狩人様の英国魔法界観察録   作:黒雪空

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組み分け帽子とアリアナちゃんの楽しいお喋り部分は次回に入れると思います。5000字越えちゃいました…。



『考え方』を読む帽子

正体の分からない感覚に心臓が妙な動きをする為、周りの子がわくわくとした空気を纏うのと対象に、沈んだ表情になってしまう。

一緒のボートに乗った、いかにも育ちの良い(アルフレッドや妹も、深く関わらなかった大人には品の良い子と言われたがそれと違う本物の)お嬢さんという風のた少女が船に酔ったのかとっ尋ねて来た位には、表情が硬くなっていた。

 

あまり歓迎できない緊張感を持ったまま、ボートは船酔い等起こすはずも無いほど静かに進み城のそびえる足元まで辿り着く。崖の様に切り立っており、強引に襲撃するのは難しそうな立地だと、アルフレッドは物騒な見解を示す。

 

蔦のカーテンを越えた先には自然とそうなったのか、人工的にくりぬいたのかトンネルになって居てそこを進めば、丁度城の真下だろうか。

がたがたと足場の悪い岩場の船着き場に立ちながら、アルフレッドは先ほど心配そうな顔をした女の子に手を貸す。毎年小さな子供が大勢使うのだから舗装すればいいのにと考えないでもない。

アリアナは狩人のような動きは出来ないが(やっている所を見た事ないだけで、父のこどもなのだから出来る可能性が高い)危なげなく、ボートから降り立つ。

ちゃんと目を開けては居るが、アルフレッドが手を貸した女の子をじっと見ている。確かに可愛らしい子ではあるが、何か気に成った事でもあるのだろうか?

だいたいの場合妹の思考回路は理解できないので、考えても仕方がない。

 

「さっきの子がどうかしましたか?」

 

「いいえ、別に。多分わたしたちには関係ない事だからいいの」

 

理解は出来ないが、妹が余計な事をしそうな空気が無いかは確認しておく。ただアリアナ自身にも気に成った事の正体は分からないようで『多分』と歯切れが悪い。

 

「同級生に変な事しないでくださいね」

 

もちろんよ、なんて月のように静かに綺麗に笑って見せるがあまり信用ならない。

 

今度は遅れてしまわないように、先に着いた子達と距離を詰める。

 

「みんな、いるか?おまえさん、ヒキガエルはなくしてないな?」

 

大きな扉の前に集まった子供たちを見渡してから、直ぐ傍へ視線を向けてハグリッドが確認する。

 

どうやら汽車の中で捜索が行われていたヒキガエルは見つかったらしい。隣で何か思い至ったらしき妹が、虚空をまさぐる動作をしている。恐らくあのよく分からない生き物がちゃんと居るか確認でもしているのだろう。

 

できればそれらを逃がす様な事はしないでほしい、とアルフレッドが祈りを込めていると目前の大きな扉が開く。

きん、とした空気を纏った厳格そうな魔女が出迎える。

真面目が形を持ったような『厳しい先生』の具現化染みた人物に、皆の緊張が高まる。

 

「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」

 

先導して来たハグリッドの声も微妙に固い。

アルフレッド的には『しっかり』している人間の方が好きなのだが…大概の子供はそうではないらしい。

 

「ご苦労様、ハグリット。ここからは私が預かりましょう」

 

ここからは彼女の仕事らしく、そのまま正面に大理石の階段が伸びるホールへと先導される。ぐっと高い天井を思わず見上げる。何故か父も時々上を見上げている。

まるで聖堂の(預けられた孤児院の教会ではなく、悪夢の中の方の)ようだ。そう思ったが、あそことは違い明るく温かい。壁に取り付けられた松明のお陰で物理的に温かいのかもしれない。

 

自分達のルーツには一切関わりの無い場所なのだと思うと、心臓の動きが楽になった気がした。

 

既に在校生が集まって居るのか、仔細の分からない漠然としたざわめきが右手側から聞こえるが、そちらの入り口には向かわずに控室なのか、小さな空き室へ新入生が集められる。

少々窮屈で、出来れば何らかの式典でも始まり自由に動けなくなる前に、アリアナとハリーを引き合わせられればと思っていたアルフレッドはちょっとだけ眉を潜めた。物理的に好き勝手に動いては迷惑に成りそうな環境だ。

 

「ホグワーツ入学おめでとう」

 

すっと背筋を伸ばし、先導して居た人物がしゃんとした姿勢のままにくるりと振り返り言う。祝辞に対する反射で礼を返そうとして、近くに立った子にぶつかってしまい、慌てて姿勢を正した。

アリアナがくすりと小さく笑う。

きょうだいの些細動きなどは、次に何が起きるのかと不安げに視線を彷徨わせるその他の大勢の中に紛れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、寮生が学校での皆さんの家族のようなものです。教室では寮生と一緒に勉強し、寝るのも寮、そして自由時間の多くは寮の談話室で過ごすことになるでしょう」

 

規律に厳しそうな、女の先生ははきはきと続ける。

狭い中で隣の子を小突く形になってしまった弟は、先生に負けない位に背筋を伸ばして話を聞いて居る。

 

それにしても、ホグワーツはハウス制度があったのか。世間の学校では兄弟姉妹は同じ寮に入れられる事もあるがここはどうなのだろう。

 

「寮は四つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンです。それぞれ輝かしい歴史があって、偉大な魔女や魔法使いを輩出してきました。ホグワーツにいる間、皆さんの良い行いは寮の得点になりますし、反対に規則に違反した時は減点されます。学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなるよう望みます」

 

くすりと、アルフレッドの咄嗟の行動に対してとは温度の異なる笑みが浮かぶ。

きっと当人達には重大な事なのかも知れないが、その根源を父の為にという一点に置いて居る彼女には、人に混ざって属するものには何ら拘りもない。

 

「まもなく全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、できるだけ身なりを整えておきなさい」

 

『儀式』という言葉に、新入生のざわつきが一層まし、全体をぐるりと見渡した先生が退出していくと同時に、声を絞りながらも会話を交わしはじめる。

皆、何をするか知らないのだろうか?義務として魔法使いの子供が学校に通うなら、その子の親たちは話さないのだろうか?

あるいは、大人が子供によくやる、内緒のお楽しみだろうか?

少なくとも『上層の』孤児院よりは平和的な選別ではないだろうか。

 

なんてアリアナの好奇心や知識欲で動く部分が、ぼんやり思考しいていると悲鳴が上がる。小さく跳び上がる子もいる。

 

なにかしら?と様子を伺う前に、素早くアルフレッドの背に隠されてしまう。

 

「大丈夫みたい。武器も握っていないし、普通に会話してるわ」

 

背の高い弟の後ろから、背伸びをして様子を伺う。何が居るのかを確認して、いつでも狩道具を引っ張り出せるように身構えるアルフレッドに声を掛ける。

 

「そう、ですね…」

 

ふよふよと中空を漂い壁を抜けて現れたのは、曇りガラスのような風合いの、悪霊……に良く似た存在だ。

カインハーストのお城のあれらは、啜り泣き叫び声を上げながら短刀を振りかっぶって来る(と父が言っていた。廃城の中は悪夢の中程入り浸っては居ない)のに対して、今現れた二十人程の集団はお互いに会話に夢中で此方に意識を向ない。二人ほどが、ちょっと生徒へ声を掛けて過ぎて行っただけだ。

 

アルフレッドもその様子を見て、驚いた顔のままに警戒を解く。

 

「組み分け儀式がまもなく始まります」

 

良く通る声に、皆はっとしたように静かになる。

 

「さあ、一列になって。ついてきてください」

 

今度はお喋りなくそそくさと先生の後を追い始める。一度あの高い天井の玄関ホールへ戻り、大勢の気配のした扉を潜る。

その先の大広間には、声と気配の通りに沢山の生徒が居た。

四つの長机に別れている生徒を見ると、寮ごとなのだろう。前方の上座に当る場所席は先生たちだろうか。

 

随分と明るいのは、沢山の蝋燭が宙に浮いて居るお陰だ。実験棟もこれくらい明るければ良いのに。『なに』をするにも、手元が暗いのはとても不便なのだ。

せっかくだから、わたしもこれが出来たらいいな、とアリアナは思った。

 

在校生も教師も、新しい一年生へ視線を向けるがアリアナは別に興味が無かったので蝋燭をなぞるように視線を上げ、大広間の天井に夜空を見た。

 

「……偽物の星なのね」

 

「本当の空に見えるように魔法をかけているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」

 

アリアナが少しがっかりしながら呟くのとほとんど同時に、女の子の声がした。

どうせ魔法をかけるなら、天井を取り払って雨風を防ぐ仕様してくくれれば良かったのに。理由は分からないが、好奇心旺盛な部分は星を眺める事を好む。

とことん周囲を視界から外して居れば、歌声が聞こえる。

一体だれが、と視線を向ければ生徒と先生たちの視線に挟まれた新入生の前に置かれた古い帽子(古い番人達の物に似た尖り帽子だ)が破れ目を口のように動かして歌ってる。

 

自称、賢い帽子なのだという。頭に隠れたものを見抜くのだそうだ。

帽子の内側に瞳があるのだろうか。

 

「あなたはグリフィンドールかしら」

 

騎士道を尊ぶ、勇気ある者の寮。帽子の紡ぐ言葉に、隣に並んだ弟を見上げて小さく呟く。途中からの編入や、施設暮らしという事象を引いて、顔だけは女の子達に人気だった。遠目に見ている分には、穏やかな少年なので物語の騎士にでも(立ち居振る舞いのせいか、王子様よりは騎士との声があった)見えていたのだろう。

 

「騎士に成りたいんでしょう?」

 

アリアナの笑みに、覗き込まれたアルフレッドの顔が少し歪む。

 

「私の目指すものは『騎士道』からは遠いと思いますよ?…カインハーストの騎士という意味です。父さんや貴女や……、アンナリーゼ、様の為の」

 

無意識なのだろう、自分自身の首をぎりぎりと掴む弟の手をやんわりと引き剥がしてやる。当人は何故アリアナが突然手を握って来たのかと訝し気にしているが、アルフレッドの首元には指の痕がくっきりとついてしまっている。

 

握った手を放し、柔らかく微笑んだままに弟の襟元を直してやった所で、わっと拍手の音が響く。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子を被って椅子に座り、組み分けを受けてください」

 

緊張が満ちる場面でも、きびきびとした声と動作のままに長い巻紙を持って一歩前へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

淀みなく一年生が各寮へ振り分けられていく中、教師陣にすっと緊張が走る。

今年ホグワーツは不安要素を多々抱えているある。

先ず新入生に関してはハリー・ポッターの入学。今までマグルの中で過ごし自身について何も知らぬままに育った、知名度と功績ばかりが先行してしてしまった少年を取り巻く環境だ。こちらについては、不安というよりも(勿論生徒間で波乱は起こるだろうが)気を向けておかねばいけない事。

 

問題は、純粋な魔法族とは言い難い男女の双子だ。

 

義務としての入学ではなく、措置に近く、入学許可ではなく入学させる事を余儀なくされた存在。

現行魔法族と起源から異なる、別の魔法族の様な者達、と理解している。

大昔に、魔法界とマグル界を分離した時点で既に別の道を歩み、これまでも魔法族に発見されずに居た、最早別の種のように感じる子供達。

 

彼らの属するモノは内紛で最早滅んだも同然。教育する者が居なくなったいう。魔法族と同じ力(現代まで存在を隠し通した力量を鑑みて、それ以上かもしれない)を持った子供にソレを扱う術を教えないままに放っておくことは魔法界にとっても、決していい事では無いだろう。

 

校長、アルバス・ダンブルドアは彼らの『親』と対談し受け入れる事を承諾した。

 

「ハント・アルフレッド」

 

件の生徒の片割れが呼ばれる。

すっと背筋を伸ばし真っすぐに前を向いて歩む様子は、大人びた分類ではあるが別段他の子供と何ら差異は無いように見える。

座って尚行儀よく姿勢正しく座っている。

 

別段、振り分けられた寮の寮監が責任を全て負う訳ではないのだが、他の教師よりも接する事になる機会は増えるだろう。

数十秒程、沈黙の後他の生徒と何ら変わりなく組み分け帽子は叫ぶ。

 

「スリザリン!」

 

取り敢えずは、『普通の』魔法族の子供と同じに組み分け可能なのだとほっとする。ただしスリザリンの寮監であるセブルス・スネイプの表情が若干険しく(普段から仏頂面だが)なった。

 

何も知らない生徒たちは、当然の様に歓迎で迎え入れて、アルフレッド・ハントも柔和に笑み挨拶を交わしている。

 

「ハント・アリアナ」

 

一人が無事に組み分けられた安堵の中、もう片割れの名前が呼ばれる。

前者と同じく酷く落ち着いた態度で前へ出る。妙に艶のある所作でスツールに腰掛けた。緊張の欠片も見せずに美しく微笑む少女が帽子を被る。

 

しん、と帽子の宣言を待つが静寂だけが過ぎて行く。

一分を越え、小さなざわめきのままに五分が近くなる。先に寮の決まったハント少年が、心配そうな表情で姉だか妹を見詰めている。

 

五分が過ぎても、帽子は沈黙したまま。

起きえなくはないが、酷く珍しい事。五十年に一度程度起こるかどうかの事態。

少女の後ろ姿を見守る教師が少しばかり嫌な予感を覚える。彼らには見えないが、当人はそんな事態も物ともせずに、腰かけた時のままにっこりと楽しそうに微笑んでいる。

11歳の女の子が、自身の行く先も決まらない状態で衆目の前でじっと微笑んでいる姿に妙な寒気を感じる生徒も居た。

 

彼女の目の前辺りに座る生徒達の居心地が悪くなった頃に、漸く帽子が声を上げた。

 

「グリフィンドール!」

 

 

 




アルフレッドとアリアナの自分達に対する説明は狩人様の用意した『設定』を、『お友達に話すならここまでだよ』という範囲を各々かみ砕いて居ます。
狩人様が用意した便宜上の『本当の所』はダンブルドア→他教師陣に伝わって居ます。

トゥメル人とか遺跡とか血族とか医療教会とか青ざめた血とかの、ヤーナムを駆け回っていた狩人だった頃の狩人様が見つけた情報(人間の理解できる範疇)をそれっぽくこねくりまわした『設定』でしかありません。

狩人様の作った自分達の設定を捻じ込むと、個人の考察モドキまで羅列してしまうのですごくふわっとだけにさせて頂きます。

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