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珍しい! オールシリアスです!

何だかんだでいっつもふざけたりしてますからね......。

第三章 帝国編
第137話

僕は、知っての通り善人ではない。



どれくらい善人ではないかと聞かれれば......、まぁ、小悪党とかそのレベルだろう。


向こうでカウンセリングをやっていのは単に才能があったからだし、僕の行動で助かった人がいたとしても、それは相談相手が僕でなくとも結果は変わらなかったのだろう。



───例えば、白夜。


ダンジョンで出会った時は瀕死だったが、それは僕が助けなくとも死神ちゃん辺りが助けていたのだろう。彼女は目の前で人が死ぬのを良しとしない性格だろうからな。



───例えば、暁穂。


どっかの馬鹿な中級神に操られた暁穂だったが、あの街にはエルザが居た。それこそ僕が出張ったのは無意味なことでもあったろう。



───例えば、ゼロ。


ゾンビの群れに囲まれた彼女だったが......、正直言って、彼女が本気になればあんなもの一掃できたろう。そもそも僕が助けなくとも死の直前になれば力を使っていたはずだ。




僕はそれらを思い出して、結論づける。




───僕は今まで生きてきた中で、存在意義を感じたことがないのだ、と。




僕が居なくとも世界は回る。


───いや、もしかしたら僕がこの世界に居ることで悪影響を及ぼしていることもあるのかもしれない。



ならば。果たして自分は、生きている意味があるのだろうか?



一体どれだけそう思ったことだろうか?

まぁ、少なくとも数えていたらキリがないくらいには考えたことがあるだろうし、僕以外の人たちも一度は思ったことがあるのだろう。




ある人は言う、


『自分が生まれてきたのは息子の成長を見守るためだ』



またある人は言う、


『自分はこの景色を見るためだけに産まれてきたのだろう』



ある人は言う、


『人生に意味など求めてはいけない』



ある人は言う、


『山あり谷ありの人生を楽しむために生まれて来た』




そう、彼ら───僕の患者たちは言った。





───だが、僕が受け持った患者の中には、ある意見が多かった。


いや、"意見"じゃなく一種の"悟り"に近いだろう。






彼らは───言葉に多少の相違はあるが、こう言った。






『腐りきったこの世界を見て感じるための人生だ』と。




人生、誰にだって幸せが訪れるとは限らない。



一生独り身の者、生まれついた病で寿命が短い者、障害によって耳や目の効かない者、生まれ持った容姿だけで虐めに遭うもの。




人生とは平等ではなく理不尽だ。


努力は報われるものよりも報われないものの方が多い。


生まれが悪ければ人生なんて終わったも同然だ。


メディアは成功者を取り上げるが、それ以上に失敗して散っていった者の方が圧倒的に多い。




そんな、一人を楽しませるためにその他大勢を生贄にするような、そんな悪魔のような世界に、僕らは生きている。




それを、彼らは分かっていた───分かりすぎていた。


それこそ、そのせいで心に病を患うほどに。




だからこそ、僕の受け持った患者たちのその三割程が、こう言ったのだ。





『人生で成功するか、失敗するか。それは自分に責任があるようだけれど、自分はそうは思わない。虐めの対象がいなければ笑うことも出来ない常識が悪い。誰かを見下さないと生きていけない社会が悪い。一見綺麗なようで、その裏で何万人もの犠牲を払ってしか成り立つことの出来ない、この醜悪で偽物だらけの世界が悪い』





そして、と。







───自分には、そんな世界が地獄にしか見えない。






彼らが言った、その言葉。


それは奇遇にも、僕と全く同じ意見だった。







さて、ここで問題だ。




今回は僕が苦手な国語の問題。








問、地獄を見てきた人間として、僕は何を為すべきか? 十五文字程度で答えよ。





───さぁ、僕はどうしたい?






☆☆☆






ドガァンッッ! と音が響き、家のドアが蹴破られる。




思考に埋没していた僕は、視界ごと意識をその奥へと向ける。


───まさかまさかとは思っていたが、本当にこんな展開になるとはな......。




僕はその扉の向こう側を見て、思わず眉間にシワを寄せる。




「オラァっ!! 借金返済の目処は立ったんだろうなぁっ!? あぁん!?」


「あ、兄貴っ! 落ち着いてくださいよっ!」



そこに居たのはいかにもヤクザと言わんばかりのきっちりとした黄色のスーツ姿にオールバックと言う強そうな男と、そのお付の男が一人ずつ、それぞれが扉を塞ぐかのように立っていた。


───どうやら、借金の取り立てのようだ。



「な、何よっ!? まだ返納期は一週間も......」


「うっせぇ! こちとら昨晩の謎の地震で逃げ出した奴らに貸してた金が全部パァになっちまったんだよ!」


「おやおや? まさか返せない訳では無いですよねぇ?」



.........はぁ、何でわざわざ要らない情報を提供してくれるんですかね? このモブたちは。

これじゃ考えるまもなく答えが決まっちゃうじゃないか。



僕がその場に居ることも知らず、彼らは話を続ける。





「借金は溜まりに溜まって6,300,000Gだ! もうこれ以上は待てねぇ、今この場で寄越しな」



そのあまりの金額に目を見開くベルナ。



「ろ、六百......、何を馬鹿なことをっ! 私たちが借りてたお金は九十万だけだったは......」



そう、反論したベルナだったが、


その言葉は、ヤクザの声に掻き消された。




「はぁ......、嬢ちゃん、利子って言葉、知ってるか?」




───ビクッと、その言葉に身を固くするベルナ。



「お前の両親が借金を抱えて逃げ出したのが十二年前、当時赤ん坊だった坊主を養いながらここまで来たのは尊敬するぜ? だがこれはきちんとした『法律』だ。この利子も高めだがこの貧困街じゃ当たり前だ」



一変して真面目な声を出すヤクザ。



恐らくはこの人、ずっとこの姉弟を見守ってきたのだろう。それこそ、借金が出来た頃からずっと。

立場上どうすることも出来ず、悩みに悩んで、最終的に自分の手で引導を渡そうと今日この場にやってきた。

つまりはまぁ、そういう事だろう。



───人は見かけにはよらないようだな。





だけど、





「溜まりに溜まった借金。未だ返せる目処が立たないお前達、更には今の状況を鑑みて、上はお前らを奴隷落ちさせて売ることにした」





好意(それ)借金(これ)とは話は別だろう。





生きるため他人を蹴落とすか、


誰かを助けるため自ら地へ堕ちるか。



生きるために親愛の情を抱く二人を奴隷へ落とすか、


二人を助けるために闇金業界に喧嘩を売るか。




このヤクザは前者を選んだ。ただそれだけの事。




貧困街に住む者としては最善の行動だし、なによりも、これからも自分が生きていける。




確かに、彼の行動はこの上なく正しかった。







───だけどそれは、正しいだけでカッコよくない。






「......嬢ちゃん。とっとと払いな」


「さぁ、払えないなら奴隷に......」





ヤクザがそう言って、お付きがヤクザの心中を分かっているかのように辛そうな顔を隠して演技をする。


あまりの現実に目を虚ろにして座り込むベルナに、泣きそうな顔でヤクザ共を睨むベルク。




───確かにこれは、僕のようなある程度強い者でなければただの我儘で終わるのだろう。




そもそも、僕にこんな力がなければ、こんな事を思いもしなかったかもしれない。


力のないヤクザには先程の選択が最善で、もしも僕が同じ立場だったとしても同じことをしただろう。





だけどそれは、『もしも』の話だ。現実じゃない。





確かにこの思いは傲慢で、醜悪で、それでいてとてつもなく歪んでいるのだろう。



それに、その行動理由だって恥ずかしくて言えたもんじゃない。







───だからこそ、僕は行動理由をこう語ろう。







「よし、その借金、僕が支払おう」





ドスン、と音がなり、ヤクザたち二人の前に大きな袋が現れる。



こんな事をしても、ただのお節介で終わるだろうし、この二人からしても『運が良かった。今度は病気について考えよう』と考えるだけで僕のことなどすぐに頭から消えるだろう。



それでも、僕がここで見捨てれば、二人が地獄を味わうのもまた事実。



だが、存在意義の無い自分でも、もしかしたらコイツらの役に立てるのではなかろうか? と、そんな疑問が頭に浮かぶ。



頭では半ば『不可能だ』という結論に至ってはいるのだが、それでも僕は、最後の希望を捨てられなかったのだろう。



だからこそ、僕はこう思えた。








───僕はただ、自分の正義を貫くだけだ、と。







「返済額丁度だ。文句はないよな、ヤクザ共」




なにより。存在意義の無い僕でも、人生に後悔だけは残したくない。






☆☆☆





ヤクザ二人はあまりの事態に頭がついていかず、とりあえず借金返済完了ということで金を持って去って行った。



そして今現在、僕はベルナ、ベルクの二人に正式に(・・・)家に上がらせてもらった。

───二人とも状況はうまく理解出来ていない様子だが、それでも僕が借金を肩代わりした事と、僕が執行者だってことには気づいたようである。


流石にここで『キャーッ! 不法侵入者よっ!?』とか言われたらこの家ごと潰す勢いで怒ってしまいそうだったから良かったぜ。




「それで、だ。改めて初めまして。僕はギン、執行者って呼ばれてるSランク冒険者だ」


「えええっ!? や、やっぱり執行者......ゴホッゴホッ...」


「べ、ベルク!? す、すいません弟が......、弟は前から執行者さんのファンで......」


「ゴホッ......、ぼ、僕はこれでも執行者ファンクラブの会員No.100なんだよっ!」



......僕っていつの間にファンクラブなんて出来たんだ?

というかどれほどの規模のものかは知らないから、No.100って凄いのか凄くないのかよく分からんな。




───っと、今はそれより優先することがあるか。




「それよりこっちが本題なんだが......」



そう口にした途端、二人の笑みがピタリと凍りついた。


───どうやら、流石に無償で助けてくれたわけではないことは分かっていたらしい。



と言っても、実は僕、彼女たちに何かを要求するつもりは無いのだ。



今回助けた理由としては、一つが医者の端くれとして見逃せなかったと言うのと、ただのお節介。そしてもうひとつ、それは友人である桃野と対戦するコイツが思いつめて卑怯な手を使わないとも限らなかったからだ。


───さらに、そのうち七割を後者が占めるから、結局のところは僕は桃野のために動いたと言っても過言ではない。




まぁ、そういうことにしておこう。




だからどうしようかと悩んでいたのだが、




「執行者さん! ぼ、僕がわるいからっ! だからお姉ちゃんには何もしないであげてっ......下さいっ! ゴホッ...、僕には何をしてもいいからっ、お、お願いしますっっ!!」


「べ、ベルクッ!?」



そう、ベルクが僕に土下座をしてきた。



大好きな姉の為に『何でもする』と言い張るか。この男の子ならば、その意味もきちんと理解しているだろうに......。



はぁ......、どうしたものか。




そう考えていると、僕の頭に一つ、妙案が浮かんできた。




仲間をなるべく増やしたくない僕の意見。


『何でもする』と言ったベルク。


そして、それだけでは収まらないであろうベルナの自己嫌悪。




───それらを一斉に解決する、妙案が。





「なら、こうしようか」




僕はそうして、二人に二つの条件を提示したのだった。



せっかくナイトメア・ロードを倒したのにその報酬金を全て使ってしまいました......。大丈夫なんでしょうか?


次回! 本戦開幕なるか!?

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