やはり設定が酷いようです......。
小説書くのって難しいですね。
さて、今回からシリアス分多め......かも知れません。前章でいうVSフェンリルと同じくらいには強いかも......?
という訳で本編をどうぞ!
ひゅう、と世界樹の切り株から吹くからっ風が僕らを襲い、ドス黒く曇っている空からゴロゴロと危険な音が聞こえる。
客席は満員で、それぞれの体温が集まって暖かくなっているかもしれないが、ぎっちり詰めたら六千人も収容できるこのステージはそうはいかず、先程から冷たい風が服の上から吹き付け、僕の体温を奪ってゆく。
まぁ、手袋やら仮面やらで風が直接当たらないのが唯一の救いだろうか?
......って言うかなんでこんな日に武闘会なんて開催してるんだ? と、そんな疑問が僕の頭を過ぎる。
こんな天気でなお決行されたこの武闘会に少し引き、この武闘会を開催したテンションMAXな獣人たちにドン引きした。
───正直言って、もう帰りたい。
まぁ、雨が降っていないだけ良かったと思うしかないか。
僕は『雨降ったら試合中断になるかもな』と空を仰ぎ見るが、バチバチと帯電する黒い雲ばかりが視界に映り、何故だか雨の様子は見られない。
それを少し残念に思い、はぁ、と溜息をこぼす。
───と、そこで僕の対戦相手から声がかかった。
「はぁ......、さっきから何やってんだ、手品師」
そう、我らが主人公、久瀬くんである。
最近は主人公主人公していないためか『あれ? マックスやアーマー君の方が主人公っぽくね?』とかも思い始めてきたが、本来の彼はこんなものではないのだ。
洞察力は高く、身体能力も僕よりも高い。
それでいて妙に効率的で、目標への必死に突き進む。
そんな久瀬が......、
───少なくとも、シル=ブラッドの正体が分からないなんて、そんなことはありえない。
「......いつまで茶番をするつもりだ? 久瀬竜馬」
僕は演技を止めて素の口調で久瀬へと話しかけると、久瀬の苦笑いがピクリと引き攣る。
それは明らかに、知っている者の反応だった。
彼は少しして、はぁ、と溜息をこぼすと、
「何が茶番だよ、お前に合わせてやってた俺にもっと別に言うことがあるんじゃねぇか? ギン=クラッシュベル......だっけか? 今の名前は」
そう、呆れたような顔で言ってくる。
やっぱりコイツは僕の正体に気づいていたらしい。
コイツのことを考えれば、浦町が僕の正体に気づいた少し後くらいには気づいていたのだろう。
───浦町は常に僕の脳波拾ってるから誤魔化しようがないと考えると、実質一番最初と言っても過言ではない。
まぁ、そうでなければ再会した時にあんなに落ち着いては居なかったろう。
それにしても流石はthe主人公な久瀬くんだ。だいたいテンプレ通りに進行してくれる。
そう考え仮面の下で少し笑ってしまう。
「お前なら僕がそんな些細なことでお礼をする程、人が良いわけじゃないって分かってんだろ?」
「まぁな。俺も元々そんなことは求めちゃいねぇし、お前の正体なんざばらす気もねぇ。さらに言えば誰かに聞かれても話す気もねぇ」
そう言って久瀬は腰に差した刀へと右手を添える。
───それはいつか
「俺にとって今一番大切なのはお前
───冥王に執行者、こんな機会逃してたまるかよ。と久瀬は不敵な笑みを浮べた。
はぁ......、やっぱりお前、最高にカッコいいよ。
そう思うと同時に、やっぱり僕は久瀬に憧れた。
憧れ、期待し......、少し恐怖した。
───いずれコイツは、僕の事を悠々と超えてゆくのではないか、と。
もしかしたら久瀬の才能はそれを可能にするのかもしれないし、彼自身の努力によってはそれも充分に現実可能だろう。
多分、僕はあと数年もしない内に久瀬に追いつかれるだろう。それは僕がいくら修行を積んだとしても変わりはないだろうし、逆に僕が成長しなければその期間が縮まるだけだ。
きっと。きっと彼が僕に追いつく日はやって来る。
「久瀬、最初に言っておくぞ?」
いつかは、僕よりもコイツの方が強くなるのかもしれない。
その日は遠くなく、ほぼ確定した未来なのかもしれない。
───けれど、それは今日じゃない。
「今はお前より僕の方が強い。それも圧倒的にな」
僕は凡才でお前は天才なのかもしれない。
僕は村人Bでお前は主人公なのかもしれない。
僕は最強へは至れず、お前は最強へと至るのかもしれない。
───だけど、少なくとも今この時点で、僕がコイツに勝ちを譲る必要性なんざ、あるわけもない。
「格の違いってのを見せてやる。せいぜい足掻けよ、ラノベ主人公」
それに対して久瀬からの返答はなく、彼の顔には僕と同じように、楽しそうな笑みが浮かんでいた。
僕はステッキをアイテムボックスから取り出し、シルクハットへと左手を添える。
久瀬は右手で刀の柄を持ち、ふぅ、と息をついて脱力している。
傍から見れば戦闘準備万全とは言いづらいのだろうが、不思議と僕らの間には張り詰めた緊張感が漂い、それを見ている客席からも音はなかった。
───そして、遂にその時はやって来る。
『そ、それではッ! 第六回戦開始です!!』
瞬間、僕達の間から笑みは消え失せ、緊張すらも消え失せて、ピリピリと肌に突き刺さる視線が交差する。
久瀬は、こちらへと踏み込むと同時に刀を抜き放ち、僕へと一閃する。
僕の身体からは魔力が吹き出し、久瀬の刀を黒塗りステッキで受け止める。
───その、直前のことだった。
「ふん、この雑魚共が」
僕の目の前に突如現れた
☆☆☆
「かハッ......」
ここ最近くらった覚えもないようなかなりの衝撃が僕の身体を襲った。
僕が『器耐性』のスキルを付与した仮面は粉々に砕かれ、それでも尚威力の衰えないその拳によって......恐らくは鼻と頭蓋も複雑骨折だろう。更には叩きつけられた時にほかの骨も逝ったのか、背中や足にまで痛みが回ってくる。
───まぁ、痛みだけで傷はもう完治したのだが。
「ってーなおい......、これが噂に聞く反抗期真っ盛りって奴なのかね?」
「......そんな冗談言えるなら大丈夫そうだね?」
その声がした方向に視線を向けると、恭香、白夜、輝夜、暁穂、レオンがステージまで降りてきていた。
───流石に騎士組と年少組、もちろん勇者達も置いてきたようだ。
「でもまぁ、英断だろうな」
僕はそう言うと立ち上がり、仮面の予備を取り出し装着すると、生意気にも僕にまともな攻撃を当てたその元凶へと視線を向ける。
そこにはその元凶と、元凶を警戒して少し距離を取りつつある久瀬の姿が。
その元凶は真っ直ぐにこちらを睨み据えており、その瞳からは真っ赤に燃え盛る憤怒の情が読み取れる。
一つ、先日の彼と違う点を言えば、その背中から生えた───気持ち悪くなるような魔力を発する、
それはダーインスレイヴとは正反対の黒い魔力を発していた。
ダーインスレイヴの魔力は黒く、黒く、黒く澄み渡った純粋な漆黒色だ。
それに比べてあの翼は、ありとあらゆる絵の具をグチャグチャに混ぜ合わせた様な、狂気しか感じられないようなどす黒い漆黒色。しかもその絵の具は、怒り、嫉妬、悲しみ、絶望、殺意、羨望、後悔と言ったそんな負の感情で出来ている。そんな近くにいるだけで気が狂いそうになる気味の悪い魔力だ。
───なるほど、僕が今朝から感じてた嫌な予感は、コイツのせいか。
先ほどの攻撃であの魔力を食らわなかったこと───いや、ウイラム君が僕を舐めていたことに感謝すべきだろう。
『な、な、なな、なんということでしょう!? 突如乱入した第一王子ウイラム様が冥王シル=ブラッド選手を吹き飛ばしたぁぁぁっ!? こ、これってもしかしてサプライズ......じゃないですよね?』
『......これは少し不味そうですね。皆さん! 会場中に設置されております非常口から避難をお願いします! これは訓練や冗談ではありません! 焦らず着々と避難してください!』
アルフレッドも今のウイラム君の危険度を察知したのかいち早く避難を促す。
貴賓席を見れば激昴した獣王レックスと、冷静ではないレックスの代わりに他の賓客たちを避難させているエルグリッドの姿が。
客席を見れば、ぽかんとした人達がほぼ全員で、今現在動けているのは勇者たちを中心とした冒険者たちのみだ。
───これは少し、
「輝夜、暁穂は騎士組やネイル、勇者たち、僕の影分身と一緒に避難を手伝え。白夜は久瀬の救助、後に僕のサポートだ。完全竜化はするなよ? 恭香は本モードで白夜のサポート。鎖魔法をメインで防御に主を置け」
僕が滅多に使わない主としての『命令』と、先程の僕への攻撃、更には例の翼を見て事の重大さを把握したのか、輝夜と暁穂は「了解」と言い残して客席へと向かい、恭香が理の教本へと戻り鎖を白夜の腰へ巻き付かせる。白夜は両手両足を竜化させて戦闘態勢だ。
「恭香、アイツの一時間前の様子は?」
『うーん......、ダメだね。まだベッドで気絶してるよ。たぶんこの後に目が覚めて何かが起きたんだろうけど......、あんな状態、私でも知らないよ......』
......逆に言えば "恭香の全知(仮)でも知りえないトップシークレットな何かが恭香の能力を鑑みてこの一時間でウイラムに何らかの処置を施した" って所か。ついでに言えば僕の正体までバラした、と。
「なるほど、その黒幕は多分とんでもない化物だな」
『そうだねぇ......、私が知らない現象なんてライオネルの誕生の仕方くらいのものだと思ってたよ』
まぁ、恭香を創った
「よう分からんが、彼奴に力を与えた黒幕ならまだしも彼奴自身ならばどうにでもなるじゃろ? のう、主様よ?」
『まぁ、ギンが本気出せばあんなの瞬殺だよ、瞬殺』
......ねぇ君たち? もう少し僕への信頼度を下げてくれても構いませんよ?
って言うかよく見ろよアレを。今のウイラム君、正直言って全然正気には見えないぞ? なんか目とか血走ってるし鼻息も荒くて───まるで瀕死状態の白夜だな。気持ち悪い。
って、そうじゃなくて。
「言っとくけど結構ギリギリの勝負になると思うぞ? 負けたり死んだりはしないとは思うけど.........え、何?」
僕は話している途中で白夜が呆れたような顔でこっちを見ていることに気がついた。恭香は本だから分からないけれど、それでもきっと同じような顔なのだろう。
「前から思ってたのじゃが、主様は自分の力を測り間違えておるぞ?」
『ほんとにそうなんだよねー、実際に本気出せば今のウイラムだって瞬殺出来る癖に何言ってるんだか』
いや、まぁ確かにエナジードレインと悪鬼羅刹使っていいなら文字通りの瞬殺も可能なんだけどさ。
「......と言うか、なんかヤバそうな魔力出てるけどエナジードレインなんて使って大丈夫なのか? 多分こっちが死ぬぞ?」
『あっ、そう言えばそうだね......』
「そのエナジードレインとやらが何かは知らぬが、直接触れるのはよした方がよさそうじゃな」
とそんなことを話していると、一人だけ仲間はずれにされたのが寂しくて我慢出来なかったのか、元凶であるウイラム君が弱々しい声で話しかけて......、
「おいテメェらっ!! さっきから何ゴチャゴチャ話し込んでんだ!? 俺様に殴られた傷が響いて動けねぇか? ハッハッハ! そんな弱っちぃガキはお家に帰ってママにでも甘えてるんだなァ! ハッハッハッハッハッッ!!」
残念ながら、僕はその言葉に返事をすることが出来なかった。
───何故ならば、
(ちょ、彼は何言ってるんだ? 殴られた傷? プークスクスッ、どこにそんな傷が見えるってんだよ(大爆笑)。それとも僕って弱ってるように見える? って言うか帰っていいんですか?)
(ぷっ......。な、何だか一周まわって可哀想になってきたね)
(カカッ! あれぞ負け犬の遠吠え、って奴なのじゃな!)
───ウイラム君の"最初にギルドで絡んでくる三流冒険者"みたいなド下手な挑発に、内心大爆笑していたからだ。
なんだか身体中からラスボスっぽいオーラを放っているというのに、本人が幼すぎる(主に精神年齢)というだけで『大人ぶってるガキ』にしか見えなくなってしまった。
「......どうする?」
「......どうしよっか?」
「......どうするかのぅ?」
未だ稚拙な罵詈雑言を喚き散らしているウイラム君と、コソコソと逃げ出した久瀬を見ながら、僕らはこの後どうしようかと考え......、
───彼の背後に、怒り狂った巨体が姿を現したのは、ちょうどその時だった。
あちゃー、出てきちゃいましたねウイラム君。
せめて試合終わってからにしてもらえなかったものか......。こういうのをKYというのでしょうね。
さて、次回! 怒れる巨体、馬鹿な愚息に鉄槌を!
+注意+
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