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メリークリスマス!

ボッチからすれば何もめでたくないですが、とにかくメリークリスマスです! このメリーって一体なんなんでしょうね?


というわけでクリスマス編のBパートです!

第三章 帝国編
閑話 夢見る子供へ絶望を~新たな出会い~

数分後、僕はアイギスに肩を貸してもらいながら、地上(・・)をテクテクと歩いていた。正確にはザックザックと歩いていたという方が正しいかもしれないが。ついでに言うならば僕の心もザックザックと荒んでいた。



「はぁ、まだ身体に慣れてないのに飛ぼうとするからですよ?」


「......申し訳ないです」



アイギスに窘められながら、僕は先ほどのアレ(・・)を思い出す。


空へと向かって羽ばたき、実際に木々の上まで到達した僕ではあったが、そこで吹き荒れる暴風に加えてグリフォンやドラゴンの群れの襲撃───結果、僕は呆気なく墜落し、地面へと叩きつけられたのだ。先ず間違いなく僕の黒歴史の一ページにしっかりと刻まれたことであろう。恥ずかしすぎて死にたい。


その後恥ずかしさを紛らわすかのように空飛ぶ糞共を『灰塵滅却(アッシュアウト)』で跡形もなく消し去り、今に至るというわけだ───ちょっと前に『殺した魔物のことは全て覚えている』とかカッコつけていたのが懐かしくて涙がちょちょぎれた。


まぁ、罪悪感は感じてるだけマシだということにしておこう。自己満足で偽善的だけど。



と、そんなことを冗談めかして考えていると、僕の胸ポケットに入れておいたスマホがブブブブッ、と音をたてて通知を知らせてきた。



あの後───神王からの着信があった後、僕はこのスマホでどんなことが出来るのか調べたのだが、メフィストの言う通り、基本的には通常のスマホと昨日は同じだったのだ。


普通とは違った珍しい機能としては、



・ガチャ(不定期開催)


・神王のメアド


・念話の経由と精度の上昇


・ラノベ図書館


・メフィストの電話番号



などが挙げられる。

珍しいと言うよりはヤバイという方が正しい気もするが(主に二つ)、神王には『ありがとう、アンタ本物?』とメールを送っても返信はなかったので放置している。因みにメフィストの電話番号は未だ使用していない。きっと使用することもないと思うが。


以上の事から、今このスマホが知らせる通知というのは、メフィストからの電話か、誰かが僕へと送った念話なのだろうと考えられる。メールの通知はここまで長くないと思うし。



僕は胸ポケットからスマホを取り出すと、ポチッと通話ボタンを押して耳に当てる。



然して、そこから聞こえたのはマックスの声だった。




───だがしかし、僕の耳に届いたのは.......、







『ぎ、ギン! ヤバ、ヤバイってあれはッ!! はぁ、はぁ、何がサンタだよッ! み、皆はぐれちまったし......、と、とにかく早く......ッ!? うぎゃぁぁぁぁっっ!!!』




聞いたこともないような、マックスの断末魔であった。



僕は咄嗟に空間把握の範囲を広げ、マックスの居場所を特定する───が、残念ながら今出来る最大範囲の尚更に外に居るようだ。


だが、不幸中の幸い、他の面々とマックスと同じ班にいた恭香だけはなんとか見つかった。『はぐれた』とのマックスの言だったが、なんとか恭香は逃げ果せたようだ。



「アイギス! 今から移動する! ついてきてくれっ!」


「は、はいっ、分かりました!」




僕は空間把握によって僕らの位置関係から集合場所を決め、念話をするためスマホを弄りながら、そこへと向かって走り出す。




「クッソ......、どうなってるんだ......」




僕の中にはえもいえぬ違和感が残り、何かとんでもないモノがこの森には居るのではないか、とそんなことが頭を過ぎる。



僕はその考えを振り払うように、スマホを耳へと押し当てたのだった。





☆☆☆





全員へと連絡を入れ、僕とアイギスはそれから少しして集合場所へと辿り着いた。



集合場所は僕らが居た場所のほぼ中心にあたる広場のような場所で、それぞれに空間支配の能力を貸し出せば簡単に見つかるような場所である。


そこには既に、輝夜、レオン、オリビア、伽月、浦町の二つの班に逃げ出してきた恭香までもが揃っており、皆が皆、岩の陰に隠れているようだ。



僕は一旦空間把握の半径を十五メートルまで戻すと、皆が隠れている岩の陰に同じように身を隠した。



「ぎ、ギン......、こ、怖かったよぉ......」



隠れた途端に僕の胸へと恭香が突撃して来て、思わず雪へと背中からダイブ、件の雪温泉を味わうことになる───あれっ、何かこれ楽しくね?


僕は恭香の頭を撫でながら上体を起こす......のは片手では無理そうだったので、たまたま近くにいたアイギスに手伝ってもらい、岩を背もたれとして座り込んだ。


恭香は未だガクガクと震えている───それこそルシファーの時以上に震えているいるのだから、かなりの恐怖を味わったのだろう。今サタンクロスについて聞き出すのは酷というものだ。


僕はしがみついてくる恭香を撫でながら、他の班へと確認をとることにした



「輝夜、レオン、二人のペアは無事だったか?」


「う、うむ......、我とオリビアは特にそれらしき魔物は見なかったぞ? オリビアに鑑定もさせたが......」


「自分のところも了に鑑定をさせながら捜索したがやはり見当たらなかったのである。......恭香がそこまで怯えるとは、サタンクロスとやらはやはり主殿の言う通りクソッタレのジジイなのであるな?」


レオンの言っていることをマックスに聞かれたらまた膝蹴りくらっちゃうかもな、と思いはしたが、残念ながら奴はもう死んだ。これで僕の布教を止めるヤツは存在しなくなったというわけか。



───とそんな冗談を考えたところで、僕はちょっとした違和感を覚えた。



それはマックスの断末魔を聞いた時に感じたものとは別の、何かを見落としているような、そんな違和感。


何か......、何か大切なことを忘れて居るような......。


頭の中を探るが、こういう違和感はすぐに探り当てることが出来ない類の違和感だ。焦らず早急に考えるしかあるまい。




───とそう思ったその時、恭香が一言、こう呟いた。




「それにしても......、なんだか白夜たち、遅いね......」





瞬間、僕の中にあった違和感の正体に気がついた。




白夜、暁穂、それにネイル。


僕らは彼女ら三人に、最後に念話をしたのだ。


それは何故かと聞かれれば.........、





その理由を思い浮かべた途端、僕は背中に冷たいものを感じ、思わず身体中に寒気が走る。


これは僕が苦手とする幽霊のような、えもしれぬ対象への恐怖。知らないからこそ怖く、知っていれば尚怖い。


そんな不気味さを感じた僕は、思わず口を開く。





「何故、あいつらがまだここに辿り着けていない......?」





あいつらに最後に念話をした理由、それは......、







───あの三人が、この集合場所に一番近かったから。




この小さな広場に聞き慣れた音楽が流れ始めたのは、次の瞬間だった。




☆☆☆




シャンシャンと鈴の音が聞こえ、それと同時に僕らの耳へと届いたその音色。


たしかにその音色に聞き覚えはあったが、僕はその音楽を知らなかった。





走れボッチよ 虫のように


人の波を 重く怠く


笑い声に 目を向ければ


仲いい男女が 視界に入るよ


ジングルベル ジングルベル 妬ましい


見ているだけで 殺意を覚える


ジングルベル ジングルベル 喧しい


男に女に 吐き捨てながら


ヒヒーン




そんな悲しくて哀しくて、もうなんと言っていいか分からないような。まるで僕の心情を表現しているのではないかと思ってしまえるような。そんな曲だった。最後の馬の鳴き声以外は非常に共感できた、非常に。


───ただ一つ、僕はそれを歌っている声にも聞き覚えがあった。



僕らは示し合わすことなく一斉に岩の影から飛び出し、戦闘態勢をとる。


目の前には虚ろな目をして頭に『リア充死ね、爆発しろ』とハチマキをした男女数名と一頭の馬の姿が。




───そう、行方不明になっていた、あいつらである。




「み、皆.......」



恭香の震えた声が聞こえたが、残念ながら今はそれどころではない。


ちっ、と珍しく舌打ちをした僕はアイツらの方をよく観察する。

虚ろな目をして最悪な歌を歌っているのは、白夜、暁穂、マックス、ネイル、それに藍月だ。外傷はなさそうだが、先ず間違いなくサタンクロスとやらに操られている。


もしもコイツらが全員が全員、僕らへと敵意を向け、攻撃するようなことがあれば......、先ず間違いなく僕らは全滅する。

僕が全盛期の頃ならば輝夜と協力してどうとでもなったのだろうが......、今の僕ではどうにも出来まい。



拳を血が滲むほどに握りしめた僕ではあったが、だがしかし、五人はいつになっても襲いかかってくる様子はなく、ただ例の歌の続きを熱唱しているのみ。



───どうやら最悪の事態は免れそ.........、あれ?



そう安心しかけたところで、僕は一つの疑問を覚えた。




『だから、相性さえ良ければ......、瞬殺できる、よ?』



そんなゼウスの言葉と、あいつら───特に白夜と暁穂の姿を見て、こう思った。





「......相性悪かったら、どうなる?」





───僕の空間支配に、何者かが侵入してきたのはその時だった。




明らかにここ一帯の魔物とは雰囲気が違う。


ゼウスの言う通り魔力も威圧感も僅かしか感じられず、かと言って人間でもなさそうだ。



一瞬でそこまで把握した僕は、その姿を確認する前にはその場を飛び退き、さらに距離をとる。他の正気な面々も僕に続いてそこから距離を置き、僕が見つめる木々の先を睨み据える。



「銀。君は全能神から何か聞いていないのか? EXランクが二人揃ってやられてしまうような魔物、私達では先ず相手にならないぞ?」


「その通りなのです......。輝夜ちゃんが居たとしても、今のギン様の怪我じゃ勝てないと思うのです」



浦町やオリビアもそう提言してくれるが、もしもそんな魔物がいたとしたら、そもそもここにいる時点で逃げ遅れているだろう。今から逃げるのは遅すぎる。



───それに、





「あいつらを見捨てて逃げるなんてかっこ悪いだろ?」




仮にも僕はアイツらの主様だ。従僕を見捨てて逃げてるようじゃ、いつまで経っても最強になんて至れまい。




僕はブラッディウェポンを取り出し、未だ姿を現さぬ聖獣サタンクロスとやらにこう言ってやった。








「サンタだかサタンだか知らないが、僕の仲間に手を出した罪、その身で贖ってもらうぞ、クソ野郎」





───珍しく、殺意を覚えている僕が居た。





☆☆☆





恐らく僕が相手に明確な殺意を持ったのは、件の水井幸之助の事件以来ではなかろうか?



あのクソッタレ───水井幸之助は僕へと依頼してきたあの女の子を自分の価値観に当てはめ、それに合致しないからと言って自らの正義に埋めて溺死させた。それで尚自分は悪くないと心の底から思っていたのだ。

───もし万が一、アイツがこの世界に来ていたらと思うとゾッとする。可能性としてはミラージュ聖国の偽勇者か。

まぁ、ないとは思うがそれでもその万が一があったならば、その時は僕が直々に会いに行って執行してやるまである。



だがしかし、僕が今怒りを向けるべきは水井ではない、クソッタレなサタン・サンタさんだ。



「さて、そろそろサンタなのかサタンなのかハッキリしてもらおうか?」



僕は左手の甲から腕にかけたタテゥーに意識を向け、握りしめたブラッディウェポンへとその力を移行させる。



「僕の血を吸え、ブラッディウェポン」



銀炎と共にブラッディウェポンへと血を送り込む。



───今回使用するのは、銃。



ガシャンガシャンと音をたててブラッディウェポンは一丁の銃へと姿を変えた。

その色合い浦町にさずけたキルズブラッドにも似ていたが、メカメカしい外見に、銃を纏う銀色のオーラがその違いを明確に指し示していた。


僕は左手の人差し指をその銃の引き金にかけると、その魔物がいる辺りに向かって照準を定める。


───今の僕の身体と僕自身の銃術を考えると当たるとは思えないが、相手のステータスを考えれば可能性は充分だろう。




「さっさと死んどけ、『銀の弾丸(シルバールドル)』」




瞬間、僕の構えた銃口から膨大な熱量を持つ銀色の光線が迸り、狙った場所を少し外れて木々を薙ぎ払う。


流石に的中とは行かなかったが、その銀色の炎は地面へと着弾するとともに、灰塵滅却と同様に標的のみを焼き払う銀炎をあたりへと撒き散らす。

───その銀炎は『銀の弾丸』の余波でしかないので通常の炎と同じ熱量でしか無く、通常の魔物には怯む程度の威力しか無いが、ことサタンクロスとやらに限ってはそうではない。




「確かステータスが成人男性と同レベルなんだろ? 炎が撒き散らされてなお森の中に隠れていられるかな?」



まるで僕のその声に応じたかのように、銀の光線が薙ぎ払った木々の隙間から赤い服が見えたのはちょうどその時だった。





────のだが、






汚らしい白い髭に、赤い帽子。


血走った瞳に、つり上がった眉。


そしてだらしなく緩んだ口と、そこから垂れる涎。



そう、見間違えるはずもないサンタさんである───がしかし、そのサンタさんは少し普通とは違っていた。



「いや、そもそもその時点で違くない?」



との恭香の提言は無視だ無視。



───何が違うかと聞かれればただ一つ、




『ちょっとー、このオジサン、ソリ引くのすんごい遅いんですけどー、マジ受けるわー』


『ははっ、それあるわー、まじ遅すぎ死ねや、まじ死ね。と言うかまじ笑える』


『っていうかー、何あの男の人ー。なんかダサくない? 童貞臭すぎてまじうけるんですけどー』


『あるわー、わかるわー。まじアイツ童貞。さっきのイケメンは知らんけどあいつは絶対童貞だろ。イケメンじゃねぇし』


『だよねー、全然モテなさそうだもんねー。それにさっきの変なのもあの男の人のせいでしょー?』


『はん、男の僻みはめんどくせぇからな、さっさとぶっ殺しちまおうぜ!』




───そのサンタさんは、豪華なそりに載った二人のリア充を引いていた、その一点に尽くせる。


加えて言うならそのリア充共が超絶ウザイ。僕が怒りを向けるべき矛先が一瞬にしてあちらにロックオンされたほどだ。



「一応しとくか......『鑑定』」





種族 サタンクロス

Lv. 999

HP 25

MP 5

STR 15

VIT 21

DEX 8

INT 1

MND 6

AGI 50

LUK 25


ユニーク

精神破壊(非リア限定)


アクティブ

集団行動Lv.3


パッシブ

気配察知Lv.1


称号

『聖獣』ウザイ恋人





それを見て僕は、やっと実感した。



「なるほど、相性ってそういう事か」と。



非リア───つまりは相方のいないぼっちである、マックスや暁穂、ネイルに藍月は精神破壊とやらで精神をやられ、あの歌を歌い続けるしか脳のない木偶人形と成り下がってしまったわけだ。白夜に関しては知らん、最近虐められてなかったから充実していなかったのだろうか?

ふと後ろを見れば、オリビアにアイギス、浦町が頭を抑えて痛そうにしていた。



.........あれっ、レオンと伽月は?



ふと疑問に思ってそちらを見ると、なにやら笑い合っている二人の姿が。




「ふむ、それでなのだがな? いい精肉店の店主と知り合いになったのである。そこの精肉は串肉にして食うのが最高なのであるからしてな......」


「ぐるぅぅ? ぐるっ、るぅ!」


「おお! 伽月も行きたいのであるか!?」


「ぐるぅぅぅ!」



なにやらとてもいい感じの雰囲気を醸し出してる二人を見て、僕は思わず恭香と輝夜に視線をやった。



「......え、二人とも知ってた?」



僕の言葉に頷く二人。



「私は全知の能力で知ってたし」


「我はソロモンの指輪で魔物とも会話可能なのでな。我らは恋愛相談を数回受けたこともあるぞ?」



───なんだか夜中に三人で『星が綺麗だな』みたいな顔して話してたのはその事だったんですね。盗み聞きしなくてよかった。

それにしてもソロモンの指輪か......、完全に存在忘れてたな。



僕は、「残り物はマックスだけだな、ざまぁみろ」とそんなことをしみじみと思うと同時に、なんか我が子が彼女を作ってきたみたいな、そんな感じの無性に嬉しい気持ちが込み上げてきて「もうこの閑話、これで終わっていいよね」と......、







───そう思う直前に、僕の超直感が警鐘を鳴らした。




翼を使うよりも早いだろうという考えから僕はとっさに恭香と輝夜を抱えると空気を踏みしめ、空中へと逃げ出す。


そうしてようやく僕の頭の中の警鐘がなりを潜め、静かな、それでいて妙に深刻な空気が僕の中に漂い始めた。




先程確認したサタンクロスの能力は間違いなく成人男性と同等───強いていえば素早さだけが四倍~五倍はあったが、それも僕からすれば誤差の範囲だ。




───ならば、あれほどの速度で僕へと突撃し、今レオンと伽月を殴り飛ばしたあの赤い服を着た魔物(サンタ)は......、一体何者なのだろうか?




「『鑑定』!」



今回僕が鑑定したのは、その魔物の後ろの方で怯えながら抱き合っているサタンクロスではなく、そのソリを引いていたサンタさんの方。



果たしてそこに現れたステータスとは......、






種族 サンタクロス

Lv. 999

HP 30

MP 20

STR 10

VIT 18

DEX 8

INT 10

MND 13

AGI 40

LUK 12


ユニーク

リア充キラー

全知無効


アクティブ

疾走Lv.2


パッシブ

危険察知Lv.4


称号

『聖獣』絶望の運び人 変異種





───間違いなく、ゼウスすら予期しなかったであろうイレギュラーであった。




サタンクロスの身体がブレ、僕たちの身体が地面に叩きつけられたのは、その数瞬後の事だった。





☆☆☆





僕の身体が雪の無い硬い地面へと叩きつけられ、それと同時にベクトル変化にて二人の衝撃を和らげようとしたがそれも焼け石に水、ほとんど威力を吸収することも叶わず彼女らの身体も地面へと叩きつけられる。


不幸中の幸い、僕が落ちた場所と違って二人が落ちたのは深い雪の上だったため、その衝撃で死ぬようなことはないだろう。



───だが、それもこれもこの魔物(サンタ)を倒さなければ意味がない。



僕は左手を地へ叩き付けるように突き立てると、そのまま無理矢理に立ち上がる。



しかし、目の前を見た途端、僕の歯の隙間からは恐怖の声が漏れ出た。



目の前には血走った瞳。


先程まで少し大柄だったと思っていたその身体はもう既に五メートル以上にまで成長し、僕の顔を覗きみるようにしてこちらを見るその赤い瞳には怒りと悲しみ、そして嫉妬の情が見て取れた。



「は、ははっ、......僕、リア充じゃないよ?」



咄嗟にそんなことを口にした僕ではあったが怒り狂ったサンタという名の非リアの化身には通用するわけもなく、サンタは悲しみに満ち溢れた雄叫びをあげると、その右拳で僕へと叩きつけの一撃をお見舞いする。



「グッ......ぐはぁっ.........」



そのあまりの速度に避けることも叶わず、僕の体はそのまま押しつぶされ、口の中で籠もった悲鳴が谺響する。


傷自体は一瞬で回復したのだが、痛みまではそうはいかない───少なくとも、身体を押しつぶされる痛みをなかったことに出来るほど僕は強くはないし、壊れてもいない。



僕はあまりの痛みに呻き、地面へと爪を立てる。


もう傷は治った。完治した


───だからこそ、その形のない傷は僕の魂へと治しようのない痛みを残してゆくのだ。



僕は大量の出血(・・・・・)により滑る地面の上で、滑るのを堪えて体勢を立て直し、ふと上を見上げる。



そこには先ほどと寸分違わず拳を振り上げるサンタが。





潰され、血を大量に失い、回復する。そしてまた潰される。


不老不死の吸血鬼であろうと、それを繰り返されたらどうなるか、そんなの馬鹿でも分かるだろう。





「クソッ......、死んだら恨むからな、狡知神」





僕が引き攣った顔でそう言うと同時にその拳は凶悪な速度で振り下ろされ、僕の身体を押し潰す








───その直前に、こんな声が聞こえてきた。







「ざーんねんっ、サンタさん。その人は面白そうだし殺させないよっ!」




ダダダッ、とサンタの腕に数本の矢が突き刺さり、そのまま腕ごと引きちぎる。




「......えっ?」




そんな僕の間抜けた声は、サンタの背後から聞こえた男女それぞれの断末魔によって掻き消された。



『ぐがぁぁぁっっ!? な、なんだよこれっ!? な、なぁ? た、助け......』


『キャーーーっっ!! ちょっと! こっち来ないでよっ!?』



男の体の至るところに先ほどのものと同じく矢が突き刺さっており、女が悲鳴をあげて男の側から逃げ出している。ざまぁみろ。



と、そうじゃなかった。



僕は見渡すと同時に空間把握も広げて辺りを捜索するが......、どうやらあたりにはいないらしい。少なくとも今広げている空間支配───十五キロ圏内には居ない。


ならば一体、さっきの声はどこから......、




「いよーっす! 君面白そうだねーっ! ユー、私と友達になってみないかい?」




その声と肩に置かれたその手に、ビクンと身体が固まる。


空間支配に映らず、更には先程視線で確認した時にも発見できず、そして今なお僕の肩に置かれた手が無ければその存在すら感知できない。


───それでいて、多分僕の後ろにいる人は、エルザのような隠蔽を使うようなタイプでないと直感的に分かってしまったのだから笑えない。




だってそれは、何もしていない素の状態でも、狡知神すら唸らせたエルザの隠蔽と同じだけのことを出来ている、ということなのだから。




僕は錆び付いたように動かない首を無理矢理にギギギっと動かし、その背後にいる人物を覗き見る。





果たしてそこにいたのは、ピンク色の髪をした赤い瞳を持つ女の人で、








「はっじめましてー! 私はエロース(・・・・)! 宜しくねっ、私の親友くん!」






───なるほど世界神とは、こういうぶっ飛んだ奴らの総称なのだろうと、そんなことを嫌でも実感させられた。






まぁ、こうして僕らのクリスマスは過ぎてゆく。




ただ唯一言えることは、こんなメリークリスマスを迎えた人間なんてのは、全ての世界を探しても僕らくらいなものだろう、ということだけである。


新たな登場人物、寵愛神エロースでした!

ちなみにゼウスよりは幾分弱いですが、それでも死神ちゃんを瞬殺できるくらいには化物ですね。


次回! エロースはどんな感じで物語に絡んでくるのでしょうか? お楽しみにっ!

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