一夜明けて。
どうやらギンは嫌な夢を見てしまったそうです。
「かハぁっ、はぁっ、はぁ......、な、なんだ今の夢......」
明け方───それこそ吸血鬼ならばぐっすりと眠っているであろう時間帯に、僕はとある
燃え盛る街並み、崩れた家とそれに押しつぶされた───どこか見覚えのある男女二人。
───そして、あの少年は......、
と、そこまで考えて僕は頭を振ってその考えを頭から追い出す。
あの家の家紋は確かに死神のコートの背の物と同じだったし、あの少年にも見覚えがある。
だが、あの場所は間違いなく日本だ。
日本にあんな化物がいるわけもない......よな?
───まぁ、異世界へ来たせいで変な夢を見た、ってことにしておこう。
揃いつつあるピースを思考のゴミ箱へと捨て僕はベットから起き上がる。
背中にはビッショリと汗をかいていて、今から浴室へ行くことは決まってしまったようだ。
「ま、その前に水でも飲んでくるかな」
そう言って、僕は着替えを持って部屋から出ていく。
───ふと、カーテンの隙間から覗いた空が、夢と同じく黒い雲に覆われていたのは、きっと偶然だろう。
だけど、
「『鐘倉』......ねぇ?」
───僕にはどうしても、嫌な予感が拭いきれなかった。
☆☆☆
流石に今から二度寝はまずいだろう───というか、なんか眠れそうにないし、ということで僕は軽く水で体を流した後、誰も居ない居間で昨日読んでいた本の続きを読むことにした。
なになに?
─────────
「ねぇ、貴方、ぼっちなのでしょう?」
───俺はその発言聞いて、戦慄した。
反応したくなくとも自然と目を剥き、冷や汗を流してしまう。
ぼっちとはこの世界における最悪の蔑称───だがそれは同時に本物のぼっちはその最悪の権化とも言えるのだ。
つまり、俺がここでそれを認めてしまえば、きっとすべてが終わってしまう。
「はぁ......、いったいお前は何を言っているんだ? この俺がぼっちなわけ...」
「私の調査結果によると、貴方のクラス内での会話率は学校に居る時間:会話時間で計算すると1000000000:1、つまりは朝の出席確認の『はい』という返事以外話していないことになるわ」
───こ、コイツは本気で俺を潰しに来ているッ!?
ま、まずいまずいまずいまずい! ここで一度でもぼっちだと認めてしまえばこの先の人生、お先真っ暗になってしまうッ!
『えー○○君......ねぇ? 学校の成績は最高評価に教師陣からの人気も高い。うん、採用......あ、君ぼっちなの? じゃあ要らないわ』
とかなってしまうッ! 俺はそんな面接に行きたくないッ!!
「そ、そんなこと言ってるけどお前こそどうなんだよ? 俺のことぼっちぼっちって言ってるが、学校でも一番目だっていないであろう自信がある俺のこと調べてるなんて、それこそ友達が居なくて暇だからなんじゃないのか?」
それは、ただの皮肉だった。
───しかし、
「はぁ、私にものを聞きたいのならばまずきちんと論理立てて話なさい。まず友達とはどこからどこまでを定義しており、それで何をすれば友達になれるのかしら? そして何をもって友達を解除されるの? そもそも友達って何?」
───その台詞を聞いて、俺は再び戦慄した。
「お、お前
「ふふっ、問うに落ちず語るに落ちるとはこの事ね」
「......あっ」
と、僕はそこまで読んで本をパタンと閉じだ。
......何かが、おかしい気がする。
そもそもぼっちってそこまで嫌われている人種だったっけ? 人種じゃないけれどもさ。
確かに学校では、
『○○君? ......だれそれ?』
とかクラスの連中に言われて心底殺意を抱いた時もあったが、それは小学生の頃のお話。
今の僕ならば、クラスで影を潜めて卒業まで教師以外にバレずに生活できるかな? とかいうひとり遊びをし始めるまであるし、流石に中学や高校ともなるとクラスに知らない人物がいるなんてありえないだろう。
───まぁ、そのぼっちが普通の奴なら......な。
何だかこの本を読んでいると僕の精神がじわじわと蝕まれていくようで、何だか恐ろしくなってきた。もしかしてゼウスはここまで見越して、あえて僕にこの本を贈ったのだろうか? だとしたらあのロリっ子、かなりの強者.........
「.........朝から何やってんの? 後、Tシャツダサいよ」
と、僕の向かいの席から聞き慣れた声が聞こえ顔を上げると、どうやら知らぬ間に恭香が起きてきていたようだ。
───まさか空間把握を疎かにするレベルでこの本に熱中していたとは......驚きである。
あぁ、あと今のTシャツは《I♥北海道》と文字が刺繍された白いものである。ダサいとは失礼な。
「まぁ、早く起きちゃったからちょっとした読書タイムをね」
「そうなの? 何だか凄く顔色が悪いけど......大丈夫?」
珍しく恭香が真面目に僕のことを心配しているので、右手で顔を触ってみる。
───がしかし、触っても分からないものは分からないし、この馬車には鏡がないからそれを確認することもできやしないだろう。
触った感じいつもと違うとすれば、心持ち肌が乾燥しているようにも思えるが......多分これは関係ないだろう。
「ま、よく分かんないけど、多分この本の内容が恐ろし過ぎたからじゃないのか? もし僕が彼の立場だったとしたらゾッとするぜ......」
「そ、そんなに......。後で少し読んでみよっかな...?」
と、恭香は顔を引き攣らせて洗面所へと向かった。
───はぁ、自分の顔色くらい、自分でよくわかってるっつーの。
☆☆☆
今日の
「ふむ! お代わりなのじゃぁっ!!」
元気いっぱいの、白いTシャツに赤いミニスカート姿の白夜。結構似合ってる。
「ンッハッハッハッ!! 遂にかの《
眼帯をうざったらしい程に披露し、更には「お前の中二病って、趣味程度だよな」との言葉が響いたのかかなり考え込んできた様子の輝夜。うるさい。
「ふむ! やはり主殿(の料理)は素晴らしいのである!」
室内なのにも関わらず、僕が昔使っていたのと同じような黒いマフラーをしているレオン。食欲凄い。
「食事中くらい静かにできないのですか?」
そう三人をたしなめる、スカーフを肩から胸にかけてに巻いた暁穂。暖かそう。
「やっぱりギン様の料理は美味しいのですっ!」
何故か視線がブラッドメタル製の手甲(僕の手作り)へと向かっているが笑顔のオリビア。かわいい。
「こうも天気が悪いとこっちまでだるくなってくるな...」
首から魔力石のネックレスをかけたマックス。ちなみに魔力石というのは魔力を貯めておける石のこと。イケメンすぎて腹が立つ。
「髪型を変えるだけで随分と気分が変わるものですね......」
白い髪留めで髪を後ろに纏めてポニーテールにしているアイギス。超美人さんです。
「あぁ、ありがとう、ありがとうございます。こ、これでギルドへのレポートを書くのが楽に......」
虚ろな瞳で魔法の羽筆を見つめてニヤニヤしているネイル。ちなみに魔法の羽筆とは、書こうと思ったことを自動的に紙に書いてくれる優れものなのだとか。ご愁傷さまです。
「......言っておくが私はオリビアのように武器を貰って喜ぶような武人ではないのだからな? 私は見た目通りのれっきとした乙女なのだ。もうすこしこう、アクセサリーとかでも良かったのではないか?」
とか言いながら僕のアイテムボックスに埋没していた魔導銃(劣)をブラッドメタルを使って作り替えた銃───名付けて『キルズブラッド』を胸に抱きしめている浦町。不満なら返品しろよ。
「ふんー♪ ふふふふーん♪」
とっても機嫌良さそうにご飯を口にしている、赤いピンの髪留めで前髪を留めている恭香。......何があった?
そして最後に、珍妙な服を着た僕ときた。
───このパーティは一体どこを目指しているんだ?
と、そんなことをしているともう一時間もしないうちに第一回戦が始まるような時間帯になっていることに気づく。
「おいマックス! そろそろ時間やばいんじゃないか!? お前初戦だろ?」
「あぁぁっ!?!? じ、時間やべぇっっ!!」
マックスはそう言うと朝食を一気にかき込んでゆく。
───そんじゃ、そろそろ僕らも準備しますかね?
僕らもマックスに倣って朝食を急いで片付けると、食器を水に浸して闘技場へと急ぐのだった。
今日は第一回戦から面白くなりそうだ。
☆☆☆
『さぁ、やって参りました本戦二日目ッ! 残念ながら天候は思わしくないですがそれでもテンション上げて応援していきましょう! あ、それと昨日は一試合を延期してしまい申し訳ありませんでしたッ!』
『......謝り方それでいいのでしょうか?』
初っ端からかなりのテンションでジャブを繰り出す司会さんと、それを呆れたようなジト目で見つめるアルフレッドの放送が流れてくる。
───それにしても司会さんはいい性格してるぜ。是非見習いたいところである。
『さてそろそろ司会にも飽きてきた頃でしょうからさっさと対戦カードの確認と行きましょう!』
『はぁ......、今日の第五回戦、マックス様VSアーマー・ペンドラゴン様の試合からになります。その次がシル=ブラッド様VSクゼ様の試合となっておりますので、次の試合のお二人は初戦が始まる頃には控え室にて控えるようお願いいたします』
『ということで第一回戦は十分後に開始です! 皆さん、ご武運を祈っております!』
と、そんな激励を最後に放送は途切れた。つまりはもう準備しに行けということだろう。
「それでは、行きますかマックス殿」
「おうよ! 久瀬......であってるよな? お前も来るか? 次はシルと当たるんだろ?」
「ん? あぁ、俺はもう少ししてから行くから先行ってろよ。それに対戦相手と一緒に行くとかちょっと気まずいしな......」
という訳で僕はマックスと共に闘技場の控え室へと向かうこととなり、マックスたちの試合を覗くために数体の影分身をその場に残して、僕らは歩き出す。
───勇者達に気づかれるんじゃないぞ、と影分身に言い含め、僕は次の試合と僕の試合に思いを馳せるのだった。
☆☆☆
それとほぼ同時刻。闘技場の医務室にて。
「クソッ! クソッッッ!!」
ベッドの上で上体を起しながら彼は───ウイラムはつい先日の試合を思い出し、ギンに対する怨嗟の声を吐き出していた。
ベッドのシーツを破り、枕を壁へと投げつける。
───だが、その度に
「クソッ......、あの野郎、不意討ちなんて卑怯な真似しやがって......ッ! それでも男かッ! プライドというものはないのかッ!? クソッ!! 次会ったらぶっ殺してやるッッ!!」
彼はあまりの傷の深さにあれから今の今まで、ずっと気絶から目を覚まさなかったのだ。もちろんあの後の試合内容については知らないし、さらに言うならばギンの従魔たちの情報さえ知ってはいなかった。
───だからこそ甘やかされ続けてきた彼がそんなことを思うのは当然のことでもあった。
だが、彼の怒りはそれだけに収まらない。
「親父もシャルロットの野郎もそうだ! 執行者なんていうズルして名を売った雑魚になびきやがってッ! この世界じゃ俺が一番才能があるんだ! 俺は天才だ! それこそ親父にだって負けてねぇ! ......なのに、なのになのになのになのにッッ!!」
彼の傲慢は、なおその怒りを積み重ねてゆく。
「何が大進行を一人で食い止めた英雄だッ! 何が迷い人だ、何がSランクだ、何が黒髪の時代だッッ!! そんなの見掛け倒しの雑魚どもじゃないかッ! 王族でもない平民共が調子に乗るなァァァァァァッッッ!!!」
その拳で思い切りベッドを殴りつける。
ドゴォォッ、と凄まじい破壊音と共にその拳は簡単にベッドを貫通し、しばらくしてウイラムはその拳を抜いてベッドに横たわった。
音はなく、静寂が占めるその医務室に、はぁ、はぁ、というウイラムの荒い呼吸だけが谺響する。
「皆、皆が皆、クソッタレだ......」
ひとしきり暴れて少し落ち着いたウイラムは、
「こんなクソみたいな世界.........」
冷静な頭で、こう願った。
───こんな世界、ぶっ壊れちまえ。
《いいだろう。其の願い聞き届けた》
「......へっ?」
次の瞬間には、その部屋にはウイラムの姿は無く、無残にも破壊されたベッドと......、
───そして、一枚の黒い羽が残されていた。
ウイラムくんサイドでした。
何だかとっても怪しげな雰囲気になってきましたね......。
無事に武闘会を終えることが出来るのでしょうか?
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