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最終章【妄想クラウディア】
521『全滅』

「3分だ」


 霧矢ハチはそう言った。

 僕は腹を抑えて膝をつきながら、彼を見上げる。

 霧矢は大きく両手を広げ。

 穏やかな表情で宣言した。


「今から君たちを、3分ですり潰す」


 その言葉に青筋を浮かべたのは、きっと僕だけではないだろう。

 膝に手を当て、腹に力を込めて。

 声を張り上げて立ち上がる。


「あ、が、ぁぁぁぁぁああああッッ!」

「……本当に強くなったね。今の、殺すつもりで撃ったんだけど」


 霧矢が、どこか嬉しそうにそういう中。

 彼を見れば、その背後からボイドが迫っていた。


「殺す――ッ!!」


 ただ、シンプルな殺意。

 それを前に、霧矢ハチはゆったりと振り返る。

 決して素早い動きではない。

 それでも、洗練され、極められたただの所作。それはいとも容易く後の先を取ってしまう。


「『神狼』」


 それは、僕の力。

 防御を貫通する身体強化。

 それを、ただでさえ身体能力か化け物クラスの霧矢が用い、ボイドへ放った。



「『発勁』」



 それを前に、ボイドは首を傾げて攻撃を回避する。

 彼女は勢いそのまま、カウンターを狙うように拳を振り下ろす。

 だが、霧矢の放った掌底は、時空を歪めて空間を飛ぶ。



「【竜刻】」



 突如として、ボイドの頭部が後ろに弾かれる。

 彼女の体は勢いよく吹き飛ばされてゆき、その体は流星群により灼熱した大地へと突っ込んでゆく。

 それを一瞥、霧矢は右手を差し向けた。


「『我が血は鎖、我が名は楔。其の身、其の魂、黒き灼熱を以て此処に封じん』……【簡式・灼極封魔】」

「……ッ! ぼ、ボイド!」


 嫌な予感がして、ボイドに叫ぶ。

 彼女は跳ね起きるように飛び上がるが、されど、その四肢には溶岩が不自然な程に巻きついている。


「ぐ……ッ、こ、これは――!」

「人類史上最高の封印術さ。正直、君がなりふり構わず襲ってきたら面倒だからね。数日か、数時間か、数分か。簡式でどれだけ持つか分からないけど……今は寝ててよ」


 その言葉に、ボイドは口を大きく開く。

 その中に強大なエネルギー弾が産み落とされるが、それが放たれるよりも、溶岩の封印が彼女を飲み込むのが先だった。


 深淵竜ボイドが、溶岩に飲み込まれてゆく。

 その光景に思わず目を見開いて硬直した。

 それは、ほんの一瞬。

 されど、ここで作ってはいけない隙だった。


「やぁ、余裕だね」

「――ッッ!?」


 気がつけば、僕は思い切り蹴り飛ばされていた。

 あまりの衝撃に意識を保つだけで精一杯。

 それでも何とかこらえて前を向く。

 体制を整えて着地する。

 と同時に、視線の先ではナムダとポンタが霧矢へ迫った。


「暴走列車! 殺す気で征くぞッ!」

【GOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!!】


 2人の物理最強。

 彼らは初めて合わせたとは思えないコンビネーションで、左右から無数の拳を繰り出した。


 ……だが、届かない。

 あの、征服王と暴走列車が力を合わせても……拳1発も届いちゃいない。

 僕は奥歯を噛み締め、大地を蹴る。

 と同時に空間を飛び、霧矢の背後へ瞬間移動。


 痛みがなんだ、苦しいからなんだ。

 ここで逃げたら勝ち目が消える。

 ここで、決めるんだ。

 絶対に倒すんだ。

 今、この瞬間が――ッ!



「今この瞬間。これを逃せば負けるよね」



 嫌な声。

 そこから先の動きを、僕は真眼ですら捉えられなかった。

 強烈な力の流れがあった。

 それだけは分かったんだ。

 気がつけば、ポンタの腹に拳が突き刺さり。

 ナムダの顔面を回し蹴りが撃ち抜いた。


 そして、僕の顔面へと迫る掌。


 気がつけば僕は頭を鷲掴みにされて。

 霧矢の細腕で、簡単に組み伏せられていた。


「ぐッ……!」

「無駄だって分からないかな。君の夢は叶わない。俺の夢は実現する。君は、過去を抱えたまま今を生きる。それはもう確定された未来なんだよ」


 歯を食いしばり、全身から青い炎を吹き上げる。

 霧矢ハチは大きく後退し、僕は咄嗟に立ち上がろうとしたが……ガクリと、膝が崩れ落ちた。


「な……!?」

「初めてかい? 神力より……体力の方が先に尽きるのは」


 霧矢の言葉に顔を上げる。

 彼の前には阿久津さんと六紗、シオンの姿がある。

 彼女らの顔には焦りと怒りが浮かんでいて、真眼が、ここに来て今までで1番な力の流れを視認した。


「ろ、六紗――ッ!!」


 咄嗟に叫んだのは、彼女の能力しか対応できないと思ったから。

 彼女はすぐに僕の意を察すると、時間停止を発動する。


 確かにそれは、発動した。

 そう、真眼は理解した。



 にも関わらず。



 次の瞬間、立っていたのは霧矢だった。



「時間停止。同じ能力が使えるのなら……君は無力も同然だよね」



「あ、あぁ……あぁぁあああ……ッ!!」


 その光景に、まともな声も出なかった。

 そこに倒れていたのは、心から信頼する3人。

 じわりと血溜まりが広がってゆく。

 振り返れば、ポンタもナムダも微動だにしない。

 ボイドからは一切の反応はなく。


 霧矢ハチは、無表情で僕を見下ろした。



「君は間違っている。夢も、目的も……仲間を無謀(ソレ)に巻き込むことも」



 間違っている。

 その言葉が頭の中でぐるぐると回る。

 だけど、僕は歯を食いしばって迷いを断ち切る。

 ふざけるな、ふざけるな!

 こんな所で終わってたまるか!

 もう、後戻りなんて出来ないんだ!

 彼女らが力を貸してくれた!

 僕の背中を押してくれた。

 その思いに答えなきゃ……ッ!


「僕は……ッ」


 僕はもう、下がれない。


 もうすぐなんだ、もう少し……!

 もう少して手が届く。

 勝てば。僕がここで勝つことが出来れば。

 全て元通り、僕が望む未来が来る。


 もう少しで、僕は――ッ!



「それが間違っていると言ってるんだ」



 霧矢の声は、すぐ目の前から聞こえてきた。

 最後に見たのは、眼前へと迫る拳。

 そして、霧矢のどこか悲しそうな顔だった。



「またねカイくん。あの世で会おう」



 そして、僕の意識はブツリと切れた。

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