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今回はまだウイラムくんとの戦闘と自分語りですね。

第三章 帝国編
第151話

ついさっき、白夜は『力を測り間違えている』と言った。


実際に怒れる獣王の姿を見てそれは本当だったなと賛同した僕だったが、もしかしたらそれすらも僕は間違えていたのかもしれない。


───"間違えていたことを間違えた"だなんて、男子中学生あたりが好きそうなフレーズだなと思いはしたが、案外そのフレーズを気に入っている僕は、輝夜あたりと話が合うのかもしれない。




閑話休題。




それで何が言いたいかと聞かれれば、僕はどんな方向に測り間違えていたか、ということに他ならない。



例を挙げて話してみよう。



例えば......そうだな、僕と輝夜が戦った一昨日の夜......と言うか昨日の朝か? よく分からないけれどあの戦いを思い出してほしい。


簡単に言えば、輝夜は『冥府の門(ヘルズゲート)』を使用し僕を追い詰め、僕は最終的に『悪鬼羅刹』を使ってそれらを一掃した、とまぁこんなあらすじだ。



───だが少し、ここで待ったをかけてみて欲しい。



まず、僕と輝夜、どちらがステータス的に勝っている? と聞かれれば殆どの人が僕を選ぶだろう。


『冥府の門』はチートですか? と聞かれればそれも間違いなく殆どの人が両手をあげるだろう。


ついでに『悪鬼羅刹』とか『エナジードレイン』とか何なんだよ、そろそろ正体明かしてもいいんじゃねぇか? って思う人ー、って言っても殆どの人が両手どころか両足もあげるだろう。いや、あげないか。



だがしかし、悪鬼羅刹を抜かしたとしても僕の他の能力を総合して考えて、それが『冥府の門』に劣っているか? と聞かれれば、皆はどう答えるだろうか?




────答えはきっと、否である。




あの時は『正義執行』が使えなかったというのもあるが、それでも『神影』『空間支配』『妖魔眼』『風神雷神』『エナジードレイン』等のユニークスキルにグレイプニルにアダマスの大鎌、更には神器である『炎十字(クロスファイア)』と言ったストックもあった。



───今考えれば、勝ち筋なんていくらでもあるのだ。



だがしかし、その時の僕にはその術は思い浮かべられなかったし、しようとも思えなかった。




それは何故か。




今思えば、恭香や白夜、それに他の面々もそれに気づいていたのかもしれない。だからこそ彼女らは『力を測り間違えている』と僕に物申し、僕のことをよく知らないレックスもそれを否定しなかった。



今の今まで、ずっと意味がわからなかった、その理由。





今になってやっと、僕もその理由が分かった気がした。







「というわけでウイラム君、君には僕の実験台になってもらう」



先に言っとくけど、ご愁傷様。と僕は右手でウザったらしくごめんっ、とすると、ウイラムがとっても純粋で素敵な笑顔を浮かべて額に青筋を浮かべた。なぜだ?



「よし、テメェはやっぱりぶっ殺すッッ!!」



───挑発したからですよねぇ、はい分かってますとも。


ウイラム君は僕がウダウダしている間にそのどす黒く魔力で応急手当をして固定したその右足で地を蹴り、とてつもない速度でこちらへと襲いかかってくる───一言伝えるならば、目が血走ってて気持ち悪い。


何故魔力で身体の応急手当なんて出来るのかと聞きたいし、横目で見た魔力が意志を持って動いている姿、更にはウイラム君の後に誰が控えているのかを聞き出したいところだったが、それはまずこの傲慢王子を黙らせた後でも遅くはあるまい。


───最悪その黒幕が出てきたとしてもここには頼りになるレックスが居るのだ。更に僕に白夜たちまで控えているのだからその黒幕も易々と僕らに接触は出来ないだろう。



そこまで考えたところでウイラム君がすぐそこまで迫っていることに気がついた。



レックスからの依頼の内容を思い出す。


といっても、彼からの依頼内容は、たったの一言であった。







「これより執行を開始する」






───このどら息子を生きて捕らえること。





さぁ、折角だから気分良く軽快にぶっ飛ばそうか!






☆☆☆





ウイラム君の勢いの乗った右ストレートが僕の頭のすぐ上を通過する。


彼は僕の想定以上に僕のことを舐めていたのか、僕が何の強化もなしに悠々とその一撃を躱したことに目を限界まで見開いていた───こいつも失礼な奴だな。



硬直は一瞬、彼は気を取り直して大振りではなくコンパクトな連撃を放ってくる。


アックスのようなボクサースタイルではなく、どちらかと言えばエルグリッドのような型を持たない自由な拳闘術。

右ストレートが来れば今度はアッパー......、と見せかけての回し蹴りや膝蹴り等の足技まで合間に入れてくる。


その上それらの攻撃には件の気持ちの悪い魔力が乗っているのだ。



レックスなら恐らくはコレの正体にも気づいている───いや、過去に見て、見知っているのだろう。伊達にエルザの仲間をやっていた訳では無いだろうしな。


だからこそ獣王は、ウイラム君に気付かれてこの魔力による防御を受ける前に一撃で沈めるつもりだった。



───何より、アレに触れようとしなかった。



だが、その能力を知っていたからこそレックスは、仕留めようとしたその一撃を途中で中断して拳を引かなければならず、結果としてウイラム君の怪我が『まだ動ける』という状態で留まってしまった。


格闘戦ならば間違いなく最高神クラスのあの獣王でさえ触れることすら、近づくことすら危険視する魔力。そして夢で見た幼少期の僕の───身体の部位がまるごと消滅した、あの姿。



恐らくはあの魔力は触れるだけでその対象の存在を、概念を奪う類の能力を持っている。......そう考えると厄介なことこの上ないな、おい。


まぁ簡単言えば、"触れるな危険、身体が消えるぞ、って言う薬品を身体中に塗りたくって襲ってくるその薬品のワクチンを摂取した人外"、だと思えばいいわけだ。......なお分かりにくいかな?



そんなことを考えながら、僕は並行してウイラム君の攻撃をすいすいっと躱してゆく。


ウイラム君の攻撃にはもちろん、その身体から発せられる黒い魔力の靄にすら触れることは許されず、フェイントに足さばき、更には視線や表情まで使って完全に相手を騙して誘導し、躱しきる。


───もちろん騙した度に「やってやったぜ」とばかりのドヤ顔を見せつけて挑発するのも忘れはしない。




「こんッのクソがァァァァァッッッ!! 死ねっ死ねっ死ねっ!! さっきから俺のことバカにしやがってッッッ!! 絶ッ対にぶっ殺すッ!!」



挑発される度に頭へと血が上り、次第にその動きは単純になってゆき、攻撃も見え見えの大振りとなってゆく。


───もうここまで来てしまえば、この一ヶ月間、エルグリッドの自主練を見てその動きを目に焼き付けてきた僕にとって、誘導するまでもなく先を読むことは容易いことだった。




狡知神お墨付きの、詐欺師の才能。


創造神お墨付きの、人を馬鹿にして怒らせる才能。


理の教本お墨付きの、僕の体術の圧倒的な才能。


全能神お墨付きの、僕の集中力。



僕の持ちうる全ての技能を用いて、彼を毒の底なし沼へと誘導し、足首までどっぷりとその沼へと浸からせる。

相手が罠に仕掛けられたことに気づき、更には僕まで罠にかかっていることに気づいてほくそ笑んだところで、僕は悠々と翼で沼を脱出する。


───そして最期に一言、こう言うのだ。




「ん? お前誰だっけ?」と。




まぁ、イメージとしてはこんな感じだ。




───一分の反撃の隙も与えず、完全に、完璧に、木っ端微塵に叩き潰す。それが肉体だろうと精神だろうと、器だろうと魂だろうと関係ない。




それは僕の向こうでの(・・・・・)本来の戦い方であり、それは討論でも医療でもゲームでも、ましてや殺し合いでも有効だ。


僕は今の今までその方法を取ってきたか? と聞かれれば間違いなく首を縦に振ることだろう。




───だが、全力を出し切って来たか、と聞かれれば、今の僕はきっと首を横に振るだろう。





"相手は僕よりも強い"



そう考えるようになったのはいつからだろうか?




"僕は凡才で相手は天才だ。負けて当然だ"



そう諦めるようになったのはいつからだろうか?





────僕が自分に、自信を無くしたのはいつからだろうか?




ふと、そんなことを考えた。



僕はそんなことを無意識下に考えていたのだろう。だからこそ勝てっこないのが普通だと考え、半ば諦めてしまっていた。


それはきっと、僕の始まりとも言えるダンジョン内での格上達との連戦の影響だろうし、死神ちゃんもそれを見越して『勝つことが正義だ』と僕に言ったのだろう。



───だがしかし、最高神の一角である狡知神ロキとの邂逅までは死神ちゃんとしても想定外だった。



ロキは『それは他人の言葉だ』と死神ちゃんの言葉を一蹴し、自身の正義というものを僕に考えさせた。


更に、その後に訪れた正真正銘の化け物と呼ぶにふさわしい、バハムートを始めとしたエルザや獣王───EXランク冒険者たちとの邂逅、更には圧倒的才能を秘めた天魔族との邂逅まで重なり、僕の中で何かが瓦解した。




その時からだろう、僕の中で勝利が絶対ではなくなったのは。




世の中にはいくら頑張ったところで、奇跡を起こしたところで、尚届かない化物たちが平然と暮らしている。




相手は格上、負けるのは当然、それをどう覆すか。



相手は天才だ。僕の方が明らかに劣っている。



そもそも勝てるわけがない。これは負けてもいい(・・・・・・)試合だ。




僕は無意識に、そう考えるようになってしまった。





───きっと、僕が間違えたのはそこなのだ。




そこで僕は道を踏み違え、踏み外した。




そして、彼女らはその道を踏み外さず、僕の手を引いて、再びその道へと引き戻してくれた。




単純に言えばそれだけの事。




たったそれだけの事がたまらなく嬉しくて、それだけでも満足してしまえるような、そんな単純で愚かな僕だけれど。





───僕はきっと、この失敗を忘れはしないだろうし、彼女たちへの恩も、きっと忘れはしないだろう。






一瞬、それは一度瞬きをする間だったのだろう。



僕は、ウイラム君の右の腹を覆う魔力が、一瞬だけ疎かになったのを見逃しはしなかった。






「フッッ!」




瞬間、僕は先程のレックスの動きを自らの身体へとトレースし、寸分違わず同じ軌道で右のフックを打ちこみ、ウイラム君の身体がくの字に折れ曲がる。


次の瞬間には件の魔力が僕の拳へと迫ってきたので咄嗟に拳を戻した僕ではあったが、それでも僕が今の攻撃で与えたダメージは計り知れないだろう。



───なにせ、さっき獣王の攻撃を受けた所を全く同じ場所を狙ったからな。



拳を引くと同時に、ウイラム君は声にならない悲鳴をあげて吹き飛ばされる。

流石にレックス同様壁まで吹き飛ばせるなんてことは出来なかったが、それでも十分な結果だろう。




───ブーストを一切使っていない(・・・・・・)、素の僕の力なのだから。




目を見開いている白夜に、きっと同じような状態であるであろう恭香。


更には逃げようとして選手用の出入口までたどり着いたはいいが、こちらを振り返って固まっている久瀬。


また、ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべて仁王立ちする獣王。


そして、横腹を押さえて蹲る(・・)ウイラム君。




彼ら彼女らからの視線を感じながら、僕の中で新しい何かが組みあがった。



それは"自信"や"勇気"といった類の胸焼けがしそうなほど正義地味た気持ちの悪くて悍ましい何かなのだろうし、それはどんな人にも少なからずあるものなのだろう。



だからこそ僕はそれについては触れないし考えない。


そんなことをする必要もなく、ソレは僕へと小さな───それでいて人生を丸ごと変えてしまえるような、良くも悪くも大きな変化を与えてくれる。




果たしてソレは、今の僕にどんな影響を与えてくれたのか。


今回に関してはそれは明らかであろう。







相手が格上で、勝てはしないと思い込むということは、



───それは同時に、無意識下に自身の力まで制限(・・)してしまうことに他ならない。






「『病は気から』とは言うけれど、気の持ち様だけでも結構強くなれるのかもしれないな?」





そう、僕は言って立ち上がろうともがいているウイラム君へと視線を向け......、




「その痛み止めにも限界(・・)があるみたいだな? ねぇ、ウイラム君?」




そう、満面の笑みで言ってやった。




───残念ながら、彼の僕を見つめる瞳には、もう『嘲笑』なんて感情は浮かんでいなかった。



ギン君は完全に目が覚めたようですね。

※今のウイラムくんはステータスだけならギンより少し下といった感じです。頭脳も体術もギンの方が上なので素でも余裕......ではないですが勝ってます。


次回、急展開!?

黒幕は一体誰なんでしょうか?

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