ついに決着!
果たして勝者はどちらでしょうか!?
......な、なるほど。
と、僕は再び爆発が起こり、砂煙に覆われたステージを見ながら、なんとか納得した。
恐らくは草薙剣の能力、それは...、
①身体能力強化
②筋力操作、又は瞬間筋力強化
③感覚強化
④緑炎斬
⑤天駆
恐らくは、この五つだろう。
───横目でちらりと見た恭香が驚きに目を見開いてこちらを見ていることからも、きっと正解なのだろう。
これらの能力があの剣にあるとするなら、先程の試合展開にも納得がいく。
まず、マックスの『黒魔式・一閃』とやらを緑炎斬の炎に当てて爆発させ、刃が体に届く前に爆風を利用して回避。その後、マックスが煙からでる前に空中へと天駆で駆け上がり、魔力を控えめに、少しずつ少しずつ草薙剣へと移行し、マックスが出てきたと同時に魔力を開放、緑炎斬を発動し、筋力操作で足の筋力を強化、そして現在に至ると。
実際には一度限りの奇襲だし、二度目がもしあるとしてもマックスには通用しない───と言うか、もう魔力も体力も底をついたろう。今のが正真正銘、アーマー君の最後の力を振り絞った一撃だ。万が一に失敗したりしたらそれだけでアーマー君の敗北が決定してしまう。
───だが、彼はその一撃を見事に決めた。
僕の目はその剣がステータス的に避けられない速度、軌道でマックスへと吸い込まれてゆくのを見たし、十中八九この試合は、マックスの
ただそれでも、確実に、とは言いきれない理由が、僕にはあった。
「......魔剣、ダーインスレイヴ......か」
浦町がそう呟くのが聞こえる。
草薙剣が今現在、五つの能力を保有しているとして、
───果たして、ダーインスレイヴの能力は三つだけなのだろうか?
砂煙が風に流され、徐々にステージの全容が明らかになる。
緑炎斬の爆発の衝撃によりボロボロとなったステージ───まぁ、昨日ほどではないが───が見える。
煙からは次第に晴れてゆき、ステージの中央───爆心地付近の煙も風によって流されてゆく。
そこには、草薙剣を地面へと突き刺し、それを杖のようにしてようやく立っているアーマー君。
───そして、
「ってーなおい、死ぬかと思ったぞ?」
僕達がその姿をみて言葉を失うのと、アーマー君が苦笑いしながら気絶し試合の勝敗が決まったのは、ほぼ同時刻の事だった。
☆☆☆
「......一体何したんだ?」
───運良く、というのもおかしな話だが、今現在この控え室の付近には人の気配が無い。つまりはシルの口調がギンだったとしても問題は無いのだ。
僕の前を通り過ぎようとしていたマックスは僕の声に立ち止まると、はぁ、と溜息をついて僕の正面のソファーに腰を下ろし、
「俺はお前達のこと仲間だとは思ってるが一応俺も監視の騎士なんだぞ? 敵になりうる相手に能力なんざ教えると思うか?」
いつもとは雰囲気の違うマックスは、溜息混じりの呆れたような表情でそんなことをほざきやがった。
───この野郎、なんでそんな顔してんのにイケメンなんだよ? もしかしなくても喧嘩売ってんのか?
と、そんなことを思わなかったわけでもないが、それでも僕はマックスとの会話の内容を優先することにした。
「教えると思うね。だってお前、僕に喧嘩売っても万が一にも勝てないの分かってんだろ? それにその万が一が起きたところで
その言葉に苦虫を噛み潰したような顔をするマックス───関係ないけど、苦虫って何なんだろうね? カメムシとか?
......もしも僕がカメムシなんか噛み潰した時には、間違いなくショック死する自信があります。いや、割と真面目に。
と、そんなことが頭を過ぎったが僕がその感情を表に出すわけもなく、
「伽月と藍月はどうかは言葉通じない......というか藍月に至ってはこっちの言葉すら理解してないみたいだから分からないけど、恭香を含めた他の従魔たちが少なからず僕に対して好意を向けているのは僕でもわかる。なら、そんなアイツらが敬愛する主を殺されて、その相手を生かしておくと思うか? 間違いなくお前ら軍隊や国の上層部だけじゃなく国───下手すりゃ大陸ごと滅ぼすぞ?」
......と言うかもう一人というか一柱というか、僕に対してかなりの好意を寄せている
と、そこまで一気にまくしたててみると───もちろん最後のは言わなかったが───マックスは再び溜息を一つこぼし、諦めたかのようにいつものチャラけた雰囲気が戻ってくる。
「はぁ......、ここは能力を教えて大陸を滅ぼしかねない我が主でもある始祖の吸血鬼さんに媚を売っておく、ってのが正解かも知んねぇな」
───すんげぇ嫌だけど、と後頭部をガシガシとかいてマックスはやっと笑みを浮かべる。
はぁ、やっぱりマックスは油断出来そうに無いな、と僕は再確認すると同時に、マックスはダーインスレイヴの最後の能力について語り出した。
果たして、その能力とは......、
「簡単に言えば、『刀身変化』ってところだな」
思った以上に単純明快で、それでいて強力無比な能力であった。
☆☆☆
刀身変化。
それは僕の持つブラッディウェポンと同じ能力であり、単純で地味な能力ではあるがかなり強力無比な能力でもある。
例えばの話をしよう。
例えばある少年が空中から襲いかかってきたとしよう。
それは分かっていたが、とてもじゃないが身体が反応できるような時間はなかったとしよう。
───そんな時にこの能力の出番である。
刀身変化とは変形、拡大、縮小など、様々な能力が含まれているため、この内の変形と、拡大を使用することによってダーインスレイヴ製の大盾を二人の間に製作する。
するとどうなるか。それはもうお分かりいただけるだろう。
「はぁ......、また面倒くさそうな能力だ」
僕の呟きが、僕以外誰もいない控え室に谺響する。
マックスはついさっき出て行ったし、対戦相手である久瀬は僕とは反対方向の控え室。つまりはここには僕一人ということ。
実は今、『ステージの修復のため暫しの間お待ちください』との事で待機中なのだ───あれだけの損傷を『暫し』で直せるんだから魔法ってのは素晴らしいな。
───そんなことを思った僕だが、やっぱりどうしてもアレが頭から離れない。
燃え盛る町並みに空に浮かぶ......あの気持ちの悪い何か。
気付けば背中にじっとりと汗をかいており、思わず、どうにかしてくれ、と言わんばかりに仮面を外して天を仰いでしまう。
もしも死神ちゃんなら、今の僕に───この記憶になんと言ってくれるだろうか?
もしもゼウスなら、あれの正体を知っているのだろうか?
もしもロキなら、冗談や笑い話を聞かせて、僕を笑わしてくれるのだろうか?
もしもエウラスなら、僕をイラつかせ、怒らせ、この気持ち悪さを忘れさせてくれるだろうか?
そう、僕にしては珍しく神頼みをしてみたのだが、けれども僕へと助言してくれるような神様なんて居ないだろうし、矮小な吸血鬼である僕が彼ら彼女らと知り合いという時点で奇跡のようなものだ。
そう思ったところで、僕は。
───エウラスでもロキでも、ゼウスでもなく、死神ちゃんを真っ先に思い浮かべたのは何故だろうか?
と、そう思った。
☆☆☆
『大変お待たせいたしましたっ! 只今よりクゼ選手VSシル=ブラッド選手による第六回戦を開始致します!!』
そんな司会さんの言葉と共に会場から大きな歓声が沸き、客席の熱気がまた一段、上昇したようにも思える。
控え室の奥に見える出入口からは、完全に元通りに修復された会場が見えた。
───客席とは違って冷えきった、冷たくてとてつもなく広いそのステージが、僕には違う何かに見えたのは、何故だろうか?
『"黒炎"の二つ名で有名な黒髪の時代の代表格! もはや黒髪の時代と言ってはこの人とも言ってもいいでしょう! Bランク冒険者、クゼ選手です!!』
その放送とともに久瀬が向こうの出入口より会場入りをし、会場中からドっと歓声が溢れ出す。
───久瀬のその瞳はしっかりと僕を捉えており、エキシビションマッチとは違って正真正銘の『本気』が窺える。
『最も有名なのはギン様ですが、彼は黒髪の時代と言うより別の方面で色々と有名ですからね。確かに黒髪の時代という括りであれば最初に名前が上がるのは彼でしょう』
『そうですね! 一時期は執行者さんが最有力でしたが、執行者さんは大進行を食い止めただとか、その戦い方だとか、彼の通る道には魔物は残らないだとか、ファッションリーダーだとか、そういう別の部分が目立ってますからね! やっぱり黒髪の時代と言えば彼でしょう!』
......ファッションリーダー?
なんかそんな感じの単語が聞こえたが、それは僕の気のせいだろうか?
───それと最後から二つ目のやつは間違いなく暁穂のせいだろ。
そんなことを思いはしたが、残念ながら僕の出番が遠のくことはなく、
『さて! 続いてはこの方! あまりの強さと恐ろしさから、敬意と恐怖を込めて"冥王"との二つ名が付けられた正体不明のダークホース!シル=ブラッド選手です!』
そんな放送が流れ、久瀬と同じように会場中から歓声が沸き上がる。
僕は、はぁ、と溜息をついて、重い足でステージ入口へ向かって歩き出す。
───その時、何故だか妙に嫌な予感がしたのは、きっと気の所為ではないだろう。
マックスの勝利でしたね。
ダーインスレイヴ、かなり強烈です。
次回! ギン(シル)VS久瀬竜馬!
ウイラム君の件もありますし......、何やら波乱の予感がします!
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