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縁と書いて、えにしと読む。

最終章【妄想クラウディア】
512『巡る縁』

 賢王リクは、才能の塊であった。


 ミストが教えた全てを瞬く間に吸収し、その度に力をつけて階段を駆け上がる。

 その成長速度は目を見張るほど。

 賢者ミスト=エイトアロウをして、驚嘆以外の感情を忘れてしまうほど。


『君の力は……なんというか、今この瞬間に存在する、どんな力とも別種のものだね』


 ある日、ミストはそう言った。


 この世界に散らばる異能。

 災躯。

 久理。

 志壁。

 薬聖。

 杯壊。

 界刻。


 六つのどれにも該当しない異能。

 それを、賢王リクは発現させた。



 その力の名は――【光の王】。



 その力は単純明快。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というあまりにも強い力だった。


『本来、そんな力はありえないはずなんだ。なんてったって、どの種別の力も等しく使えるのだから。そんなものは常軌を逸してる。逸常と、そう呼ぶに相応しいものだ』

『構わないさ。それで民が救えるのなら』


 賢王は、他所を向くことはしなかった。

 目的を掲げたならば、脇目も振らずに一直線に駆け抜けてゆく。

 夢を叶える為ならば。

 たとえ、自分の命を捨てても構わない。

 それだけの覚悟を持ちながら。

 決して民を悲しませないと、妙な頑固さを持つ男でもあった。


『君は頑固だねぇ、筋金入りだ。君の友達がいたら、きっと大変だろうね』

『そうか。いつも迷惑をかけるな、ミスト』


 そして、賢王は正直な男であった。

 冗談は口にするし、消して堅物な訳では無い。

 だが、他人のためを思わない嘘は、絶対につかない男だった。


『……そうも真面目に言われると、俺としても少し照れるね』

『そうか。気持ち悪いから離れてくれ』

『酷いっ!? 俺の気持ちを返してよリク!』

『うるさい黙れ』


 リクは冗談交じりにそう言って、前を向く。

 その顔からは既に笑顔は消えていて。

 彼の瞳には、巨大な城が映っていた。


『悪魔領……魔王城とでも呼ぶべきか。かの悪魔王の居城だな』


 あまりにも巨大。

 あまりにも堅牢。

 外からの攻めに対して圧倒的な優位性を誇るよう、計算し尽くされて造られたもの。

 それが、わずかたったの半年足らずで完成したというのだ。


『……どれだけ民を苦しめた。民から搾取し、民を使役し、民を傷つけ、死に至らしめた……!』


 賢王の体から怒気が膨れ上がる。

 その背中に、ミストは咄嗟に声をかけようとした。

 だけど、その怒りになんと言葉を紡いでいいものか。

 多くの時を生きた彼をして、答えは『直ぐに』導き出せるようなものではなかった。


 ミストは思わず伸ばしかけた手を戻し。

 そんな彼の隣を、一人の女性が歩いていった。



『おいリク! なにキレてんだ! らしくねぇじゃねぇか!』



 赤い髪が風に揺れる。

 青い瞳は野生のように鋭く、言葉も荒く。

 まるで、獣のような長身の女性だった。


『……来てたのか、【アマナ】』

『おう! てめぇ在るところにオレ様ありだぜ! つーか、てめぇらが二人揃っていなくなると寂しいじゃねぇか! オレと遊べ!! 砂遊びだ!』


 その女性とは、この半年の間に出会った。

 星の果てへとたどり着き。

 傷を癒して、修行を重ね。

 そんな折に、傷だらけであの場所へと迷い込んできた。それが彼女――アマナという女性だった。


『君は……相変わらず、精神年齢が若いというか、幼いというか。まるで幼い男児のようだな』

『ダンジ……? む、難しい言葉使うんじゃねぇよ! オレ様は頭が悪いんだ! もっと分かりやすく言いやがれ!』


 アマナは頭が悪かった。

 だが、それを補って余りある戦闘能力。

 武器を持たせば太刀打ちできず。

 その異能も比類なき強さを誇る。


 災躯の種別、名前は【全搭載のオレ様(ルナティック・マイン)】。


 鏡面世界……もう片方の異世界から、ありとあらゆる道具、兵器を召喚し、自由自在に操る力だ。


 加えて彼女は類まれなる想力量を誇り、その力量はミストが生きてきた中でも紛うことなき最高峰。

 1人だけ別の次元で戦っているようなものだと、ミストが言うほどだ。


『でもまぁ、難しいこと言われたってわかんねぇからな! とりあえず今は……あの城、ぶっ壊すんだろ? 力貸すぜ、リク』

『……あぁ。助かるよ、ありがとうアマナ』

『どーいたしまして、だな!』


 アマナはそう言って笑う。

 それは太陽のような笑顔で、リクは何度彼女の笑顔に救われたことかと苦笑した。

 辛く、苦しい道の中で。

 彼女の存在が、支えになった。

 そしてそれは、彼女だけではなく。


『ミスト、半年の間、ありがとう』

『……なんだい、まるで……今からあの城に乗り込むぞー、って雰囲気だね』


 冗談半分でミストは言う。

 それに対して、リクは笑った。

 されどそれは、爽やかなものではなく。


 獰猛極まる、獣の貌だった。


『無論。民を苦しめる暗君は、この手で倒す』


 それが、賢王リクの原動力。

 たったの三人。

 それで一国を滅ぼすという無謀。

 仮に叶えば、奇跡と人は呼ぶだろう。


 だが、それでも。

 賢王リクは、それを奇跡とは呼称しない。



『奇跡は要らない。私は、成るべくして必然を起こすだけだ』



 賢王リクは、決意を胸に歩き出す。

 その歩みに迷いはなく。


 その歩みは、やがて伝説の上に刻まれてゆく。




 ☆☆☆




 賢王リクは、鉄壁の要塞を無傷で切り抜けた。

 その方法はとてもシンプル。

 ()()()()()()()()()()()()()

 最も無謀な万対三。

 誰も選ばないであろう悪手も悪手。

 それを、賢王リクは力技で押し通った。



「【時間停止・指定――思考能力】」



 彼が言葉を放つだけで。

 その城にいたほとんどが、思考停止し静寂した。

 彼の力は、真似る力。

 そして、彼の傍らには数億年を生きる大賢者が居る。

 その知識はとどまることを知らず、聞くだけで模倣できる賢王は、いままでの人類史で人が使えたすべての異能、全ての神秘、ありとあらゆる魔法の類を行使できた。


『すさまじいね……人の思考能力だけを停止させる力。これだけの要塞を無血で落としてしまえるんだから』

『つっても、効いてねぇヤツもいるみてぇだけどなぁ! おいリク!』

『分かっている』


 そう言って、三人は同時にその場を飛び退く。

 直後、地面を食い破って無数の骨と、死肉が地面から溢れ出す。

 それはかつて国民だったもの達の成れの果て。

 その光景にリクは憎悪を噛み締め、城の方向へと視線を向ける。


 いつの間にか、そこには死骨の丘が出来ていて。

 その上には、一人の男が立っていた。



『やぁ、待ってたよ。僕の嫌いな人。君は絶対に戻ってくると思って……君の慕ってた奴ら、全員殺して待ってたんだァ』



『……ッ、き、貴様……ァ!』


 そこに立っていたのは、薄紫色の髪をした男。

 地面へと視線を向ける。

 見覚えがあった、その死肉には。

 かつて肩を組んで笑った友。

 自分を慕ってくれた幼い子供。

 彼らの思い出が、記憶が。

 ただ、汚い肉片となって降り注いだ。


 それは、容易く賢王リクの沸点を超える。



『貴様……悪魔王ッッ!!』


『叫ばないでよォ、反吐が出るからさ』



 悪魔王は手をかざす。

 無数の骨がその手から溢れ出し、それを前に三人は大きく回避する。


『リク!』

『あぁ、分かってる! 悪魔王の力は【無窮の洛陽(ロスト・ガヴェイン)】。死に介入し、人の尊厳を損なう力!』


 まるで死骨の王。

 死しても死なず、人を殺すことに快楽を覚える存在。

 賢王リクは知っていた。

 その男、もはや性根が人の類ではないということを。


『知っているさ……貴様ならばそうすると!』


 目の前で、骨を与えられた血肉が蠢き、無数の死体となって動き出す。

 それは、かつての友達、民の姿。

 賢王リクが、世界で最も嫌がる光景。


『考えてたんだぁ、お前がいちばん嫌がることを! どうすればお前が苦しむか、どうすればお前が絶望するか!』


 そして、悪魔王は叫ぶのだ。



『君の相手は、君の目的たる人民だ!』



 その言葉に、リクは歯噛みし、拳を握る。



『さぁ、賢王リク。君が初めての勇者になるか、僕が絶対無類の悪魔王と君臨するか! 最後の決着を始めよう!』



 かくして、原初の戦いが始まる。



初代勇者と初代悪魔王。

……だけの因縁では終わらない。

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