この作品にもやっとレビューが!
ありがとうございます!
ボイドの力。
まぁ、雷だったり炎だったり、色々な力が使えるようには予め設定していたのだが、異能の影響で彼女が『新しく使えるようになった力』は一つだけ。
それこそが、【竜刻】。
攻撃の触れた場所に刻印を刻み。
以降、全ての攻撃はその場所へと吸い込まれる。
たとえ、どんな困難があったとしても。
たとえ、どれだけ不可能に満ちていても。
既に、そこに直撃するという未来は確立されているのだから。
「ハァッ!」
ボイドは、その場で拳を振り抜いた。
それは、届くはずもない一撃。
にも関わらず、彼女が拳を振り抜く直前。
その空間が、歪み曲がった。
「――ッ! が、は……っ」
真眼が捉えた違和感はほんの一瞬。
霧矢の悲鳴に見れば、彼の腹には拳の後がくっきりと刻まれており、その顔は苦しそうに歪んでいる。
「じ、時空を超えるのかい……その業は」
「無論。我を誰と心得える」
彼女は堂々と霧矢を見下ろす。
「我が名、深淵竜ボイド。我らが王に造られし、至高にして最強の深淵守護者。王の身を守る最後の砦」
彼女は自信に満ちている。
自分は絶対に敗北しない。
王の身を守るのは自分自身であると。
強烈な自負と自我により、猛烈な強さを確かなものへと決定づけている。
その姿は揺るぎない。
何があろうと曲がらない。
僕の全てを賭けて描いた、誇りそのもの。
「ありがとう、ボイド」
僕は駆ける。
全ての力を総動員し、霧矢へ向かう。
その光景に霧矢は歯を食いしばる。
その手を前方に伸ばせば、
真眼が捉えた。
それは、常人であれば触れるだけで死に絶える程の、超劇毒。
霧矢はそれを盾に、背後へと飛び退いて。
僕は、迷うことなく霧を突っ切った。
「な……!?」
「知らねぇよな。
無限に等しい組み合わせの毒を、気が遠くなるほど浴び続けた。
そのおかげで、今、僕の体はありとあらゆる毒を無効化できる。
想定外の事態に霧矢の目が見開かれる。
だが、すぐに彼は反応した。
眼前へと迫った僕に拳を振り下ろす。
それを前に、僕は大きく息を吸い。
「【次元】」
次の瞬間、霧矢の背後に立っていた。
彼は、僕が転移すると同時に背後へと裏拳を放っている。
僕と同等か……それ以上の反射速度。
それを真眼無しで行っているのだから、どれだけこいつが凄まじいのか理解出来る。
と、同時に。
こいつの強さが、プライドを捨てることを許容させていた。
僕は思わず頬を吊り上げ。
霧矢は、背後から膨れ上がった殺意に背筋をふるわせる。
「悪いな、お前は集団リンチで潰すから」
安心しろ、殺しはしねぇよ。
ただ、心くらいはへし折ろうと思ってるだけ。
ボイドが、拳を放つ。
消して届かない距離。
拳の風圧だけで毒霧は霧散し、彼我の距離が明らかになる。
間違いなく拳は届かない。
――彼の腹に、刻印さえ刻まれていなければ。
「く、そ……!」
霧矢はボイドへと向き直る。
思い切り歯を食いしばって、腹に想力の限りを集結させて。
僕は、黙って力を発動させた。
「【渦】」
瞬間、振り抜いた彼女の拳が転移する。
転移した先は――霧矢ハチの目と鼻の先。
「――ッ!?」
文字通りの『眼前』へと転移した拳。
それを前に、霧矢は反射とも呼べる速度で両腕の防御を固める。
それは、ボイドの一撃に耐え得るもの。
腹にまわした想力を両腕に込めて、霧矢ハチは衝撃に構えた。
そして……その、目の前で。
再び、時空が歪み果てた。
「な……ぐぁっ!?」
次の瞬間、防御の手薄となった腹へと拳が転移していた。
どれだけ攻撃を逸らしても。
どれだけ攻撃から離れても。
たとえ、別の場所に的中しそうになったって。
紋章を穿つ。
それが、深淵竜ボイドの異能。
霧矢はあまりのダメージにたたらを踏み、そんな霧矢へと僕は容赦なく追撃を仕掛ける。
「『
僕の全身を神力が包む。
霧矢の攻撃を『黒死炎天』で喰らったおかげで、神力に回せるエネルギー貯蔵も増えた。
加えて、六紗の故郷から回収した膨大なエネルギー。
それを使うということは、六紗に対する冒涜に感じた。
これは、彼女がそれだけ人を殺したという証明。
彼女にとっての『大切な人たち』の生きた証。
命をエネルギーに変換したもの。
だから、この戦いでこの力を使うつもりはなかった。
だけど、六紗は言った。
『そんなもん、使っちゃえばいいじゃない』と。
僕は正気を疑った。
されど、彼女が言う言葉を受けて。
僕もまた、覚悟を決めざるを得なかった。
『それは私が受け継いだもの。彼らの命を冒涜し、六紗優が引き継いだもの。その使い道は私が決める。……だから安心して使えばいいわ。他でもない、私がアンタに託すと決めた』
その瞳には、大きな覚悟た灯っていたのを覚えている。
僕は小さく息を吐き、覚悟を腹に決め据えた。
「借りるぞ、六紗」
紅い炎が吹き上がる。
それを巻き込み、禁忌の炎が燃え上がる。
「【神霊デスサイズ×黒死炎天】」
巨大な炎の鎌が産み落とされる。
こればかりは、霧矢も真似できない唯一無二。
世界に一体ずつしか存在しない守護者を憑依し。
常人には使えない禁忌を、その上から重ねがけした。
絶対に実現しなかった――
想力が戻った今だからこそ。
辛うじて実現した、反則的な抜け業。
紅と蒼が混ざり、紫紺へ変わる。
「【幻想紫焔】」
本来であればあり得ぬ光景。
故の命名に、霧矢は頬を吊り上げる。
「いいじゃないか……とてもいい。あの少年がここまで強くなるだなんて、やっぱり俺の目は腐ってなんかいないよ、カイくん」
霧矢はそう言って。
自分の脇腹へと、手を添えた。
嫌な予感に大地を蹴って加速する。
霧矢は僕の姿を見て、微笑んだ。
「【消滅】」
そして、自分の横腹を自分で
彼の体が崩壊する。
されどその崩壊は途中で止まり、ボイドの紋章が物理的に切り離される。
「お前……ッ!」
「背負うものが大きいと見える。だけど、それは俺も同じ事」
知っている、霧矢ハチが託されたモノ。
初代勇者から贈られた言葉。
全て知ってる。夢で見た。
だから、楽に勝てるだなんて思ってねぇよ。
僕の振るった鎌を、霧矢は素手で受け止める。
その光景に歯噛みする僕へ。
霧矢ハチは、笑って言った。
「自殺願望に嘘はない。……だけどね、カイくん。この土壇場に至って。これは負けるかもしれないと考え至って――俺の中で、久方ぶりに拒絶反応が起きてるんだ」
霧矢ハチは、初代勇者から託された。
その力の大半を。
彼の生きた証として贈られた。
……分かってたさ。こうなるってことは。
「誰かに負けるって、なんだかとても嫌なことだね」
霧矢ハチと戦うに至り。
楽に終わるということは、絶対にない。
彼もまた託されたのだから。
彼は絶対に、死に物狂いで勝ちに来る。
その予感が今――現実になろうとしていた。
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