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最終章【妄想クラウディア】
518『託されたモノ』

 ボイドの力。

 まぁ、雷だったり炎だったり、色々な力が使えるようには予め設定していたのだが、異能の影響で彼女が『新しく使えるようになった力』は一つだけ。


 それこそが、【竜刻】。


 攻撃の触れた場所に刻印を刻み。

 以降、全ての攻撃はその場所へと吸い込まれる。

 たとえ、どんな困難があったとしても。

 たとえ、どれだけ不可能に満ちていても。


 既に、そこに直撃するという未来は確立されているのだから。


「ハァッ!」


 ボイドは、その場で拳を振り抜いた。

 それは、届くはずもない一撃。

 にも関わらず、彼女が拳を振り抜く直前。

 その空間が、歪み曲がった。


「――ッ! が、は……っ」


 真眼が捉えた違和感はほんの一瞬。

 霧矢の悲鳴に見れば、彼の腹には拳の後がくっきりと刻まれており、その顔は苦しそうに歪んでいる。


「じ、時空を超えるのかい……その業は」

「無論。我を誰と心得える」


 彼女は堂々と霧矢を見下ろす。


「我が名、深淵竜ボイド。我らが王に造られし、至高にして最強の深淵守護者。王の身を守る最後の砦」


 彼女は自信に満ちている。

 自分は絶対に敗北しない。

 王の身を守るのは自分自身であると。

 強烈な自負と自我により、猛烈な強さを確かなものへと決定づけている。


 その姿は揺るぎない。

 何があろうと曲がらない。

 僕の全てを賭けて描いた、誇りそのもの。


「ありがとう、ボイド」


 僕は駆ける。

 全ての力を総動員し、霧矢へ向かう。

 その光景に霧矢は歯を食いしばる。

 その手を前方に伸ばせば、(おびただ)しい量の毒霧が放たれた。


 真眼が捉えた。

 それは、常人であれば触れるだけで死に絶える程の、超劇毒。

 霧矢はそれを盾に、背後へと飛び退いて。


 僕は、迷うことなく霧を突っ切った。


「な……!?」

「知らねぇよな。毒支配(これ)は後から手に入れたもんだ」


 無限に等しい組み合わせの毒を、気が遠くなるほど浴び続けた。

 そのおかげで、今、僕の体はありとあらゆる毒を無効化できる。


 想定外の事態に霧矢の目が見開かれる。

 だが、すぐに彼は反応した。

 眼前へと迫った僕に拳を振り下ろす。

 それを前に、僕は大きく息を吸い。


「【次元】」


 次の瞬間、霧矢の背後に立っていた。

 彼は、僕が転移すると同時に背後へと裏拳を放っている。

 僕と同等か……それ以上の反射速度。

 それを真眼無しで行っているのだから、どれだけこいつが凄まじいのか理解出来る。


 と、同時に。

 こいつの強さが、プライドを捨てることを許容させていた。

 僕は思わず頬を吊り上げ。

 霧矢は、背後から膨れ上がった殺意に背筋をふるわせる。


「悪いな、お前は集団リンチで潰すから」


 安心しろ、殺しはしねぇよ。

 ただ、心くらいはへし折ろうと思ってるだけ。


 ボイドが、拳を放つ。

 消して届かない距離。

 拳の風圧だけで毒霧は霧散し、彼我の距離が明らかになる。

 間違いなく拳は届かない。


 ――彼の腹に、刻印さえ刻まれていなければ。


「く、そ……!」


 霧矢はボイドへと向き直る。

 思い切り歯を食いしばって、腹に想力の限りを集結させて。


 僕は、黙って力を発動させた。



「【渦】」



 瞬間、振り抜いた彼女の拳が転移する。

 転移した先は――霧矢ハチの目と鼻の先。


「――ッ!?」


 文字通りの『眼前』へと転移した拳。

 それを前に、霧矢は反射とも呼べる速度で両腕の防御を固める。


 それは、ボイドの一撃に耐え得るもの。

 腹にまわした想力を両腕に込めて、霧矢ハチは衝撃に構えた。


 そして……その、目の前で。

 再び、時空が歪み果てた。


「な……ぐぁっ!?」


 次の瞬間、防御の手薄となった腹へと拳が転移していた。

 どれだけ攻撃を逸らしても。

 どれだけ攻撃から離れても。

 たとえ、別の場所に的中しそうになったって。

 紋章を穿つ。

 それが、深淵竜ボイドの異能。


 霧矢はあまりのダメージにたたらを踏み、そんな霧矢へと僕は容赦なく追撃を仕掛ける。


「『限定憑依(リミット・オン)』ッ」


 僕の全身を神力が包む。

 霧矢の攻撃を『黒死炎天』で喰らったおかげで、神力に回せるエネルギー貯蔵も増えた。

 加えて、六紗の故郷から回収した膨大なエネルギー。

 それを使うということは、六紗に対する冒涜に感じた。

 これは、彼女がそれだけ人を殺したという証明。

 彼女にとっての『大切な人たち』の生きた証。

 命をエネルギーに変換したもの。


 だから、この戦いでこの力を使うつもりはなかった。

 だけど、六紗は言った。


『そんなもん、使っちゃえばいいじゃない』と。


 僕は正気を疑った。

 されど、彼女が言う言葉を受けて。

 僕もまた、覚悟を決めざるを得なかった。


『それは私が受け継いだもの。彼らの命を冒涜し、六紗優が引き継いだもの。その使い道は私が決める。……だから安心して使えばいいわ。他でもない、私がアンタに託すと決めた』


 その瞳には、大きな覚悟た灯っていたのを覚えている。

 僕は小さく息を吐き、覚悟を腹に決め据えた。



「借りるぞ、六紗」



 紅い炎が吹き上がる。

 それを巻き込み、禁忌の炎が燃え上がる。


「【神霊デスサイズ×黒死炎天】」


 巨大な炎の鎌が産み落とされる。

 こればかりは、霧矢も真似できない唯一無二。

 世界に一体ずつしか存在しない守護者を憑依し。

 常人には使えない禁忌を、その上から重ねがけした。


 絶対に実現しなかった――()()()()()()()()使()()


 想力が戻った今だからこそ。

 辛うじて実現した、反則的な抜け業。

 紅と蒼が混ざり、紫紺へ変わる。



「【幻想紫焔】」



 本来であればあり得ぬ光景。

 故の命名に、霧矢は頬を吊り上げる。


「いいじゃないか……とてもいい。あの少年がここまで強くなるだなんて、やっぱり俺の目は腐ってなんかいないよ、カイくん」


 霧矢はそう言って。

 自分の脇腹へと、手を添えた。

 嫌な予感に大地を蹴って加速する。

 霧矢は僕の姿を見て、微笑んだ。



「【消滅】」



 そして、自分の横腹を自分で()()()

 彼の体が崩壊する。

 されどその崩壊は途中で止まり、ボイドの紋章が物理的に切り離される。


「お前……ッ!」

「背負うものが大きいと見える。だけど、それは俺も同じ事」


 知っている、霧矢ハチが託されたモノ。

 初代勇者から贈られた言葉。

 全て知ってる。夢で見た。


 だから、楽に勝てるだなんて思ってねぇよ。


 僕の振るった鎌を、霧矢は素手で受け止める。

 その光景に歯噛みする僕へ。

 霧矢ハチは、笑って言った。


「自殺願望に嘘はない。……だけどね、カイくん。この土壇場に至って。これは負けるかもしれないと考え至って――俺の中で、久方ぶりに拒絶反応が起きてるんだ」


 霧矢ハチは、初代勇者から託された。

 その力の大半を。

 彼の生きた証として贈られた。


 ……分かってたさ。こうなるってことは。



「誰かに負けるって、なんだかとても嫌なことだね」



 霧矢ハチと戦うに至り。

 楽に終わるということは、絶対にない。

 彼もまた託されたのだから。


 彼は絶対に、死に物狂いで勝ちに来る。


 その予感が今――現実になろうとしていた。

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