次のテーマは『色の世界』
人物像にも挑戦したい
空想上の生き物はもちろん実在する動物であっても、土屋仁応さんの木彫はどこか幻想的な雰囲気をまとっている。その根底には、仏像が存在している。
「大学の研修旅行で向源寺の十一面観音像を見て衝撃を受けました。仏像は文字が読めない人にもメッセージを伝えるものだからこそ、戦争の時代を超えて残されました。人々に何がなんでも守らなければと感じさせる美しさや迫力があったのです。そこに近づきたいという思いが生まれました」
仏像彫刻を専攻しながら、動物モチーフの作品を手がけるように。写実とは異なる「自分でイメージした動物像」は仏像に通ずるところがある。
「動物の顔は表情を完全に読み取れません。怒っているようにも笑っているようにも、怖い顔にもかわいい顔にも見える。仏像と同じように、こちらの心情を勝手に反映させているのでしょう。自分のイメージを投影した部分と動物そのものの形の中間くらいでつくっています」
さらには今回、採用された麒麟のような神話に登場する生き物も数多く手がけている。
「空想上の動物をつくるのには抵抗がありました。正しくないとか、間違った麒麟と言われるのではとビクビクしていました。資料を調べてもバラバラで……でも、誰も見たことがないのだから当たり前です。自分流の麒麟でいいと考えるようになりました。麒麟は平和な世の中に現れるそうなので、人々が平和な時にこうあってほしいという姿を形にしています」
昨年、アムステルダムで個展を開くなど活躍の場は世界に広がる。ただ、外国での評価はあまり意識していない。
「そういうことを考えてつくると実感が薄まり、つまらなくなる気がします。表面的なものにとらわれないように、自分の中から湧き上がってくるイメージの純度を高めた方が遠回りのようで近い、正しい道ではないでしょうか。どこの国でもどの時代であろうとも、何か人の心に残る形や色、イメージがあると信じています」
次に、土屋さんが挑戦したいテーマは「色の世界」。その先には、もう一つの難題も待ち受けている。
「彫刻は形のものですが、また別に『色の世界』がある気がします。それが形の世界に混じったり、乗っかったり、うまく作品に取り込めたらと考えています。あとは、いつか自分で納得のいく人物像をつくりたいですね。想像上の動物は人間の願いや恐怖心が形になったもの。そこに関心があるのだから、本当は人間に興味があるのかもと思ったりもします」