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またまた銀以外の視点有りです

第三章 帝国編
第131話

僕はそれらを静観していた。


───それは文字通り、手助けもせず口も挟まず、ただただ黙って見ていた、という事である。



黒炎による攻撃と、穂花からの援護によってイグムスを攻撃し続ける、久瀬。


魔力が切れたことによって下がった浦町と、それを引き継いで全力を出し始めた鮫島さん。



「も、もしかして勝てちゃうんじゃないかな!? ね、銀くん!」



隣の堂島さんまでもが、その戦況に勝利を期待する。





───だが、僕はそうは思わない。




「まだ......、足りないな」


───それも、圧倒的に。



僕の言葉にピタリと歓声を止め、不思議そうな顔をしてこちらを見る堂島さん。

その瞳には、疑惑と一抹の不安が見え隠れしていた。



確かに堂島さんや久瀬が勢いづくのも仕方ないだろう。



なんせ、見た目だけなら完全に優勢だからだ。


───だけどまぁ、流石は直属護衛団。演技や嘘、誤魔化し......いや、これはエンターテインメントが上手だと褒めるべきなのだろう。



実際に気づいているのは、会場中でも僕にレックス、恭香に従魔たち、それに浦町くらいのものだ。



「今は確かに、優勢だろうな」



僕の視界に、悔しげに顔を歪ませる浦町の姿が映る。





「だって、そっちの方が面白いだろ?」



───ワンサイドゲームほどつまらないものは無いからな。



自分(シル)のやった無双の事など頭の片隅に放置し、僕はそんなことを言うのだった。




アックスがゴホンと咳をし、相手チームの全員が同時に笑みを浮かべたのは、それとほぼ同時のことだった。






☆☆☆






あぁ、始まるのか、と僕は直感した。


───いや、始まるのではなく終わるのか。



「でもまぁ、よくやったと思うぜ?」



相手側は恐らく全員が上位種以上だ。


もっと詳しくいうならば、アックスとイグムスは最上位種である幻獣種、ベル、エクス、オルベルの三人は上級種の帝獣種なのであろう。


「少なくともせいぜいがハイヒューマン、チート有りでも亜神の底辺止まりの勇者たちに勝てる相手じゃなかった、ってことだろう」



───なぁ? 精鋭さん方?





その問いかけが伝わったわけではなかろう。


しかし、その問いかけが契機になったかのように彼らの動きが変わったのは間違いないだろう。



───それは先程までの手加減(・・・)ではなく、間違いなく勇者たちを本気で(・・・)仕留めるための動きだった。




例えば、イグムス。




「ふふっ、結構楽しかったわよ? 来年出直して来なさい」


「そ、それはどういう......ぐふぅっ!?」



まるで瞬間移動したかのように久瀬の懐に入り込んだイグムスは、彼の鳩尾に肘打ちを一撃。



「よっ!......と、一丁上がりっ!」


下がってきた顎の先端部へと向けて掌を右から左へと高速で打ち込むと、久瀬は一瞬で戦闘不能へと陥った。


───正確には数分すれば起き上がれる程度には回復し、十分もしないうちに戦闘は可能になるとは思うが、それでもあれは明らかな敗北だ。



「えええっ!? 竜馬!?」


あまりの事態に驚愕する穂花。



確かにそれは、先程までの(・・・・・)イグムス相手になら余裕で通用したのだろうが、今は別だった。



「ふふっ、隙だらけよ?」



瞬間、どこからか取り出した魔導具であろう()を遠く離れた穂花へと向けて薙ぎ払う。


と同時に魔力の流されたその鞭は長さをみるみると伸ばし、見事穂花の胴体へと巻きついた。



「ま、まずっ......」



そんなことを言ったような気がしたが、時既に遅し。



「うーらうらうらうらぁっっ!!!」


獣人特有のトンデモ腕力にものを言わせて鞭の先端に絡まった穂花をジャイアントスイングで───まるで円盤投げをするかのような気楽さで投げ飛ばすイグムス。


───正直言って自分の目が信じられなかった。



「かハッ......」



穂花はその勢いを殺すことも出来ず、そのままステージ内壁へと激突する。

バキバキッという音と同時に壁にヒビが入る。



───が、イグムスもこれで気を失うとは思っていなかったのだろう。



「はい、私の勝ちね?」



一瞬にして距離を詰めたイグムスが、鎧越しに穂花の腹部に右ストレートを打ち込む。


「ぐふっ......」


悲鳴にもならないうめき声を上げて、穂花もまた久瀬同様倒れ伏す。



「ふふっ、なかなか強かったわよ? もしも貴方たちが本気だったら私も危なかったかもしれないわね」




そんなことを満面の笑みで言った豹の獣人は、そのギラギラした瞳を今度は僕へと向けてくるのだった。



───まるで、"貴方はもっと楽しませてくれるわよね?"とでも言いたげなその顔に、少しビビった僕がいた。




まあ、今の戦闘を見た上での教訓としては、



『戦闘狂、特に女性には気をつけろ。マジで怖いから』



という一言に尽きた。





☆☆☆





それとほぼ同時刻、もう一つの戦いも終盤を迎えていた。



「鮫島! 向こうはやられた、私も加勢する!」


「魔力は回復したのかしらっ!?」


「四の五の言っている余裕はないだろうっ!」



久瀬と穂花が脱落した事に気付いた浦町が、最後の足掻きとして攻撃に加わった。


───どうやら最低でも一人は道連れにでもするつもりらしい。



だが、その難しさは彼女自身が一番わかっているのだろう。


いくら化け物じみた未来予測(チート)を持っていたところで、それを使いこなした上でその未来を潰す実力が伴っていなければ意味もない。


浦町は魔力は満タンには程遠く、体力──主に脳の消費が激しく、長時間戦っていられる状態ではない。


鮫島さんも精霊を仲介しての魔法行使をしているため魔力の消費は浦町程ではないが、集中力の持続時間に限界を迎えようとしている様だった。



文字通り、二人とも満身創痍。


この状態から一人でも道連れにするのはかなりの難問だろう。



───それこそ、未来を捏造できる天才であっても、な?



「ふん! つまりはここからが、君の言う"根性の見せ所"ということだろうっ!」



こんな時でも僕の心を読んでいるとは、浦町は案外余裕なのかもしれない。


だが実際にはそんなことはなく、彼女たちは刻一刻と追い詰められて行った。



───そして、遂にその時はやって来た。




「隙あり、っす!」


ベルが両手に持つククリナイフの片方が鮫島さんの槍を受け流し、弾き飛ばす。



「あっ!? し、しまっ......」



───しまった、やってしまった。


と鮫島さんは最後まで言うことは出来なかった。



彼女の視線の先には自らの首元に添えられた、ベルの手に握られた二本のククリナイフ。


そして、足元に転がる自分の槍。



「......はぁ、私の負けよ」


「ふふん! 勝負ありっすね!」





───そうして着実に、確実に決着が着いていく。




未だに残っているのは、僕の親友ただ一人だった。






☆☆☆






この試合は、私にとって本戦なんかよりもよっぽど重要だった。



『僕の隣を奪い取りたかったらちょっとくらい根性見せてみろ。お前は仮にも、僕の助手だろう?』


と、銀の言葉が頭を過ぎる。



元々この大会に参加したのは、銀、君と会うことができるかもしれないという希望があったからだ。


だが今現在、私はその目的は充分に果たし、君の旅に付いて行く契約も果たした。


正直言って、今の私にこの大会に参加する理由は見当たらない。強いていうならば銀に私のカッコいいところを見せて惚れさせる程度の役割しかない。


───まぁ、君がそれで惚れてくれるのならば私は全力を出すのだが、それは期待薄だろう?



だが、君は言ったな。



奪い取りたければ根性を見せてみろ、と。


それはつまり、この試合の結果を手始めとして正しい順路を歩み続ければ、いつかは君の隣に辿り着くという事に他ならない。




「だったら私は、この試合に全力をかけよう」



それは文字通り、全力。


奥の手も、最終手段も、禁じ手も。


───私の全ての力を振り絞って、君に私の事を認めさせてやるさ。



そう覚悟を決めると、私は走り出す。


この場所には鮫島が居る。私の奥の手を遣うには彼女は邪魔だ。




走りながら私は計算をし直す。




魔力量は? 回復速度も考えれば何とか持つだろう。


体力は? まだまだ余裕だ。


準備は? もう一発で完了する。


勝機は? 上手く行けば、数人は戦闘不能まで陥るだろう。




───なら、私が今すべきことは?




「ふっ、そんなの決まっているか」




チラリと視線を後ろへと向けると、どうやら鮫島は久瀬と桜町の方へと向かったらしい。




───これで、準備は整った。




足を止め、私は振り返る。




前方には警戒しながら私へと近づいてくる精鋭共。


そのさらに後方には、目を覚ました久瀬と桜町、それに鮫島の姿が見える。


横方向からは、懐かしい視線を感じた。



───くくっ、恋は人を狂わせるというが、まったくもってその通りだ。


まさか自分自身がその証明になるとは思わなかったがな。




「私がこんな無茶をするのは君のせいだ。だから責任くらい取ってくれるんだろう......なっ!」



私はそう言うと同時に引金を引く。



───だが、その最後の(・・・)魔力を乗せた弾丸は、彼らの足元へと着弾する。



それが引き金になったかのように、私の身体へと強烈な眠気が襲ってくる。

初めて味わうが、魔力切れというのはこういうものなのだろう。




「......貴女は良くやったわ。もう後は彼に任せなさい」



クールぶった、いけ好かない豹女の声が耳に届く。




───良くやった?


───後は任せる?




その勘違い(・・・)に、思わず吹き出してしまう。



それを見て、怪訝な表情をする奴ら。




『良くやった』や『後は任せる』は......、




───それは敗者にかける台詞だろう?





「やはり貴様らも(馬鹿)だったようだな」




瞬間、私を含む、豹女、狼女、鳥男、熊女が踏む地面に魔法陣が輝き出す。


その魔法陣は、私が打ち込んだ銃弾の痕跡を目印として形成されていて、そこからはかなりの魔力───それこそ、私がこの試合で使った全魔力と同等の魔力を感じられた。



「こ、これはっ!?」


「チッ、やっぱり罠だったか!?」


「や、やばいっすよーっ!? 何だか逃げられなくなってるっすーっ!!」


「......じばくかくご。なかなかすごいことするね」



鴨共の悲鳴にも似た叫び声が聞こえる───いいザマだ、油断してるからそんなことになる。




私のもう一つのユニークスキル。それは『孔明之陣』。



魔力を使って魔法陣、またはそれの目印を打ち込むことによって魔力の消費をせずに高位魔法を放てる優れものだ。


ましてや今回の魔法陣は試合時間を目一杯使って描いたものだ。無傷で済むとは思うなよ?




───まぁ、それは私にも言えた事なのだがな。




今回の魔法陣の能力は、隔絶と破壊。


魔法陣の上にいる者を見えない壁によって外と隔離し、それらを圧倒的な魔力の光線で焼き払うというものだ。



今現在、私は魔法陣の上にいる。


その他にも例の四人が同じ場所にいる。


魔法陣はもう既に発動済。



私も彼らも、もうここから抜け出す術はない。





───果たして、光線で焼き払われるのはどれほどの痛みを伴うのだろうか?


───助かったとして、私の身体は無事なのだろうか? 火傷の痕は残らないだろうか?


───そんな私を見て、君は軽蔑するだろうか? 醜いと罵倒し、私を手放すだろうか?


───君は、そんな私と一緒にいてくれるだろうか?



覚悟を決めたというのにも関わらず、私の脳内にはとめどなく不安が溢れ出す。




私は、今になってこう思う。




───魔法陣の輝きが一層と強さを増す。






「全く合理的じゃない、愚かな行動だったな」と。






けれど、それを後悔していない自分が、とても誇らしい。






そう考えると同時に魔法陣から光が溢れ───そうして私の意識はそこで途絶えた。





「愛が重いぞ、この馬鹿野郎」と、そんな聞き慣れた声が聞こえた気がした。






☆☆☆





「いやぁ、危なかったぁ......」



僕は浦町を抱きかかえてその破壊光線を躱すと、そのまま久瀬達の所までやってきていた。



───え? どうやって結界内に入ったかって?


いや、ぶん殴ったら壊れたよ?


......まぁ、その瞬間だけ風神雷神に影纏、ベクトル変化まで使ったが、あまり気にするのも良くないだろう。



ま、浦町が無事だったから結果オーライだ。


───かなり愛が重いが、まぁ、コイツもそれだけ必死なのだろう。初恋だって言ってたし。それに、なんだかんだ言っても男としては嬉しいものがあるし、彼女の年齢としては未だ高校生、可愛げがあるってものだ。




「そんじゃ、皆安静にして堂島さんの所まで下がっとけよ? 巻き込まれるからさ。あと鮫島さん、浦町の事よろしく頼むよ」



僕はそう言ってニマニマと笑って気絶している浦町を鮫島さんへと引き渡すと、久瀬と穂花が立ち上がるのを手伝ってやった。


───あれだけやられてもう立ち上がれるんだから凄いよな。僕も人の事言えないけど。



そんなことを考えていると、彼らが悔しげに顔を歪ませていることに気づいた。



「了解したわ......あまり役にたてなくてごめんなさいね」


「......僕も、二対一だったのに勝てなかった......、ごめん......」


「クソッ.....、すまねぇ......銀」




どうやら一人も倒せずに負けてしまったことへの罪悪感を覚えているらしい。


───あんまり気にするのも良くないと思うが、確かに油断せずに真剣に全力で挑んでいれば勝てた可能性もあったのだろう。


僕だってあのダンジョンの中で格上相手にタイマンで勝った事もあるし、『無謀』と決めつけるのは時期尚早だし、何よりも甘えだろう。





───だから、僕はこう言おう。





「ククッ、僕が弱かった頃は格上相手に連戦連勝を決めてきたもんだがな? まぁ、お前らにそれを求めるのは酷だったか、すまんすまん。きちんと尻拭いしてやるから気にすんなよ」




思いっきり挑発してみた。



ブチィッ、と三つの音が鳴る。





───前にゼロにも言った気がするが、僕は『もっと◯◯な人がいるのだからお前も我慢しろ』という言葉が大嫌いだ。



確かにそれは、それ以上を味わった人への敬意から来る言葉なのかもしれないが、それでも僕は、それは単純に自分の都合でしかないのではないだろうかと思う。


我慢してほしいから適当な理由を付けて、自分の『我慢しろ』という台詞に正当性を持たせる常套句。


それこそが『もっと◯◯な人が居るのに』という枕詞にも似た醜い言葉である───と、僕は思う。



だから僕は我慢して欲しくば『我慢しろ』と直接言うし、その理由もきちんと説明してやる。その上で我慢するかどうかは本人の意思に任せる。


───そうでないと、心の弱い人や置かれている状況によっては心をふさぎ込んでしまうような人も現れるだろう。





だから、コイツらにも選択肢を与えてやった。




───グダグダ後悔してばかりで先に進むのを躊躇うか。


───後悔せずに反省を充分にして前へと歩き出すか。




確かに言葉による誘導(挑発)があったのは否めないが、それでも彼らには、僕の言いたいことくらい伝わっただろう。





「僕に負けたくなかったら、反省だけして前だけ見てろ」





僕はそう言ってくるりと背後へと視線を移す。




そこには僕が魔法陣を打ち破ったお陰で軽傷で済んだ四人の獣人の姿と、その背後に堂々と座っている大将、アックスの姿があった。



───アックスはまだしも、他の四人の瞳には、明らかな苛立ちと怒り、そして浦町への賞賛が見て取れた。




だが、それと引き換えに"油断"という二文字が消え去った様にも見える。







「ククッ、少しくらいは楽しませてくれよ?」



僕はそう言って、大鎌を再び肩に背負うのだった。







────エキシビジョンマッチも、終盤を迎えようとしていた。

何だか書いてて疑問に思ったので言っておきますが、浦町はヤンデレではありません。

......ちょーーっとアレですがね。


次回! ギンVS精鋭パーティ!

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