アルフレッドの不安が伝播した様に一層緊張を強めた。
マグル育ちへのテロ染みたアルフレッドの飛行術に対する呪詛や、ネビルの『思い出し玉』に関する諍いが有ったが、とうとう飛行訓練の時間がやって来た。
きりきりとして、鷹のような黄色の目で鋭く生徒を見渡した先生の指示通り、皆いっせいに『上がれ』と叫ぶ。
ハリーに割り振られたオンボロの箒は一声で、待って居ましたとばかりにしゅばりと手の中に飛び込んできた。
辺りを見回すと、あれだけコツを語って居たハーマイオニーの箒はちょっと転げただけだったし、アリアナの箒は彼女と同じような、どこかぼんやりとした動きでゆったりと浮き上がる。
アルフレッドの方は、口では上がれと言いながら、どう見ても上がったら圧し折る、とでもいう圧がある。それが箒にも伝わって居るのか、息を潜めるように身動き一つしない。心なしかぎゅっと枝を縮こまらせている。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。二メートルぐらい浮上してそれから少し前かがみに成って直ぐに降りてきてください。笛をふいたらですよ」
生徒の箒の握り方や姿勢をぐるりと直して回った後に、実際に『飛ぶ』という段になる。
一、二の……と笛を吹く前に一人、ネビルだけが勢いよく地面を蹴り飛び立ってしまう。
「戻ってきなさい!」
先生が声を張るが、そんなもの出来たらとっくにやっているのだろう。どうする事も出来ずにぐんぐん昇っていく。
そのまま、もうこれ以上耐えられないとばかりにぐらりと体勢を崩して箒から滑り落ちる。
そして次の瞬間ゴッと、鈍くくぐもった音と、パキンッという乾いて良く響く不穏な音にひっと目を逸らす生徒が疎らにおり、一部始終を目撃していた生徒には、箒から真っ逆さまに落下するネビルを受けとめようと(魔法使いの子供達から見たら驚く事に、単純に落下地点へ走り込むという方法で)したアルフレッドの額を蹴りつける事で、若干の減速を行いながらながらもどさりと芝の上に転がるに至る様子を観察した。
マダム・フーチはぱたりと倒れ伏して呻いてるネビルへ近寄りその様態を観察する。
「足首に罅が入っているかもしれないわ」
そしてそう結論づけた。
尻もちをつき、少しだけ驚いた顔をしたアルフレッドは既に立ち上がって居るが、彼が何か行動を起こす前に素早くアリアナが駆け寄っていく。
「あなたは頭大丈夫?」
純粋に落下してくる人間の勢いの付いた蹴りを食らって、大丈夫かという問いなのだろうが、数人が吹き出しそうになる。が、すぐに問われたアルフレッドの額を盛大に血で汚して居れば出かかった笑いを飲み込むしかない。
勝手に走り込んで来たのは彼の方だとは言え、蹴りつけてしまったネビルはその流血により一層顔を青くした。
「大丈夫です。衝撃で皮膚が切れただけです。輸血も不要な程度ですよ」
先生よりも素早く駆け寄って、ぎゅっと額の傷を抑えるアリアナへ向けて答える。
「……目を瞑って。血が『目』に入るわ」
流血沙汰を起している当人よりも、深刻そうな表情でアリアナが告げる。妙な緊迫感がそのこにあった。平気ですよ、とアルフレッドにも何故そんなに構えているのか分からないようだった。
「私がこの子達を医務室に連れて行きますから。その間誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いておくように」
片足を着けないままに、痛みと不安で涙で顔をくしゃくしゃにしたネビルを抱える様に支えながら先生が一層厳しい声で告げる。
それからちらりとハントきょうだいへ視線を向ける。一瞬何か戸惑った表情をしてから二人共へ声を掛けた。
「アルフレッド、歩けますか?……アリアナも、一緒に来てください」
その指名に、皆首を傾げる。ハントの双子が、寮を跨いで常に一緒に居るのは周知だが、なぜここで教師まで一緒にしようとするのだろうと。
はい。と常と変わらない機敏さで返事をし、アルフレッドはきびきびと歩き出す。無言でアリアナも付き従い、先生共々その場を去ってしまった。
辿り着いた医務室で、そこでの絶対的な存在である校医のマダム・ポンフリーにてきぱきと治療を施されながら、一緒にやって来た双子へ不安そうに視線を向けた。
確かに足がトンでもなく居たくて、じわりと涙が滲むがあんなに血まみれになっている人間を後回しにして良いのかという気持ちが圧迫してくる。
しかしポンフリーは手を止めないままに、医務室に着くまでに顔面血だらけに成っていたアルフレッドへ納得いかなそうに問いかけをするだけだ。
「それで、本当にあなた達の治療は行わない方がいいのね?」
生徒の怪我の手当てができない事に疑問を抱いているようだった。
「先生達にどう伝わって居るのか分からないんですけど、わたし達の血に触れないでもらいたいんです」
ぎゅっと止血をする様に押さえて、血だらけになった手を放しアリアナはきょうだいの傷の具合を確かめる様に覗き、大丈夫そうね。と頷き、アルフレッドも同意する。
「そもそも、もう、塞がりました。汚れを落とす物を頂けますか?」
不思議な事に清潔な布で拭い去った後は、既に傷が無くなっていた。
てきぱきと熟練の医療者の様な手つきできょうだいの額を拭い、血で『汚染』された物をひとまとめにしていくアリアナや、あんなに血が出ていたのに何事も無かったような顔をするアルフレッドに呆気に取られる。
「ええ、あの、本当に何とも無いので気にしないでください。むしろ私が出しゃばったせいで、貴方が重症になった可能性もあるので……申し訳ありません」
驚いた表情のネビルに、アルフレッドが申し訳なさそうに眉をハの字にして謝罪する。
まさか蹴った方の骨が砕けるなんて、頭の固さが物理的に表れてるのかしらね、なんて笑いながら双子の片方も怒ってはいないようで、安堵した。
「う、ううん!その……助けようとしてくれてありがとう。でも、何で助けてくれたの?僕、こんなだけど一応グリフィンドール生だよ?」
良くアリアナと一緒に並んで座って、ハリーやロンとも会話しているのは目撃して居たが、背も高くはきはきと喋り、上級生にも毅然と発言する様子に(それと、やはりスリザリン寮というのがあり)何だか関わるのが、漠然と怖いと思って居た相手の酷く殊勝な態度に逆に狼狽える。
「……いえ、咄嗟に動けるのが私だけかと思ったので動いたのですが……、『人間』は別段恨んで居ない相手で、手に負える程度でしたら傷病から守りたいと思いますよね?勿論怨敵なら見殺しにする以前に、隙があれば仕留めますが」
当たり前の事とでもいう様にきょとんとした後、何か間違えただろうかと首を傾げる。
「改めた方が良いでしょうか?」
もの凄く真面目な顔で尋ねられ、慌てて首を振る。
「そのままの方が、ぜんぜん良いよ!でもその、後半のは怖いよ……」
その言葉でも若干の不安が残ったのか、アリアナの方を見る。
「それで間違って無いと思うわよ。父さんが、そう作ったままを信じてればいいの」
先程からちょっと二人だけ(と一部ポンフリーにもだが)が分かる話題が混じりすっきりとしないが、人と話して居ると何だかほっとして落ち着いて来る気がした。ひょっとしたら、治療の影響もあるのかもしれないが。
何だかぼうっと、ほわほわと甘く微睡むような気さえしてくる。
「ねえあなた。ひょっとしてあなたも血が濃い人かしら?……先生に言って、これは全部焼却させてもらいましょうか。あまり『外』に持ち出されたくないし」
ふわふわと眠く成って来て、うーん、とか、返答に成らない言葉を呟きながらそのままベッドに蕩けるように横に成る中、双子は一塊に成っている血で汚れた物を見下ろしている。
「そうですね。手早く済ませて、授業に戻るべきでしょう。欠席扱いになってしまう」
頷き合い、直ぐに難しい顔をして双子を見詰めるポンフリーへ向き直った。
もうすぐ真夜中という時刻、約束通りに決闘へ赴こうとしたハリーとロンは、予期せず締め出されたが為について来たハーマイオニーと、ピリピリした空気での行軍中合言葉を忘れてしまい、それなりの時間寮に戻れずに、その場で寝ていたネビルまで一緒に行く流れに成っていた。
これから行くべき場所があるのだと、最初はそこで別れようとしたのだが、血みどろ男爵や、見た事の無い赤いドレスのゴーストが行き来するこの場で一人なんて、恐ろしいのだと震えて訴えるのだ。
「それはゴーストじゃなくて、多分わたしよ」
背後から聞こえた声にひゅんと心臓が跳ねて、思わず叫びを上げそうになった。
何の存在感も無かった筈なのに、急にそこに降ってわいた感じに人の気配が現れたのだ。
「アリアナ!?なんであなたまで、こんな夜中に出歩いてるの!?」
突然にかけられた声の正体にいち早く気づいたのはハーマイオニーで、聞こえた名前で残りの男子三人も、落ち着いてその姿を見た。
お姫様のドレスだと言われても信じそう白いネグリジェに、グリフィンドールの赤より更に深い緋色のショールを羽織って居る。子供用ではないのか、随分と布面積を余らせて、それが緋色のドレスに見えたのかもしれない。
夜闇の中で、何とも言えない、子供が見るべきじゃないような、そんな美しさを待ったアリアナが蠱惑的な笑みを向けている。
この中では一番付き合いの長い筈のハリーも久しぶりに、ドキリとしたし、中々の『やんちゃ』さに慣れて来たロンも、そして当然のようにネビルも、夜の中でも分かる程に顔が赤くなる。
「夢遊病みたいなものだから、仕方ないのよ。ずっと夢の中で動いて居たから、癖なの。夢を見ないから、眠らないの。でもそうね、もう戻るわ」
三人の呆けた表情には、なんのアクションもなく先程からぷりぷりとしているハーマイオニーへ顔を向け事情を告げる。
相変わらずの何処か不思議な発言で、三人ははっと我に返った。
「夢遊病なの?医務室の先生に相談してみるといいかも。魔法界での方法なら、治す方法があるかもしれないし、ああ、それから残念だけど、今は寮に戻れないわ。『太った婦人』が出かけてしまっているのよ」
アリアナの何らかの言葉遊びの様な部分はおいて、理解出来た部分にのみ返答をする。
「あら、そうなの?ところで、ハーマイオニーちゃん達は、大勢でなにしてるの?」
「『ハーマイオニーちゃん』!?」
なんとも耳馴染みの無い、フレンドリーな呼びかけにロンが素っ頓狂な声を上げ、慌てて口を塞ぐ。
だが別に、アリアナが彼女と特別親しいと言う訳ではないのかも知れない。アリアナは割と、誰に対しても(それこそスリザリンの連中にだって、相手の反応お構いなしに親しく呼びかける)そんな感じなのだ。
「これからマルフォイと決闘なんだ。そっちじゃ聞いてないの?」
決意に満ちた硬い声で告げるハリーに、うーん、とまるで都合が悪い大人が誤魔化す時の笑みを浮かべてアリアナは首を傾げた。
「わたしは聞いてないけど……それ、アルフレッドに伝わってたりするのかしら」
「君の兄さんが何か関係あるの?」
「弟よ」
散々ハーマイオニーに反発された後に、アリアナまで行くべきで無い何て言うのかと思い、若干キツい語調でロンが尋ねるが、間髪入れずにいつもの反論が飛んでくるだけで、止めようという意図はないようだった。
「あの子頑固でしょう?もしバレたら、ドラコくん、寮を出て来れないんじゃないかしら……夜間にうろついちゃいけない『決まり』なら」
そんなの当たり前、その通りだとハーマイオニーは頷く。
「一応確認してみる?」
確認?とハリーは首を傾げた。
「ねえ、それも良いけど、動きながらしてくれない?じっとしてたら見つかっちゃうかも」
ひょっとしたら、もう寝てるかも知れないけれど、と言いながらアリアナは小さな紙片を取り出し、その場で何かを書付る。
一体何をするんだろう?と見て居る前で、彼女は屈み込み床すれすれ辺りに紙を差し出す。
すると、ふわりと蒼白く鈍い光が小さく散ったかと思うと紙は消えていた。
そのまま、アリアナまで一緒に着いて来る事になってしまった。
五人なんて大人数で、いつ見つかるかとはらはらしながら着いたトロフィー室は、無人でしんと静まり返っていた。
「遅いな……たぶん怖気づいたんだよ。それか、君の『弟』にとっちめられてるか」
じっと息を殺して待ってみてもマルフォイもクラップも姿を現さない。先日のかなりアグレッシブな発言を思い浮かべながら、殊更弟いう言葉を強調しながらロンが囁く。
「どうかしら。返事が来ないから、アルフレッドは寝てるのかも。そうすると、ロンくんの言う通り及び腰に成ったか、道中誰かに見つかったか、現在進行形でアルフレッドに捕まってるか、そもそも……あら?」
アリアナは決闘そのものの行方に興味は無い様で、いつものぼんやりとした表情で起こり得そうな事を羅列する途中で、何かに気づいたような声を上げた。
それに一拍遅れて、隣の部屋から物音がする。
「いい子だ。しっかり嗅ぐんだぞ。隅の方にひそんでいるかもしれないからな」
そして続いて聞こえた声に四人は跳び上がった。フィルチがミセス・ノリスと共に自分達を探して居るのだ。
それからはもう、大混乱だった。
最初はひっそりとやり過ごそうとした筈なのに、緊張感に耐えられなくなったネビルが悲鳴を上げ、そのまま躓き、先行する人間を巻き込み四人で盛大に辺りの物まで押し倒して転げた。
夜に良く響く騒音に、隠密を諦め一斉に駆けだした。
もうどこを走って居るのかも分からないまま、ただその場から離れる事ばかりを考えて、無茶苦茶に全力で走り抜けた。
そうしてフィルチを巻いたかと、一息ついたのも束の間、何故今このタイミングでという最悪さで、ピーブズと出くわした。
普段は決して管理人の味方などではあり得ない癖に、心底誰かの嫌がる事をしたいようで、黙っていてという生徒四人の懇願も無視して、大声で叫んだのだ。
命からがら、正に危機一髪で鍵の掛かった扉の先へ逃げ込んだ。ようやく危機を脱したと思ったのは間違いで、その日最大のピンチは逃げ込んだ扉先に蟠っていた。
怪物としか言いようのないものがそこに居た。
通路いっぱいいっぱいの真っ黒な巨体の犬。生臭いような、獣特有の臭い。大きな体躯に見合った太い足には、厳つい爪が並んでいる。三つの首に、三組の目玉がぎろりと飛び込んできた四人を捕えた。当然の様に、三つある大きな顎が、がばりと開き、黄ばんだ恐ろしい牙が迫る瞬間に、弾かれた様に皆悲鳴を上げて飛び出す以外の選択は無かった。ばたん、と勢いよく飛び出した勢いのまま背で扉を閉めて、振り返る事もなく四人は再び全力疾走した。
「えっ、アリアナは!?」
ほうほうの体でグリフィンドール塔まで駆け戻った所で、いつの間にか四人しか居ない事に気づいてハリーは思わず声を上げる。
「まさかあの廊下に置いて来た訳じゃない、よね……?」
ネビルの言葉にその場の全員の背に、ぞっとした物を走る。
「呼んだ?」
一瞬心臓が潰れそうな怖気を感じたが、すぐに当人から言葉がかけられた。皆ほっと息を吐き出すと同時に、一体いつの間に?という驚き増す。
婦人の絵画を潜った瞬間に、一人足りないと焦った筈なのに、何故か既に談話室のソファに腰かけ、どうしたの?とでもいうように四人を見詰めている。
「アリアナも僕たちと一緒にトロフィー室に行ったよね?」
まさか外で出会ったのは夢なんじゃないかと疑う様な姿勢でハリーが尋ねる。
「ええ。一緒に行ったし、管理人さんから逃げる時も居たし、三頭の獣も見たわ。使者が灯りを点してくれた後で、本当に良かった。うっかり明日の授業を半日欠席して、弟に煩く言われるところだったもの」
どういう事?と首を傾げる面々に、やんわり笑って見せるだけだ。
「まあ、全員無事で良かったよ。まったく。学校にあんな怪物を閉じ込めておくなんて、どうかしてるよ」
あんまりにもいつも通りのアリアナにロンも調子を取り戻しつつある。
「あなたたちどこに目をつけてるの?あの犬が何の上に立ってたか、見なかったの?」
ついでにハーマイオニーも調子を取り戻したようで、不機嫌にとげとげしい声で言う。
「頭を見るので精いっぱいだったよ。なんたって、三つもあるんだから」
「仕掛け扉の上に立ってたのよ。何かを守ってるに違いないわ」
にこにこと朗らかに二人の成り行きを見ていたアリアナが、その言葉に少し驚いた表情を作って、何かを考える様にする。
「あなた達、さぞかしご満足でしょうよ。もしかしたらみんな殺されてたかもしれないのに」
何か思案気にしていたアリアナが面白い冗談でも聞いた様にくすっと少し笑った。小さく一人だけで済んだわ、と呟いたが不機嫌の頂点なハーマイオニーの声で誰にも聞こえなかった。
「もっと悪ければ退学に成ってかもしれないのよ」
言いたい事を言い切ったのか、ふぅと一息つく。
「では、みなさん。お差し支えなければ休ませていただくわ」
慇懃無礼な挨拶を残し、彼女はくるりと向きを変え女子寮へ向かって行く。返答は望めないであろうに、律義におやすみなさい、と声を掛けたアリアナは寝室へ向かう素振りを見せず、完全に火が落ちた談話室でじっと座り、まだ何かを考えている様子だった。
それはハリーも同じで、ここ最近の断片が繋がり、一つだけだが答えが分かった気がした。
校内で初の YOU DIED をキメたアリアナちゃん。
元々狩りはアルフレッドくんばかりが行って居たので、他の四人が慌てて扉閉めた向こうで物凄く普通に死んでます。
あんまり荒っぽいことは好きではありません。