とある見守り派の同室

とある見守り派の同室


「さて、デジタル君!何の実験をするか覚えているかな」

「あたしをマネキンに変える実験ですよね!」

「ふぅン、実験に乗り気なのは嬉しいねぇ」


タキオンが笑い、好奇心に目を輝かせながらデジタルの周りをゆっくりと回り始めた。 

デジタルは興奮を抑えられないとばかりに何か言おうとするが、声が出ないようだった。慌てている素振りも段々と小さくなっていく。


「マネキンは話せないし動けなくても大丈夫だねぇ」


「効いてくると最初に体を動かす能力を失うんだ」

そう言ってタキオンは、手をデジタルの胴体の側面にそっと這わせる。

「仮説が正しければそろそろ君の体は敏感になってきたんじゃないかい。ククッ…まあ感情と感覚の変化を測る機械も用意してあるからそれで確かめられるんだけどね」耳元でタキオンが囁く。


タキオンが身体中を撫でまわす。

「この辺りはもう完全にプラスチックだねぇ。ふぅン…ここが…面白いデータが取れたよ。どんな感覚かい?被験者君」

返答できないことを知りながらタキオンが独り言を言う。


「折角だからポーズを取ってもらおうかな…ククッ…いつものデジタル君なら今頃大変なことになってるだろうに、逆に呼吸も鼓動も遅くなってきてるねぇ」


タキオンが黙ると変化に伴う僅かな音だけが聞こえる。デジタルの身体が白く染まるにつれてそれすらも絶える。


「静かになったねぇ…マネキンの出来上がりだよ」髪の毛に至るまでプラスチックに置き換わるのを見て、タキオンが呟く。


「体温も下がってるねぇ…傍から観察するとただのマネキンだね」

デジタルの腕を撫でながら続けて言う。


「今の君は一見人の形をしたプラスチックの塊。つまりただの傍観者さ。みんな君の来ている服を見るだけで観測者効果を恐れる必要もない。実はちょうどウマ娘用マネキンを必要としてる人がいてね。今から貸し出すからマネキンとして様子でも眺めていてくれまえ。どんなデータがとれるか、いやぁ、楽しみだ!」

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