エキシビションマッチ終了!
多少恋愛成分を含みます。
これはギンとアックスが戦い始めた直後のこと。
「ど、どうなってんだ......?」
久瀬は思わず、といったふうに呟いた。
アックスがジャブを繰り出したかと思えば見事な手際でギンがそれを逸らして躱してゆく。
ジャブ、ジャブ......今のはなんだ? と目で捉えるのも難しいような攻防を、彼らはさも当然のように繰り広げていた。
───まさかここまで差があったとは。
そう思ったのは久瀬一人だけではなかったようだ。
「す、凄いね......、僕なんて目でも追えないよ」
「私はそもそも腕が見えないわ......、本当に化物ね」
「す、すごいねっ! もう何が起きてるのか分からないよっ!」
久瀬、桜町、鮫島、堂島。
四人は感想を言い合いながらも、二人の攻防を目に焼き付ける。
───それは、一度は憧れた彼の背中。
幼少期、独りで心が挫けそうだった時に、自分以上に孤独だった癖に妙に堂々していた銀。その背中に憧れた久瀬竜馬。
イジメを受けていた時にたまたま通りがかった銀が『暇つぶしだ』と言って助けてくれた。その強さとカッコよさに憧れた桜町穂花。
友人が心の病にかかり、藁にも縋るつもりで頼った銀。家族が大変なことになった中、それでも親友を助けてくれた。その優しさに憧れた堂島紗由里。
才能の偏りのせいで『やれば出来るのだから』と言われ続けた自分の話を、唯一きちんと話を聞いてくれた銀。その笑顔に救われ、憧れた鮫島美月。
───俺は、
───僕は、
───私は、
彼らが銀の強さをその目に焼き付けながら思ったことは、奇遇にも同じことだった。
───いつか、銀を救えるくらい、強くなりたい。
ガシャン、と音がする。
死神はかつて、こう言った。
『その症状が出たってことは自分の弱さ、分かってんだろ?』
狡知神はかつて、銀の言葉を肯定した。
『うんうん、そのとおりっ! つまりはそのイレギュラーたちは、器が大きすぎるが故に、"力を持て余している"。正確には出し切れていない、ってことになるんだよ。それは君にも当てはまることだ、ギンくん』
創造神エウラスは、彼らがこの世界に召喚される際、一つお節介をした。
『はぁ......、二十人も呼び出しおって。全員が全員あの世界に適応できるわけがなかろう。仕方ないから
確かに、ギンが通ってきたのは、最強へと至る道なのだろう。
───だが、その道が一つしかないわけではない。
『し、勝者っ! 執行者ギン=クラッシュベルッッッ!!! まさに圧巻、圧勝、圧倒的ッ!! あのアックスさんを一撃で沈めたァァァっっ!!!』
司会が流れ、ギンが久瀬たちの方へと歩いてくる。
『器の扉』
それは一度、ギンが通った道。
───そして、最強へ至る道の、出発点。
その道はギンとは別の道になるかもしれない。
その道半ばで挫折するかもしれない。
ギンの背中は未だ見えず、先はまだまだ果てしない。
───それでも、彼ら彼女らは、その先を目指して歩み始める。
その道が交わるのは、まだまだ先のお話。
☆☆☆
『し、勝者っ! 執行者ギン=クラッシュベルッッッ!!! まさに圧巻、圧倒的ッ!! あのアックスさんを一撃で沈めたァァァっっ!!!』
うぉぉぉぉぉっ!! と、歓声がステージへと降り注ぐ。
『すごい! 凄すぎます! 私なんて全然見えませんでした! 今の戦い、獣王様はどうお考えですか?』
『ふーむ、こういう能力の探り合いは我の得意分野ではないからな......、唯一言えるのは最後の馬鹿力は自分に対するブーストではなく、相手、若しくは空間に作用するスキル......だと思うのだが、やはりこういうのはよく分からん! とにかく強いということだ!』
『お、お父様でも分からないのですか!? す、すごいですね!』
『なんと!? 私は素の力なのだと思っていましたが...』
『......あれが素なら我でも軽く引くぞ』
───実現可能なSTRを持ってそうな奴が何言ってんだよ。
僕はそんな司会さんたちの会話を聞きながら、久瀬たちの所まで戻ってきていた。
───のはいいのだが、
「うわぁ......何お前ら、『覚醒した主人公が新たな道を歩み始めた』とかいうありがちなシチュエーションの直後みたいな、もっっのすごい気持ち悪い顔してるぞ?」
「「「「「なぁっ!?」」」」」
だって皆が皆揃って胡散臭いまでの清々しい笑顔なんですもん。
───君たちは悪徳宗教の訪問販売ですか?
「って言うか銀! お前この一ヶ月でどんだけ強くなってんだよ!? 背中すら見えないぞ!?」
「そ、そうだよ! こっちに来たのは僕達の数日前だって死神さんも言ってたよ!?」
「ど、どんな経験積んできたのかしら......?」
「は、ははは、気になるけど知りたくないね......」
なんだか酷い言い草だな?
でもそんなにすごい経験なんて積んだ覚えは無いぞ?
だって、こっち来てから......と言えば、
ゴブリン倒して気絶。
白夜にぶち殺されかける。
ゴブリンの次の相手がAAAクラスの大蠍。
続いてドラゴンに変態人形との死闘に白夜との再戦。
更にはSSSランクとの激闘の末、神様との邂逅。
とまぁ、こいつらが居なかった間にやったことなんてこれくらい.........って、
「おい、お前らすんごい顔してるぞ? それこそ百年の恋も冷めるくらいには......、って言うか何? 死神ちゃんって僕の個人情報流出させてんの?」
───よし、今度話した時にでも訴えてやろう。
そう思って彼らの方を再び見るのだが......はぁ。
とてもじゃないが描写出来ないくらいには酷い顔してるぞ?
最もマシなのが浦町と堂島さん。目を見開いたり眉間にシワを寄せたりしてるだけ......ではないのだが、詳しくは省略しよう。
───でないと真面目に訴えられかねない。
「ま、よく分かんないけどそろそろ帰るぞ」
試合を二試合観戦した後に獣王との邂逅、コイツらとの再会後にウイラムにつっかかられて瞬殺。浦町の行動にヒヤヒヤさせられながら、現在に至る。
───最近はゆったりしてた分、かなり疲れてしまったようだ。
僕はそう言ってスタスタと出口へと歩き出す。
「あっ! ちょっと待ってよ銀!」
「はぁ......、まだまだ君の背中は遠そうだ」
後ろからそんな声が聞こえた気がしたが、まぁ、そんなに簡単に追い付かれてはたまったもんじゃないからな。
───僕が経験した内容について「思いっきり声に出てたよ?」と恭香に言われるのはもう少しあとのお話。
☆☆☆
「本当に置いてきてよかったの?」
場所は変わって、月光丸一号の食堂内。
そこで食事を終え、だらりとしていた僕は恭香にそんなことを聞かれたのだった。
「置いてくるって...一体なんの話だ?」
「桜町さんの事だよ」
───はぁ、即答ですか。
僕はあの後、アイツらから逃げ出した。
「アデュー」とか言ってテキトーに逃げ出した。
きっと恭香が言ってるのはその事なのだろう。
「もしもあそこで逃げてなかったら間違いなく、パーティメンバーがもう数人ほど増えてたぞ?」
今でも、恭香、白夜、輝夜、レオン、オリビア、マックス、アイギス、暁穂、伽月、藍月、ネイルに浦町と、......僕も含めたら十三人ものパーティメンバーがいるのだ。
───ネイルや藍月あたりは存在感が薄すぎる気もするが......まぁ、それでも十三人。
これ以上無計画に増やすのは得策ではなかろう。
「......それで本音は?」
───君はいつから深層心理まで読めるようになったんですか?
「いや、
「それも新しい能力か?」
「いや? 単にギンの事が好きな女の子としての能力だよ」
............よくもまぁ、恥ずかしげもなくそんなことが言えるものだな?
「ふふっ、嬉しいくせに」
「......否定はしないでおくよ」
と、そんなラブコメを繰り広げていると、恭香の目つきが変わった気がした。
───そろそろ本題に入れ、ってことかな。
「はぁ......、理由はいくつかあるんだけれど、一つは神の布の在庫が足りなくなってきた、ってこと。というか既に足りない。恭香に白夜、レオン、暁穂は変身スキルがあるからまだどうとでもなるだろうけど......それでもお前らにそんな我慢はさせたくない」
「おおっ! 珍しいデレだねっ!」
「「「「「ええっ!? デレたっ!?」」」」」
うっさい。デレてないし、なんでサラッとこっちの話に聞き耳立ててんだよアイツら。
「......はぁ、それと二つ目が、アイツがこのパーティに入ったところで強くなれる見込みが少ない、ってことだ」
確かに浦町は僕のパーティに入った。
それは脅迫にも似た浦町本人の願いがあったから仕方なく了承したものであって、僕個人としては今の勇者達が僕のパーティに入ったところで強くなれる見込みは少ないと思う。
───例えば敵が出たとしよう。
例えばそれを浦町の練習の相手にして、僕達がサポートする中浦町が一人で対峙したとしよう。
だがそれは、一対一なのにも関わらず命のかかっていない、結果の決まりきった勝負。
例え浦町が負けそうになったところで僕らがその魔物を倒してしまえばいいからだ。
───例えるなら、東京タワーの頂上から、片や命綱無し、片や破壊不能の超安全な命綱をつけた状態で、同時にバンジージャンプをするようなものだ。
同じことをしていても、覚悟も緊張も、得る経験も全然違う。
それならば、弱い敵が相手だったとしても、命の危険のある戦いを経験して、一歩、一歩と進んでいった方が確実に強くなる。
「それは同時に、常人が僕達のパーティに入ったところで促成栽培にしかならないってことだ」
───ステータスだけで中身の伴っていない、言うなれば今の僕のような状態になるわけだ。
それは僕をも超えうる
「まぁ、その例えだと普通に死ぬと思うけどね」
......まぁ、例えだよ、例え。
と、そんなことを話していると、僕らの会話に無遠慮に割り込んで来る人物がいた。
「ふむ......、だがその考えだと私という美しすぎる蕾を摘み取ってしまった、ということにもならないか? 責任は取ってくれるんだろうな?」
───そう、浦町である。
そもそもコイツは常人じゃないから僕らのパーティでも最高限度の経験は得られるだろ。
.......だが少し待たれよ、コイツ今自分で自分のこと『美しすぎる』とか言わなかったか?
「事実をそのまま言葉にしたまでだろう? それとも何か? 私は君の主観では美しくないのかな?」
「はいはい、世界で何番目かに美しいよ」
「言ってることも口調も最悪だな。棒読み過ぎるぞ?」
美しさ......ねぇ?
好感度で言えば一位に恭香が来て、その少し下に白夜、輝夜と続くんだが、美しさ、可愛さで言えばもちろん一位に
「つまりお前は大したことないってことだよ、浦町」
「......流石の私でも少し泣きそうになったぞ?」
何が『流石の』だよ。
こっちで再会してからというものの結構な頻度で泣いてんじゃねぇか。
それを読んだのか、ドンッと机を叩いて立ち上がる浦町。
「そ、それはっ! き、君が意地悪ばっかりするからじゃないか!」
「おいおい、変な言葉ばっかり言ってるキャラが崩れはじめてんぞ?」
───それは、何気なく言った一言だった。
向こうの世界での彼女なら、
『ふん、君が悪魔と手を組んで天使の領域に侵攻を仕掛けてくるからだろう』
とでも言っていたのだろう。ドヤ顔で。
───それが、どうだろう? 今の現状は。
『......なんか悪いものでも食ったのだろうか?』
と、そんなことを思わざるを得ない。
その疑問は浦町と再会して少し経って浮かんだのだが、何だかんだで聞きそびれてしまった。
今の僕の言葉はたまたま言ってみただけ。
そんな、たわいもない冗談───戯言だった。
───もちろん僕は、その戯言が僕らのパーティに予想外の効果を呼び起こすなんて、知る由もなかった。
「ぐっ......、そ、それは......、ぱ、パーティの皆と仲良くしたくて.........、君もそっちの方が好きかなって、そ、それで直した方が......って何を言わせるんだ! 私はもう部屋に戻るからなっ!!」
顔を真っ赤にした浦町は、そう言い残すと返事も聞かずに部屋へと戻って行ったのだった。
「「「「「「「.........えっ?」」」」」」」
残された僕達は馬鹿みたいに口をポカンと開けて、その後ろ姿を見つめていることしか出来なかったのだった。
───次の日から、彼女が恭香を含めた他のパーティメンバーと仲良くなることは、言うまでもない事だろう。
☆☆☆
そんなことがあった晩。
僕は
───僕の立っている場所は、かなり
水分の枯れきったのだろうと思えるような荒野に、僕らを囲むかのように深々とした針葉樹の森。
当たりには濃い霧がかかっており、空を見上げると、そこには灰色の雲が空を多い尽くしている。
遠くから、雷の鳴る音が聞こえ、その霧がすうっと晴れてゆく。
───その霧は完全に晴れたわけではなかったが、僕の前方に立っている彼女を視界に捉えるには、充分だった。
「本当に中二病一色だよな、お前の世界って」
「公開処刑場を作った奴に言われたくはないな、我が主殿よ?」
僕の数十メートル前方には、
「なぁ、主殿よ」
輝夜は顔を伏せ、そう話しかけてくる。
「我には恭香や白夜のような可愛らしさも、暁穂のような美しさも無い。せいぜいが胸だけの女だろう」
彼女は自嘲気味にそう言って苦笑いを浮かべる。
......全然そんなことは無いのだが、まぁ、真剣な口調だしそれを訂正するのは良くないだろう。
───だから僕は、あえて肯定してみた。
「そうだな、確かにお前のおっ○いは最強だ」
自信満々に、そう肯定してやった。
「そう、我の胸は最強.........えっ?」
「えっ?」
先程の真剣な空気は一転、微妙な空気が僕らの間に流れる。
「それで? おっぱ......じゃなくて輝夜。なんの話だっけ?」
「おい、主殿? 我の名前をおっぱ.........って何を言わせるのだ!? このケダモノめっ!」
「そのケダモノに幾度となく夜這いを仕掛けたお前は何なんだろうな? 野獣とか?」
「くぅぅっっ!! やはり主殿は鬼畜過ぎるぞっ!!」
「そりゃ褒め言葉だな?」
僕はそう言って笑う。
ひとしきり笑ってから、僕は本題に入った。
「それで? 世界構築してまで何の用だ、輝夜?」
そう言って、僕は彼女の瞳を見据える。
───そこにはいつに無く真剣な表情の輝夜が居た。
浦町の心情と久々の《悪夢の世界》でした。
まぁ、正確には《獄夢の世界》にグレードアップしてるんですけれども。
※ちなみにギンは大したことがないと言っていましたが、信頼度で言えば浦町はダントツで一位です。
次回は......、まぁ、お察しくださいということで。
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