果たして決着やいかに!?
あまりの衝撃の映像に、誰も彼もが声を失っていた。
一般人───いや、並の冒険者でさえ今の戦闘は目に追えなかったろうし、勇者たちでさえも危ないだろう。ましてやその戦闘を出来るか、と言われればそれは"否"と答えるしかあるまい。
正直言って、今の僕でも件の《黒式ゲイボルグ》の投擲は脅威に値する速度を有していたし、それは輝夜も例外ではない。
───それに、速度とは威力でもある。黄色い猿じゃないけれど。
ただのゴムボールでもとてつもない速度ならば人などひとたまりもないだろうし、極端なことを言うならば水滴でも金属は貫通できる......はずだ。多分。
と、そんなことを考えていると、ふと彼らとの試合直前の約束を思い出す。
───結界を壊すな、という約束を。
だが、どうやらレオンは全ての運動エネルギーを空間支配によって輝夜に向けることが出来たようで、結界へのダメージは予想以上に少なかったようだ───まぁ、それでも無傷とはいかないようだがな。
良かったな。飯もデートも無くならなくて。
ふとステージへと目を向けると、未だに土煙がもうもうと上がっており、吸血鬼の特異種で魔眼持ちの僕でも視認することは難しい。
黒式ゲイボルグが輝夜を仕留めたか、
輝夜がそれを宣言通りに受け止め、諸共全てを踏み砕いたのか。
───さて、どっちが勝ったかな?
僕は敢えて空間把握を使用せず、期待に胸を膨らませながら土煙が止むのを待つのだった。
☆☆☆
『ど、どど、どうなっているんだァァァっ!?!? 獅子王レオン選手が大人バージョンになった所までは分かりましたがその後どうなったのか目で追うことすらもできませんでしたッ!! 最後に何やら槍らしきものを投げようとしていたようですが......、アルフレッドさん、今の試合はどう思いましたか?』
『............』
『ふ、フリーズしているッッ!?』
司会席を始めとした各所から困惑と興奮の入り混じった声が聞こえて来る。
「こんな試合を見たのは初めてだ......」
「い、今のが獅子王の攻撃だとして.......、くらった相手側は大丈夫なのか?」
「こんなのを従えてる執行者って......」等々。
そんな会話があちこちから聞こえ、観客席を見渡すと皆が皆引きつったような笑顔を浮かべていた。
───その笑顔には"興奮"という感情も見え隠れしていたがな。
ついでに言えば、虚ろな目をして微笑を浮かべる勇者たちや、貴賓室のガラスの向こうで大笑いしているレックスやエルグリッド、
───というか、ネイルよ。そろそろ僕ら色に染まってもいい頃じゃないのか?
と、そんなことを考えている間にも、ステージを覆う土煙が次第に晴れてきた。
粉々に粉砕されたステージの床に、黒式ゲイボルグによって抉られた箇所は、高熱でガラスとなっており......、
───その中央で、レオンの首筋に大鎌を添えた
『し、勝者っ! 蒼天王こと輝夜選手だぁぁぁぁッッ!!』
ふぅ、と無意識のうちに止まっていた呼吸を再開し、肺の中の空気を外へと押し出す。
───これは僕も、うかうかしていられないかもな。
敗北したとはいえ、レオンのあまりの成長ぶりに少し危機感を覚えた僕だった。
☆☆☆
場所は変わり、月光丸。
時刻は午後一時半を回り、月光丸の居間には仄かな紅茶の香りと、クッキーの甘い香りが漂っており、僕はゼウスから貰った本───題名『花火』。どんなパクリだよ───を読みながら、クッキーをつまんでいた。
もう本格的に冬なので、御者席と居間の間には防寒用の壁を急遽設置し、それと並行して簡易ヒーターを恭香、輝夜、浦町の三人に作ってもらったのだ。
お陰様で我らがお茶の間には暖かい空気が流れており、静か......とは行かないがかなり落ち着いた状況で読書が出来ている。
「ふふん! 現実世界でなら勝ち目はないけど仮想世界でならっ! いくよっ、ル○ージっ!!」
「姉としての威厳を見せて上げましょうッ! 迎え撃ちますよマ○オっ!!」
コントローラーによるスマ○ラではなく、ゼウス特製のVR式のスマ○ラで姉妹ならぬ兄弟対決をしている恭香と暁穂を横目で見ながら本のページをペラリとまた一枚めくる。
あの後、僕らは第五回戦───つまりはマックスVSアーマー君という実力がかなり似通った二人の試合を楽しみに待っていたのだが、
『も、申し訳ありません! 只今の試合の影響でステージが大変危険な状態になっております! よって今日予定していた第五回戦は明日へと見送りさせていただきます!』
との放送がかかったのだ。
もちろん誰もが『ふざけんなっ!』とブーイングをあげようとしたのだが、肝心要なステージの惨状を見て『あっ......、し、仕方ねぇかな』と考え直したのだ。
というわけで今日一日暇になってしまった僕達は、外も寒いし家ならぬ馬車に引き篭ろう、ということで馬車内へと引き篭もったのだ。
───まぁ、今日中に第五回戦が終わってしまえば、明日はシルVS久瀬というある意味面倒くさそうな試合から始まってしまうため、輝夜とレオンに感謝を捧げながらひと時のニート生活でも送るとするよ。
そう言えば後で輝夜の事も撫でてやらないとな、とそんなことを思いながら、再び花火を熱読する。
だがしかし、運命神様は僕のことがさぞお嫌いなのだろう。
「おい、主様よ」
何だかモコモコした現代風の白いダウン───きっとまた恭香が教えたのだろう───を着た白夜が僕の元を訪れた。
恐らくは出掛けてくるからお小遣いを寄越せとか、そういうのだろうと推測し、どれだけ渡すかを残金から計算する。
───そして、
「せっかくじゃし、妾とデートするのじゃ」
「おう、わかっ.........って、デート?」
やはり僕に、安息は訪れない。
☆☆☆
グランズ帝国の王都グリム───通称帝都において、最も有名なものとしては不定期開催の《獣王武闘会》なのだが、その次点で有名な場所と言えば、かなり候補は絞られてくるだろう。
例えば、獣王たちの住む《王城》
例えば、獣王武闘会の行われる《コロッセオ》
例えば、色々な出店の並ぶ《メインストリート》
───そして最後に、ここが挙げられるのだろう。
僕は今『デートと言えば待ち合わせ必須なのじゃっ!』との事だったので先に馬車を追い出され、待ち合わせ場所とやらに来てているのだが......、うん。
一言で表すならば『独り身たちの生き地獄』だろうか?
見渡す限りの、人、人、人、人、人、人。
それも誰も彼もが
───ここは通称《世界樹の切り株》と呼ばれる場所だ。通称過ぎんだろうが。どんなネーミングセンスしてんだよ。
大昔ここには世界樹と呼ばれる大きな樹があったらしいのだが、正体不明の化物がこの国を襲った際に、その世界樹の九割型が完全に消滅し、腐敗。
このままでは不味いと思った当時の獣王が、世界樹が全て腐敗する前に生きている部分だけでも、ということでその樹を根元からバッサリと切り、残りの腐敗した部分を聖なる焔で焼き払ったのだか。
そして、その獣王はこう言った。
『世界樹は切ってしまったが、また伸びない訳ではない! だからこそ我らは世界樹がいずれ元通りになるように、新たな芽を見守り続けるのだ! それこそ代を重ねてなッ!』
というわけで『新たな芽』『代を重ねる』等々の台詞のせいで、この木は《恋愛スポット》として生まれ変わった。
聴いた話によると、この切り株の付近で告白すれば結婚できるらしい。
───なんだよ付近って。曖昧すぎやしませんか?
と、僕はその大きな切り株を見上げて、そう思った。
ちなみに描写してなかったから分からないだろうが、この世界樹の切り株は、その断面の地上からの高さが三百メートル程で、幹の直径はまさかまさかの五十キロ以上もあるらしい。
......それを一撃で切断した当時の獣王とやらは、きっと今の獣王よりも化物だったのだろうし、この世界樹を九割型消滅させたその化け物とやらもやばいのだろう。
少なくとも僕と従魔たちが力を合わせても勝てないくらいには。
「はぁ.....」
知り合いの顔を思い浮かべるとため息が出る。
ゼウスやロキ、死神ちゃん、更にはエルザ、レックス。
それに加えて勇者たちや白夜、輝夜、暁穂、オリビア、マックス、アイギス、浦町。それに先程のレオン。
誰も彼もが僕よりも才能を持っていて、何より、僕よりも正しく生きている。
───僕のような、歪んだ正義を持つ者が、そんな彼ら彼女らの傍にいてもいいのだろうか?
そう、少し真面目なことを考えたが、そんな問いに答えなんて有りはしないだろうし、それこそ全知全能の神でも断言できないだろう。
「ま、悩みながら生きていくしかないか」
そう呟いて、ふと背後へと視線を移すと....、
「主様ーーっ! お待たせなのじゃっ! 待たせてしまったかのう?」
タイミング良く、白夜がこちらへと走ってくる姿が見えた。
───なにより、今は彼女とのデートを優先すべきだろう。
だからこそ、僕は彼女に感謝を込めてこう言った。
「遅いんだけど」
この後、白夜に一発殴られたのは語るまでもないことであろう。
世界樹の切り株......、安直過ぎですね。
なんとなんと初めてのデートは白夜となってしまいましたがどうなるのでしょう?
次回! 街中ぶらりデートwith白夜!
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