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オレは弱い。

本当は才能なんてねぇのかも。

ごく稀に、そう思う。

自分より強いヤツが現れた時。

オレは、オレの自信がへし折れる音が聞こえるんだ。

最終章【妄想クラウディア】
523『呪い』

『人の想いというのは、呪いだ』


 初代勇者、賢王リクは言った。

 彼はゆったりと歩き出し、僕は油断なく拳を構える。



『その面、貴様も私の呪いを受けた』

「……あの時か」


 僕が初めて『異能』に触れたあの瞬間。

 あの夜、賢王リクは僕の前に現れた。


 それはきっと、僕が見た夢の続き。

 霧矢に、自分の半分を預け。

 悪魔王――後の鮮やか万死から、その半分を奪い、力を削いで。


 最後の決着をつけるべく、悪魔王を道ずれに時空を飛んだ。


 おおよそその判断に間違いはない。

 この星40億年もの歴史の中で、人が存在していた時間の方がずっと短い。

 確率的にいえば、誰もいない場所、誰もいない時間軸に飛ばされるのが最も『有り得る』だろう。


 だけど、そこは運がなかったんだろうなぁ。


 お前は僕の前に現れた。

 そして僕は死にかけ。

 お前はその責任を取った。


 全ての力と全ての命を引き換えに。

 僕の命を取り留めた。

 その代償が……きっと、賢王リクの魂の残留。


『私も人間だったのだろうね。最後に君に託してしまった。鮮やか万死を倒して欲しいと。……こうして、意識が残ると分かっていれば、あんなことは言わなかったのに』


 賢王リクは、そう言って。

 次の瞬間、僕の眼前に立っていた。



『申し訳ないことをした。私は最期に、君に呪いを託してしまった』



 拳が迫る。

 咄嗟に拳を逸らして攻撃を打ち込む。

 だが……なんだ、これは……ッ。

 拳がまるで、見えない壁にぶち当たったように動かない……!


「ぐ、ぬぬぬ……ぅっ!」

『そして、ミスト……今は霧矢と名乗っているのか。あの男にも悪い事をした』


 男は悲しそうに目を細める。

 拳が眼前に迫っているというのに。

 瞬き1つとせずに、そこに立っている。


『私は彼らに生きて欲しかった。ミストに、アマナに、あの世界を生きて欲しかった。私の分まで生きて欲しくて、あの言葉を贈った』

「知、るか……ッ!」


 拳を引いて回し蹴り。

 されど、その攻撃も彼の少し手前で停止してしまい、衝撃だけが突き抜ける。

 衝撃で謁見の間の柱がいくつもへし折れてゆき、空間を破壊が通り抜ける。


 その中で、歯を食いしばって必死な僕と。

 どこまでも余裕を崩さない、賢王リク。


『ただ……思うがままには行かぬが人生。アマナは私を追って世界を渡り、ミストは……いつしか自分の死を求めて彷徨い始めた』


 彼の手が伸びる。

 その指先は、寸分たがわず僕の額へと触れて。

 その瞬間、未だかつてない衝撃が、身体中へと突きぬけた。


「が……ぁ!?」

『人の想いは不滅だ。いつまでだって生者についてくる。死んでも、別れても、いつまでだって、死ぬまで人間についてまわる。それを呪いと言わずなんという』


 あまりの衝撃に、たたらを踏んで膝を着く。

 両手を地面へと着いて、浅く息を吐く。

 そんな僕を、賢王リクは見下ろした。


『前置きが長くなったな。済まない、灰村解』

「な、にが……ッ」


 必死になって顔を上げる。

 僕の瞳を見下ろして。

 賢王リクは優しく笑った。


 誰より賢く、誰より優しく。

 史上誰よりも優れた王。


 彼はきっと、常に他人を思っている。

 だからこそ、思うのだ。

 きっとこの王様は、どこまでも正しい。

 彼の言葉は正道で、正解なのだと。

 痛いほど、痛い体に染み渡る。


「ぐっ……」

『もう一度言うよ、灰村解』


 そして彼は再び言うのだ。



『君は間違っている。その体、一時私に預けてくれないか』



 全てを終わらせて。

 最高の未来を、貴様に返そう。


 そう告げた賢王リクに、僕は言葉を返せなかった。




 ☆☆☆




「おかしいなぁ……」


 霧矢ハチは、目の前の光景に驚いていた。

 確実に全員を殺したはず。

 それだけの覚悟を持って、彼らに対した。

 最後のあの瞬間。

 一切の手加減はしていなかった。


 にも関わらず。


「……まだ立つのかい。頭大丈夫?」


 そこには、一人の少女が立っていた。

 赤い髪が風に揺れる。

 紫色の瞳は下を向き。

 ダメージを隠すことも出来ず、立っているだけで精一杯。

 軽く押すだけで倒せるだろう。

 それほどまでの満身創痍。

 にも、関わらず。



 その瞳は、どこまでも鋭く霧矢を見ていた。



「ったりめぇよ。……オレ様ァ天才だぜ? てめぇみてぇな凡人、オレ様の頭を理解出来るはずもねぇ!」


「…………シオン・ライアー」


 霧矢ハチは、目を細める。

 かつて、その少女は弱かった。

 そも、その少女に才能はなかった。


 彼女とよく似た女性を知っていたから。

 シオン・ライアーと出会った当初、彼女をよく観察したのを覚えている。

 だけど、観察するにつれ落胆した。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 共通点など、性格と顔と異能くらい。

 それ以外の全てが違う。


 弱く、才能に恵まれず。

 家庭にも、出生にも恵まれず。

 不運続きの不幸な少女。

 2度目の死に際し、同情した。

 同情から、強くなるヒントも与えた。


 どれだけ弱く、哀れでも。

 友達だから。

 死んで欲しくはないと、持ち得る力の全てを教えた。

 どうせ、自分には敵わないから。


 そう確信していた。


 ……にも関わらず。


(なんでだろうなぁ……)


 霧矢の顔に、苦痛が浮かぶ。

 それは、今までで霧矢が見せた中で、最も人間らしい表情だった。


「嫌だなぁ……」


 灰村解と、シオン・ライアー。

 二人を見ていると。

 どうしようもなく、過去に重なる。

 過去の幸せを垣間見る。

 二人と居ると、自分の居場所はここなんだと思ってしまう。勘違いしそうになる。


 霧矢ハチは拳を握る。

 それを前に、シオンは笑った。



「どうした最強、怯えが見えるぜ」



 霧矢の肩が震える。

 絶対的に優位なはずなのに。

 片や満身創痍。

 どう考えても負けるとは思えない。

 なのに。


 霧矢は、攻撃の手が出なかった。


「…………ッ」


 その理由はすぐに察した。

 ()()()()()()

 この瞬間、彼女の目を見て。

 まるで、獰猛な肉食動物を目の前にしたような感覚に陥った。

 この、霧矢ハチが、だ。


「……君は、一体何なのかな」


 霧矢は問う。

 限りなく全知全能でありながら。

 知ったと思っていた少女のことが。


 今、何もわからなくなっていた。


「なはは! そりゃ簡単な質問だぜ!」


 かくして、シオンは眼帯に手を添える。

 その眼帯こそ、シオンの鍵。

 異能発動に欠かせないもの。

 にも関わらず。


 シオン・ライアーは、その眼帯を投げ捨てた。



「オレ様は、シオン・ライアー! てめぇを倒す大天才だ! 覚えときやがれ!」



 かくして、彼女は目を開く。

 幼少期に潰された右眼。


 その下には、どこまでも冷たい炎が揺らめいていた。




「【第二異能(ツインテッド)】」




 それは、本来であればありえぬ光景。

 凡人が、第二の異能を使うという事実。

 霧矢をして、その人生で見たことの無い瞬間。


「き、君は――」

「この目は、オレの原点。オレが思う一番痛てぇ過去。無論、コレが鍵になってねぇワケがねぇ」


 その言葉に、霧矢は喉を鳴らし。

 そして、彼女を中心として、世界が弾けた。




「【我が眼復讐の天稟なり(ウルリベンジ・アイ)】」




 それは、霧矢ハチの知らない異能。

 この星の歴史上……初めて用いられた異能。

 その異能に霧矢は、常軌を逸した努力を垣間見た。


「先に言っとくぜ、キリヤ」


 シオン・ライアーは、前を向く。

 その瞳に迷いはなく。

 霧矢ハチは、拳を構える。


「オレは負けねぇ。情けねぇ姿、ぶっ倒れてる子分に見せらんねぇからな」

「……その言葉、まるで呪いのように感じるよ」


 灰村解と、シオンの間に在る関係。

 子分と親分。

 それは些細な関係だとしても。

 ここぞと言う時、その言葉だけで立ち上がれる。

 それは原動力とも呪いとも呼ばれるが。

 少なくとも、シオン・ライアーにとっては前者に違いない。




「Go Ahead、先に逝っちまちな、クソキリヤ!」




 そして、シオンは走り出す。

 その後方では……倒れたはずの灰村解が、僅かに動き始めていた。

オレは弱いのかもしれない。

オレは才能ねぇのかもしれない。


だけどよ、カイ。

それがなんだって話だよな。


これは意地だ。

言い訳なんてしたくねぇ。

オレがすべきこと、やらなきゃならねぇこと。

キリヤを止めること。


カイ、てめぇは黙って寝てやがれ。

たまには、親分であるオレ様が、お前のことを救ってやるよ。



次回【シオン・ライアー②】

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