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短めなので、出せたら今日もう1話出します

最終章【妄想クラウディア】
514『可能性』

 その物語は……なんというか。

 ありきたりというべきか。

 今まで多くの人の手に触れる度、より読みやすく、分かりやすく……ありていに言えば『子供向け』に作り替えられてきたのだと、五代目勇者は言った。


「事実は私も知らないんだ。この物語で描かれているのは、隣国に襲われ、民の意志で国を離れた賢王――初代勇者と、それに出逢った大賢者。二人と、もう一人の名前も描かれていない仲間とで、初代悪魔王に挑み――そして、打ち勝った」


 そこまで言い切って。

 五代目勇者は、僕を見た。


「それで、本題。君は大賢者ミスト=エイトアロウを知っているね?」

「……ああ。友達だからな」


 友達。その言葉に偽りはない。

 どれだけ向こうが、僕のことを嫌おうと。

 命を奪うつもりで襲って来ようと。

 大丈夫、僕は霧矢ハチのことは嫌いじゃないから。

 だから、少なくとも僕はそう言い張れる。


「ついでに言えば、シオンの下僕的存在だな」

「おうよ! あいつはオレ様の子分だからな!」


 シオンはそう言って胸を張る。

 その姿に頬を緩めていると、五代目勇者は目を見開いた。


「へぇ……本気で言ってるよ二人とも」

「当たり前だ、僕は基本的に嘘はつかない」


 真面目ったらしくそう言ってみるが。


「あ、それは嘘な気がするな」

「貴様! 我らが王にケチをつける気か!」


 すぐに見破られ、ボイドがキレた。

 僕は咄嗟にボイドを制止し、五代目へ言う。


「話を戻すが……その童話、霧矢を知っている僕からすれば、少しおかしいことになるぞ」


 僕の言葉に、周囲の全員が首を傾げる。

 それもそのはず、彼女らは霧矢の異能を知らないのだから。

 だから、当然と思って然るべき。

 ただ、そんな当然に僕は疑問を呈す。


「初代勇者。界刻を中心として、ありとあらゆる異能を使いこなせる。それは間違いなく【逸常】の能力だろう」

「まあ……そうだろうね。六紗の異能と出会うまで、そういうのは初代勇者の特権だと思っていたけれど」


 確かに。

 そういう面では、史上二人目の逸常使いは六紗となるのだろう。

 でもって、僕が三人目。

 そうなるのは別にいい。

 何番目だろうが関係はない。


 ただ、そこに存在するのは幾つかのの事実のみ。


「霧矢ハチは冥府に堕ち、六紗の出現を知らなかった」


 こぼした言葉に、周囲から視線が集まる。

 僕は顔を上げ、かつての記憶を思い出す。

 死んで間もなく、冥府に堕ちて。

 初めてあの男に出逢った、その時のこと。


「霧矢ハチは、僕と初めて会った時――僕を『史上二人目の逸常使い』と言い表した」

「……っ!? ちょ、ちょっとまってくれるかい? え、なに、君も逸常使いって、何が起こってるのさこの時代――」

「五代目、少し黙れ。今は御仁が話している」


 阿久津さんが五代目に声をかけ、僕へと視線を戻す。

 まるでその先を促すようなその視線に。

 僕は迷わず、その見解を打ち明けた。



「そして、僕が思うに霧矢ハチもまた【逸常】だ」



 初代勇者と、霧矢ハチ。

 二人の逸常使いが存在していた。

 にもかかわらず、彼は僕を二人目と言い表した。


「それは……いや、だが。初代勇者が逸常であった時点で――」

「ああ、史上二人目は、それこそ初代勇者になるべきだった」


 だが、霧矢はそう言い表さなかった。

 ――それはなぜか。

 その答えは、きっと簡単だ。


「霧矢にとって、初代勇者が記憶するに値しない程度の存在だったか」


 あるいは。

 そう続けた言葉の先を、シオンが言い放つ。



「初代かキリヤか……どっちかが嘘こいてる可能性があんな」



 詳細は分からない。

 ただ、どちらかは逸常の異能力者ではなかった。

 それだけは確実だと、僕は考える。


 そして、それが事実だとすれば。

 霧矢ハチが、逸常使いではない【かもしれない】ということ。

 それは頼るにはあまりにも細い希望の糸。

 だが、暗闇の中に垂らされた一筋の希望でもあった。



「逸常が相手じゃないなら……僕の強奪は通用する」



 何をしても勝てないと思っていた。

 そんな霧矢の、攻略ポイントとでも言うべきか。

 ひとつでも綻びの可能性が見えたのならば、今はそれに縋るしかない。


 それが……なんでだろうな。

 希望に見えた反面、僕は悔しくてたまらなかった。

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