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投稿ミスッッ!!

1日投稿日まちがえてました!

なので、今日は一日二回投稿です

最終章【妄想クラウディア】
525『譲れないもの』

 人生、生きてりゃ。

 きっと、譲れないものの一つや二つ存在する。

 ……いいや、言い過ぎたな。

 そんな程度じゃ足りやしない。

 人間なんて傲慢で強欲な生き物さ

 その程度じゃ満足しない。


 極論言ってしまえば、なにもかも欲しいのだ。


 喉から手が出るほど欲しいものが沢山あって。

 それでも現実を見て、その中に優先順位をつけているだけ。

 そのうちの、上位数個。

 あるいは十数個か、数十個か、数百か。

 ()()()()()()()、と。

 心の底から思うもの。


 そのために、人は前に走り出せる。

 何度だって立ち上がれる。


 人間なんてそういうものだ。



『君の体、一時だけ借り受けるよ』



 その言葉を最後に、僕の意識は浮上した。




 ☆☆☆




 シオン・ライアーは駆けた。

 それだけで大地が揺れて、足跡が灼熱を地面へと残してゆく。

 彼女の駆けた後には蒸気が残り。

 真っ赤な拳が、霧矢ハチへと叩きつけられる。


「ぐ……ッ」

「どうしたキリヤ! その程度か!」


 絶対に止まらない。

 絶対挫けず、絶対に負けない。

 無敗とは、一種の最強の証明。

 それこそが今のシオン・ライアーであるが故、霧矢ハチは判断した。


 ――今の彼女を相手にするのは分が悪い、と。


 逸常の異能力者。

 悠久を生きた大賢者。

 彼のありとあらゆる知識を集っても。

『絶対に負けない』と確立されている敵を負かす方法は、1つたりとも浮かばなかった。

 故に、彼の取った行動はシンプルだった。



「『時間操作・遅延』」



 彼の指先から、灰色の空間が展開される。

 それは、空間内の時間を制限、遅延させるというもの。

 人が入れば動きは鈍く……それでいて、想力の消費率までには作用しない。


 ――ガス欠狙い。


 灰村解が立てた作戦を、霧矢ハチは利用した。

 彼女はあまりにも強すぎた。

 故に、その消耗は目に見えている。

 たとえシオン・ライアーでも、持って数分。

 それを超えれば想力が尽きる。

 それこそが、今の彼女を負かす方法。

 彼女を無敗の座から引きずり下ろす。


 それだけを狙った、能力展開。


 だが、それでも今のシオンは止まらない。


「しゃらくせぇ!!」


 彼女の拳は、風圧だけでその空間を吹き飛ばす。

 目を見開く暇もなく、拳が霧矢ハチに直撃する。

 その体は上方へと大きく吹き飛ばされてゆき、彼は痛みを堪えて目を開き……そして、目の前へと迫った巨体へと目を見開いた。



【GOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!!】


「ぐっ……竜血暴走(クレイズ・ドラゴ)か!」



 目の前へと飛んできたのは、ナムダ・コルタナ。

 彼の力は竜血暴走。

 ダメージを受けるほどに強くなる。

 彼は既に、気絶するほどの攻撃を受けた。

 今立っていること自体が奇跡そのもの。

 故にこそ……その強化倍率は今までの比ではない。


【GOAAAAA!!】


 暴走列車の回し蹴りが直撃する。

 その威力は一目で察した。

 故に、霧矢は寸前で転移を使用。

 暴走列車にカウンターを入れるべく至近距離へと転移する。

 その体は隙だらけ。

 これだけのダメージを受けた状態だ。ガタが来ていたって不思議じゃない。


「動けたことは賞賛するけど、これまでだね」


 逆に、彼の体へと蹴りを放つ。

 それは、寸分たがわず暴走列車の頭部を直撃し――。



「【星は移りて矛盾なり(ターン・オーバー)】」



 その時、世界の全てが変化した。

 あまりの違和感に、霧矢は大きく目を見開く。

 気がつけば、放った蹴りは直撃していて。

 にも関わらず、ナムダ・コルタナには一切のダメージは入っていなかった。


「な……!?」

「【逢魔神拳】」


 そして、霧矢ハチの腹に拳がめり込む。

 全く知覚出来なかった出来事に、彼は目を剥いて腹を見る。

 そこには、拳を放った悪魔王と。

 そして、その体に抱きついた六代目勇者が居た。



「我らが意地だ、受けて立て、大賢者」



 その瞬間、衝撃が突きぬける。

 霧矢の体は一直線に吹き飛ばされて、大地へと思い切り叩きつけられる。


「ぐ、……ゥッ!? こ、これは……すこしダメージ入ったね……」


 ナムダの竜血暴走。

 阿久津の攻防転換。

 六紗の時間停止。


 それを、霧矢ハチが瞬間移動したそのタイミング……他の力を使うことの出来ない刹那を狙って放たれた。


(なるほど……意地ね)


 上空には、悪魔王と勇者の姿が見えた。

 本来であれば敵対するべき2人の英傑。

 それを敵に回した時点で、厄介なことになるのは目に見えていた。


 しかも、今回の相手は彼女らだけじゃない。


「少し。それだけで済むと思うなよ」


 至近距離から声。

 霧矢は咄嗟に跳ね起きると、彼のいた場所へと足が踏み落とされ、地面が大きく陥没した。

 体勢を整えれば、そこに立っていたのは民族衣装の征服王。


「……本当、厄介なことで」

「もはや時間など気にはしない。ここから先は……正真正銘、征服王イスカンダルの全力だ」


 その全身から想力が吹き上がる。

 たった数分。

 それだけしか変身できない征服王。

 その姿を、わずか数秒で燃やし尽くす勢いの、凄まじい威圧感。

 ここに来て霧矢は察する。


 なるほど、こっちが本当の力か、と。



「もう、手加減など期待するなよ」



 エンジンにリミッターをかけ、想力消費を抑えた。それでもやっと、数分間の活動時間。

 だが、今この瞬間。


 ポンタの制限は、全て解除された。


 彼の姿が消える。

 しかし、霧矢の瞳は僅かにとらえた。

 自分の背後へと回り込む、ポンタの姿を。

 驚き背後へと視線を向ける。


 そして見たのは、拳を構える彼の姿。

 それを前に戦慄する。

 ただ、感じたのは強烈な死の予感。

 殺意と純粋な技術の塊。

 それが、拳一つから溢れ出した。



「【今此処に、我が御旗を(アレク・シンフッド)】」



 喰らえば、死。

 そう理解した瞬間、霧矢は動いていた。


「う、【泡沫】ッ!」


 拳が直撃する。

 たった一撃で霧矢ハチは絶命し。

 次の瞬間、死体が泡沫の泡と消え、無傷の霧矢ハチが現れる。

 今までのダメージの帳消し。

 それだけでも有益な能力行使。

 にも関わらず……霧矢ハチは戦慄した。


(……何故、俺は今、死から逃げた?)


 死ぬこと。

 それが何よりの目的だった。

 にも関わらず、絶対的な死を前にして。

 冥府など飛び越えて、一発で消滅しそうな攻撃を前にして。


「俺は……逃げた、のか?」


「その通りだぜ! クソキリヤ!!」


 目の前からシオンが迫る。

 その拳を真正面から受け止めて、霧矢ハチは顔を顰めた。


「……何が、その通りだと?」

「既に知ってることを説明すんのは面倒くせぇが、分かりたくねぇってんなら言い放ってやるぜ!」


 そう言って、シオンは言う。


「死ぬのが怖くねぇ奴なんて、この世のどこにも居ねぇんだよ!!」


 それは、生物としての本能。

 野生の部分と言ってもいい。

 ただ、死は恐ろしものだと。

 遺伝子の部分に刻まれている。


 それは、どれだけ超常的な存在……霧矢ハチであっても例外ではない。


「死ぬのが望み、死が救済? そんな戯言聞きたくもねぇ! 死は怖いし、死は終わりだ! 長く生きてんならてめぇこそ分かってるはずだぜ、死は怖ぇとな!!」

「…………ッ」


 咄嗟に言葉が返せない。

 霧矢は歯を食いしばり、前を向く。

 その目には苛立ちが浮かんでいた。


「君に……君に何が分かる!? その顔で、その声で……君が僕に何を言う!!」

「知るかボケナス! てめぇはオレ様の子分二号だ! なら、黙って親分の言うことを聞きやがれ!!」


 奥歯を噛み締める音がした。

 霧矢は大きく声を吐き捨て、周囲へと衝撃波を撃ち放つ。

 それは、周囲の全て……至近距離のシオンはもちろん、動物状態に戻ったポンタ、上空の3名を含め、ありとあらゆるものをはじき飛ばした。


「はぁっ、はぁ……俺は、俺は! もう死ぬ以外に救いはないと分かってる! 知っているんだよシオン・ライアー! 俺は死ななきゃ……あの幸せな時には戻れない!」

「……の野郎。やっぱし、殴ってでも聞かせるしかねぇみたいだな!」


 霧矢の言葉に、シオンは立ち上がる。

 既に、シオンも想力が尽きる寸前。

 これ以上の行動は、文字通り命に関わる。

 想力切れが命に影響するように。

 過度な異能行使は、そのまま寿命を削るような悪手となる。


 だけど。



「……ここで止まっちゃ、オレじゃねぇよな」



 シオン・ライアーの辞書に後退の2文字はない。

 進むのは前にだけ。

 後ろは二度と振り向かない。

 前だけを見て、進むだけ。

 たとえその先に何が待っていようとも。

 たとえこの命が尽きようと。


 願いを果たせるなら、それで結構。


「……そういやオレ、一緒に肩を並べて戦える相棒が欲しくて、ノートを手にしたんだったか」


 ふと思い出した、原点。

 自分より強いヤツ。

 心から信頼できるヤツ。

 もしも実在するというのなら。

 そういうものが欲しくて、彼女はノートを手に取った。


 そんなことを、今になって思い出した。

 彼女は苦笑し、拳を構える。


「その願い、奇跡なんざ要らなかったみたいだけどな」


 既に、相棒は手に入れた。

 故に彼女の願いは成就している。

 だけど、願いが終われば、また次の願いが生まれるのが、人間の性。

 彼女は拳を握りしめ、前を向く。



「オレは、()()と生きるのが楽しくって堪らねぇよ」



 その言葉に、霧矢は首を傾げた。

 そしてすぐ、シオンの後方を見て目を見開いた。


「な……!? ど、どうして!!」


 霧矢の驚愕に、シオンは笑った。

 何を今更驚いている。

 お前の相手は、この男だ。

 常軌を逸した努力の人。

 その心が折れることは、もう二度とない。

 目的を掲げれば、絶対に曲がらない。

 頑固も頑固。


 世界最強の、シオンの相棒。



「そうだな。僕も、お前と生きたくてここに居る」



 彼は、シオンの隣に並び立つ。

 その姿は、いつも通りの彼そのもの。

 だけど……不思議と霧矢は、その姿に賢王リクを垣間見た。


「き、君は……!」

「悪いな霧矢。感動の再会と行きたかっただろうが……自分の運命他人に預けるとか、中二臭くて反吐が出る」


 そう言って、彼は笑う。

 その笑顔はまるでラスボスのよう。

 その横顔を見て、不思議とシオンは安堵した。



「シオン、あとは任せろ。コイツは『僕が』ぶん殴るから」



 既に、迷いも誘惑も切り捨てた。

 全てを変えて、共に生きるため。


 彼は再び、拳を握る。


なぁ、賢王リク。

お前に体を預ければ、なにもかも上手くいくんだろう。

きっと僕らは幸せな未来に辿り着けるんだろう。


だけどな、これは僕の人生だ。

お前には何一つとして任せない。

これだけは絶対に譲れない。


どんな未来になろうとも。

その選択は、僕自身の手で――。


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