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閑話もラスト二つ!

もう少しの辛抱です!

第三章 帝国編
閑話 あの日の因縁に終止符を

ネイルと穂花、二人と共にエンペラースライムを討伐し、何だかんだで役得があった日の夜───時刻としては夕食を取り終えて、食後の読書にもひと段落ついた後だから......、確か日付が変わる前後のことだっただろうと覚えている。


食器も洗い終わり雑談の話題も粗方尽きたのだろう、皆が部屋へと戻って行く。明日こそは本気でリハビリしたいし、僕もそろそろ寝るかな、とそんなことを思って寝室へと足を向けた───丁度その時だった。



コンコン、とこんな夜分には珍しく、何者かがこの馬車へ訪ねてきたのを知らせるノックが入口の方から聞こえてきたのだ。



「この時間だと......、エルグリットか獣王の使者か? それか......あっ、この馬車、ここに止めちゃまずかったかな?」



───ここは帝城の真ん前だし、これでも一応、獣王には許可は貰ってるんだがなぁ。



そんなことを考えながらも、心底嫌そうな顔を笑顔という名の仮面を被って入口へと足を向かわせる。


僕が入口付近まで来ると、流石に反応がなかったのに動揺したのか、もう一度コンコンとノックがされる───この様子だと世間話とかじゃなさそうだな。



「はーい、今出ますよー」



最早日本人ならば一度は言ったことがあるのではないかと思えるような常套句を使用して、僕は迷うことなくその扉を開ける。


───まぁ、迷う必要がなかったのは、空間把握でその向こうに立つ二人の人物の顔を僕は確認していたからに他のならず......、






「いらっしゃい。アーマー君にマルタさん」





そこに立っていたのは、そわそわしているアーマー君と、その従者であるマルタさんであった。



───なにやら、面白いことになりそうである。





☆☆☆





と、そんな事があったのが二、三時間ほど前の話である。



今僕は、いつぞやの斬撃が大地に走り、未だに身に覚えのありすぎる魔力が空気中を漂う夜の草原に立っていた───隠すは無理そうなのでぶっちゃけると、僕と輝夜が戦ったあの草原である。やはり悪鬼羅刹の力は絶大なようだ。



僕の数メートル先にはアーマー君の姿があり、何やら覚悟の決まった顔をし、真一文字に口を結んでいる。


僕らから少し離れた位置には毒舌でお馴染み......ではないとは思うが、従者のマルタさん。



───そうして二人の視線の先には、片腕を失ったザコザコな吸血鬼、つまりは僕である。




ふと、僕は数ヶ月前の彼との邂逅を思い出す。







『そこまでだッッ!!』



そんなことを叫びながらギルドへと入ってきた彼。



『お前達っ! 弱いものに向かって何をしているんだっ! それにお前も何をしているっ! なぜこんな真似をしたっ!? そんなに髪を染めて迷い人の真似事がそんなに楽しいのかっ!?』


『おい、僕は偽物じゃ......』


『髪を黒く染めているだろう! それがお前が迷い人を騙っているという動かぬ証拠だっ!!』


『は? これが染めてるって......? お前は..』


『まだ言い訳する気かっ! おまえも男だろう! 嘘がバレたならはっきりと言えばいいだろっ!』




そう、確かこんなことがあって、まだまだ精神的に未熟で、こちらに来たばかりで調子に乗ってた僕は、彼に対してブチ切れたのだったか。




『いや、お前関係ないよな?』


『──ッッ!? 君は何を言っているんだっ!? 僕は君を助けようとしてるんだぞっ!?』


『あ? お前、何様だよ? 僕がそんなの頼んだか?』


『なっ!? 君は僕より弱いんだっ! ならばプライドなんて捨てて助けてもらうべきなんじゃないのかっ!?』




と、そんな感じだったか。


そのシーンを頭の中で流してみると、なかなかどうしてお互いに未熟だったな、と今になって思ってしまう。



───因みに今の僕であれば、「うはぁ、めんどくさっ」とか言ってとっとと退散してるか、すぐさま視認も難しい速度で気絶させて放置するね。もちろん証拠は残さない。



僕はそこまで考えると瞼を開き、前方に立ってこちらを見据える今の彼へと視線を移す。




「あれだな、君は変わったな」



───特に、吸血鬼といういかにも悪そうな雰囲気の種族を前にしても尚、襲いかかってこないあたりが。


最後のは口にはしなかったが、それでも彼には僕の放つ哀愁が感じられたのだろう。顔を真っ赤にして俯いてしまう。完膚なきまでに顔面を破壊した癖に未だに様になってるのが腹が立つ。やっぱりコイツ、僕に喧嘩売ってんだろうか?


彼は恥ずかしそうに微笑むと、頬をかいて僕へと生意気にも話しかけてきた。



「ははは......、あの頃の僕は調子に乗ってたと言うかなんというか......、まぁ、盲目な信仰、ってやつだと思うよ」



───盲目な信仰。言い得て妙である。


それを吸血鬼とか影魔法とかテイムのスキルだとか、そんなくだらない理由だけで僕を処刑しようとしたあの聖国の神父さん達に諭してあげたいよ。




さて、と。




僕はふぅと一つ息をつくと、アイテムボックスから最近お馴染みのブラッディウェポンを取り出す。

───今回使うのは、今の今までブラッドナイフとして使い慣れてきた、少し長めの短剣。


僕は血を吸わせて半透明な赤い刀身を顕にさせると、アーマー君の方から息を呑むような音が聞こえる。




それじゃ、そろそろ本題───というか、今回ここへ来た本来の目的を果たすとしようか。







「さぁ、その身をもって僕のリハビリに手伝ってくれよ、アーマー君」





今回僕らがここへ来た理由はただ一つ。





───僕と彼の因縁に、終止符を打つためである。





☆☆☆





「今回は......、ちゃんとした武器を使ってくれるんだね」



アーマー君はそう言うが、僕は決して彼を認めて武器を使っている訳では無い。残念でしたねアーマー君。



実は僕、この数日間、これからどうするかを考えていたのだ。



腕はなくなり、ステータスも減り、更にはそのせいで体重も減り、まともな近接戦闘もこなせやしない───がしかし、そのデメリットは見方によればメリットにも変わるのではないだろうか、と。


───まぁ、明日にでも義手やら変身スキルやらを試してみるつもりだが、ブラッドメタルと言えど僕の"瀕死のダメージ受けて当然、回復して当然"という異常過ぎる戦闘法について来れるとは思えない。それにブラッドメタルだと逆に重すぎてバランスを崩しかねないしな。

逆に変身スキルだと無くなった体積を補うために、幾らか若返ってしまうだろう。それはそれで戦い辛い。



そんなような、色々と条件やらIFやらを考慮した上で僕が考え至ったのが......、




「初心に立ち返る。折角体重が減ったんだ、それを生かさない手はないだろう?」



どうせステータスなんて、100ほどレベルが上げれば自然と戻ってくるだろう。僕の今の成長率はそれ位はあるはずだ。

ならば今気にするべきはステータスの低下ではなく、腕が無くなったことによるデメリットとメリットだ。



そうして僕は、初心に立ち返ることにした。




───初心。それはつまり.........、






「召喚しないのか? 本気で来ないと暗殺(・・)するぞ?」





───影魔法の熟練と、それに伴う暗殺術への特化である。





果たして僕が出したこの結論が、この先の僕の歩む道にどんな影響を与えてくるのか。



まぁ、そんなの知ったこっちゃないが......、





「今の僕が選んだ道だ。強くならないだなんて、万が一にも有り得やしない」





僕は誰に向けるでもなくそう呟いて、草薙剣を召喚して構えたばかりのアーマー君へと駆け出した。





☆☆☆





ガキンッ、と音を立てて吸血鬼族が誇る最強の武器と、日本が誇る最強の武器が激突する。


剣同士が衝突した際に金属同士のぶつかった音がしたのはとても久しぶりのことで、何やらトンデモしてた全盛期の頃がとても昔に感じられる。



───が、こんな雑念を挟んでいる時点でダメダメだ。強くなりたいのならば真剣に、本気でやらねばなるまい。まぁ本気なんだけども。



相手が格下とはいえ今の僕はマトモな状態ではない。体勢を崩してその隙に草薙剣でグッさりやられる可能性だってある。不死の僕とはいえ神剣に直接切られるのは遠慮したい。


僕はダダンと空中を踏み込み、相手の力を受け流して背後へと回り込む。その通り際にアーマーが力を入れていた方向に小剣で草薙剣を弾いてやると見事に大勢を崩すアーマー君。




───けれど、僕はそのタイミングで攻撃を繰り出せない。




「馬鹿か僕はっ......」



空中でいつもとは違った重心の位置に思わず狙いがズレ、攻撃自体が当たらない。そもそもその攻撃を当てる右腕がない。


僕はとっさに右足で彼の肩を蹴り、大勢を立て直すために距離を取る。



やはり右腕を失って初めての近接戦闘だけあって前からの癖が残っているようだ。攻撃する物がないのにそこまでたどり着いても意味がない。



「はぁ......集中が足りないか」



ぷふぅ、と肺の中に溜まっていた空気を吐き出すと、僕は本気への階段を一段登る。




「『正義執行』」




静かに、それでいて劇的に僕へと変化が訪れる。


ボウッ、と真っ赤な炎が燃え上がり、すぐにその中から執行者モードの僕が現れる。

片腕はなく、通常時の変化と比べても変わりは何も見られない。




───けれど、先程まで僕の脳内を占めていた残念は、もう跡形もなく霧散しているのだった。



ダンッ、と先程よりも数段早く踏み込み、アーマー君へと突撃する。

どうやら彼は僕の変化に驚いたようだが、残念ながら隙を見せる程ではないようだ。



再び僕のブラッディウェポンと彼の草薙剣が衝突し、大気を震わせるような耳障りな金属音を響かせる





────その直前で、僕はその刀身を消し去った。




来ると思っていた衝撃はいつまで経っても彼の腕には訪れず、その剣は真っ直ぐに僕の肩口へと吸い込まれる。


誇張も冗談も、錯覚も抜きにしてその剣は僕の身体を両断し、勢いそのまま草薙剣は地面へと突き刺さる。






───あぁ、いい感じだ。





あまりの衝撃映像に目を見開き、固まってしまった彼の顎を、なんの変化もない棒状のブラッディウェポンの柄で殴り上げる。



「ぐふっ!?」



顎に確実に入った重い一撃にぐらつくアーマー君にではあったが、流石に頑丈だけが取り柄だった(・・・)訳では無いらしい。


彼は僕を追い払うようにその草薙剣を振るうが───やはりこれも、躱す必要性は皆無だろう。



再びその剣は僕の身体を素通りし(・・・・)、空を切る。



それと同時に僕は膝蹴りを彼の鳩尾へと打ち込む。



「か、かハッ......」



まず間違いなく呼吸困難に陥っただろうが、それでもまだ、彼は戦闘可能だろう。


───何よりも、そのギラついた瞳を見れば明らかだ。




「本当に、君は強くなったよ、アーマー君」



僕は彼に対して、素直に賞賛を送ろう。


あの弱かった頃と比べると天と地ほどの力の差があるし、それはステータスだけではなく能力面───スキルレベルにおいても成長が著しい。それこそ相対的に見た成長率ならば僕にも迫るのではないだろうか?




「けれど、それでもまだ僕の方が上だな」



迫ろうと、強くなろうと、技能が習熟したとしても、それでも僕は、その君の全てを上回り、さらにその先へと進もう。



───もう僕に、強くなるための迷いなんて微塵もないのだから。





「アーマー君、僕はもっと先へ行く。仲間にも、久瀬にも、穂花にも、傲慢王子にも、もちろん君にだって負けたくないからね」





僕はそう言うと同時に、いつぞやの数百倍はキレのあるジャブを彼の顔面へと叩きつけた。




ありがとうアーマー君。君のおかげでこの状態でのコツも、掴めそうな気がするよ。





前回は体術、今回はリハビリ。




───やはり、僕が彼を実験体として使うのは、いつまで経っても変わらないことであった。





☆☆☆





数分後、アーマー君はいつぞやに見た時よりもさらに膨れ上がった顔をしており、流石に僕も「やべ、やりすぎた」と正気を取り戻した。

───珍しく執行者モードで本気を出してみた僕ではあったが、動けば動くほどにキレが元に戻ってゆくのが楽しくて......ついでに言えばアーマー君を虐めるのも楽しくて止められなかったのだ。



「すいません、マルタさん。アーマー君って一応マルタさんのご主人さ...」


「は? 何言ってるんですか、こんな脳みそが沸いたガキくさい勇者もどき、私の御主人様なわけないじゃないですか。心療内科専門の病院でも紹介しましょうか?」



おーっと、これはこれはなかなか強烈なキャラですね。



「は、ははは......、はぁ。まぁ、僕の恨みも十分に晴らせたから一応僕の血液置いていくよ。アーマー君が起きたら使ってやってくれ。主に顔面と股間に」


「は? 顔面はまだしも股間ですか? あんなクソイケメンの股間についている○○○、使う日なんて来るわけがないでしょう。なんですか、もしかして貴方はアーマー様に○○○でもさせる気ですか。やはり貴方は噂通り真の鬼畜ですね」



この時の僕は、心からこう思った。



───あぁ、マルタさんがこっち側じゃなくて本当によかった、と。



例えるなら......、そうだな。相手に対して確かに親愛も尊敬もしているという雰囲気を醸し出してくるのに、何故か口から出てくるのはそんなことを微塵も感じさせないような罵詈雑言、みたいな感じか。雰囲気と口調が全く合っていないのだ。

この僕ですらドン引きするレベルのその口撃に思わず戦慄いてしまう。



僕は彼女と会話するのは今の僕には早いだろう、とそう結論付けると、アイテムボックスから出したポーション用のガラス瓶に入った僕の血液をマルタさんに投げて渡した。

───流石は従者兼護衛(・・・・・)というわけか、アーマー君何かよりもよっぽどキレのある動きでそれをキャッチするマルタさん。ほんと、末恐ろしいよ。



「それじゃ、僕はこの辺で失礼させてもらうよ」



気づけば東から朝日が顔を出しており、特異始祖といえども吸血鬼の僕としては、かなり眠いのを堪えずにはいられない───まぁ、堪えなかったらこの場で寝ちゃうから堪えないといけないのだ。


僕は二人に背を向けて、ダッシュで馬車へと帰ろうと走り出した。




☆☆☆





それと同時刻、ギンの背後で、マルタは静かにお辞儀した。






「ご考慮、ありがとうございます。因みにアーマー様に○○○なんてさせませんよ」




───そんなことさせるくらいなら、私が貰っちゃいますので。







幸か不幸か、ギンの地を蹴ると音と世界樹の切り株から吹くからっ風にかき消され、彼女のその独白は誰にも届くことは無かった。



───けれどもきっとそれは、彼女自身が狙ったことなのだろうと、そう推測できる。





こうして彼ら二人の因縁に、一応の終止符が打たれた。





片や、急激に成長する神剣の担い手。



片や、神々に、世界竜に、大悪魔にさえ認められた、いづれ最強へと至るであろう吸血鬼。





三度再会を果たした際、彼らがどんな成長をしているのか。





───それもやはり、彼ら二人でさえ計り知れないことであった。

アーマー君と従者のマルタさんでした。

ちなみにマルタさんは騎士組三人を相手にして互角に渡り合えるくらい強いです。そんな人が従者ってことはペンドラゴン家はかなりの地位にいるんでしょうね。


次回! やっとこの章のラストです!

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