メフィストフェレス。果たして彼は何者なのか?
まだまだ謎は深まるばかりです!
その役職とその姿、さらには名前にまで驚いていると、当の本人であるメフィストフェレスは両手を挙げてこんなことを言ってきた。
「まずはその『
その単語にビクッと反応して視線をスライドさせると、ゼウスの上に向けた掌の上には、バチバチと帯電する一つの物体が浮かんでいた。
中心には雷の概念そのものを凝縮し、閉じ込めたような圧倒的威圧感の黄金に輝く光の球体。
その光の球体を中心点として様々な大きさの円環が幾重にも重なって回転している。
縦に回転したり斜めに回転したり、はたまた横に回転したり、と様々な方向に回転し続けるその円環は、回転する度に中心から溢れ出る雷を受け、帯電し、徐々にその威圧感を上げてゆく。
───僕はそれに見覚えがあったし、なるほどメフィストフェレスが......
「ギン殿、と言いましたかな? メフィストで結構ですよ」
......メフィストが止めてくれと言うのも分かるだろう。
さり気なく心を読まれたが、大悪魔の序列二位で、それも悪戯好きで有名な悪魔メフィストフェレスならば、人の心を読むことなど容易いことであろう。
と、そう考えたところで僕がここへ来た目的がひとりでに喚き始めた。
「おいメフィスト! 貴様俺のことを助けに来たのであろうッ!? ならば今すぐ俺に仇なすこのゴミ共を殲滅しろッッ!!」
そのあまりにも傲慢でズレた意見に思わず、ぷっと吹き出してしまう。少なくとも助けられるヤツのセリフではなかろう。
その僕の嘲笑が聞こえたのか、ルシファーが今度はキッとこちらを睨み据えてくる。
「き、貴様ァァァッ!! 蚊虫の分際でこの大悪魔である俺を笑うなど万死に値するッ!! 貴様ら纏めて殺してやるッッ!!」
瞬間、ルシファーの身体からとてつもない量の威圧感が吹き出し、地下室を吹き抜ける。
『傲慢の罪』、確か傲慢であればあるほど強くなる類の能力だったか。
そう思い出すとともに今の逆境とアイツの言い分を思い出す。
───なるほど、瀕死の重傷で世界最強......かは怪しくなってきたが、ゼウスにEXランク冒険者二名(+僕)を殺そうとしているのならば、それはとてつもない傲慢な考えであろう。
その威圧感は間違いなく死神ちゃんと戦った時以上のもので、流石に今のルシファーを沈めるのは死神ちゃんでも骨が折れるだろう。
ならば、と僕はゼウスへと視線を向けようとした......、
───その時だった。
「おいルシファー。貴様私を呼び捨てにしたな?」
ドスゥ、と鈍い音が響き、ルシファーがその場にくずおれる。
見れば先程までルシファーの隣にいたメフィストがパンパンと手を払ってルシファーをその冷たい瞳で見下ろしているところであった。
───が、一体何が起こったというのだろうか?
少なくとも僕には全然見えなかったし、横目で死神ちゃんと獣王の顔を覗き見たところ、二人共僕と同じような状態だったことからも、このメフィストの異常さが伺える。
少なくとも、僕はもちろん死神ちゃんや獣王であっても、こいつを前にすれば皆が皆赤子以下の虫ケラなのであろう。
───このメフィストフェレスという悪魔は、最高神のトップたちでなければ対処が出来ないのだろう、と僕は半ば確信した。
道理でその姿を視認した瞬間にゼウスが雷霆を召喚したわけだ。
「全く、貴方のような馬鹿な弱者が
メフィストはそう言うと、まるで何事も無かったかのように振り返って笑顔を見せた。
「この度は皆様にお見苦しいものを見せてしまい、誠に申し訳ありませんでした。彼にはきちんと教育を施した後にまた放流致しますのでどうぞその度はまたぶっ殺してしまって下さい」
───それと、とメフィストは続けた。
「全能神殿、もしもここで私と貴女が戦えば、私は間違いなくギン殿と死神殿は道連れにします。その意味、お分かりですよね?」
それにぐっと言葉を詰まらせるゼウス───しかし雷霆は解除せず、未だ戦闘態勢だ。
ゼウスのメフィストを見たときの驚きようから察するに、恐らくはゼウスでもメフィストという悪魔の行動は読めない......、いや、幾重にも貼られた偽物や隠蔽に惑わされて読み切れないのだろう。
もちろん僕でもわかることをメフィストが分からないはずもなく、彼はパチンッ、と指を鳴らすと掌を上にして指先をゼウスへと向けた。
───それは「それではもう一度どうぞ」とでも言っているかのようで、横目で見たゼウスの目が限界まで見開かれていた。
「私達と......戦う気が、無い?」
「その通りです! 流石は全知全能の神様ですね」
まるでよく出来た子供を褒めるかのようにパチパチと拍手をするメフィスト。
───ど、どうなってるんだ?
僕はそれらを見て、そう思わざるを得なかった。
ゼウスは最高神の頂点、つまりは世界神とやらを除いた全生物の頂点に立つ者だ。
メフィストも、ゼウスに勝つ、と言わなかったところからゼウスよりも力が劣ると判断できるが......、それでもこの現状は、異常そのものだ。
───本気の全知全能の神がおちょくられるなんて、一体誰が想像できようか?
ゼウスはもう一度メフィストを睨み、それでもなお変わらぬ事実にため息をついた。
「ダメ......。この悪魔、本当に戦う気が無いみたい。それに不意打ちもする気無し、......単純に、私達とお話するために、ここまで来たみたい......。ルシファーはオマケ?」
どうやら本当に戦う気は無いらしい。
しかもルシファーはオマケときた。そりゃオマケにメインを邪魔されたら怒るのも
.........仕方ない?
と、ここで僕は、ちょっとした違和感に襲われた。
───何故僕はこの悪魔のことを疑えないんだ? と。
「クハハッ、やはり
───一体コイツは何を......、
と、そう考えたところでメフィストは懐から
「おいっ、今僕利き腕ないんだからこんな貴重品、投げて寄越すなよな!?」
「これは失礼致しました。あまり近づき過ぎるとお隣の麗人に殺されかねないのでこういう手段を取らせていただきました」
僕は咄嗟にエアロックを発動して
───確かにこれは、殺されそうだ。
と、そんなことを考えたところで、メフィストの口から衝撃の事実が発表された。
「実は私、あまり混沌に対して忠誠を誓っておりません」
「「「「.........えっ?」」」」
その言葉に思わず目を見開く僕達。
「正直言って、混沌って見てて気持ち悪いんですよね。ギン殿なら分かりますでしょう?」
「え? あ、はい」
いきなり話を振られて敬語になる僕。
「私は......そうですね。お宅の狡知神様と同じようなものだと思ってくだされば良いですね。つまらない者は寄せ付けず、面白く興味の湧く者に付き従う。何も無い人生よりも、何かしでかすような賭けのある人生を。善良ではなくスリルのある悪事を」
───未来のない混沌より、未来の見えぬ吸血鬼を。
と、そこまで言ってメフィストは僕の持つコレを指さした。
「まぁ、教えるまでもない......、と言うか貴方の方が詳しいでしょうが、
そう言ってメフィストは楽しげに笑う。
色々と聞きたいことだらけだし、納得の出来ないこともかなり多い。
───けれど、やっぱり僕は、何故だかコイツが嫌いになれない。
「クハハッ、私もです。貴方はやはり面白い」
「お前は何も面白くないけどな、メフィストフェレス」
「それはお厳しい、次に会う時までにネタの一つでも仕込んでおきましょうか」
メフィストはそう言うと、倒れて白目をむいているルシファーを担ぎ直し、僕らへと振り返った。
「それではごきげんよう、皆様方。何か私に用がある場合にはスマホに連絡先を入れておきましたのでそこからご利用くださいませ」
そう言ってメフィストは一度お辞儀をし、
「先程、私は狡知神殿に似ているとは言いましたが......」
───私はつまらない者は容赦なく裏切れますので、そのおつもりで。
暗に「貴方は楽しい方で居られますように」と言って、
彼は笑い声をその場に残して闇へと消えていった。
☆☆☆
うーん、といういかにも悩んでますよ、とでも言いたげな声を出し、僕らは帝城の客室のソファーに腰を下ろし、机に置かれた一つの物体を見おろしていた。
黒塗りのボディに、これまたお優しく鐘倉家の家紋が背に彫られた例のブツ───そう、スマホである。
あの後もしかしたら何かあるのかなーっと警戒していたが、結局メフィストはそのまま帰ってこず、なんだか馬鹿らしくなった僕らは、のこのこと、とぼとぼと、まんまとルシファーを奪われて帰ってきたのだ。
今回はメフィストフェレスという規格外な化け物───それこそゼウスから正体や力量を隠せるようなジョーカーが現れたせいなのだが、やはりゼウスの落ち込み様は酷く、今も尚しょんぼりしている。
───これはまた、添い寝をしてやらないといけないかな?
そんなことを冗談めかして思った瞬間にゼウスがキラキラした目でこちらを見つめてきた為、なんだかなぁという気持ちで目を逸らす。
やっぱり僕には、女心は分からないよ。男だし。
と、僕は目を逸らした先にあった黒いスマホを手に取る。
「流石に警戒しっぱなしってわけにもいかないし......、お試しってことで電源つけてみていいか? ゼウス、メフィストには悪意は無かったんだろ?」
ごく稀に悪意すら持たずに悪意に満ちた言動を取れる悪魔のような人もいるが、メフィストはそういう類の悪魔ではないだろうし、なによりそんな事しなくても隠蔽できる。
「うん、そうだね。......メフィストは、いつもはごちゃごちゃしてて何が本当か分からないけど、あの時は......数カ所を除いてすべて見通せた。あれは間違いなく本物だし......、それがメフィストの上にいる人の指示、って言うもの、本当。悪意はない......よ?」
普段よりも幾分か自信のあるその声に、そこに疑いの余地はないのだろうと実感できた。
「そ、それじゃあ電源、付けるぞ?」
ゴクリ、と音が聞こえ、僕の指がそのスマホの横に設置されている電源ボタンへと近づく。
───そして、
ブブブブッ、ブブブブッ!
「うわぁっ!?」
つけようとした途端にバイブレーションが作動し、僕は思わずそのスマホを空中へと放ってしまう。
運良くその先に座っていた獣王が「ど、どうすれば」みたいな表情でそれをキャッチしてくれたが、完全破壊不能とはいえども獣王がスマホを持つ姿はあまりにも危なっかしい。
それは獣王も承知なのか、同じ日本からやってきた人物である死神ちゃんにスマホを渡したはいいが、一体死神ちゃんがいつの時代からこちらの世界に来たのかは分からないが、それでも彼女はガラケー世代だ。スマホなど使えるわけもない。
オロオロした死神ちゃんはそれをそのままゼウスへ横流しにする。
そしてゼウスは画面を見て「ん?」と言って疑問に眉を顰めた後にそのスマホを「はい」と僕へを渡してきた。
果たして、ゼウスは一体何に疑問を抱いたのであろうか?
そうして僕はゼウスからスマホを受け取り、その画面を目にする。
そこにはたった一文、こう書かれていた。
『ギン=クラッシュベルが加護を受け取りました!』
「.........はい?」
僕の声が、静かなその部屋に谺響した。
なんとなんと、スマホゲットです!
これでやっと『死んだと思ってたらスマホでガードできてた』なんて技が使えるようになりましたね、多分ないと思いますけど。
次回! やっと帝国編の本編ラストです!
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