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最初は久瀬視点です。

第三章 帝国編
第130話

砂埃舞う闘技場。



俺たちは今、そこで豹の獣人と対峙していた。



「舐めてくれたもんだな? 俺と桜町を一人で相手取ろうってのか?」



少し挑発したような口調でそう言ってみるが、



「ふふっ、無茶でも無謀でもなく、ただ可能だという真実でしょう? 一ミリだって舐めてなんかいないわよ」


───だって、油断してたらやられちゃいそうだし。



と、彼女はそう付け加えた。



その言葉を聞いて思わず溜息をこぼす。


今のやり取りだけで分かる。



───コイツは本気でヤバイ奴だ、と。



油断も慢心も欠片もなく、ただの強敵として俺たちを認識している。

想定する中でも最も面倒で、厄介で、出来るならば逃げ出したい種類の格上だ。




「まぁ、だからこそやりがいがあるってもんだがな?」




情報を整理する。



相手は計四人+大将一人。一人は銀が倒した。


味方は俺も含めて四人。銀は俺たちの意を汲んでサボってくれてるし、堂島は銀がやられない限りは出てこないから安心だ。



さらに考える。



戦力差は?



銀を含めると圧倒的にこっちが有利だが、現時点で言えば間違いなくこっちが不利。


先程の三人が鮫島と浦町の方へと向かったことを考えると、浦町の能力を全開にしてサポートに回っても時間稼ぎとしては十数分、攻撃に転じたとしても二人......いや、一人を道ずれにするのがせいぜいだろう。



逆にこっちの戦況としては、味方は俺と桜町の二人、相手は副団長の豹の女の人一人。


人数だけで言えばこちらにも勝機はあるだろうが、それでも実力差が圧倒的だ。


───俺の奥の手を全て使えば勝てるかもしれないが、それでもアレを使うのは本戦......特に手品師や銀の従魔たちに当たったときの為に残しておくべきだろう。





「だから今すべきは、出来る限りコイツを弱めること。あわよくば倒して向こうに合流すること。桜町、異論はあるか?」


「ふふん、あるわけないでしょ」



何故かドヤ顔の桜町。


───まぁ、頭はまだしも実力だけは信用してるし、大丈夫だろう。




「それじゃ、本気で行くぜ? 死ぬなよ副団長さん」


「ふふっ、それは頼もしいわね?」




そうして俺たちの格上への挑戦が始まった。



───ま、簡単に負けるつもりは無いけどな。





☆☆☆





「ハァッ!!」



まずは右での渾身のストレート。


当たればかなりのダメージを与えられるだろうが、やはり豹女──イグムスは左掌で拳を逸らし、俺の攻撃を受け流す。



───が次の瞬間、奴はサッと横っ飛びをしその場から離れ、それと同時に数本の(・・・)聖剣デュランダルが地面に突き刺さる。



「な、何よそれ!? 全部同じ魔力放ってるんですけど!?」



思わずと言った様子で叫ぶイグムス。


だが、驚くのも仕方ないだろう。



───なんせ、これは全部が本物(・・・・・)なのだから。



「ふふーん! 聖剣デュランダルはまだまだランクが下の聖剣だけどね、『分裂』っていうかなり役立つ能力が備わってるんだ......よっ!」



聖剣デュランダルの能力、それは『分裂』


大きさはそのままに、質量保存の法則を完全に無視した分裂───分身と言った方が相応しいかもしれないが、分裂を繰り返す。



───それも、限度は無い。



右の聖剣を投げつけては分裂、次は左を投げ、分裂、また右からの分裂......と繰り返せば特大威力の投擲武器(在庫∞)の出来上がりだ。


更にその聖剣は基本的に(・・・・)桜町にしか使えない上に、桜町本人が消そうと願えばいつでもその分裂体を消去できる、と来た。



まぁ、地味な能力ではあるが、正直言って洒落にならない。



───だが、それだけじゃイグムスを倒すには至らないだろう、せいぜいが聖剣の投擲に慣れるまでの足止めだ。




「時間はかけられない、そろそろ俺も出るから援護は頼んだ」


「それで隙を見て接近戦も、だね?」



流石は向こうで知り合いだった上に一ヶ月もパーティ組んでただけある、俺の考えはお見通し、って訳か。




───ま、分かってるなら説明しなくても済むから、時間短縮+αで楽ができてラッキーだな。


これが銀なら八割型後者が主なのだろうけれど。




「さて、んじゃ行くぜ?」


「OK! 竜馬による使用を認める(・・・・・・)よっ!」




瞬間、俺は全力で駆け出した。



後ろからは聖剣の雨嵐。


前方にはまだまだ余裕そうなイグムス。


そして、辺り一帯には聖剣の刺さった大地が広がっていた。





「はァァァっ!!」



相手へと腰から抜刀した刀を振り抜く。



───がしかし、




「あらあら、凶暴な坊やね?」




その刀をイグムスは白刃取りした。


───それも()で、だ。


さらに力を加えるが、全く動く気配が感じられない。



───ったく、この大会は化物ぞろいだなっ!!




すぐに刀を捨てるという判断を下した俺はイグムスの指で固定された刀を離すと、咄嗟に右方向に刺さっていた聖剣デュランダルを掴み(・・)



───思いっきり振り上げる。



「えええっ!? な、何で聖剣を触れてるのよっ!?」



全速力の一撃だったにも関わらず、結局はイグムスの髪の毛を数本切り裂いただけで終わってしまった。


流石は副団長と言うべきか、聖剣は持ち主以外は触ることも使うことも出来ないのは知っているらしい。



───だがしかし、




「これは分裂体───つまりは不完全(・・・)な一振りだぜ? その上、桜町本人の許可までおりた。それこそ俺が使えねぇ理由の方が分からねぇけど...なっ!!」



左方向にあったもう一振りを左手で掴むと、俺は二刀流の状態でイグムスへと突っ込む。


───やはりというかなんというか、刀と違って折れる心配がねぇから使いやすいな。




肉体的余裕はあるが混乱してきたイグムス。


未だに隙を見て飛んでくる聖剣の数々。


そして、高威力の黒炎と飛ぶ斬撃を交えた俺の接近戦。




───はぁ、これだけやってまだまだ余裕ってんだから化け物だよな。




そんなことを思うと同時に、そんな奴の目すらも欺いて一瞬で相手を蹴散らした銀の異常さに呆れ、驚き、






───少し嫉妬して、かなり憧れた。






☆☆☆





『おおっと! 早くも各所では戦いが始まったぞ!? 精鋭パーティ陣では黒炎ことクゼ選手&英雄ホノカ選手VS副団長イグムスさん! ステージ中央では完全無欠ウラマチ選手&女王ミツキ選手VSベルさん、エクスさん、オルベルさんだ!!』


『ぐはははっ! 最初はかなり驚かされたが、どうやら今は精鋭チームが優勢のようだなっ!』



実力差考えろよ、そんなの当たり前だろ。



『それにしても凄いですね! 今の今まで執行者の陰に隠れていた黒髪の時代の皆さんですが、この短時間でこれだけの力をつけるとはかなりの成長速度なのではないでしょうか!?』


『ぐははっ、数年もしない内に我も抜かされるかもしれんな! ふむ、久々に訓練でも始めるとするか』



───それ以上強くなってどうするつもりだよ、と僕は思う。


僕は今現在、やっとフリーズが治った堂島さんと試合を観戦していた。



「それにしても聖剣デュランダルか......、穂花は他にも聖剣を召喚できるのか?」



仮にも真の勇者の武器が聖剣デュランダルだなんてカッコつかないし、身の丈に合わない。


ならばマックスのように実力に合わせて解放されてくシステムなのだろうと僕は推測し、堂島さんに聞いてみたのだが、



「うん、穂花ちゃんは今のところ二本の聖剣を召喚できるみたいだよ?」



どうやら僕の予想は的中していたみたいである。


───ちなみにマックスは三本目(・・・)を召喚できるから、まだまだマックスの方が実力は上のようだ。



ま、召喚可能なだけであって使用可能なわけではないのだが。




そんなことを話している間も試合は加速する。





───どうやら、試合も終盤に差し掛かったようである。






☆☆☆






時は遡ること少し。




「チッ......、ダメだ! コイツとは相性最悪だ!」


「ふん、今すぐに墜落して骨折しろ、鳥人間」


「俺の骨って鳥と同じく中身が空洞なんだからな!? マジで墜落なんてしたら洒落になんねぇんだよ!!」


「よし、洒落じゃなくしてやろう」



まるで未来が読めているかのようにエクスが逃げ回る先に銃弾を打ち込んでゆく浦町。


それを何とかという感じで躱すエクス。


しかしさらにその先には銃弾が。



───たしかに彼の言う通り、相性は最悪であった。



浦町は、その間にもほか二人の牽制に鮫島のサポートと、全く余念も油断も慢心もなかった。



───そして何より、すべてが予想内であった。




彼女の能力は『未来予測(カミングデザイナー)』、未来を予測───捏造する能力。



すべてを読み切り、把握し、予想し、誘い込み、未来とする。


それはもう既に、予測ではなく捏造だ。



───それこそ、花田や小鳥遊以上の器の大きさと、僕と同等の頭脳を兼ね備えた正真正銘の化け物であるからこそできる芸当なのだが、この能力が彼女に備わった時点でそんな後悔は後の祭りである。




そんな彼女にも一つだけ、決定的な弱点があった。




「くっ......、鮫島、しばらくチェンジだ」


「分かったわ! 精霊たちに魔力回復を手伝わせるから早く復帰してちょうだい!」



───そう、魔力量である。


未だにレベルが低く、人族であるが故の弊害でもあるが、何よりもその器と魂に魔力が追いついていないのだ。



それ程までに、彼女は優れていた。優れ過ぎていた。




───だがそれは、優れていたからこその弱点であった。




「よし! また魔力切れたっすよ!」


「今の内にまずは後衛を落とす! オルベルは中衛を抑えておいてくれ!」


「りょーかいっ!」



やはり熟練の騎士たちである。

彼らはもちろん、浦町の魔力切れを悟っていた。



───開始一秒で華々と散ったどこかの馬鹿とは大違いだ。





だがしかし、その天才の中衛もまた、厄介だった。



───彼らからすれば、単純に運が悪かっただけなのだが。







「私ってなんだか最近、モブよね?」




瞬間、パリンッと彼女を中心とした三十メートルが凍りつく。



そのあまりの冷気に身を震わせる三人。




───だって、獣人族はすべからく、それ(冷気)とは相性が悪いからだ。






「これでも昔は『氷の女王』なんて呼ばれてたのよ? その女王がモブって少し頭がおかしいんじゃないかしら?」




彼女の名は、鮫島美月。





───氷の精霊魔法を得意とする、氷の『女王』様だ。





☆☆☆





「「「さ、さむうっ!?」」」


「そうでしょうね、もう大人しく冬眠し(負け)たらどうかしら?」



鮫島美月。彼女は決して天才ではない。



だがしかし、それと同時に僕と同類と言う意味での『天才』でもある。

───彼女は単純に、才能が偏りすぎているだけなのだ。


堂島さんから聞いた話によると、彼女は一般人と比べても、魔法の才能が圧倒的なほど劣っているらしい。

───それこそ、日常的には使う、火をおこす、水を出す程度が精一杯だそうだ。



だが、まるでそれに反比例するかのように、精霊魔法に関しては圧倒的な才能を有していた。



本来ならば妖精族しか使えぬ、精霊魔法。


───その精霊魔法の才能がその妖精族(ネイルたち)すらも圧倒的に凌駕していたのらしいのだから、それは天賦の才......いや、神童とも言えるほどの才能なのであろう。



曰く、剣術の才能は無いが、槍術の才能がある。


曰く、前衛も後衛も出来ない代わりに、中衛は完璧にできる。


曰く、主観的になると鈍感だが、客観的な考えだと浦町にも及ぶ、etc..。



つまり、彼女もまた『名も無き才能』の持ち主なのである。



───簡単に言えば、鮫島美月、という人間の魂と器のステータスは完全なる極振り状態なのだ。



確かにそれは賭けのような人生だろうし、向こうではそのせいで鬱となってふさぎ込んでしまった鮫島さんだが......。







───この世界では、その賭けに大勝ちしてしまったらしい。







「私は今物凄くイライラしているのよ。せっかく会えた命の恩人───それこそ生涯をかけて恩返ししようと思った人に無視されて、モブ扱いされて.........最っ高ッッに苛立ってるのよ」



.........うん、見るからにイライラしてるね。


その見知らぬ誰かさん(であってほしい人物)が彼女と仲直りすることを心から願ってるよ。




「だから」




彼女は身も凍るような恐ろしく冷たい声で、こう言った。








「貴方達、犠牲になりなさい」





僕はその素敵な笑顔を、一生忘れることはないだろう。




───忘れたくても、無理そうだ。



鮫島さんの怒り爆発!

怖いですねぇ......、鮫島さん。

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