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予定ではなかったのですが、溜まりに溜まったストック消費ということで。今日も二話投稿です。

第四章 王国編
第164話

「この度は、俺が立案した舞踏会兼食事会に参加してくれたこと、心から感謝する」



ステージに立ち、そう言って軽くお礼をするエルグリット。


───通常なら王が頭を下げるのはかなりのタブーだろうし、実際に貴族の中にも嫌な顔をしているものも数名いる。けれどそれこそが賢王と言われる所以でもあり、エルグリットが人気な理由でもある......らしい。



「舞踏会の後に、俺から皆へと話もあるのでな、是非楽しみにしておいて欲しい。それでは俺からの話は以上だ」



その"話"とやらにざわめく貴族達ではあったが、皆が皆期待に満ち溢れた顔をして部屋の中央へと躍り出る。


───だいたいこういう時に話されるのは、戦争とか、条約関連とか、はたまた婚約とか、そういう関連なのだろうが、きっと僕には関係の無いことだろう。



そう思った僕は再び皆に自由行動を許可して、僕は暁穂と料理を取りに行こうとする。





が、僕の隠れ蓑であった輝夜を手放してしまったのは僕にとって痛恨のミスだったようだ。




カツカツと、苛立ちを隠しもせぬその足音に僕はため息を吐いて、近寄ってくるそれ以上の速度で長机へと歩き出す。もちろん暁穂もそれに追随する。


それを見て悔しげな声を漏らす背後の人物は、僕に追いつかんばかりに尚一層ケイデンスをあげる───何だか自転車みたいだけれど、この場合のケイデンスは歩行率である。



と、そんなことをしている間にも僕は長机へとたどり着き、そこに控えていた侍女さんから料理を受け取ると、その長机を回り込んで立ち止まる。



ふと横を見れば、長机越しに荒い息を吐いてこちらを睨んでいるルネア様と、その後を苦笑いしながらついてきているギルバートとオリビアの姿があった。

───ちなみにアメリア様とエルグリット、メアリー様はステージ上でこちらを見つめている。おい笑ってんじゃないよエルグリット。




「よぉ、ギルバート、オリビア。さっきぶりー」


「あぁ、さっきぶりだな」


「私はお昼ぶりです」



────ッッ!?


そのオリビアのお淑やかな口調になお驚いた僕は、本当は別人なんじゃないだろうか、と心配そうに近づいてゆく。




が、それをよしとしない人物がいた。




僕がオリビアへと近づこうとした際に、僕らの間に不躾にも体を割り込ませてきた相手がいた。



───というか、第一王女のルネア様だった。



僕は怒りに燃えるその瞳から目を逸らして、はぁ、とため息をつくとわけがわからないと言ったふうにこう話しかけた。



「何ですか、ルネア様。僕なにかしましたっけ? あ、もしかして嫉妬ですか? 可愛いですねぇ......、という訳で僕はオリビアの方へ......」


「ち、ちち、ちょっと待ちなさい! し、しし、嫉妬だなんて無礼なのよ! そ、そう! わ、私はただ単にあなたが気に入らないだけなのよ!」


「なら話しかけなきゃいいじゃないですかぁ」


「うっ、くぅぅぅ......」



───完全論破。ちなみに二度目である。


もちろん一度目はいきなり僕の所有権をくれとか言われた時である。あの時も今回と同じように論破して走り去ったのだが......、どうやらまだこのお姫様は諦めていないようだ。なんだか地の果てまで追ってきそうで怖いな。つんつんデレデレしてて可愛いけど。



「ははは......、ルネアが完全に言い負けるところなんて珍しいね。それも王族以外に言い負かされるなんてギンが初めてなんじゃない?」


「うるさいなのよっ! ギルバートお兄様っ!」



これがツンだとすれば、



「ははっ、そんなに怒鳴ってたらギンにきらわれるかもしれないね?」


「えええっ!? そ、そそ、そんなのはどうでもいいのいいのよ.........、ち、因みに......、貴方は私みたいな女の子は嫌い......なの?」



これがデレであろう。


何この子ーっ、めっさ面白いんですけど。鳳凰院と同じ匂いがする───胸はないけど。




と言うわけで、僕はルネア様を無視してギルバートに話しかけることにした。



「それよりもギルバート、さっき言ってた話って何なんだ? 個人的にはこれ終わったら帰りたいんだけど......」



───何より、今も貴族達からの視線が痛いのだ。


ちらりと横目で確認してみれば、怒りやら嫉妬やら、更には憎しみといった感情も伺える。ここに長居すべきではないのは自明の理であろう。


そんなことを匂わせてギルバートにそう聞いてみるが、彼はそれには困惑気味に言葉を返してきた。



「いや、実は俺もさっき聞いたばかりなんだよ......。父上はだいたい何でも思いつきだから、多分今回も誰にも相談してない独断なんじゃないかな? ルネアとオリビアは何か知ってる?」


「ぐ、ぐすっ......、し、知らないのよっ!」


「私も知らないのです......、多分お兄様の想像通りなのではないのです?」



おいおい、思いつきで動いてるのかこの国。

思いつきで動いてるくせに賢王とか呼ばれてるエルグリットと、それを支えているアルフレッドや宰相さんって、もしかしてかなり凄い人なんじゃないだろうか? 特に後者の二人。








───と、そんなことを思ったその時だった。







「き、貴様ァァァァっっ!! 侯爵であるこの我に逆らうかぁぁぁっ!? 貴様のような愚民は大人しく我らに従っておれば良いのだッ!!」



そんな傲慢そうな声が室内な響き、先程までの騒がしかった室内から一瞬で音が消える。




唯一聞こえるのは、その傲慢そうな声の主の荒い鼻息と、僕がよく知る者の、悲鳴であった。





僕は嫌な想像をしてしまい、バッと振り向くが、やはり僕のその想像はは覆らない。







目の先には、彼女の腕を掴む馬鹿な貴族達と、それから逃げようとしている────恭香の姿がそこあった。








「.........あ?」





───僕の身体からどす黒い魔力が溢れ出したのは、丁度その時だった。





☆☆☆





僕の魔力が一気に解放され、この城中どころか、恐らくは城下町にすら届いているだろう。


───だが絶対に気絶などさせない。圧倒的威圧感と殺気は気絶する暇もなくその体に恐怖と絶望を植え付ける。正確には気絶してもすぐに起きる。寝ている暇など与えない。


けれどまぁ、僕にもまだ理性は残っている───現にこうして思考ができているわけだし。だから威圧を飛ばすのはこの城の中だけにしておこう。



僕の視界の先には組み伏せられたネイルと、その横で今正に誘拐されようとしていた恭香の姿が。


そして恐怖に顔を引き攣らせる糞虫が、......五匹。




「貴様ら......、覚悟はもちろん出来ているな?」




ここまでドスの効いた声が出せるのか、と自分で驚く。



まるで怒り狂った自分を、冷静な頭でもう一人の僕が操っているような、ゲームに近い現実味のない状況だ。全くもって意味がわからないし、理解もできない。


けれど、少なくとも今の状況には感謝しよう。





───でなければ、今この瞬間にでもこの国が滅んでた。





「悪いなギルバート。さっき言ってた本題、ってのは無しだ。今すぐ仲間達を連れて帰らせてもらう」




僕はそう言い放つと、返事も聞かずに歩き出す。



一歩、一歩と、確実に標的の場所までの距離を詰める。




「き、きき、貴様ァァァっ!? わ、我はこの国の侯爵であるぞ!? キューリップ侯爵であるぞ!! こんなことをしてただで済むと......」


「第四条、エルメス国王の配下及び、ギン=クラッシュベルの配下の者が、主の許可を得ず相手を害した場合、被害に遭った方がそれらの者を裁く権利を得る。......もちろん何か、分かるよな?」



そういった瞬間、急に顔色を真っ青にした糞虫共は、エルグリットへと助けを求めようと視線を向けるが、エルグリットは目を瞑って何も見ていない。



「なぁに、僕は何も危害を加えるつもりは無いさ。もしかしたら、万が一に、可能性としては、僕が近づくことでひとりでに廃人になってしまうこともあるかもしれないが......、その時は僕のせいじゃないだろう?」



五匹の貴族共が騒ぎ始めるが、そんなことは知ったこっちゃない。


恐らくは何も知らないであろう下っ端の騎士たちが十数名ほど、僕を止めようと近寄ってくるが、それも無駄だ。僕を止めたくば従魔のうちの誰かに依頼するべきだったな。

───まぁ、仲間が二人もやられて怒ってない奴なんているわけもないが。





僕は片手を掲げて、ただ一言、こう言った。




「『愚者の傀儡(マリオネット)』」




すると次の瞬間、全ての騎士が動きをピタリと止め、まるで僕の道を示すかのように二列に整列し、向かい合って頭上へと剣を掲げる。




「ほら、残念ながら騎士さんたち()僕の味方みたいだ」




僕は頭上に出来た剣の十字架の下、悠々とその道を歩み、糞虫共の眼前で足を止める。





「わ、我は......っ、こ、この国のッ、こ、侯爵......」



未だにそんな戯言を言っている彼らに向かって、僕がしたことといえば、魔法陣の浮かんだ紫色の左眼で彼らの瞳を覗き込んだ事と、言葉を吐き捨てた事の二つだけだった。





「契約違反だ。悔い改めて、地獄の中で生き続けろ」




そうして道を作り出していた騎士達と五匹の貴族は、まるで糸が切れた人形のようにその場に倒れ伏した。





☆☆☆





妖魔眼であの馬鹿どもに千年くらいの生き地獄を一瞬で見せ終わった直後、僕はやっと現実へと戻ってきた。



───そして、




(うわぁぁぁっ、これってやっちまった奴じゃないの!?)




僕は結構真面目に後悔した。



流石に未遂のため殺すなんて真似はしなかったが、それでもあの五人はもう既に廃人と化しているだろう。自意識は消滅して、もはや生きることにすら意味を見いだせない木偶人形。それが今のあの五人の現状だ。


ちなみに騎士達が倒れたのはただの演出。もしも今、僕が愚者の傀儡(マリオネット)を解除したらその場で体の自由を取り戻すだろう。



さっきまでの妙にカッコよかった僕はどこへやら、僕の内心としてはかなりの気弱ちゃんになっているのが現状だ。

......まぁ、普通に契約違反だったし問題は無いよな?



「はぁ......、んで大丈夫か、恭香、ネイル」



僕は未だに目を見開いて固まっている二人を立ち上がらせるためにしゃがみ込むと、二人へと手を差し伸べる。もちろん片手しかないから先着だ。


───と思ったのだが、よくよく見ればネイルに至っては組み伏せられる際に頭でも打ったのか、額からツーっと血が流れている。これはネイル優先で問題は無いだろう。



「『オールヒール』」



オールヒール。

かつてルーシィがアーマー君の傷を治す際に使用したLv.4の光魔法だ。

流石はLv.4なだけあってネイルの頭の傷はみるみると治ってゆき、数秒もしないうちに完治していた。



「立てるか?」



少し顔を近づけて服の袖口で血を拭ってやってからそう聞くが、ネイルはなにやらボケーッとしたまま僕の顔を見上げているばかりで、先に正気へと戻り、むすっとした顔をした恭香に横腹をツンとやられてやっと正気に戻った。



「ひ、ひゃいっ!? あ、ありがとうごじゃいますっ!」


「......噛んでるぞ?」



そう提言してやるとネイルの顔が真っ赤に染まった。

───うん、多分だけどいつものネイルだな。



僕は立ち上がると、未だに何が起こっているのか理解出来ていない貴族共、そしてそれを事前に察知して止めることの出来なかった愚王(エルグリット)へと振り向いた。




「契約を破り、こちらの仲間を無理矢理に拉致しようとした。今回は僕は何も手をくださなかったが、もし万が一にまたこんなことがあれば、翌日に水死体となって発見されるかもしれないから気をつけろ」



そう、コイツらに───おそらく無駄であろうが、釘を指してから、エルグリットへと視線を移す。



「もちろんこちらへと危害を加えた謝罪はあるんだろうな? 明日の昼にでも慰謝料と今回の護衛依頼の報酬を受け取りに行くからそのつもりで首洗って待っていろ」


「ぬ、ぬぅ......、たしかに今回の件はこちらに非があるな。ここでそちらに責任を求めてはそれこそ我ら王族や貴族にとって大恥になるだろう」



......ん?



なぜだかその言い回しに、一瞬で僕の頭に登っていた血が下がった。



「まさかここで反対するような───簡単な損得と常識の問題すら分からないような、そんな大馬鹿者はいないとは思うが......、あいわかった。明日の昼にでも王城を訪れてくれ。この後(・・・)に会議を行ってそれまでに詳細を決めておく。」



何故だか不思議過ぎるほどに、違和感がありすぎるほどに悔しそうな表情をしたエルグリットは、致し方ない、と言ったふうにそう言って一度頷いた。




この後


エルグリットからの話


言葉の端々に見える棘と釘


見る人が見ればわかりやすいその態度




僕はそれらのピースを鑑みて全てを悟ると、一つため息をついて出口へと歩き出す。




───全部お前の思い通りですか、このクソ賢王が。




僕がその部屋を出る直前に、全員(・・)の視線を浴びながら振り返った先にいたのは、清々しい程の満面の笑みを浮かべていたエルグリットであった。



全てはエルグリットの掌の上でした、彼も一応神童ですからね。

それでは次話は夕方に!

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