狩人様の英国魔法界観察録   作:黒雪空

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一話長くても4500字位で書いて、小刻みに投稿するのでかなり進むのが遅いですが、お付き合い頂ければ幸いです。

狩人様が魔法界に這い寄るナニカみたいになってしまった…。


少年の汽車の旅

既に紅の汽車の姿はなく、蒸気の名残の残るプラットホームは人影も疎らになっていた。ぽつぽつと残るのは、子供を送って来た親同士が話し込んで居るか、感慨深げに新入生の親が線路の向こうを眺めてるくらいだ。

 

「なるほど、なるほど、なるほど」

 

人間の疎らな中に、重い黒の外套を纏った幼児が腕を組み、愉快そうに頷いて居る。声だけは愉快そうなのに、その表情はぴくりとも動かない。無機物染みた目でぐるりと周囲に視線を巡らしている姿は、幼い容姿との落差に気味が悪い。

そもそも何時からその子供が居たのかは、誰も分からない。まるで地面からふうわりと沸き上がる様に現れたが、魔法使いも魔女も、誰一人その様子を見止めなかった。

 

そもそも気づかぬ間に勝手に点された『灯り』の存在も、そのささやかに灯る下に群がる使者達も魔法族の目には映らない。

というよりもヤーナムの血、もっと言えば獣性にのまれずその血の力のみを得た狩人にしか見えない。

 

その子が周囲を見渡し、声に出して頷くに至って数人がやっと気づく。どこの子だろう、と思考を巡らせ保護者を探す前に、気味の悪い幼児はその場の誰にも見えはしない『灯り』に手を翳すと同時に現れた時と同じにすっと消え失せてしまっていた。

 

 

 

 

 

何とか列車の中に駆け込みはしたが、双子のきょうだいがそのまま一緒に座れるような空きを見つけるのは大変そうだ。

見つかるかも分からない、二人分の席を一緒に探すよりそれぞれに別れての方がいい。そう言い別れた(決して弟扱いが恥ずかしかったのではない。決して)は良いが、今さらに成ってアリアナを一人でふらふらさせて良かったのか、不安になって来る。

だが妹の突飛な行動が不安だからと言って、何時までも通路をのったり背後を気にしながら進む訳にはいかない。

 

アルフレッドは自分が同年代の子に比べて大柄なのを理解して居る。荷物の分の嵩が無いにしても、何時までも通路に突っ立って居ては邪魔になるだろう。

妹が問題を起さない事を祈りながら、彼女とは逆に後ろの方の車両を目指す。

 

汽車の進行スピードが上がって来る。

一つのコンパートメントからそっくり同じ顔の男子二人が手を振って出て行く所だった。アルフレッドとアリアナも、似ていると称される事が多いがそれは髪や瞳の色の印象と、同じ歳のきょうだいという情報のせいだ。本物の双子というのは、あそこまで似るものなか、と妙な感動を覚えた。

 

「おお、ハリーあなたでしたか!……すいません」

 

彼らが過ぎ去って行ったコンパートメントを、何とはなしに確認し見知った顔を見つけ思わずノックも断りも忘れて踏み込んでしまい、あまりの子供っぽさに直ぐに声が萎む。

 

だが一月ぶりの友人の聞き取りやすい声に正直ハリーはほっとして居た。

同席しお互いの名前は知ったはいいが、興味が有るが当人を慮って敢えて極端に外される視線に気まずさを覚え、どう動くか思案中だった彼には助け船であったのだ。

 

「知り合い?」

 

話してみて実際に稲妻型の傷を見せてもらった後、不躾に何でもかんでも聞けるわけではない事情に、不自然に逸らした視線の戻し時を失っていた赤毛の少年にもありがたいものだった。

 

「うん。前の……マグルの学校の友達なんだ。アルフレッド・ハント、でいいんだよね?」

 

友人の紹介にしては、妙な言葉に成ってしまったが、同席するに至った完全な魔法界の子らしいロンも紹介する。

 

アルフレッドをロンに紹介するハリーは、どこかそわそわとして、何だか照れくさそうにしている。単純な話、彼ら双子しか友達らしい者が居なかったもので、誰かに友人を紹介するなんて機会がなかったのだ。

はじめまして、とかっちりした立ち居振る舞いに、ちょっと驚いた顔でアルフレッドの顔を見返しながらロン・ウィーズリーは握手に応じた。

 

「アルフレッドと呼んでください。同学年に同姓の妹が居ますので」

 

「じゃあ双子?僕の兄さん達にも、双子がいるよ。すれ違ったかもしれないけど」

 

アルフレッドが入って来たばかりの扉に視線を向けながらロンが言う。

そういえば、先ほどここを後にした上級生らしき男子の双子は彼と同じような赤毛だった。

 

「ああ、なるほど。私達はあまりに似てないので、見かけても分からないでしょうね」

 

当人の居ない所での、『妹』との紹介に口出しする事は厄介だと判断したハリーは今は、黙したままここに居ないアリアナを思い浮かべてみる。

綺麗な金髪に、淡く溶けそうな色の瞳とどことなく浮世離れした美しいきょうだい。

 

「僕は似てると思うけどな。凄く綺麗な女の子だし、すぐわかるよ」

 

顔というよりも、雰囲気がよく似ている。

へー、と同級生になる可愛い女の子に若干の興味を持ったようで、似てると言われた兄へ視線を向ける。

挨拶もすまし、ハリーの隣の空席へ腰を落ち着けたアルフレッドは、少年らしい期待を持ったロンの顔に何とも言えない表情しか出来ない。

 

「見た目に騙されないでください。彼女は突拍子もない事をしますよ」

 

期待をしてはいけない。と真顔で金言のごとく重々しく告げるアルフレッドに、ハリーは同意する事もハッキリ否定する事も出来なかった。

アリアナは確かに不思議な言動はするが、人に害の有る事(例えば何かに付けてちょっかい掛けて来るダドリーの取り巻きのような)はしない。無害では有るが、登下校の度にアルフレッドとはらはらさせられていた。

 

その結果、アルフレッドとハリーは並んでそっくり同じな変な顔で見返す事になり、一身に変な顔を向けられたロンは笑うのを堪える努力を強いられた。

何とか吹き出しそうなのを飲み込んで、英雄ハリー・ポッターと二人っきりの空間から、新入生男子三人という少しばかり気楽になった空間で声を発する。

 

「マグルの学校って事は、君はマグル産まれ?どんな暮らしなの?」

 

「教会運営の孤児院なので人間、マグルの一般的暮らしとは言い難いですよ」

 

とは言っても、アルフレッドからすれば、食べる、眠る、という行動が伴う『暮らし』を行うなら魔法族も非魔法族も同じだと思う。

思い返してみれば父のもとに帰ってからはたった一月と少し程しか立って居ないが、夢の中では食べる事も眠る事もしなかった。それに違和感は抱かなかった。むしろ十年の暮らしの方が既に遠い。こんな有様で、全寮制の学校で上手く人間らしく過ごせるだろうか。

 

そしてマグル産まれなのか、というのはどうとも言えない。彼ら魔法族から見れば自分達と違う存在で、マグルから見れば『普通の人』ではない。

便宜上の言い表し方は、父に教わった通りにアリアナと共有はしては居るが子供に話ていい内容か迷う。

 

血族全て、皆殺し。浅ましい穢れた血に、首を刎ねるなどと言う最低限の尊厳も必要ない。叩き潰し血肉をぶちまけ、轢殺で十分。

そう言ったものはレイティングがどうなるか、と考えたが品性の欠片もない医療教会の忌々しい処刑隊共を思い起こしたせいだろうか、時たま発生する息苦しさを感じてぐっと眉間に力を込めた。

 

ほんの僅かに険しい表情になったのを、正面に居たロンは聞いてはいけない内容だったかとこっそりと焦る。ほんの数分前にハリーの『ひどい家族』の話題がでたばかりなので仕方ない。

ただ真横に座っていたハリーはその表情変化は視野の外で、一月ほど気になって居た問いを漸く口にできた。

 

「漏れ鍋じゃあ聞けなかったけど、二人も本当は魔法使いだったの?」

 

それは今まさにアルフレッドがレイティング的な心配をしていた内容だ。

 

「ええ。元々こちらの魔法界から隔絶した場所で独自に研究をしていた血統だったみたいですが、その中での対立で…えー……血族皆殺しにされたので、一時的に避難させて居たのを『ケリ』が付いたので再び迎えられたという感じで…大丈夫ですか?」

 

ちなみに『ケリ』とは父がありとあらゆる全てを分け隔てなく狩り、上位者も狩り、自身がその新たな段階へ至ったという事だ。少々時系列は狂うが、全て嘘と言うわけでもない。

実際目にしては居ないが、排他的ヤーナムでは様々な立場の探究者達がそれぞれの見解のもと探究に勤しみ、派閥争いもしていた。

父は悪夢を狩り夢の主となったし、アルフレッドもアリアナも父が跪き与えられた、女王の血が混ざっている。

どちらかと言えば父の為に存在する、人形に近い被創造物だが人間的な解釈なら血の繋がった家族と言っても問題無いだろう。

 

何とか倫理的評価を下して来る『どこか』に引っ掛からないよう手短に話せた、と安堵したアルフレッドは青い顔をした二人を交互に見やり、駄目だったようだと悟る。

空気を変える為にも、こちらも気になって居た事を尋ねる。

 

「そんな事より」

 

「そんなこと!?」

 

殊更青い顔をしていたロンが驚愕の声を挟むが、アルフレッドは聞きたかった事を続ける。

 

「驚きましたよ。書籍や、新聞に一般常識のように友人の名前が出て居るんですから」

 

「ああ…うん、それね…」

 

ハリーは溜息に近い音で呟く。

最初から『友達』であったアルフレッドやアリアナには、全く身に覚えのない『英雄』なんて要素を知らないで欲しいという気持ちが有ったが、きっとその内耳に入るなら自分から、何をしたか、何が有ったか全く覚えて居ないし、同姓同名の別人の話なのではないかと未だに疑っている程だと伝える。

 

「だってこの間まで、何も知らなかったんだよ?自分が魔法使いだなんて夢にも思わなかったし、両親の事やヴォルデモートのこ…」

 

「『例のあの人』の名前を言った!」

 

ひゅっと息を飲んだ後に、突然ロンが声を上げる。

驚愕と称賛の入り混じった複雑な色を湛えた目でじっとハリーを見詰め、興奮に揺れるように続ける。

 

「君の口から『あの人』の名を…」

 

「待って、違うんだ。僕名前を口にして、勇敢な事をみせようとしたわけじゃないんだ。それがいけない事だってのも、知らなかったんだよ」

 

ね、僕何もしらないんだ、としゅんとして見せるハリーにロンも落ち着きを取り戻す。

一人事の成り行きを伺っていたアルフレッドは、そのやり取りになるほど、と一つ頷いた。

 

「どうりで、どの文面を見ても『例のあの人』表記で何て不正確なんだと不思議に思っていたんです。名前を口にするのも憚られるという風潮だったんですね」

 

完全にマグルの世界で(というか割と『酷い』連中ばかりの父の記憶を基準に)育ったアルフレッドの呑気な言いように純正魔法族のロンは若干引く。

 

「これっきりで今後は触れないようにするので、もう一度名前を聞いてもいいですか?…いえ、書いてもらえれば」

 

また魔法界について父に話せる事を見つけたアルフレッドは、『例のあの人』とやらの事を正確に知りたいと考えた。先ほどはロンの大声で完全に名前を聞き取れなかったのだ。

小さな手帳とペンを差し出されたハリーは困惑する。

 

「僕はハグリッドに聞いたんだけど、綴りは知らないって言って…」

 

はっと閃いたように、二人同時にロンを見た。

 

「えぇーっ!?」

 

何を言いたいのか察し、ロンは座席の背もたれにめり込むように今度は物理的に身を引いた。

だが今後魔法界でやっていかなければいけない二人の事を考え、ぐっと覚悟決めて、若干ミミズののたくったかの如きに文字に成りながらも、しっかり文字を書ききったロン・ウィーズリーは間違いなく『いいやつ』なのだろう。

 

 

 

 

 

 




ハリーポッターシリーズを読み終わったのはもう何年も前で、忘れている事も多そうなので引っ張りだしてきて読み返して居るのですが、死の呪文が緑色の閃光なのを、「これはAA…」と思ってしまいました。
ブラボでクロスを書いているのに…。

そりゃあ、AAぶっ放してら死にますわ。

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