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恋愛成分有りです。

今回は輝夜ですね。

第三章 帝国編
第134話

すぅ、ふぅ、と数度の深呼吸。



そうして彼女は顔を上げ、拳を握りしめる。


その赤く染まった顔は、僕が初めて見るものだった。






「私は貴方が大好きです」




それは、着飾ることのない、純粋な気持ち。


キャラ設定など捨て置けとばかりに、真剣な彼女の姿は、





───今まで見てきた誰よりも美しかった。




僕が思わずその姿に見惚れていると、輝夜はふっと笑って僕に背を向ける。



「私は昔から友達が居なくてな。みんなに見てもらおうと変なキャラ設定など付けていたら更にみんなが離れて行った」



彼女はそう言って、もう一度息を吐く。



「皆が皆、私のことを仲間外れにして嫌っていてな。醜い、気味が悪い、吐き気がする、頭が悪い、才能がない、と言ってな? 終いには悪者扱いで住処から追い出された」



彼女の後ろ姿はとても儚げで、その肩は、震えていた。


───彼女がたまに見せる弱気な所は、きっとその過去から来ているのだろう。




「住処を去ってからも私は一人だった。見た目だけで襲いかかられ、魔物だからといって殺されかけ、終いには下級神にも狙われた」



きっと彼女はその下級神を世界構築で打ち負かし、神々によって封印されたのだろう。



───そして封印が解けた先で、大陸を滅ぼした。




「私は人だろうと魔物だろうと、ありとあらゆる命を散らしてきた。前に主殿が言った"殺す定義"で言えば、私は危険視したものは全て殺してきた。流石に見たもの全てを全て皆殺しにするようなことはしなかったがな」



それは、かつて白夜が言った"最善"。


人としては最悪だと、彼女らは言った。

彼女がそこまで心を壊さなかったのは、不幸中の幸いだったろう。




「醜悪で殺人鬼。それが私だ。誇れることなど無駄に肉付きのいい体と、その強さだけだ」




そう言って彼女は、僕へと振り返る。




「私は、貴方の隣に居たい」




そう言って一歩、また一歩と僕に近付いてくる。




「この身も心も、既に貴方のものだ」




───だから、と。






「私は貴方に誇れるのは強さだけ」




僕の目の前まできた輝夜は、その覚悟の決まった瞳で僕を見下ろす。





───そして、






「主殿、一度本気で勝負して頂きたい」





彼女は不敵な笑みを浮かべて、そう言った。






☆☆☆






その数分後、僕はその世界の中で彼女と対峙していた。




「我が勝てば、恋人に」


「僕が勝てば、いうことを一つ聞いてもらう」



───僕は、彼女が好きだ。


人間としてではなく、女性として好きだ。




「ちなみにどんな願いか......聞いても良いか?」




好きかなぁって思って、さっきの輝夜の顔を見て、それが確信に変わった。



だから、僕の願いも決まっていた。








「僕が勝ったら、お前には僕の恋人になってもらう」





輝夜はその言葉に目を見開く。



「僕はお前のことは醜いとは思わないし、馬鹿だとも思わない、悪だとも思わない。美しいと思うし、頭がいいと思う。なにより、自分を守るためのその行為は、素晴らしいものだったと思う」



───なにより最善を選ばなかった、その心が美しいと思った。




「だから僕は、お前を尊敬するし、そんなお前だからこそ、僕は惚れたんだ。だから、僕が勝って、お前の心も体も、完全に僕のものにする」




これは、ただの意地と意地の衝突だ。




勝って僕に、その存在意義を認めさせたい輝夜。


勝って輝夜を、自分のものにしたい僕。





「ククッ、勝っても負けてもお前は僕のものだ!」




───こんな出来レース、本当はやる意味も無いのだろう。




だけど───いや、だからこそ価値(・・)がある。





「だから僕はお前に勝って(・・・)、お前のすべてを手に入れる」



───なんせ、僕は傲慢だからね、と僕は言う。





これは彼女に対する、最高の礼節だ。






「お前には、僕が本気を出すべき価値がある」




そう、満面の笑みで言ってやった。






☆☆☆






「卑怯者め......、危うく惚れ直してしまったではないか」


「そりゃ朗報だ。これで僕が勝ってさらに惚れ直させてやるさ」



そう言って、僕らはお互いに背を向け歩き出す。



「クハハッ! 主殿が我に勝てるとでも思っておるのか?」


「生憎、女に守られるような趣味はないんでな」


「ならばそういう趣味を作っておくことを勧めるぞ」



そう言い終わると、僕と輝夜は十数メートル離れた位置で立ち止まり、振り返る。


───その時に見えた彼女の顔には、隠しきれない嬉しさが滲み出ており、その目尻には光るものが見えた。




「それでは、始めるか主殿」


「お前と本気で(・・・)殺り合うのは久しぶりだな」




思い出すは、AAAランクの魔物の群れを率いていた蒼目の骸骨との死闘。


あの時は輝夜は弱く、僕はもっと弱かった。


あの時は知略と戦力を総動員させて、僕、恭香、白夜の三人でやっと勝てた。それは、僕が今まで戦ってきた中で、最も強く、カッコよく感じられた相手。



その相手がさらに強く、カッコよくなって目の前にいるのだ。




「そんな展開、燃えないわけがないよな?」




瞳の奥で、チリチリと炎が燻っているような、そんな感覚がある。


意識がすうっと奥へと沈み込み、それに従って感覚が鋭敏になっていくような、そんな感覚がある。


心が燃え上がり、身体に力が溢れ出る。




───きっと今の僕は、滅茶苦茶強い。



そう、断言できた。





「ダンジョンで殺りあった時は、一対一なら僕の敗北」



「そして、前にやった時は、一対一で、我の敗北だ」




二戦、一勝一敗。




「「それじゃあ、決着を付けようか」」





そう言って僕と輝夜は全力で駆け出した。




「換装! ブラッディウェポン!!」


「召喚! ソウルイーター!!」




僕はアイテムボックスから、輝夜は冥府から、それぞれ武器を取り出す。





───そして、






ドゴォォォォンッッ!! と。



まるでバハムート戦を連想させられるような衝突音が、その小さな世界に響いたのだった。






☆☆☆





長剣サイズまで伸ばしたブラッディウェポンと、輝夜の新しい武器ソウルイーターが、その場で数度撃ち合いをし、僕はひとっ飛びで後ろへと距離を取る。


───純粋な力だけなら僕の方が上だが、どうやら輝夜はその器用さで完全に僕の攻撃をいなしているようだった。


あのまま撃ち合っていれば間違いなく僕が負ける、と僕の直感が告げていた。




「だが遠距離戦なら!『雷龍召喚』!」



瞬間、僕の掌から一ヶ月前よりも一回り大きくなった雷龍が召喚される。

込めた魔力量が増えた事と魔力操作が上達したことによってさらに大きく、強くなったのだ。



これなら流石の輝夜でも......、




僕の思考は、そこで止まった。




───おいおい、その構えって......まさかだろ?




前方には、人差し指を雷龍へと向けて、目を閉じる輝夜。



その構えを、僕は知っていた。






「『マジックキャンセル』」



瞬間、僕の掌から溢れ出た雷龍が、一瞬にして霧散した。





───だって、その魔法は僕が生み出したのだから。





「冥府の門からの常時魔力補給(・・・・・・)



僕の頬をタラリと冷や汗が伝う。




「更にはそこから召喚される我が下僕たち」



彼女の背後に現れた漆黒の門から、三つ首(・・・)の犬の魔物が現れる。





「今現在、我は主殿から空間把握のスキルを共有させてもらっている。それはつまり、位置変換の感知もいち早く出来ると言うこと」



さらにその後からも魔物が溢れ出る。

ケルベロス、オルトロス、ドラゴンゾンビ等々、その中には僕が知らぬ魔物も大勢含まれていた。


ただ、ケルベロスに至っては輝夜以上(・・・・)にヤバイ、って事が伝わってくる。





「この日のために準備は整えておいた。さぁ、存分に楽しんでくれ」



───我が主殿、と彼女は笑った。





僕は今の今まで、パーティで一番強いのは暁穂だと疑ってこなかった。


そしてその次点で僕、輝夜や白夜、レオンと来ると、そう思っていた。




だが、どうやらその考えは改めなければならないようだ。






「認めてやるさ......、今のお前は、僕らの中で一番強い」




───それと同時に、僕は彼女を倒す計画を頭の中で練り始める。




どうやら、今回はかなり本気な勝負になりそうだ。


輝夜の戦闘力はとんでもないです、特に冥府の門がチート過ぎです。

それにしても青春してますねぇ......。


次回! ギンVS輝夜!

果たして意地を突き通すのはどちらでしょう?


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