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最終章【妄想クラウディア】
517『開戦』

 夜が明けての、昼下がり。

 青空の下、僕は空を見上げて立っていた。


 草原に吹き抜ける風が気持ちいい。

 目を閉じれば、いつになく感覚が鋭くなっているのが分かった。


 飯はさっき食べてきた。

 ちゃんと寝たし、体調は万全。

 第六感は好調で、真眼もしっかり休めた。


 いつになく絶好調な気がする。


 僕は背後を振り返る。


 阿久津さん。

 六紗。

 ポンタ。

 シオン。

 ナムダ。

 ボイド。


 この世界について来てくれた六人。

 彼ら彼女らの顔を見て、僕はずっと考えていた言葉を言おうと、口を開いた。

 だけど、考えていたはずの言葉は、声に出てこなかった。


 ――逃げるなら今しかないぞ。


 その言葉は、彼らの瞳に灯った覚悟を見れば、すぐに霧散していったから。

 だから、僕は彼らに背を向ける。

 絶対の信頼を背に込めて、言葉を変えた。



「ありがとう。ここまで来てくれて」



 前を向く。

 そこには、一人の男が立っていた。


 黒髪に、黒い瞳。

 王のようで奴隷のようで。

 玉座のようで空気のような。

 掴みどころのない男。


 今まで相対した中で、最強の男。


「……悲しいよ、カイくん。君はもっと……お利口さんだと思ってたんだが」

「だとしたら、お前の見る目が腐ったんだな」


 そう鼻で笑ってやるが、彼が笑い返してくれることは無い。

 僕の隣に、シオンが並ぶ。

 その横顔は怒ったようで、悲しいようで。

 何か言いかけた彼女は言葉を飲み込み、そして彼の名を呼ぶ。


「おいキリヤ!」

「……なんだい、シオンちゃん」


 霧矢は、どこか懐かしそうに僕ら二人を見ていた。

 その姿に、シオンは歯を食いしばる。

 強く拳を握りしめ。

 だけど、出てきた言葉は弱々しかった。


「……てめぇ、それでいいのかよ……」


「うん。俺は死ぬために生きているんだ」


 即答だった。

 シオンの奥歯から嫌な音がした。

 僕は咄嗟に彼女の肩へと手を伸ばす。


「シオン……」

「わぁってんだよ! アイツが言っても聞かねえってことくれぇ!」


 シオンだって、霧矢のことを知っている。

 僕と霧矢ほどでは無いが、一緒の時を過ごし、同じ釜の飯を食った仲だ。

 だからこそ分かることもある。

 霧矢がどんな性格で。

 どれだけ頑固な野郎か、とかな。



「ずっと昔……俺は、友を失ったんだ」



 ふと、霧矢の言葉が聞こえてきた。


「友人の一人は、瀕死のままどこかに消えた。もう一人は、その友人を追いかけて旅に出ちゃったよ。……もう、今じゃどこにいるのかも分からない。あの後、彼らが生きて再会できたのかも分からない」


 それはきっと、童話の中の物語。

 初代勇者と、それに付き従った名も知らぬ少女。

 きっと、彼らの話なのだろうと察しがついた。


「俺はね……彼らに追いつこうと思うんだ」


 きっと、その2人は死んでいる。

 そんなこと、霧矢本人が1番よく知ってるはずだ。

 悠久を生きる賢者。

 彼だからこそ、人の生きられる時間が短いことくらい、知り尽くしてるはずなんだ。


 死んだら骨も残らない。

 冥府の下に落ちてしまえば、意識も無くなる。

 何も無くなって消えてゆく。

 天国も地獄も存在しない。


 分かってんだろ、それくらい。

 なのにお前は……それでも言うのか、同じことを。


「……情けねぇ、死者に縋るんじゃねぇよ」

「カイくん。君も、俺と同じだけ生きたら分かるさ」


 分かりたくもねぇがな。

 死んだもんは戻らねぇ。

 死んだとしても再会できねぇ。

 ……お前だって、冥府で見ただろう。

 冥府は輪廻転生の為の施設。

 あの場所に居なかった時点で……もう、賢王リクの魂は消えている。


「お前は過去には追いつけない」

「それは死ぬまで分からないよ。それに、僕が終わることにも意味があるんだ」


 しかも彼が言う『終わり』とは、完全なる終焉。

 冥府を経由することなどなく。

 抗い難く、耐え難い終焉。

 1発で輪廻転生にぶち込まれるような、そんな終わり方。死に様だ。


「冥府では……どう足掻いても死ねなかったからね。あの場所に、無抵抗の俺を殺せる人は居なかった」


 だから最後の手段に出た。

 黒歴史ノートによる奇跡の実現。

 完全なる死。

 それを、霧矢ハチは目指し始めた。


 彼は空を仰ぐ。

 目を細めて、気持ちよさそうに風を浴びる。

 その姿は、間違ってもこれから死のうという男のものには見えなかった。


 しばしして、彼は僕の方へと視線を戻す。


「カイくん。一つだけ……一つだけ。僕の願いも、君の願いも叶う方法。教えてあげようか」

「聞きたくねぇな、どうせ碌なもんじゃない」


 というか、知ってる。

 僕もお前もハッピーエンドになれる、最悪の手段なんてな。

 僕は吐き捨て、拳を構える。


 それを前に、霧矢は告げて僕は拒絶する。



「君が俺を殺せばいいよ」


「うるせぇ、黙って夢に散りやがれ」



 僕は大地を駆け出して。

 霧矢ハチは、悲しそうに言葉を重ねた。



「そうかい。それじゃあ……殺すしかないね」



 最初からわかっていた。

 僕らはどこまでだって平行線。

 もう、交わることは無い。


 僕の拳と、霧矢の拳。

 真正面から激突したそれらは、周囲へと強烈な衝撃波を撒き散らす。

 草木が揺れて、僕らは至近距離から睨み合う。


 ……思えば、最初からこうなる運命だったのかもな。



「お前を倒すよ、霧矢ハチ」



 お前は絶対に死なせない。

 僕の言葉に、霧矢は微笑んだ。




 ☆☆☆




 とはいえ、この男は最強だ。


 それこそ解然の闇でも連れてくれば話は別だが、マトモな生命体の中で、あのボイドと同格か、それ以上という時点でイカれてる。


「お前の力は……能力のコピー」


 ありとあらゆる力を用いる、最強とも呼べる力。初代勇者と……僕と、同じ力。

 僕の言葉に霧矢はぴくりと反応し。

 次の瞬間、僕の背後で気配が動いた。



「なら、思う存分見ていけよ」



 僕の背後で動いたのは、シオン、ナムダ、ボイドの三名。

 シオンの全身から銃火器が。

 ナムダの体から血の蒸気が。

 ボイドからは死を垣間見る殺意が迸る。


「あぁ、そうさせてもらうよ」


 霧矢の拳が脱力する。

 すぐさま反応して左拳を振るうと、霧矢も応戦。乱打を撃っては弾かれ、撃たれては弾いて逸らして、わずか瞬く間の攻防があった。

 されど、それはほんの一瞬。

 すぐさまボイドが乱入し、霧矢は下がる。


 それを前にシオンは情け容赦なく弾幕をぶちかます。

 それは、想力により大幅に強化されたもの。

 それを前に、霧矢は……腰へと手を伸ばし、居合の構えをとった。


 真眼が力の流れを捉える。

 それと同時に、僕もまた同じ構えをとった。

 そして、放つ言葉は全く同じ。



「『無刀一閃』」



 そして、無数の斬撃が放たれる。

 シオンの弾幕を、それ以上の数の斬撃がぶっ壊し、通り抜けてきた斬撃を僕の斬撃で相殺する。


 これで、やっと威力的にトントンだ。

 僕の異能と、シオンの異能と。

 2人合わせて初めて威力が相殺できる。


「チッ! 冥府にいる時からそれくらい戦いやがれ! クソキリヤ!」

「ははは。やる気がなかったからねぇ、今度は本気出させてもらうよ、シオンちゃん」


 そう言って、さらに下がる霧矢。

 されど、次の瞬間にはその姿は全く別な場所に移動していて。


 それに1番驚いたのは、霧矢本人だった。


「って、あれっ!?」


 ――時間停止。

 直ぐにその事実まで考え至った。


「悪いけど、私は前より強いわよ」


 僕の隣から声がする。


 六紗優の【我が前に刻は要らず(ブレイブ・オクロノス)】。

 僕が禁忌を奪ったことで、彼女の中で力を制限していた全ての枷が解き放たれた。

 そのせいで、彼女は以前よりも速く、長く、一瞬で時間停止の世界を動けるようになっていた。


 斬撃の衝突による砂煙。

 その中を突き破って飛び出したのは、竜血暴走のナムダ・コルタナ。


【GOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!!】

「またまた厄介な……」


 ナムダの拳を、霧矢は両手を交差して防ぐ。

 されど衝撃までは防げなかったか、その一撃で大きく吹き飛ばされてゆく。

 その姿を真眼で捉える。

 その表情は苦々しくて。

 その体から、僅かな力が溢れ出た。


 嫌な予感に、背後へと回し蹴り。

 同時に霧矢は瞬間移動し、ピンポイントで僕の背後へと現れた。


「うへぇ、バレてら」

「うラァッ!」


 迷わず蹴りを振り抜くと、皮1枚で攻撃を躱した霧矢が拳を構える。

 その拳に宿る強大な想力。

 それを前に僕は大きく目を見開いて。


 ――彼の横腹を、ボイドの拳がぶち抜いた。



「【竜刻】」



「ご、は……ぁっ!?」


 初めて入った、それらしいダメージ。

 霧矢は口から鮮血を漏らしながらたたらを踏み、苦痛の顔をあげた先には、ボイドの拳が迫っていた。


「……ッ!?」


 咄嗟に霧矢は転移する。

 視線を移動させれば、少し離れた場所に霧矢は立っており、ボイドに撃ち抜かれた場所には……赤い紋章みたいなものが浮かんでいる。


「………我が攻撃、受けたな男」


 ボイドの言葉に、霧矢の頬が引つる。

 彼は知識の図書館だ。

 彼女が世界の補正により、新たに身につけた異能の力。それだって、過去を振り返れば『らしい』力なんてありふれてるはず。


 ……修行してた時は、あの力に結構苦しめられたっけ。

 そんなことを思い苦笑する僕に。

 ボイドはただ、拳を構える。



「宣言しよう、我はもう外さない」


「……厄介極まりないね。()()()()の力かい」



 霧矢は、その最悪の言葉を口にする。

 僕が学園で戦ったダリア・ホワイトフィールド。

 彼女が因果逆転の必中能力者であるとするならば。


 それの完成体こそ、深淵竜ボイド。


 彼女の攻撃は、その紋章を必ず穿つ。

 どんなことがあろうとも。

 どんな困難があろうとも。

 ()()()()()()()()()()()


 正しく凶悪。

 鬼に金棒を持たせてはいけない。

 そうは言うけれど。


 どこのどいつだ。


 最強に、反則チートを与えた馬鹿は。


「死にたいのなら安心せよ。この我が、完膚なきまでに殺してやる」


 その言葉に、霧矢は笑う。


「嬉しいねぇ……冥府をすっ飛ばして殺してくれると、俺としても抵抗しなくて済むんだが」


 しかし、霧矢は拳を構える。

 それは、抵抗の意思。

 ボイドでは自分を消滅させられない。

 そういう、言外の表示。


 それは、怒れる炎に薪をくべることになる。


 ボイドの全身から闘気が吹き上がり。

 僕は、迷うことなくその隣に並んだ。

 僕の姿にボイドは大きく目を見開いて。



「勝つぞ、ボイド」



 それ以上、言葉は要らなかったと思う。

 ボイドは再び前を向き、僕の背後に一同が揃う。


 それを見て、霧矢は微笑む。



「……ったく、デタラメに強いのも罪だねぇ」



 当たり前だ。

 こうでもしないと、お前は倒せないんだからな。

 だから、悪いとは言わねぇよ。



 お前は少々、強すぎるから。



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