投稿ミスッッ!!
1日投稿日まちがえてました!
なので、今日は一日二回投稿です
人生、生きてりゃ。
きっと、譲れないものの一つや二つ存在する。
……いいや、言い過ぎたな。
そんな程度じゃ足りやしない。
人間なんて傲慢で強欲な生き物さ
その程度じゃ満足しない。
極論言ってしまえば、なにもかも欲しいのだ。
喉から手が出るほど欲しいものが沢山あって。
それでも現実を見て、その中に優先順位をつけているだけ。
そのうちの、上位数個。
あるいは十数個か、数十個か、数百か。
心の底から思うもの。
そのために、人は前に走り出せる。
何度だって立ち上がれる。
人間なんてそういうものだ。
『君の体、一時だけ借り受けるよ』
その言葉を最後に、僕の意識は浮上した。
☆☆☆
シオン・ライアーは駆けた。
それだけで大地が揺れて、足跡が灼熱を地面へと残してゆく。
彼女の駆けた後には蒸気が残り。
真っ赤な拳が、霧矢ハチへと叩きつけられる。
「ぐ……ッ」
「どうしたキリヤ! その程度か!」
絶対に止まらない。
絶対挫けず、絶対に負けない。
無敗とは、一種の最強の証明。
それこそが今のシオン・ライアーであるが故、霧矢ハチは判断した。
――今の彼女を相手にするのは分が悪い、と。
逸常の異能力者。
悠久を生きた大賢者。
彼のありとあらゆる知識を集っても。
『絶対に負けない』と確立されている敵を負かす方法は、1つたりとも浮かばなかった。
故に、彼の取った行動はシンプルだった。
「『時間操作・遅延』」
彼の指先から、灰色の空間が展開される。
それは、空間内の時間を制限、遅延させるというもの。
人が入れば動きは鈍く……それでいて、想力の消費率までには作用しない。
――ガス欠狙い。
灰村解が立てた作戦を、霧矢ハチは利用した。
彼女はあまりにも強すぎた。
故に、その消耗は目に見えている。
たとえシオン・ライアーでも、持って数分。
それを超えれば想力が尽きる。
それこそが、今の彼女を負かす方法。
彼女を無敗の座から引きずり下ろす。
それだけを狙った、能力展開。
だが、それでも今のシオンは止まらない。
「しゃらくせぇ!!」
彼女の拳は、風圧だけでその空間を吹き飛ばす。
目を見開く暇もなく、拳が霧矢ハチに直撃する。
その体は上方へと大きく吹き飛ばされてゆき、彼は痛みを堪えて目を開き……そして、目の前へと迫った巨体へと目を見開いた。
【GOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!!】
「ぐっ……
目の前へと飛んできたのは、ナムダ・コルタナ。
彼の力は竜血暴走。
ダメージを受けるほどに強くなる。
彼は既に、気絶するほどの攻撃を受けた。
今立っていること自体が奇跡そのもの。
故にこそ……その強化倍率は今までの比ではない。
【GOAAAAA!!】
暴走列車の回し蹴りが直撃する。
その威力は一目で察した。
故に、霧矢は寸前で転移を使用。
暴走列車にカウンターを入れるべく至近距離へと転移する。
その体は隙だらけ。
これだけのダメージを受けた状態だ。ガタが来ていたって不思議じゃない。
「動けたことは賞賛するけど、これまでだね」
逆に、彼の体へと蹴りを放つ。
それは、寸分たがわず暴走列車の頭部を直撃し――。
「【
その時、世界の全てが変化した。
あまりの違和感に、霧矢は大きく目を見開く。
気がつけば、放った蹴りは直撃していて。
にも関わらず、ナムダ・コルタナには一切のダメージは入っていなかった。
「な……!?」
「【逢魔神拳】」
そして、霧矢ハチの腹に拳がめり込む。
全く知覚出来なかった出来事に、彼は目を剥いて腹を見る。
そこには、拳を放った悪魔王と。
そして、その体に抱きついた六代目勇者が居た。
「我らが意地だ、受けて立て、大賢者」
その瞬間、衝撃が突きぬける。
霧矢の体は一直線に吹き飛ばされて、大地へと思い切り叩きつけられる。
「ぐ、……ゥッ!? こ、これは……すこしダメージ入ったね……」
ナムダの竜血暴走。
阿久津の攻防転換。
六紗の時間停止。
それを、霧矢ハチが瞬間移動したそのタイミング……他の力を使うことの出来ない刹那を狙って放たれた。
(なるほど……意地ね)
上空には、悪魔王と勇者の姿が見えた。
本来であれば敵対するべき2人の英傑。
それを敵に回した時点で、厄介なことになるのは目に見えていた。
しかも、今回の相手は彼女らだけじゃない。
「少し。それだけで済むと思うなよ」
至近距離から声。
霧矢は咄嗟に跳ね起きると、彼のいた場所へと足が踏み落とされ、地面が大きく陥没した。
体勢を整えれば、そこに立っていたのは民族衣装の征服王。
「……本当、厄介なことで」
「もはや時間など気にはしない。ここから先は……正真正銘、征服王イスカンダルの全力だ」
その全身から想力が吹き上がる。
たった数分。
それだけしか変身できない征服王。
その姿を、わずか数秒で燃やし尽くす勢いの、凄まじい威圧感。
ここに来て霧矢は察する。
なるほど、こっちが本当の力か、と。
「もう、手加減など期待するなよ」
エンジンにリミッターをかけ、想力消費を抑えた。それでもやっと、数分間の活動時間。
だが、今この瞬間。
ポンタの制限は、全て解除された。
彼の姿が消える。
しかし、霧矢の瞳は僅かにとらえた。
自分の背後へと回り込む、ポンタの姿を。
驚き背後へと視線を向ける。
そして見たのは、拳を構える彼の姿。
それを前に戦慄する。
ただ、感じたのは強烈な死の予感。
殺意と純粋な技術の塊。
それが、拳一つから溢れ出した。
「【
喰らえば、死。
そう理解した瞬間、霧矢は動いていた。
「う、【泡沫】ッ!」
拳が直撃する。
たった一撃で霧矢ハチは絶命し。
次の瞬間、死体が泡沫の泡と消え、無傷の霧矢ハチが現れる。
今までのダメージの帳消し。
それだけでも有益な能力行使。
にも関わらず……霧矢ハチは戦慄した。
(……何故、俺は今、死から逃げた?)
死ぬこと。
それが何よりの目的だった。
にも関わらず、絶対的な死を前にして。
冥府など飛び越えて、一発で消滅しそうな攻撃を前にして。
「俺は……逃げた、のか?」
「その通りだぜ! クソキリヤ!!」
目の前からシオンが迫る。
その拳を真正面から受け止めて、霧矢ハチは顔を顰めた。
「……何が、その通りだと?」
「既に知ってることを説明すんのは面倒くせぇが、分かりたくねぇってんなら言い放ってやるぜ!」
そう言って、シオンは言う。
「死ぬのが怖くねぇ奴なんて、この世のどこにも居ねぇんだよ!!」
それは、生物としての本能。
野生の部分と言ってもいい。
ただ、死は恐ろしものだと。
遺伝子の部分に刻まれている。
それは、どれだけ超常的な存在……霧矢ハチであっても例外ではない。
「死ぬのが望み、死が救済? そんな戯言聞きたくもねぇ! 死は怖いし、死は終わりだ! 長く生きてんならてめぇこそ分かってるはずだぜ、死は怖ぇとな!!」
「…………ッ」
咄嗟に言葉が返せない。
霧矢は歯を食いしばり、前を向く。
その目には苛立ちが浮かんでいた。
「君に……君に何が分かる!? その顔で、その声で……君が僕に何を言う!!」
「知るかボケナス! てめぇはオレ様の子分二号だ! なら、黙って親分の言うことを聞きやがれ!!」
奥歯を噛み締める音がした。
霧矢は大きく声を吐き捨て、周囲へと衝撃波を撃ち放つ。
それは、周囲の全て……至近距離のシオンはもちろん、動物状態に戻ったポンタ、上空の3名を含め、ありとあらゆるものをはじき飛ばした。
「はぁっ、はぁ……俺は、俺は! もう死ぬ以外に救いはないと分かってる! 知っているんだよシオン・ライアー! 俺は死ななきゃ……あの幸せな時には戻れない!」
「……の野郎。やっぱし、殴ってでも聞かせるしかねぇみたいだな!」
霧矢の言葉に、シオンは立ち上がる。
既に、シオンも想力が尽きる寸前。
これ以上の行動は、文字通り命に関わる。
想力切れが命に影響するように。
過度な異能行使は、そのまま寿命を削るような悪手となる。
だけど。
「……ここで止まっちゃ、オレじゃねぇよな」
シオン・ライアーの辞書に後退の2文字はない。
進むのは前にだけ。
後ろは二度と振り向かない。
前だけを見て、進むだけ。
たとえその先に何が待っていようとも。
たとえこの命が尽きようと。
願いを果たせるなら、それで結構。
「……そういやオレ、一緒に肩を並べて戦える相棒が欲しくて、ノートを手にしたんだったか」
ふと思い出した、原点。
自分より強いヤツ。
心から信頼できるヤツ。
もしも実在するというのなら。
そういうものが欲しくて、彼女はノートを手に取った。
そんなことを、今になって思い出した。
彼女は苦笑し、拳を構える。
「その願い、奇跡なんざ要らなかったみたいだけどな」
既に、相棒は手に入れた。
故に彼女の願いは成就している。
だけど、願いが終われば、また次の願いが生まれるのが、人間の性。
彼女は拳を握りしめ、前を向く。
「オレは、
その言葉に、霧矢は首を傾げた。
そしてすぐ、シオンの後方を見て目を見開いた。
「な……!? ど、どうして!!」
霧矢の驚愕に、シオンは笑った。
何を今更驚いている。
お前の相手は、この男だ。
常軌を逸した努力の人。
その心が折れることは、もう二度とない。
目的を掲げれば、絶対に曲がらない。
頑固も頑固。
世界最強の、シオンの相棒。
「そうだな。僕も、お前と生きたくてここに居る」
彼は、シオンの隣に並び立つ。
その姿は、いつも通りの彼そのもの。
だけど……不思議と霧矢は、その姿に賢王リクを垣間見た。
「き、君は……!」
「悪いな霧矢。感動の再会と行きたかっただろうが……自分の運命他人に預けるとか、中二臭くて反吐が出る」
そう言って、彼は笑う。
その笑顔はまるでラスボスのよう。
その横顔を見て、不思議とシオンは安堵した。
「シオン、あとは任せろ。コイツは『僕が』ぶん殴るから」
既に、迷いも誘惑も切り捨てた。
全てを変えて、共に生きるため。
彼は再び、拳を握る。
なぁ、賢王リク。
お前に体を預ければ、なにもかも上手くいくんだろう。
きっと僕らは幸せな未来に辿り着けるんだろう。
だけどな、これは僕の人生だ。
お前には何一つとして任せない。
これだけは絶対に譲れない。
どんな未来になろうとも。
その選択は、僕自身の手で――。
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