挿絵表示切替ボタン

配色








行間

文字サイズ

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
148/667

ギンさん無双です!

第三章 帝国編
第132話

『ぐははははは! 命をかけて相打ちを狙ったか! 女子の癖して滅茶苦茶かっこいいではないかッ! 我は感動したぞ!!』


『か、かっこよかったです!』


『そうですね! 私も思わず感動に震えてしまいました!』



それに続いて観客席から絶え間無い歓声が聴こえてくる。



───どうやら先程の浦町の攻撃......と言うかその姿勢、考え方は獣人たちのお気に召したようだ。


もしかしたらグランズ帝国の歴史に名を刻んだかもな、アイツ。




そんな事を思いながら、僕は前方へと目を向ける。



───そこには身体中に傷を負った四人の姿が。



「格下相手に油断して、慢心してやられかけて......恥ずかしくないのか?」


「うるさいわね......死ぬほど恥ずかしいに決まってるじゃないの......」


「あぁぁぁっ! 絶対後で獣王様からお仕置きっすーっ!」


「「......はぁ」」



どうやらかなり精神的ダメージを食らってしまったようだ。


......まぁ、格下相手に『お前はよく頑張ったさ』とか言って笑われた上にかなりのダメージを食らったんだ。死にたくもなるだろう、恥ずかしさのあまりに。


ぶっちゃけ言えば、僕はその台詞を聞いた瞬間吹き出してしまったのだが......、まぁ、本人の前で言うことでもないだろう。




「だけどまぁ、浦町があれだけ頑張ったんだ」





───僕も、それなりに本気で行かせてもらおうか。





「『影纏』」




瞬間、僕の魔力が解放され、その身体に影を纏う。



会場中から息を呑む音が聞こえる。






「でないと、カッコつかないだろ?」





───さぁ、プチ(・・)執行開始だ。





☆☆☆





相手の様子を確認する。




前衛は二刀流のベルと魔法の使える格闘家オルベルの二人。


中衛は、前衛寄りで鞭使いのイグムス。


そして後衛が、弓と魔法を使うエクス。


バランスの取れた、いいチームだろう。




───だけどそれは同時に、一人でも欠ければバランスが崩れるということでもある。



特に後衛とかね?



「よし、君に決めたーっ、『月光斬』」



正義執行がLv.2になったことによって一回り大きくなり、力をより引き出せるようになったアダマスの大鎌。

そのアダマスの大鎌によって打ち出されたその斬撃は上位種如きに到底躱せるような速度ではない。



「ぐふぁっ!?」



一瞬にしてエクスは月光斬によって一刀両断......、



───とはいかず、体中の骨の折れるような音がした後、そのまま地面へと墜落して行った。




これぞアダマスの大鎌Lv.2の能力のうち一つ『不殺攻撃』である。文字通り、殺さない攻撃───つまりは峰打ちの超強化版である。


ぶっちゃけ強くはないし、殺し合いでは微塵も役に立たなさそうだが、それでもこういう場面で使えるから僕は気に入っている。



───地面に墜落した衝撃で全身骨折、そのまま死亡とかはやめて欲しいものだが......、うん、きっと大丈夫だろう。



「エクスっ!? くっ、行くわよ二人とも!」


「了解っす!」


「うん、りょうかい!」



エクスに駆け寄ったり意識を分散でもしてくれれば後ろから不意打ちを食らわせられたものを......、と少し残念に思ったが、まぁ、不意打ちだとかっこ悪いか、と思い直す。



「それじゃ、後続(アックス)も待っている事だし、一瞬で終わらせてもらうぞ?」


そう言うと僕はアダマスの大鎌を真上へと投げ出す。



もちろんそんな突飛な行動に出れば警戒されるだろう。




───だが、その警戒の対象は僕だけじゃない。




彼女らの視線が一瞬上空へと逸れた瞬間、僕は一気に相手へと踏み出す。


ドゴン、と僕が踏み込む音がして彼女らがこちらへ視線を戻すも、時既に遅し。





───そして、





「きゃっ!!......って、な、なによこれっ!?」


「な、なんすかこれっ!? へ、変態! 変態っすっ!」


「.........へんたい」




グレイプニルによって亀甲縛り(・・・・)状態な三匹の芋虫が、そこには居たのだった。



───クックック、この一ヶ月間にどれだけアイツらを縛ってきたと思ってるんだ?


風呂に突入してきたり夜這いに来たり、隙を見ては僕にアタックしてきた奴ら(・・)を縛ってきた僕は、ロープの扱いだけなら最高神にも及ぶ自信がある。割と真面目に。




そう思っての行動だったのだが、




『へ、変態だぁぁぁぁっ!! 執行者は女の敵だった!? 驚愕の新事実です!』


『ぐははははは! 男なら仕方ないとは思うが........、ビックリするくらいの鬼畜だな』


『?? ただ捕縛しただけではないのですか?』


『お前はまだ知らなくていいことだよ』


『変態! 変態だぁぁっ!! ケダモノですっ!』




司会席からは罵詈雑言(特に司会さんの)。



───そこまで言わなくたっていいじゃないですか。


まぁ? 下心がなかったかと言われれば返答に困らないでもないんだけど? それでもちょっと限度があるんじゃないですか?



視界の端っこの方に、光の消えた瞳をこちらへと向けている奴らが居たのは気のせいだろう。



(......去勢されたい?)



───残念、気のせいじゃありませんでした。



(そもそも最近は私たちのこと放っておきすぎなんだよ! なんかさ? 浦町さんとか浦町さんとか浦町さんとか浦町さんと仲良くしすぎだよ!)


(そうなのじゃっ! 主様は妾の事ももっと大切にすべきなのじゃっ! 妾もたまには放置プレイばかりじゃ無く、普通に優しくしてほしいのじゃっ!)


(な、なぁ? 主殿? そ、そろそろ我とも......その......)


(マスター、輝夜さんが付き合ってほしいそうです。ついでに私も)


(ついでに私も、ってなんだ!? って言うか何を勝手に便乗しているのだ! 次は仲間になった順だと我の番だぞ!)


(ふふっ、もしかしなくても次は浦町さんなのでは?)


(よし主殿、帰ったら話があるから我の部屋まで来てくれ)




───ロマンチックのロの時もない呼び出しだな、おい。



でもまぁ、確かに最近はコイツらのこと放って置きすぎなのかもしれない。


言い訳させてもらうなら『久しぶりに友人達と会って、そっちに気を回しすぎた』って事なのだが......、まぁ、言い訳しても意味は無いことは分かってる。


そう言えば何だかんだで未だにデートしてないし......、この大会が終わったら王都に戻るまでの間、時間があればそういうことをしてもいいかもな。



と、そんな事を思っていると念話がブチッと切れ、奴らの方に目を向けると、恭香が何やら皆に耳当てして回っていた。


───どうやら確実にデートすることになりそうだ。




そう思いながらも僕は芋虫三匹をそれぞれジャイアントスイングしてアックスの目の前まで投げ飛ばす。


『ちょっと! 外しなさいよ!』とか『弟に言いつけてやるっす!』とか『......へんたいさん』とか色々うるさかった為である。

特に二人目。アンタの弟(ベラミ)と僕って知り合いだから真面目にやめてください。




そんな事を考えていると、司会さんの僕への罵詈雑言がやっとなり止んだらしい。




『変態! ド変態! はぁ、はぁ......、ど、どうやら私が罵倒している間に三人とも戦闘不能になってしまった様子です!』


『『.........お疲れ様』です』



あれだな、きっとこの人大会終わってテンションが元通りになってから『なんで私はあんなこと言っちゃったの!?』って一人で悶々とするんだろうな。


お疲れ様───もとい、ご愁傷さまです。




『......コホン、というわけで執行者が四人を一瞬で......ええっ!? 今思ったんですけど一瞬って凄くないですか!?』



───どうやら亀甲縛りが印象的すぎてその前の戦いは頭から離れていたらしい。

......この人が司会やってて大丈夫なのだろうか?




そんなことを思ったが、どうやらそれは司会さん一人だけではなかったようだ。





「「「「「「「「.....あっ」」」」」」」」



正確に声は聞こえなかったが、間違いなくそんな顔をしてビックリしてる観客共。





───あれっ? ......まさかだよな?





そんなことを思ったとほぼ同時に、闘技場にかなり遅れた歓声が鳴り響いた。




───次からは亀甲縛りじゃなく菱縄縛りにしようと、そんなことを思う僕だった。



......まぁ、大差ないんだけれど。





☆☆☆





「言っておくが俺はノンケだぞ」


「.........えっ? いきなりどうしたんだ?」


「.........俺も亀甲縛りにするつもりなのかと」


「そんなわけないだろ!?」



はぁ......、最初の台詞が『言っておくが俺はノンケだぞ』だなんてどんなキャラ設定だよ。




僕は今現在、ステージの中央でアックスと対峙していた。


そしてさっきの台詞はアックスのものである。


───二メートル超えの獣耳オッサンがそんなことを言い出したのだ。それはそれは怖かった。それこそゼウスの雷霆よりも。


強いていうならばルーシィと同じくらいには怖かった。



......まぁ、ノンケらしいし安心したけど。




『ということで色々ありましたが、とうとう精鋭チームの大将、アックスさんが登場です! アックスさんと言えば俊敏な動きと無尽蔵な体力、とんでもない腕力の三要素による接近戦が有名ですが、獣王様、どうお考えですか?』


『うーむ......、さっきの執行者の戦いを見た感じでは全力のアックスよりも上、って感じだったな。ウイラムをぶっ飛ばした謎の能力や他に隠してる能力が幾つかあると考えるとアックスの勝機は薄い......だろうな』


『ま、まだあれより強くなるんですか......?』


『当たり前だろう、仮にも我とマトモに戦える逸材だぞ? ま、我からしたらまだまだ弱いんだがな? ぐはははははっ!』



───今に見てろよ、あの野郎。



どこかの"初登場時はめちゃんこ強かったのにいつの間にか抜かされていて闘技場でハッスルして勇者たちをボコった哀れな王族"の二の舞にしてやるよ。


ま、その正体に言及はしないがな?




───時を同じくして観客席のオリビアの元へと向かっていた愚王エルグリッドがくしゃみをしたとかしなかったとか。





「んじゃ、そろそろ始めるか」


「是非手加減願いたいものだがな」


「手加減しないとお前死ぬぞ?」


「.........割と真面目に手加減をお願いしたい」



アックスはそう言うと拳を僕へと突き出す。


その動作に殺意も敵意も、害意もなく、ただ単純に握手をするかのように拳を突き出してきた。



───なんだこれ?



と、そんな僕の疑問が顔に出ていたのだろう。



「獣人族における一つの習わしだ。拳を合わせることで正々堂々、拳で勝負を決めるという───まぁ、言うなれば暗黙の了解だな」



なるほど、確かに獣人族(脳筋)らしい習わしだな。

───面倒だから、とか言って王族にすら名字の無いこの国だ。こんな習わしがあっても不思議じゃない。



「僕との殴り合いをご希望か?」


「俺は元々斧使いだが、あの鎌とはどうしてもやり合いたくないのでな」



───まぁ、リーチの短い斧であのアダマスの大鎌に挑むのは確かに無謀だろうな。





「それじゃ、約束してやるよ。スキルは使うが魔法は使わない。その上で純粋な肉弾戦でお前に勝ってやる」


「ククッ、お手並み拝見だな、執行者」




僕らはそう言って拳をコツンと合わせると、そのまま肉弾戦へと流れ込んでいったのだった。




───この大会、初めての"強者"との戦いに、僕の顔は自然と笑みを浮かべていた。






☆☆☆






「フッ!!」



そんな声と同時に巨体に似合わぬ鋭く、コンパクトなジャブが飛んでくる。


───今の僕なら正面から受け止めることも......多分出来るとは思うが、それは得策ではなかろう。

その上コンパクトな為、懐に潜り込むことも、空振りさせて隙を作ることも出来やしない。


例えるなら大型の熊の変異種が二足歩行でボクサーも涙目のジャブを打ってくるようなものだ。

その上速度も強さも鋭さも、すべてが化物級で知性も高い。


はぁ......、本当に厄介な奴だな。



───まぁ、楽しいからいいんだけどさ。



僕は右の掌でジャブを左に押すことで受け流す。



だが、コイツの攻撃はそれで終わりではない。



ジャブ、ジャブ、ジャブ、からの右ストレート。更にフックやアッパー、更にジャブやストレートを交えてからのレバーブロー。



パンッ、パンッと弾いて逸らしてはいるが.....、正直言ってコイツの体術はエルグリッド並だった。

今だって僕はステータスで無理矢理躱しているだけで、技術だけならばコイツには到底及ばない。


───これで斧使いなんだから、実力ならエルグリッドよりも遥かに上なのだろう。




っと、そんなことを考えている暇は無さそうだ。




アックスのギアがまた一段階上がる。

───おそらく、身体強化か闘気か、そのどちらかであろう。


先程までまだ余裕を持って躱せていたジャブが、さらに強く、早く、鋭くなる。受け流す僕の腕にもかなりの負担がかかっているようだ。


特異始祖の僕でさえ危険視するようなパンチって......、絶対コイツってLv.900超えてるんじゃないか? しかも近接戦闘に極振りのステータスをしてるに違いない。


───例えるなら筋力、体力、速度が白夜レベル、器用さを......マックス辺りと同じくらいまで下げて、賢さやその他のステータスはそこらの兵士よりも低いのではないだろうか?



「道理で接近戦を望んだわけだな?」


確かにこの様子なら、それこそ獣王の軽い練習相手くらいは務まるのだろう。



───それ程までに、コイツは強かった。



それは僕にとっても全くの予想外で、想定外だった。




「ククッ、逃げてばかりでは勝てないぞ? ハァッ!!」



僕が反撃しないのを"接近戦が苦手"だと判断したのだろう。



アックスがニヤリと笑って僕の顔面に向かって右ストレートを打ち込んでくる。



───それは彼の渾身の一撃だったのだろう。



確かにその攻撃は僕にとっても"直撃は避けたい"と思えるような重い一撃で、おそらくは僕が横に逸らしたとしても、それを無視してでも僕に攻撃を当てて来るだろう。




横目でチラリとあたりを見渡すと、久瀬や穂花、鮫島さんに堂島さんが有り得ないものを見たような顔で目を見開いていた。

そして意識を回復させた浦町と目が合った。


さらに視線を巡らせると僕のパーティメンバーとも目が合った。



はぁ......、なんで全員が同じ目をしてるんだろうかね?




彼ら彼女らは呆れたような、それでいて少し笑っているような、まるで悪戯をして喜んでいる子供を見る母親のような顔をしており、その目は確実にとある疑問───いや、質問を僕に伝えていた。





───何遊んでるのさ? と。







僕は目の前まで迫ったアックスの拳を指一本(・・・)で受け止める。





「「「「『『『「.........えっ?」』』』」」」」





僕の脳内には、先程の映像が流れていた。




胴体に肘打ち、顎に掌撃を受け、倒れ伏す久瀬の姿。


壁に打ち付けられ、更に胴体に追い打ちをかけられる穂花の姿。


槍を奪われ、喉元にククリナイフを押し付けられる鮫島さんの姿。


僕へと続く為に決死の覚悟で魔法陣を発動させた、浦町の儚げな笑顔。




───こんなの僕のキャラじゃないだろう。



正直、こういうのは久瀬に押しつけてしまいたかったし、そもそもそういう目に遭ったのは、彼ら自身の弱さが何よりの原因だ。


それで敵である精鋭チームを責めるのは酷というものだろう。





───だけど、さ。






「さっきのは楽しい茶番だったぜ?」






───かなり不愉快なことには、変わりない。






「だから、今度はこっちの番だ」





ダラダラと冷や汗を流すアックスと、過去を思い出して苦笑いする暁穂の姿が目に入った。



───そう言えば暁穂も同じように倒したんだったな。





「さぁ、お返し......だっ!」




僕はそう言って、ベクトル変化(・・・・・・)で超強化した一撃をアックスの胴体に打ち込む。

拳にゴキボキと骨を砕く嫌な感触が伝わり、その攻撃によってアックスの身体は内壁まで吹き飛ばされる。






「ほら、約束通り手加減してやったぜ?」






───珍しいことに、会場に歓声は響かず、皆が皆目を見開いて固まっていた。

ギンは前半ふざけちゃいましたね。

そういえばエクスは生きているのでしょうか? 普通に墜落してましたけども。

ブックマーク機能を使うには ログインしてください。
いいねで応援
受付停止中
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。
感想を書く
感想フォームを閉じる
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く際の禁止事項についてはこちらの記事をご確認ください。

※誤字脱字の報告は誤字報告機能をご利用ください。
誤字報告機能は、本文、または後書き下にございます。
詳しくはこちらの記事をご確認ください。

⇒感想一覧を見る

名前:



▼良い点

▼気になる点

▼一言
《番外編》 Silver Soul Online~もう一つの物語~ チート(スキル系)ほぼ無しの技術と頭脳でVRMMOの世界を突き進みます! よろしければご覧ください。 SSO
X(旧Twitter)・LINEで送る

LINEで送る

+注意+

・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
▲ページの上部へ