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年内には終わらんなぁ……。

それと、メリークリスマス!

最終章【妄想クラウディア】
522『心に棲むモノ』

 一撃で、気持ちよくなっちまうような。

 生まれて初めて感じた衝撃だった。


 意識が遠のく。

 視界が白く染まり果てる。


 だけど……なんだろう。

 なんで僕は。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ふと、視界に黒点が落ちた。



 それは徐々に拡がってゆき。

 やがて、視界を黒で埋め尽くす。


 何も見えない真っ暗闇。

 顔を顰めてみたけれど、何も変わらず。


 ふと、頭上を見上げた僕は。

 どこまでも広がる、満天の星空を見た。



「あぁ……これ、夢だ」



 それは、とても懐かしい夢だった。


 ずっと昔。

 僕がまだ小学生の頃。

 まだ僕が実家に暮らしていた頃。

 遊び疲れて、クタクタになって。


 家に帰るまでの道のり。

 夜、空を見上げれば。

 こんな綺麗な夜空だっけかと、ふと思い出す。


 数年前まで、見ていたはずなのに。

 数百年ぶりに見たような、懐かしさが体を占めた。


「…………」


 ふと、足音がして振り返る。

 と同時に、小さな子供が歩いてきて、僕の体を通り抜けた。

 ……そりゃそうだ、これは夢だ。

 僕が介入することは出来ない。

 そして、僕が二人いたって……何らおかしくはない。


 自分を通り過ぎて行った子供を振り返る。

 黒髪黒目で、どこにでも居そうなヤンチャな子供で。毎日泥まみれになって母さんに怒られて……。

 そんな子供を見て、僕は少しだけ頬を弛めた。


 ――灰村解、11歳。


 その姿を見て。

 僕は不思議と……今になって思い出した。


 僕がまだ真っ白だったこの頃を。

 不思議と忘れてしまった、僕の原点を。



 灰村解の、心の中に棲むモノを。




 ☆☆☆




 人生とは、不可思議の連続だ。

 何があるか、どんなことが起こるか。

 神様だって分からない。

 それが人生っていうもので。

 人間一人の死にざまなんて。


 そんなもの、あらかじめ自覚できるようなもんじゃない。


 少年は夜道を歩く。

 平和な田舎だったから。

 家まで歩けばすぐだったから。

 だから特に心配はしていなかった。


 それは、きっと正しい判断。

 間違っていたのは――異能を知らなかったということだけ。


『ジジ……ジッ、ジジ、ジ……』


 ふと、頭上から音がした。

 気になって、少年は頭上を見上げる。

 ……それは、今となっては見覚えのある光景。

 されど、当時の僕には見たことも聞いたことも無い、超常現象。


 ――次元の【渦】。


 逃げておけばよかったのに。

 興味なんて持たなければよかったのに。

 少年は、迷いなく駆けだした。

 その底抜けの興味と言うべきか。

 考えるより先の行動力と言うべきか。

 本来なら褒めるべきであるところを。


 僕は、手を伸ばしてでも否定したい。


 少年は駆け出して。



 そして同時に、ソレは現れた。



『…………は?』



 少年の口から、言葉が漏れた。

 時空の狭間から現れたのは、巨大極まる血肉の塊。

 それは肉片の雨となって降り注ぎ、無数の骨が少年を襲う。

 魚の骨ほど小さなものから。

 鉄骨ほども大きな骨まで。


 無数の死骨が少年を襲う。

 咄嗟に逃げても、もう遅い。

 右脚を鋭い骨が突き刺し、腕を抉り、頭蓋を削り、腹を巨大な背骨が串刺しにした。


『あ、が、……ぁ、……っ』


 それは、瀕死に違いない。

 腹部がほとんど消滅してる。

 体だって大半が抉れるか削れるかしていて、頭蓋骨にもヒビが入っている。

 そもそも出血多量で、じきに死ぬ。

 すぐにそんなに想像が着いた。


 だけどきっと。

 少年の死なんて、その場では軽い出来事。


 やがて、死肉が動き出す。

 それらは集い、小さな器を形成してゆく。

 それは、成人男性ほどしかない、男の体。


 薄紫色の長い髪。

 鮮やかな鮮血のように濡れた着物。

 それは、まるで時代錯誤の江戸装束。


 その時の少年は、その男を知らなかったけれど。

 今の僕は、その男を痛いほどに知っていた。


『こ、ここは……僕は、賢王リクに……賢王? ……()()()()()。それに……僕は、どうしてここにいる? 僕は、僕は……そうだ、師匠たちを、殺して、それから――ッ』


 男には、記憶の混濁が見えた。

 まるで自分が何者か分かっていないような。

 持ち得た記憶の過半を奪われたような。それは、哀れみすら覚えるほどの狼狽だった。


 しかし、その動揺も長くは続かない。


 やがて、男は立ち上がる。

 ふと、瀕死の少年へとその目は向かった。

 だけど、そこに興味はなく。

 ただそこに在ったのは、虫けらを見るような蔑んだ目だけ。


『……まぁ、いいや。僕のやるべきことは変わらない。鮮やかな……万死の塔を築き上げるだけ』


 そこまで言って、男は目を丸くした。


『あぁ……そうか、そうかもしれない。その単語にだけは、不思議と覚えがある。そうだ、師匠が言ったんだ』


 そして男は、気味悪く笑った。

 その笑顔には満面の狂気が張り付いていて。



『【()()()()()】。それを僕の名前にしよう』



 その言葉に、僕は目を閉ざす。

 ……出会っていた、この瞬間に。

 あの男との出会いは、あの場所じゃない。

 ナムダと戦った、地下格闘技場じゃない。

 ここだ。

 ここで出会った。

 ずっと前、鮮やか万死が誕生した日。

 僕が初めて異能に触れた日。



 この日、僕らの因縁は始まった。



 やがて、鮮やか万死の気配が消える。


 ……初代悪魔王の半身。


 切り裂かれ、食われた残り半分。

 賢王リクに、時空ごと飛ばされた悪魔王。

 禁忌を暴走させ、人を辞めた狂気の化身。

 世界も時空も時間も超えて、現代に降り立った恐怖の象徴。


 それが、鮮やか万死の正体。


 今になって理解して。

 僕は、目を開く。

 既に万死の姿はなく。



 だけど、頭上には時空の穴が空いていた。



 なぁ、万死。

 ()()()()()()()()()()

 それは、僕には陰陽師としての才能があるからだと……勝手に思ってた。

 だけど、違うよな。

 これがあるから、なんだよな。

 お前も記憶は無いはずだけど。

 きっと、僕を救った一人の男を、本能的に理解していたんだろう。



『……やぁ、少年』



 ふと、声がした。

 少年は薄く目を開き。

 そして、僕は振り返る。



 そこには満身創痍の、金髪の男が立っていた。



『後生の願いだ。聞いてくれるかな』




 ☆☆☆




 ふと、目が覚めたような感覚があった。

 目を開くが、しかし、そこはまだ夢の中。


 そこは、見覚えのない王宮だった。


 世界から音という音が消えたような。

 どこまでも静寂が突き抜ける宮殿。

 その廊下に、僕は立っていた。



『私の願いは……あの男を倒すこと』



 ふと、背後から声がする。

 振り返れば、周囲の光景は変わっていて。

 僕は、壊れ果てた噴水広場に立っていた。


『私はね、灰村解。全てを失ったんだ。大切なもの。守りたかったもの。何も救えず、友を守ったつもりで、異世界の君を巻き込んだ』


 声がする。

 すぐ後ろからだった。

 僕は振り返ることはしなかった。

 ただ、全てを救おうとして、何も救えなかった王様の、言葉を聞いた。


『何が悪かったんだろうな。最善を尽くしたつもりで、私はきっと、最善を尽くせてはいなかったのだろう』


 どうだろうな。

 僕はお前を知らない。

 だから、何も言うことは出来ない。


 ただ、代わりと言ってはなんだけど。

 ひとつだけ、聞いてもいいか。



「なぁ、王様」



 お前の目的は、悪魔王を倒すこと。

 鮮やか万死を殺すこと。

 なら、その目的は叶ったわけだ。

 そこで僕は、アンタに問いたい。


 僕は、振り返る。

 周囲の光景は変わっていて。


 場所は謁見の間。

 その男は、玉座に深く腰掛けている。

 アンタがあの時願ったこと。

 今になって、ようやく思い出した。



【私はじきに死ぬ。だから、いま在る私の命も……力も、全てを託して君を生かす。だから、君が私の願いを叶えて欲しい】



 なぁ、王様。

 その夢は叶えたよ。

 あの野郎は、ちゃんと地獄に送ったよ。

 だけどさ、王様。

 僕は、その王様を見上げて問いかけた。



「アンタは、今度は何を望むんだ?」



 夢を失い、夢に敗れ。

 新たな夢を、あんたは叶えた。

 そして、もう一度、僕の前に現れた。

 なら、アンタはなにか、僕に伝えたかったわけだろう。



 なぁ、賢王リク。



 僕の心の中に棲むモノ。

 僕に力を託して死んだ者。

 僕の原点となったもの。

 いつの間にか忘れてしまったもの。


 賢王リクは、玉座から立ち上がる。

 それだけで威圧感が溢れ出す。

 霧矢より強かった、全盛期の初代勇者。

 その力は……下手をすれば、解然の闇にすら匹敵するのかもしれない。


『難しいことは……まぁ、抜きにしようか』


 そして、彼は拳を構える。

 その姿に目を細めると、彼は言った。



()()()()()、灰村解。貴様への恩返しも、霧矢への叱咤も、しばし貴様の体を借りて、私が行う』



 それはただの説得に聞こえた。

 なら、なんで拳なんて構えてるんだよ。

 ……とは、問う気にもなれなかった。


 分かってんだろ、答えくらい。


 僕は、彼に対して拳を構える。

 期せずして、それは賢王リクと全く同じ構えでもあった。



「僕は誰とも代わらない。僕の夢は、僕が叶える。それが僕の責任だ」


『……一度、その夢の末路に着いて、説教したような気がしたが?』



 忘れたな、夢のことなんて。

 今大切なのは、アンタが敵だって言うこと。

 そして、霧矢が僕のノートを奪おうとしているということ。


 なら、勝つしかない。

 あんたにも、霧矢にも。



「『負けられない』……って言葉じゃ、足りないくらい負けられない」



 たとえ間違っていたとしても。

 僕は、必ず正解を掴み取る。

 この道を、正しいものへと変えてみせる。


 それこそが、灰村解の生き様だ。



 なぁ、王様。


 僕は、賢王リクじゃねぇんだよ。




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