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第一章 始まりの物語
エンドロールの独白

 生まれてこの方、何かを強く望んだことがない。

 物心ついてから、何かに真剣に取り組んだ記憶がない。

 言葉で怒る傍らで、その実何一つ揺らぐことのなかった内心がある。

 いつも、物事を俯瞰的に見つめている自分がいる。


 自分がおかしいと気が付いたのは、記憶をなくしてすぐのこと。

 真っ白な病室。空白の記憶。真っ黒な雨雲。

 そんな中で、『新たな親』を自称する男女が持ってきた、一冊の本。

 今にして思えば、それは子供に読ませるようなものではなかったろう。

 けれど、読めた。

 不思議と読めた、理解ができた。

 大の大人でも読み進めるのが難しいようなその本を、いとも簡単に読破した。

 その時からだろう、僕の歯車が狂い始めたのは。


 大災害の唯一の生き残り。

 記憶を失い、家族を失い、すべてを失った哀れな少年。

 様々な立場に押し上げられ、たくさんの注目を浴びて、たくさんの憐憫を受けて。

 それら全てに、疑問で返した。

 真っ白に塗りつぶされた記憶を取り戻そうと思ってのことか。

 今では、昔のこと過ぎて忘れてしまったが、当時の僕は疑問をぶつけた。

 向けられるすべてに。ありとあらゆる事象に。大人でさえ分からぬ問いを向けた。


 そして気が付けば、僕の周りには誰もいなかった。


 理由は簡単だ。

 誰一人生き残るはずもない大災害から、原因不明の生還を果たした子供。

 そんな子供が家族を失った悲しみすら表に出さず、ただひたすらに、まるで機械のように疑問しか漏らさなくなったら。きっと周囲の人はこう思うはずだ。


 ――ああ、なんて不気味な子なのだろう、と。


 正論だ。我ながら、そんな子供が目の前に出てきたら気味悪く思う。

 だから、不満はない。孤独になったことに対して憤りはない。

 なぜならそれが当然だからだ。

 だから、どれだけ気味悪く思われても仕方ない。

 どれだけ避けられても、どれだけ嫌われても。

 どれだけ悪意を受けても、仕方ないのだ。


『なんで……どうして』


 幼い声が蘇る。

 仕方ない、仕方ないのだ。

 そう自分に言い聞かせる傍ら、溢れる言葉。

 それは、僕の本心だったのだろう。

 ただ、本心が正論とは異なっていた。

 幼い僕にはそれが理解できるだけの頭があった。

 だから、世間がおかしいのだと不満を放つことなく、自分がおかしいという正論を受け止めた。自分を、殺すことを心に決めた。


『もう、いいや』


 僕は、あきらめた。

 自分を通すことをあきらめて、もう一人の『僕』を作った。

 本来の自分とは異なる、もう一つの顔を作った。それが『素』であると言い聞かせた。

 平凡な感情を持ち、平凡に笑い、平凡に呆れ、平凡に怒り、平凡に悲しみ。

 それでいて容赦がなく、平然と嘘を並べ立てるキャラ。

 自分を殺して、そんな『仮面』を纏い続けた。


 その果てに、今の僕がいる。


 もう、僕には本音がわからない。

 いつか誰かが言ったように、僕の人格は偽物だからだ。

 だから、僕は何も強くは望まない。

 何かを真剣になんて取り組まない。

 いくら言葉で怒っても、内情揺らぐことはない。

 いつも、物事を俯瞰的に見つめている。

 きっと、この先もずっと。


 ――その、はずだった。


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