短めなので、出せたら今日もう1話出します
その物語は……なんというか。
ありきたりというべきか。
今まで多くの人の手に触れる度、より読みやすく、分かりやすく……ありていに言えば『子供向け』に作り替えられてきたのだと、五代目勇者は言った。
「事実は私も知らないんだ。この物語で描かれているのは、隣国に襲われ、民の意志で国を離れた賢王――初代勇者と、それに出逢った大賢者。二人と、もう一人の名前も描かれていない仲間とで、初代悪魔王に挑み――そして、打ち勝った」
そこまで言い切って。
五代目勇者は、僕を見た。
「それで、本題。君は大賢者ミスト=エイトアロウを知っているね?」
「……ああ。友達だからな」
友達。その言葉に偽りはない。
どれだけ向こうが、僕のことを嫌おうと。
命を奪うつもりで襲って来ようと。
大丈夫、僕は霧矢ハチのことは嫌いじゃないから。
だから、少なくとも僕はそう言い張れる。
「ついでに言えば、シオンの下僕的存在だな」
「おうよ! あいつはオレ様の子分だからな!」
シオンはそう言って胸を張る。
その姿に頬を緩めていると、五代目勇者は目を見開いた。
「へぇ……本気で言ってるよ二人とも」
「当たり前だ、僕は基本的に嘘はつかない」
真面目ったらしくそう言ってみるが。
「あ、それは嘘な気がするな」
「貴様! 我らが王にケチをつける気か!」
すぐに見破られ、ボイドがキレた。
僕は咄嗟にボイドを制止し、五代目へ言う。
「話を戻すが……その童話、霧矢を知っている僕からすれば、少しおかしいことになるぞ」
僕の言葉に、周囲の全員が首を傾げる。
それもそのはず、彼女らは霧矢の異能を知らないのだから。
だから、当然と思って然るべき。
ただ、そんな当然に僕は疑問を呈す。
「初代勇者。界刻を中心として、ありとあらゆる異能を使いこなせる。それは間違いなく【逸常】の能力だろう」
「まあ……そうだろうね。六紗の異能と出会うまで、そういうのは初代勇者の特権だと思っていたけれど」
確かに。
そういう面では、史上二人目の逸常使いは六紗となるのだろう。
でもって、僕が三人目。
そうなるのは別にいい。
何番目だろうが関係はない。
ただ、そこに存在するのは幾つかのの事実のみ。
「霧矢ハチは冥府に堕ち、六紗の出現を知らなかった」
こぼした言葉に、周囲から視線が集まる。
僕は顔を上げ、かつての記憶を思い出す。
死んで間もなく、冥府に堕ちて。
初めてあの男に出逢った、その時のこと。
「霧矢ハチは、僕と初めて会った時――僕を『史上二人目の逸常使い』と言い表した」
「……っ!? ちょ、ちょっとまってくれるかい? え、なに、君も逸常使いって、何が起こってるのさこの時代――」
「五代目、少し黙れ。今は御仁が話している」
阿久津さんが五代目に声をかけ、僕へと視線を戻す。
まるでその先を促すようなその視線に。
僕は迷わず、その見解を打ち明けた。
「そして、僕が思うに霧矢ハチもまた【逸常】だ」
初代勇者と、霧矢ハチ。
二人の逸常使いが存在していた。
にもかかわらず、彼は僕を二人目と言い表した。
「それは……いや、だが。初代勇者が逸常であった時点で――」
「ああ、史上二人目は、それこそ初代勇者になるべきだった」
だが、霧矢はそう言い表さなかった。
――それはなぜか。
その答えは、きっと簡単だ。
「霧矢にとって、初代勇者が記憶するに値しない程度の存在だったか」
あるいは。
そう続けた言葉の先を、シオンが言い放つ。
「初代かキリヤか……どっちかが嘘こいてる可能性があんな」
詳細は分からない。
ただ、どちらかは逸常の異能力者ではなかった。
それだけは確実だと、僕は考える。
そして、それが事実だとすれば。
霧矢ハチが、逸常使いではない【かもしれない】ということ。
それは頼るにはあまりにも細い希望の糸。
だが、暗闇の中に垂らされた一筋の希望でもあった。
「逸常が相手じゃないなら……僕の強奪は通用する」
何をしても勝てないと思っていた。
そんな霧矢の、攻略ポイントとでも言うべきか。
ひとつでも綻びの可能性が見えたのならば、今はそれに縋るしかない。
それが……なんでだろうな。
希望に見えた反面、僕は悔しくてたまらなかった。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。・特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はパソコン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。