灰村解。
君は……なんというか。頑固だね。
いや、それだけじゃないんだけれど。
君を見ていると……不思議と、もう死んでいるはずの『彼』を重ねてしまう。
どこに行ったのかも分からない。
どこで死んだのか……あるいは、どこかで生きているのか、何ひとつとして分からない。
そんな友と、君の姿がよく重なる。
「なんでだろう」
……いいや、理由なんてどうだっていいさ。
きっと、君にはリクと、何らかの繋がりがあるんだろう。
それが物理的なものなのか、異能的なものなのか。あるいは、それを超えた超常によるものなのか。
どう言った繋がりなのかは分からない。
君本人が自覚しているのかも分からない。
だけど、カイくん。
君がどう言った立場にあって。
リクから何を託されていたとしても。
君は、リクじゃない。
俺の大切なもの。
あの時失ったはずの、二人の友。
その二人に追いつくこと。
死して彼らに並ぶこと。
それだけが、俺に許された唯一の幸福。
……だった、はずなのに。
「カイくん。それでも君は……俺を友と呼ぶんだね」
☆☆☆
「がぁぁぁあああああッッ!!」
無数の斬撃を撃ち放つ。
両手に握りしめた巨大な鎌。
それは音速を超えて霧矢へ迫り、彼は素手でそれを逸らして弾いて回避する。
「ぐ……っ」
「知ってるだろ? 俺はそういうのを無効化できる。そういう異能を見てきたからね」
……あぁ、知っているとも。
他でもない、この僕自身も助けられた。
冥府の底で。
冥府の王イミガンダと戦った時。
奴が【深淵剣デスパイア】へとまとった異能を、霧矢ハチはいとも簡単に無効化して見せた。
そして、今回も。
「ぐっ……!」
「『黒死炎天』と言ったっけ? 確かに強いし、凶悪だと思う。……ただ、僕には通用しないみたいだ」
彼の両手に触れた瞬間、青い炎が一気に効力を失ってしまう。
思わず呻いた僕に、霧矢の前蹴りが炸裂する。
咄嗟に炎の柄で受け止めたが、衝撃を殺せず大きく弾かれる。
そんな僕の隣を、2つの影が駆け抜けた。
シオンとナムダだ。
2人は拳を構えて霧矢へ迫る。
だが、振り抜いた拳は空を切り、霧矢は僕の目の前へと転移して現れる。
「……ッ!? て、てめぇ!」
「最初から言ってるよ、シオンちゃん。俺の標的はカイくんだけだって、ね」
霧矢は拳を振り下ろす。
その光景に、僕は咄嗟に『泡沫』を発動するべく身構えたが……それよりも先に、金色の光が零れた。
「【臨界天魔眼】」
そして、拳が反転する。
衝撃が全て霧矢の腕へと跳ね返り、真っ赤な鮮血が吹き上がる。
その光景に霧矢は目を丸くして、僕のすぐ後ろへと視線を向ける。
ふと、肩に手を置かれた感覚があった。
振り返れば、金色の瞳を浮かべた阿久津さんが立っている。
「あ、阿久津さん……ッ!」
あらゆる能力をコピーする。
この男に、阿久津さんの能力は温存するって……。
「すまない。……だが、この男、温存して勝てるような域には無いぞ、御仁」
「その通りぽよ」
阿久津さんの頭の上には、ポンタが乗っていた。
彼は頭上から飛び降りると、眩い光に包まれる。
着地した時には、すでに姿は変わっていて。
青い民族衣装が風に揺れた。
「あまり歴史を舐めるな男。ボクらと同種の力を持ち、ボクらの上を行く異能力者なんて、この星の歴史を遡れば一人や二人存在する。……なればこそ、劣る我らが出し惜しむことなど何もない」
「ポンタ……」
「……とでも言い訳しないと、この男の相手などやってはおれまい」
二人は霧矢ハチへと目を剥ける。
彼は顎に手を当てて考え込んでおり。
やがて、目を開いた彼に戦慄が走った。
だってその目は、金色に輝いていたから。
「冗談。俺も長らく生きてきたけど……ここまで無条件で発動できる盾は初めてだよ。今代……いや、先代の悪魔王、阿久津真央」
「…………」
霧矢の言葉に、阿久津さんは声を返さない。
ただ、鋭い視線を霧矢へと向け。
それを受けた彼は、あっけらかんと口にする。
「君たちの目的。それは、俺の想力切れだろう?」
その言葉に、僕は思わず歯を食いしばる。
カマをかけるだとか、そういうような発言じゃない。
この男は既に確信している。僕らの『もう一つの狙い』を。
「そこの二人を温存していたのは、単純に【攻守面での切り札】だったから。……だけどカイくん、君の考えそうなことだよね。君はとっても頭がいいんだ。きっと狙いは
何もかも見透かされてやがる。
僕は思わず苦笑して。
「少しでも【本気で勝とうとしている】と思わせる。それが温存の理由その2」
霧矢は、淡々とその言葉を口にした。
僕たちの狙い。
もしも霧矢がボイドより強かった場合。
僕らの全員でかかっても勝てなかった場合。
……僕が考えるのは最悪の想定だ。
だからこそ、最悪のことを加味して僕は作戦を立案した。
……そうだよ霧矢。
僕らは誰一人として、おまえに敵わなくとも構わない。
僕はお前よりも、よく知っている。
此処に居る誰もが、チートもチート。
反則的な異能者集団。
そいつらの異能を複製することは。
イコール、それだけ消耗が激しいということ。
霧矢ハチは、すぐに金色の瞳を収める。
それを見て、僕は笑った。
これが僕の掲げた策。
まず、普通に戦って。
勝てそうなら、此処で勝つ。
無理に思えたその時は――ひたすら耐える。
そしてお前のガス欠を狙う。
とてもシンプル。
だからこそ臨機応変に動けるし。
得てして、シンプルな方が相手は嫌がるもんだ。
「どうした霧矢、僕からの贈り物……もっと喜んでくれよ」
「……善性だから良いものの、君、初代悪魔王より性格悪いよ」
霧矢はそう言い、息を吐く。
その顔から余裕は消えて、瞳に覚悟が映り込む。
「本当に……俺を止める気なんだね」
「無論」
僕の言葉に、霧矢は少し硬直し。
やがて、心底面白そうに笑い始めた。
それは、まるで少年のような笑い声。
霧矢……らしくないと言ってしまえばそれまでだけど。
不思議とその笑い声からは。
なんだか、嫌な予感がしたんだ。
半ば直感だった。
何の気なしに一歩、後ろに下がる。
――それと同時に、霧矢の拳が僕の腹を打ち抜いた。
「が……!?」
「すごいよね……本当に、俺を止められると思ってるんだ」
あまりの衝撃。あまりの痛み。
それは僕の耐えられる限界を、いとも容易く超えてきた。
胃液が逆流する。
意識が飛びそうになって、膝が折れる。
意志を無視して、僕の体は前のめりに倒れ始めて。
僕の周囲から、怒りが迸る。
「貴様――ッ!!」
その筆頭は、深淵竜ボイド。
彼女は激昂し、走り出す。
その姿に、制止の声を上げようとした。
だけど僕の声が届くより先に、霧矢が動いた。
「【時間停止・指定――思考能力】」
「……っ!?」
瞬間、目に見えてボイドの動きが鈍くなる。
な、なんだ……この力は。
時間の流れに対しての異能か。
……いいや、違う。そんな力じゃない、これは。
これは、敵対者の思考能力を停止させる能力だ。
「ボイド……ッ!!」
「……はっ!?」
僕の声に、ボイドの瞳に生気が戻る。
力技で異能を振り切ったか。
そのデタラメ加減には霧矢も辟易するだろうが。
やっとこさ、霧矢の攻撃がボイドに届いた。
「まず、一撃」
霧矢の掌が、ボイドの額を打ち抜いた。
彼女の体は大きく吹き飛ばされてゆくが、ボイドは何のダメージも見せずに着地する。
だけど……それでも。
額に手を触れ、ボイドはキレた。
「貴様……貴様ぁッ!!」
「【竜刻】……だったかい?」
ボイドの額には、青い紋章が浮かんでいる。
その光景に、背筋に冷や汗が伝った。
それはボイドの能力。
僕らの仲でも、トップクラスに消耗の激しい、因果操作の反則能力。
それを……この男、汗の一つもかいてないじゃねぇか……ッ!
「先に言っておくよ、ガス欠狙いは諦めることだ」
「……それより先に、僕らを潰す気か」
そういうと、彼は笑った。
それは言外の肯定で。
「君がシンプルな策で来るなら、俺もシンプルに行くまでさ」
その全身から、膨大な想力が吹き上がる。
……その量は、あのシオンをも遥かに超えていて。
全盛期の僕自身に、匹敵するほどの量だった。
「シンプルに、力でねじ伏せる。小細工は一切使わないよ」
……今から、僕らは知るのかもしれない。
悠久を生きた大賢者、その本当の実力を。
《現在の霧矢情報》
①40億年生き続けてきた肉体強度、近接戦闘能力。
②異能の域にすら達した膨大な知識量。
③見聞しただけで、ほぼ全ての能力を使用可能。
④灰村解に匹敵するだけの想力量。
《霧矢が使った能力》
①攻撃性の異能を無効化する両腕。
②瞬間移動・時間停止。
③周辺数十キロを一瞬で更地にする流星群。
④ボイドも膝をつく超磁場空間。
⑤神狼、廻天、指揮、崩壊、超加速、無刀一閃、竜刻……など。
…………よし、解然の闇を呼んで来よう!
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