ホグワーツと月花の狩人   作:榧澤卯月

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刃を組み合わせ、挟み込んだ物を切断する道具
仕掛け武器となるには、冶金技術の発達を待たなければならなかった
その大きさ故に扱いには技量を要するが、力の無い狩人でも大きな破壊力を生む
変形後は双剣として素早い連撃を繰り出し、獣を翻弄する

いずれの形態にせよ両手が塞がる為に、銃を恃む狩人は敬遠した
火薬庫は柄に銃を仕込んだものも試作したが、構造的に無理が生じ
結局は数多ある未完成品の一つとして、倉庫の中で職人の天啓を待つ事となった





 森に緑が萌す頃、遂にマンドレイクが成熟の時を迎えた。もっとも、ここから工程を経て、薬となるにはさらに時間がかかるという。寮監の助手としての任は終えたが、何かできる事が有れば手伝いたい。

 

「上級生が既に危険な収穫を終えてくれていますので、今日の授業では植え付けを行います」

 

 スプラウト教授が説明を行っているが、学徒は一様に教授ではなく吊られたマンドレイク達に目を向けていた。首の部分が括られ、壁際に張られた縄に結ばれている。どう見ても絞首刑のそれであった。

 

「薬になるのは、この頭とお腹の部分です。精製の際には、皮は邪魔になります。腕や脚は皮を剥くにも、煎じたり刻んだりする時にも手間ですし、そうした手間に対して得られる可用部が少ないのです。ですから、こうして——」

 

 教授は園芸鋏でマンドレイクの腕や脚を断ち切った。マンドレイクは悲鳴を上げているが、血のざわめきは無い。鋏の音と絶叫が上がる度に学徒は肩を跳ねさせ、目を背けていく。

 

「切除して、種にします。受粉でも増やす事が出来ますが、こうする事で無駄がありません。さ、皆さん鋏を持ってこちらに来てください」

 

 誰も動かなかった。

 

「何しているんですか。もう乾き始めていますから耳当ては要りませんよ」

「先生……その……」

「叫んでいたヒトっぽいものの手足を切るって言うのは……」

「残酷」

 

 教授の受け持つ穴熊寮の女子から声が上がる。

 

「は? 何を言っているんですか。植物に手や脚が有るはずもないでしょう」

「さっき頭とかお腹とか言ってたじゃないですか」

「そう見える部分と言うだけです。良いですか? オジギソウは意思があって葉を閉じているわけではありません。刺激を受けると水分が移動して、その圧力で葉が動くだけです。マンドレイクも痛くて叫んでいるわけではありません。

 さ、皆さんが石になってしまった子を助けるんですよ。早くなさい」

 

 博愛の寮とされる穴熊寮の寮監は、もう一つの特色である忍耐を学徒に強いた。

 

「マリア」

「何だ」

「無理。やって」

「私だって思うところがないではないが。グリーングラス邸に咲く薔薇の剪定にしたって、私達が知らないだけで植物なりに切らないでくれと哀願しているかもしれないだろう?

 いや、そもそも普段食べている魚や家畜も、殺さないでくれとそれぞれの言葉で叫んでいる。その死体を好き勝手に切り刻み、焼き、煮て、揚げ、調味した結果が食卓に並んでいる。食べるとは生きとし生ける者全てが背負う原罪だが、己の嗜好に合わせて死体を冒涜するとはなんと罪深いことか。フォークを口に運び、その味を愉しむ度に死を想え。日々の糧は神ではなく食材となった生命に祈るべきだな」

「止めて。本当に、止めて。もう食欲なくなってきた」

「自分が忌避することを私に押し付けた事を反省するんだ。まあいい、ミリセントとパンジーの分もやって差し上げようか?」

「よくもそんな話を聞かせて恩着せがましい事が言えるわね。やって頂戴」

「パンジーに同じく。よろしく」

 

 そういうことになったので、努めて感情を殺して鋏を動かすと獅子寮生達が囃し立てた。

 

「流石血塗れ女帝。躊躇が無いな」

「見ろよあの冷たい目つき。人の腕でも同じなんだろうぜ」

「同じだった。自分の名前の綴りを間違えない位に当たり前って顔だった」

「腕砕かれた奴が言うと違うな」

 

 言われてみれば、悪夢の中とはいえ確かに獣化した者の手足を斬り、殺めている。そう考えると余計に感情が冷えていく。

 

「早くなった!」

「あいつヤバい」

「今更過ぎるだろ!」

 

 まともに取り合うのも馬鹿らしい。自分の分とお嬢様方の分を処理し終えると、教授が近寄っていた。

 

「手早いのは結構ですが、もう少し愛情が必要ですね。この断面を見てください。硬い部分を力任せに断ち切ったから、端が少し潰れてしまっているでしょう? そうするとここの生育が少し遅れて、歪な形になる事があります。あんな風に」

 

 教授が3つ足のマンドレイクを指し示した。

 植物に意思は無いと言ったり愛情を注げと言ったりどうにも精神構造が理解できない。植物学の権威であるからこそ余人とは異なる植物への視点が有るのだろうが、興味が無ければクィディキチと大差ない歪みである。

 

「ですが真っ先に取り掛かった事からスリザリンに5点! それと切る部位が適切でしたので更に5点です。上出来ですよ、ミス・ボーン」

「はぁ……ありがとうございます」

「さ、皆さんも!」

 

 誰も動かなかった。

 

「どうしたんです皆さん! 授業放棄ですか!? なら、皆さんの分をミス・ボーンにしてもらう代わりに、一人当たり10点をスリザリンに与えますよ!」

「私がする事は確定なのですね」

 

 帝王の最盛期に生まれた学年であり、他の学年に比べればその数は少ないにせよ、本当に加点されるとすればどうあがいても蛇寮の首位は揺らがなくなる。それに、これはただの授業ではなく、石化した学徒を救う事にも繋がるのだ。

 誰かが一歩踏み出そうとしたとき、吊るされていたマンドレイクが呻き声を上げて痙攣した。

 

「ぼっ、僕がやります」

「あらミスター・ロングボトム。こっちに来てください」

「ほう?」

 

 昨年はロングボトムの為に石の護りとして悪魔の罠が用意された様に、薬草学に関しては確かに成績が伸び始めている。しかしこれは学力よりも感性の問題である。ピクシーの件で気を失わないだけの胆力は見せられたが、この作業に向いているかどうかで言えば絶望的である。

 

「この部分です。鋏は力任せではなく、まず硬い皮だけを剥がす様に刃を入れます。それから一息に、バチンと」

 

 ロングボトムに脚を落とされたマンドレイクは絶叫し、暴れ始める。

 

「はい、次も手早く。暴れるとそれだけ栄養が逃げていきますからね」

 

 人の心は無いのか。

 ロングボトムは既に浅く早い息遣いとなり、鋏を持つ手は震え、唇は青い。

 

「教授。ロングボトムの様子が尋常ではない様に思いますが」

「大勢に見つめられては緊張もするでしょう。時間は掛かっていますが貴女より上手く出来ていますよ。さ、今度は腕です」

 

 右腕を切り落としたところで、遂にロングボトムは倒れ、悶え始めた。喉を抑えて口を開けたり閉じたりしているが、息は荒くなる一方だった。同様に、左腕だけが残ったマンドレイクも陸に上がった魚の様に震え、その振動は縄を伝って他のマンドレイクにも刺激を与え、絶叫の合唱となっている。

 

「どうしたんです!」

「過呼吸です。ロングボトム、私を見ろ。苦しいだろうが、ゆっくりと息を吐け。ひとつ、ふたつ、みっつ……そうだ、吸おうとするな。まずは息を吐くんだ。やっつ、ここのつ、とお、では吸え。そうだ。また10数えながら吐け。

 トーマス、着いていてやれ。落ち着いたら医務室に連れていけ」

 

 ロングボトムに連れ添うという口実で、何人かが蒼褪めた顔をして温室を出て行った。ロングボトムの方が上手いとされたままであることは癪なので、これだけ練習台が有る事はかえって都合が良い。

 

「ああ、そもそも鋏の切れ味が悪いのか。なら私の道具を使った方が——」

「君はいつも通りだな」

 

 ロングボトムが蛇寮生に勇を見せたのだ、それに当てられた獅子寮生の男子は多かった。蛇寮生男子もまた、ロングボトムより気概がないとされることは屈辱だったのだろう。歯を食いしばり、目を閉じながらマンドレイクに鋏を入れていた。

 とはいえ、案の定マルフォイやザビニの様な貴族はロングボトムに連れ添うでもなく温室を出て行っていた。その中で、ノットが端正な顔を僅かに歪めながら鋏を握っているのは意外だった。

 

「貴公、意外だな」

「そうかな。ずば抜けた優等生ではないけれど、不良でもないつもりだけど」

「純血のお坊ちゃんが拷問じみた土弄りとは、それこそ拷問だと思うが」

「ダフネに君がしていた嫌がらせは違うのかい? けれど、拷問。ロングボトムにとっては何よりも優る拷問だったと思うよ」

「薬草学で失敗する事がか? 過呼吸を起こしたとはいえ、私より上手いと褒められていただろう」

「違うよ。あいつの親は闇祓いで、死喰い人に磔の呪いを受けて廃人になった。血は出ないけれど痛みに悶える様子は、全くその通りだろう? 見てみなよ、スプラウトは自分が何をしてしまったのかと気付いた」

 

 教授は脚立に腰かけ、土で汚れた軍手で顔を覆っていた。その涙は土を泥に変えるだろう。

 

「……分からないな。何故進んで自らの傷を抉る様な真似を」

「君に抉られたからさ」

「私?」

「君は獅子殺しなんて言われているけれど、蛇寮生らしくもない。マグル生まれとも仲がいいし、ロングボトムを野次る事も無いだろう? ピクシーの時だってそうだ。ロングボトムを助けていただろう。ロングボトムにとっては……くくっ……もしかしたら、君は好意を抱く対象なのかもしれない」

「お生憎だがそうした話はマルフォイとでもしてくれ。パンジーがマルフォイとの距離を詰められないとうるさいんだ。後押ししてやってくれ」

「別に俺は彼とそんなに仲がいいわけじゃない。家同士の付き合いが有るってだけだから。

 ま、ロングボトムにとって君は蛇寮の光というわけさ。邪悪な蛇の巣の中の、善き女生徒であると。それが両親を壊した拷問と似た様な事を、普段と変わりなくこなした。あれにとっては信じた光が汚れて見えたんだろ。

 だから、これは拷問なんかじゃない、ただの薬草学の授業の一環と思い込みたかったのさ」

 

 好意云々はノットの悪ふざけだとは思うが、それを別にしてもノットの話が真実ならば面倒な話である。ロングボトムに勝手な偶像を与えられ、それと異なるからと衝撃を受けられても知った事ではない。両親が遠いところに行っているというロングボトムの言とも符合するので、全てが憶測と片づけるわけにもいかないだろう。

 

「で? 私にそんな話をする為にわざわざ温室に残ったのか?」

「いや。普段と変わりない様に見えて、君は何を思っていたのかと気になってさ。こんな惨状の後に談話室でそんなことを訊こうものなら、慰めているフリをして口説いているのかと勘違いされそうだし、食事時にしたい話でもないし」

「口説いても良いがお兄様に目を付けられるし、私の答えは「すまない」だな。顔が良くて上品な貴族の子としか印象が無い」

「付き合い始めてから印象が変わるかもしれないだろ。君から顔が良いと言われるのは何かの皮肉かい? けど、口説いても無いのにフラれたのは初めてだよ。残念」

 

 ノットは別に残念でもなさそうに笑った。

 

「つまり私が貴公の初めての女か……いや、忘れてくれ。一応恥じらいは有るからな。吹聴したら記憶を失うまで殴るぞ。

 ダフネを見ろ……気付いて目を逸らしたな。後で揶揄われるな。「セオと何話してたの?」「ただの世間話だが」「恥ずかしがらなくてもいいのに」予言者でなくてもそんな未来が見える。

 何を思っていたか……そうだな、別に何も、だ。教授の言う通り、意思がないのであればただの作業でしかないし、そうする必要があるからしたと言うだけだ。トロール殺しに蛇殺し、殺しには慣れているしな。強いて言えば感謝か。食材の話と同じだよ。意思があるかどうかはともかく、少なくともその命がヒトを癒す薬になるんだからな」

「ふぅん? 成程。為になったよ」

「何の為だ?」

「後学の為さ。ありがとう」

 

 

 結局、退室した学徒の分の加点はされなかった。それどころか、副校長の猫がやってきて、スプラウト教授と共に副校長室にまで来いと言う。

 泣き崩れている教授の代わりに「先生の教えとは違って小刀を使っているけど、何か魔術的な意味があるの? 例えば銀が不浄を祓うとされているみたいに。そういえば銀には抗菌作用があるけれどそれが魔法界でも同じ様に考えられているのは興味深いわね。いえ、むしろ魔法界が先に銀の利用を思いついたのかしら。それから後世になって科学が銀の性質を解明した? つまりツァイス先輩の仰った様に元々美意識や格付けの為に用いられていたところから、遂に非魔法的な価値を見出した……金本位制が管理通貨制度に代わったのは金の持つある種の魔力からの脱却なのかもしれないわ。ああ、これだけで魔法史の論文が書けそう! 『魔法界と非魔法界に共通する貴金属及び貴石の価値の変遷に関する考察』なんてマリアはどう思う?」「皮を剥ぐ様にって表現が分からないんだけど、環状除皮のこと? 細胞を傷付けない様にする意図とその後の生育の為としても、根にあたる部分でそれを行う事がどれだけ重要なのかしら。いえ、外皮という保護を敢えて傷付ける事で毒素を産生して土中の菌に対抗させるのかもしれないわね。ブドウやナスも傷の周辺にはポリフェノールが多いみたいだし。ジャガイモも種芋の切断面に灰をまぶすけれど、そうした処理よりも自然に任せた方が腐敗が少ないって聞くわ。生命の力って事かしら」「それよりネビルは大丈夫なの? 薬学の授業でもあんなに緊張する事は無かったじゃない。秘密の部屋とはまた別の事件が有るのかしら。見ていたけど誰もネビルを呪ってなんかいなかったわ」と、「知らん」の一言で済ませたくなるハーマイオニーの質問攻めを受けていたので都合が良くもあったが、教授だけならず自分までもが召喚される理由は分からない。

 それよりも以前と異なり、こうして機関銃の様に浴びせられる質問の中でもハーマイオニーが他人を気遣った事に驚かされた。彼女もまた、欲求に従うだけの獣ではなくなっていたのだ。親しくも無いロングボトムの事ではあるが、友人として嬉しく思う。

 

「失礼します」

「あぁ、ミス・ボーン。ミスター・ロングボトムの事をありがとうございました」

「お言葉はありがたく頂きますが、別段礼を言われる程の事でも。運動や吹奏楽に親しむ非魔法族であれば対処法を知る者もいるでしょう。それで何故私まで? スプラウト教授に落ち度が有る様な気もしますし無いと言えば無い事故でしたが」

 

 ロングボトムの事情に思い至っていればああも事務的に処理を進める事は無かっただろうし、魔法界に過呼吸という概念が無くとも、さっさと医務室に連れて行けば何かしらの処置はされていただろう。責めたつもりも無いが、教授は肩を震わせた。

 

「いいえ。こうして直接お礼を言いたかったのです。秘密の部屋の様な大事でなくとも、他寮の生徒の事も気に掛けていた。校長のお考えは私には分かりませんが……貴女方は立派にホグワーツの一員でしょう」

「地獄の住人の一員とされても……。それに、とある学徒によれば、ロングボトムがああなった原因は私だとか。蛇寮生らしからぬ女子が残酷な行為を無感情に処理していたから、彼はそれに衝撃を受けたと。蛇寮生ではない蛇寮生ならホグワーツ在校生らしくもないといったところでしょうか」

「誰がそんなことを。まさか獅子寮生ですか!? ミスター・ロングボトムを助けたのは貴女だと言うのに、貴女にそんな心無い言葉を投げかけたと言うのですか!?」

 

 副校長は誤解をしているが、ノットは嫌がらせの為に言葉を寄越したつもりも無い様であったし、面倒だとは思ったが不快になったわけでもない。

 

「獅子寮生ではありません。どこの寮生であれ、咎めるべき話でもないでしょう。私も特に改める気はありませんし、本人に悪意は感じませんでした。むしろ、私もロングボトムがああもなった理由は気になりましたので。

 あのマンドレイクの絶叫の中で、ロングボトムは闇祓いの両親を想ったとか?」

 

 スプラウト教授が嗚咽を漏らした。

 

「貴女も知っているのですね……。だからミスター・ロングボトムを気に掛けていたと。貴女がどう接しているかは知りませんが、ピクシーの件ではうなされながら貴女に感謝していましたよ」

「いえ全く。彼のご両親は高名な闇祓いだという事は知っていましたが、拷問を受けて心が壊れたなどは知りもしませんでした。いえ、先程の学徒からその様に聞いただけで、事実そうであるかは知りませんが。

 ロングボトムを殊更気に掛けたつもりもありません。確かにピクシーの件では、シャンデリアに脚の骨を砕かれながらも意識を失わなかった事を讃えはしましたが、そもそもピクシー如きに吊り上げられる前に握り潰せば良かっただけの事。赤毛でさえ教科書で撲殺していましたので、情けなくは無いが弱い男子と思う程度の事です」

 

 教授陣の反応を見るに両親の件は事実らしい。それを知るとマルフォイの彼への態度は些か不愉快ではあるが、マルフォイはポッターにせよロングボトムにせよ、親の死を利用して貶める事はしていない。その一線は弁えているのだろう。

 

「そう頑なにならずとも、感謝は受け取っておくものですよ。あの年頃の男の子はそうした気持ちを女の子に伝える事は難しいかもしれませんが」

「私の偶像を崇められても私からは何とも言えません。蛇寮に犯罪者養成課程という偶像を押し付けられているのと大差ありません。私は私ですから。ポッターが英雄や生き残った赤子である前にポッターでしか無い様に」

「ああ、それもありましたね。ミス・グレンジャーから聞いています。ミスター・ポッターに助言をしてくださったとか」

「あれに伝えた様に、単に兄達の受け売りです。ロックハートの事を気に病むなら校長を殴れというのは、私の言葉ですが」

「……そうなる前に、まずは私が彼の涙を拭いてあげるべきですね。彼が心の中身を打ち明けられる大人は、ハグリッドだけでしたから」

「私も同じ子供として、生まれた時から利用され続け、頼れる大人は危険生物の違法飼育に手を染めていた犯罪者だけであるなど、見るに忍びありません。嫌いな者であれ、理不尽に弄ばれていることの方が不愉快です。

 ハーマイオニーから聞き、本人も否定しませんでしたが、養親の下で犯罪としか言い様のない虐待を受けている様です。昨夏は独善的な屋敷妖精のせいで餓死しかけたとか。もっとも、元を辿れば闇の帝王のせいですが。

 リドルの亡霊が言うには、ポッターが死の呪詛を生き延びたのは彼の母が命をなげうって彼を護ったからだと。帝王の呪詛より、伯母夫妻の方が魔法界にとっては脅威なのでしょうか。

 私はそうしないしする義理も無いため、救えなどとは申しませんが、大人として、教育者として、子供に希望を持たせてやって欲しいものです。箒だけではなく」

 

 無責任で卑怯な言い草だが、別の養親や養護施設を探す事は出来るだろう。かの英雄ポッターの引き取り手など、それが売名目的であれいくらでもいるだろう。むしろ売名が目的であれば、ポッターを粗雑に扱う事はしないはずだ。

 

「お話が私への謝意だけであれば、私はここで失礼しますが」

「……ええ。結構です。それと、貴女方や校長のお考えがどうあれ、貴女方はホグワーツを救ったのです。それを私が個人的に讃える事は出来ませんが……今日の行いは素晴らしいものでした。寮を超え、同輩を想う心と行いに、50点を差し上げます」

「わ、わたっ、私からも、スリザリンに50点」

 

 随分と多いが、それはロングボトムの事ではなく継承者騒動の事なのだろう。であれば、ダフネやハーマイオニーの為に武器を振るった事の価値があるというものだ。

 

「何よりです。私が顔を出せばまた発作が起きそうですから見舞いには行きませんが、薄情だとは思わないで頂きたい」

 


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