韓国「人口消滅」危機は他山の石 若い世代の負担軽減、子育て国債発行を 田中秀臣

ニュース裏表

ソウル市内を歩く子供連れ(共同)
ソウル市内を歩く子供連れ(共同)

韓国が「人口消滅」の危機に直面している。合計特殊出生率というデータがある。1人の女性が生涯で産む子供の平均人数を示したもので、人口の動きを見るのにしばしば使われている。

韓国の最新の合計特殊出生率は0・72で、先進国の中では断トツに低い。日本は、昨年1・26で「超低出生率」だが、韓国はそれをはるかに上回る「超々低出生率」だ。このままでは半世紀後には現在の人口(5167万人)が約30%減少し、1000年ほどたてば韓国の人口は消滅する。

よその国の話ともいえない。日本も韓国ほど猛スピードではないが、半世紀後にはやはり30%ほど人口が減少する。もちろん人口が減少していても、直接に経済や社会の停滞とイコールではない。景気が良く、1人当たりの所得水準や幸福感が増していればいい。要するに経済対策が少子化の経済を救う。

ところが韓国ではこの経済対策がうまくいっていない。いまから10年前の合計特殊出生率はまだ1・19あった。それが0・72まで急減少した背景には、若い世代の経済不安と歴代政権の少子化対策の失敗がある。

経済不安の象徴は、若い世代の失業率だ。韓国の場合は、通常の失業率では測れない「本当の失業」をみる必要がある。日本でも長期停滞が深刻だったときは、働きたいけれども景気が悪くて働くのを断念した人たちが多かった。「求職意欲喪失者」ともいわれる。

この人たちを含めた「拡張失業率」では、若い世代は20%前後と極めて高い。ちなみに中国は50%近いが、これを公の場で発言することも取り締まりの対象だ。韓国の若い世代の経済不安が、結婚や育児を断念させる直接の原因である。韓国の歴代政権は若い世代の雇用の改善を目指したが、少子化にストップをかけるほどの効果はなかった。

また少子化対策自体も失敗した。少子化対策が本格化してから日本円で28兆円以上の金額が使われたが、効果は無に等しい。

もちろん韓国の少子化対策の失敗は、日本にとって他山の石でもある。日本の少子化対策の予算規模は、この10年で倍増したが少子化に歯止めはかかっていない。少子化対策の効果の検証もおざなりだ。

そもそも日本は高齢層に経済的支援が厚く、その負担を若い世代が負っている。岸田文雄政権の「異次元の少子化対策」も、働いている世代に負担を強いるものだ。

本来なら年金や医療費などの過剰な増加を抑制し、若い世代の負担を軽くするのがベストだ。もちろん「子育て国債」を発行して、同時に減税も合わせる景気対策もいいだろう。この政治的決断がなければ、少子化の勢いは簡単には止まらない。 (上武大学教授)

田中秀臣「ニュース裏表」(zakzak)

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